16話
アンナ達が泣き止むのを待ち、これからの事を話し合った。
帝国は正式に聖王国と協定を結び、帝国の建て直しに助力をする事に。と、言うよりエルスとエルス直属の使用人達が来た時点でこの国は瞬く間に建て直すのだけど。
その日の内に、皇帝陛下は生きていた事を国中に報せた。それと同時に、ランス・チャールズが行った暴挙の数々の本当の事を公表しようとしていたのを、エルスが控えさせた。
何でも、ランス団長が行った暴挙は人々の記憶に根強く残り、いくら皇帝が言っても信じられず、逆に共犯ではないのかなどの不信感を抱かせるだけだから、噂話としてランス団長が行った本当の事を流すと言っていた。
その噂話を流すのは勿論、エルス信者の方々。既に何人か帝都入りしているから、早々に流し始まるだろう。
そして騎士二人を筆頭に生存していた騎士達の処罰は、より一層国に仕える忠誠を誓わせられる。
再び同じ事が起きない様、何故か俺の力になっている神の力のごく一部が、破魔の力として込められているエルス信者の証のアクセサリーを渡される。
詳しくは分からないが、神の力を使えるエルス経由でそんなことが可能になったらしい。
と、そんなこんなで日も暮れて皇城に泊まる事になり、ギルドにいる面々を迎えに行き一緒に寝泊まりする事に。
驚きなのが、ギルマスのシュミットさんと皇帝が旧知の仲で、親しく話していた事。
かなり砕けた口調で話し合っていたから、ギルドと皇族の仲は良好だったのを確認出来た。
で、寝る時間になり、当たり前になってしまった誰と寝るかになり、その面々はノエル、エルス、カルトちゃん、ユノ、ミカのメンバーに何故かアンナまでが一緒に寝ることに。
しかもわざわざ皇城に居るのに、リーナが造った異空間部屋の寝室で寝ることに。そりゃあ、7人で寝るには普通のベッドでは寝れないけどさ……………。
しかも、アンナもノエル達同様にネグリジェを着ているのだ。
こうして見るとアンナも結構大きい。着痩せするタイプだった様だ。
ギルドではレイも居たから別々に寝ていたのだけど、その肝心のレイは、皇帝と皇后と一緒に寝ることになったらしく、それなら俺と一緒に寝る事にすると言ってきた。
何だよ、それならって……………。
エルスはエルスで瞬く間にユノ達と仲良くなり、エルスもユノ姉様と呼んでいるし、俺の婚約者達……………女性達の仲は良好だ。
で、さすがにその日はお喋りしながら就寝した。
あれ、でも待てよ? アンナも一緒って事は…………………。
睡魔が襲う直前、肝心な事を思い出しながらも、意識を手放した。
翌日。
俺達は身支度を整え、朝食も食べ終えた後、会議室に集まっていた。
メンバーは俺と婚約者達、皇帝、皇后、アンナ、レイと男女騎士二人と数名のエルス直属の使用人達。
「それで集まってもらったのは、今後の事の話し合いではない。それは後でエルス姫と話し合うからな」
皇帝が神妙な面持ちで話だしたのだが………………。
「エルス姫と話し合い、アンナをカイト君の婚約者にする事にした」
その言葉を聞き、あぁ、やっちまったと確信した。
なんせ、婚約者でもない未婚の女性と寝てしまったのだから、そうなるのを忘れていたよ。大勢で寝る事が当たり前になっていたから……………。
「と、言うわけで、快く認めてくれるだろ、カイト君?」
「えぇ、まぁ、アンナがイヤでなければ……………」
「それは心配ないよ。そうだろアンナ?」
「………………ん。私はご主人様の事が好き」
アンナは照れた様子もなく、ジッと見てくる。
「…………よろしくな、アンナ?」
「…………ん。よろしくなのご主人様」
その呼び方は変わらずなんだな…………。
「それとレイからも話があるそうなんだ」
皇帝の言葉に視線がレイに集まりだした。
レイは緊張気味でバッと椅子から立ち上がった。
「じ、実は、ボ、ボク、カルトちゃんの事が好きになりました!」
「えっ!?」「あらあら」「「「おぉ~」」」
と、カルトちゃんを筆頭に多種多様に皆、驚いている。勿論俺も。
「たった数日だけですが、カルトちゃんの優しい心遣いが心地良かった。ですから、この気持ちは一時的なものかも知れません。ですが今、ボクの偽らざる気持ちです!」
レイは俺の後ろで控えていたカルトちゃんを真剣な面持ちで見据えている。
「え、わ、私は…………」
どうやら返答に困ったカルトちゃんは、俺の隣に座っているエルスに助けを求めていた。
エルスは自身の傍に来るように手招きをして、カルトちゃんを呼んだ。
「カルトちゃん。カルトちゃんの気持ちを素直に言葉にすれば良いのよ。私はどんな結果になっても協力するから」
「……………うん…………」
カルトちゃんは意を決してレイを見つめ返していた。
「レイ君。ごめんなさい。私、レイ君の事をそんな風には見ていないの。どちらかと言うと友達って思っているの。それじゃあ駄目?」
レイは予想通りと思ってか、それ程落ち込んではいない様に見えた。
「駄目じゃないです。これからもボクと友達で居てくれますか?」
「はい、喜んで」
カルトちゃんは笑みを浮かべて応えてあげていた。
「ひとつ宜しいかしら? レイ君の年頃ですと、それなりの子が居る筈ですけど?」
「確かにエルス姫の言う通り、居るには居たが…………」
どうやら歯切れの悪い人物。皇帝は椅子に座ったレイを可哀想な眼差しで見ている。
「どう言った娘なのです?」
「レイの話だと、どうやら意地悪をされていたらしいのです」
「意地悪ですか? 一体どんな意地悪をされていたんです?」
皇帝はレイに言わせる様に黙ってしまった。
「………………あ、あの子はいっつもボクに突っかかって来るんだ。勉強の時も出来ない問題があったら『どうして出来ないの?』って自慢するような顔をするんだ。それにお茶をしている時、少しでも作法がおかしいと『どうして出来ないの?』って言うんだ。それなら会いに来なければ良いのに、それでも会いに来るんだ」
「なるほど~」
心なしかエルスが楽しそうに返事をしたぞ。レイの話を聞いて何か分かったのか? それにノエルとユノも分かったって表情を浮かべている。
「陛下。出来れば私に、その子を紹介してくれませんか?」
「それは構わぬが……………何か分かったのか?」
「まあ、心当たりがあるってだけです。分かりましたら報告しますわ」
「う、うむ。それなら良いが……………」
「大丈夫ですわ。私が思った通りなら、むしろ相性が良いでしょから」
エルスは笑みを浮かべて、ノエルとユノに目配りをして、二人は笑みを浮かべ頷いて返事をしていた。
どうやら女性だと分かるみたいな案件の様だから、そう言うことは任せるしか無いな。
「そしたらカイト達はそろそろ出発をしませんと」
「あぁ」
「それでは陛下。お見送りをしてから、これからの事をより詳しく話し合いましょう」
「ああ、分かった。それではカイト君、この国を救ってくれてありがとう。キミには大きな借りが出来てしまった」
皇帝は深々と頭を下げて来た。皇后も一緒に。
「気にしないで下さい。皆の協力があって解決したのですから」
「それでもだ。本当にありがとう」
再度、頭を下げてくる皇帝と皇后を窘めて、会議室を出た。
会議室を出て向かった先は、皇城の中庭。
リーナに念話をしても繋がらず、ティアにも試してみたがコッチも繋がらない。
魔力を探ってみたら探知も出来ない。
寝起きに神格化になって探ったら、リーナとティアの魔力を探知は出来た、念話を使って連絡したら『私達は無事よ。それでね、面白いことが起きたから、ソッチの用事が済んだら来て』と言って、詳しく話してくれなくて、朝食の時間になってしまった次第。
「カイト」
「ん? どうしたんだエルス?」
「私に何か言う事はないの?」
「え?」
エルスは豊満な胸の下で腕組みをしたスタイルで迫ってきた。
「やっとお兄様に引き継ぎを終えたときに、アナタが奴隷になっていた人達を助けて屋敷に寄越して、その後の対処をしてやっと合流出来ると思った矢先に、帝国の建て直しをして欲しいって言って、ここで頑張る私にご褒美は無いのかしら?」
確かに奴隷となっていた人達の対処はエルスに任せるよう、カルトちゃんに頼んでお願いしていたけど、帝国の建て直しはリーナが指示したんじゃなかったっけ?
「………………因みに、エルスの望みは?」
「決まっているじゃない。先生にギルマスをするようお願いした言葉よ」
自信満々の表情を浮かべていると思ったら、そう言うことか。
「分かったよ」
俺はエルスの耳元に顔を近付け
「俺のエルスなら、この国を良くしてくれると信じてるよ。頼んだ」
「ええ、任せて。それと──」
エルスは、赤く染まることもない顔を離して唇に唇を重ねてキスをしてきた。しかも、舌まで入れてきたし。
「カイト成分も貰っておかないとね」
離れたエルスはウインクをしてきた。仕草が可愛いもんだから参るよ。
「っと、この様にユノ姉様達も恥ずかしがらずに、ガンガンカイトの唇を奪ったりして行きませんと、中々手を出して来ませんから、遠慮せずに攻めて下さいませ」
って、おい! それを言うためにしたのかよ!
「分かったわ」「分かりました」「……………ん、分かった」
ユノ、ミカ、アンナはそれぞれ返事を返して、直ぐさま行動に移して来て、3連続でキスをする羽目になってしまった。
ユノは濃密な、ミカとアンナは初々しいキスであった。
「それじゃあ今度こそ行くよ」
「えぇ、またね。ノエルとカルトちゃんも気を付けてね」
「気を付けてねカイト君、ノエルちゃん、カルトちゃん」
「いってらっしゃい皆さん」
「……………ん」
それぞれが手を振って来て、ノエルとカルトちゃんはふり返した。
「それじゃあノエル頼む」
「任せて」
ノエルは目を伏せた次の瞬間、藍色に眩い輝く魔力を纏った。神格化になった証の聖なる魔力を帯びた。
「ほい」
ノエルが手をかざすと、【ゲート】が現れる。
神格化になったノエルはリーナの魔力を感知したから、【ゲート】が繋がっている先はエルフの国ラムル国となる。
行くメンバーは俺、ノエル、カルトちゃんと、カルトちゃんにギルドに置いていたシュナイダー達を迎えに行ってもらい、一緒に連れて行く事に。
このメンバーで【ゲート】をくぐった。
※※※
【エルス視点】
「さて、カイト達は行ったわね」
「それでエルスちゃん。私とミカは何をすれば良いの? 正直、今まで娼婦をしていたから、他のことはからっきし駄目なんだけど?」
「大丈夫ですわ。姉様とミカにはこれから色々と覚えて貰うつもりですから」
「お、お手柔らかにお願いするよ」
ユノ姉様とミカは苦々しい笑みで応えていました。
ホントに大丈夫ですのに。それにユノ姉様には、長年培った娼婦としての技術を教えてもらわないといけないですから。
「その前に。アンナに聞きたい事があるのだけど?」
「…………ん。なに?」
「アンナが直接観た、カイトの戦闘の話を知りたいのだけど、話せるかしら?」
「……………それはムリ。私、そういうの詳しくないから」
「そしたらちょっと記憶を視せて欲しいの」
「? それは構わないけどどうやって?」
「アンナは目をつぶって、カイトが戦っている所をイメージしてて欲しいの。そしたら私が勝手に視るから」
「ん。分かった」
アンナは目を伏せ、私はアンナの額に自分の額を合わせ、アンナが視てた戦いを覗いた。
相手の魔力に同調して、記憶を覗いたり視せたりする事の出来るスキル。と、言っても、こんな事が出来るのは私とリーナだけだから、私とリーナが持つ感覚共有のスキルの延長上の能力だと思っている。
その内容は真新しい程、鮮明に視る事が出来る。
だから、アンナの視てた戦いを鮮明に視る事が出来、色々と疑問が出来た。
昨日カイトが話してくれた漆黒者。その人物の名前がこの世界と同じ名前であった事。
大抵の場合、世界の名前と同じ名前を持つモノは、神か、その人物の親が祝福の為に付けるか、と言うことを転生前にその手の知識がある友人に聞いた…………と言うより、聞かされた。
そしてその漆黒者は神族で、魔神の傀儡となっていたらしいと、数少ない情報を基にすると、大方私達を転生させた女神様と言う事になる。
でも確証はない。それでもまた、接触をする事にはなる。その時は私もその場に居合わせないと…………。
それよりも問題なのが───カイトね。
雷装化や雷光化、聖光化を持ってして、悪魔の王相手に完勝しなかったのはおかしい。
どうしてなのかは、おおよその見当は付いているから、その事はまたカイトにあった時にでも確かめないと。
「ありがとうアンナ」
「……………ん」
「さてそれじゃあみんな。少しの間だけど、忙しくなるわ。よろしくね」
「「はい」」「……………ん」
さてリーナが私の為にとって置いた、マリーさんの想いに気付かないシュミット様を結んであげないと。これから忙しくなる時の私のはけ口のご褒美ね。
ふふふっ、スッゴく楽しくなってきたわ。ふふふっ───
お読みいただきありがとう御座います。