間話
──ガキィン!
「─────勝負あったな」
黒曜石で造った刀が吹き飛ばされ、師匠の声が聞こえた。
その方向に視線を向けると、汗だく姿の師匠とクララが居た。
師匠から、ナツメとソウジの相手をするよう言い渡されて、ふた月が経過した。
最初の7日は、2対1で相手をしていたのだが、8日目からは徐々に剣筋が鋭くなり始めてきて、そして今日、とうとう1対1でそれぞれ2人に刀を弾き飛ばされ、一本取られてしまった。
そして、二人目の相手はソウジ。
「見事にジェイドから一本取ったな、ソウジ」
「───や、やったー!! とうとう兄ちゃんから一本取れたー!」
ソウジは刀を地面に突き刺し、身体全体を使って喜んでいた。
「それで、ナツメはどうだったんだ?」
「愚問ね、パパ。ボクがソウジに劣るとでも?」
「…………あぁ、聞くだけ野暮だったな」
ナツメは師匠に向けて、Vサインをしていた。
「それじゃあ、メシ食いに戻るぞ」
そう言った師匠は、1人さっさと歩いて行ってしまった。
俺達も、刀を拾いながら、広場をあとにした。
※※※
「この島から出ようと思う」
「「えっ!?」」
昼ご飯は豪勢な肉料理で、ナツメとソウジはもの凄い勢いで食べていた。
そして食後のデザートは、色んな種類のケーキ。
それを全員で食べている時に、師匠が唐突に言ってきて、俺とセリカは声をあげてしまった。
アイカはアイリ様の脚の上に座り、こちらを気にすることもなく、口の周りを汚しながらケーキをバクバクと食べていた。もちろんナツメとソウジも。
そしてアイリ様はアイリ様で楽しそうに、アイカの髪を様々な髪型にして遊んでいた。
以前アイカに聞いたら、アイリ様にして貰うのは好きと言っていたから。
「師匠!?どうして突然!?」
「今日、クララの鍛冶技術は俺と遜色ない程の腕前になった」
師匠は、何もない所に右手を差し伸べたと思ったら、空間が歪み、手先が消え、手を引っ張り出したと思ったら、刀を握っていた。
師匠とアイリ様が使える、収納魔法。何でも、異空間にモノをしまって置ける、マジックバッグより更に優れた魔法と言っていた。その容量、無制限らしい。
恐ろしい人達と改めて思った。魔法が使えない、ではなく、魔力の消費が激しく魔法がつかえにくいこの島で、魔法が使える程の異常な魔力量を誇る人達だから。
師匠が出した刀の刀身は、透き通る程の透明度で、美しいと言える刃紋が見えた。
「コレはクララが打てたモノだ。そして──」
師匠が左手を何もない所に差し伸べて、空間が歪み、手先が消え、引っ張り出したと思ったら、また刀を握っていた。
「コレが以前見せた、俺が打った刀だ」
そう。鍛冶をするうえで、師匠に目標とする様にと、見せて貰った刀だ。 刀身の付け根部分にクサナギの家紋があったから。
師匠に刀身の紋様を聞いたら、『俺が約束を守れなかった証』と言っていた。
そして暫く黙りになったのを、俺は今でも覚えてる。
師匠が出した自信の刀は、クララが打った刀と見比べても本当に同じにしか見えなかった。まさに瓜二つ。
「そしてナツメとソウジが、ジェイドから一本取れたみたいだしな」
「とうへんてしょ!(当然でしょ!)」
「口に含んだまま、喋るなよ、ナツメ。それに言っちゃ何だが、10回に一本は取れる様にならんと、話にならんけどな。俺はジェイドの3倍は強いからな」
ナツメはショックを受けたみたいで、ケーキを食べる手が止まってしまっていた。
何でも、『ジェイドに勝てるようになれば、俺に勝てるようになるかもな』と、言っていたらしいのだ。
いやいや、その歳でも充分にスゴいから。それにしてもそうなんだよな、実際師匠の強さは…………
「と、言うわけで、クララ、ナツメ、ソウジのこれからの成長は、この島の外でも出来るし、外の様子も流石に気になってきたからな。そう言う訳で、色々準備もあるだろうから、三日後位に出発しようと思う」
セリカ、アイリ様、ミランダさん達を見ると、頷いていた。
ナツメ達子供らは、気にすることもなくケーキを食べ続けていたけど。
「よし! それじゃあ、出発は三日後だ」
※※※
三日が経った。
特段変わりなく、ナツメ達の稽古に朝から晩までひたすら付き合っていた。
二日間、ナツメ達に一本も取らせることはしなかった。俺なりの意地で。
「くっそー! 兄ちゃんから、一本も取れなかったー!」
「ジェイ兄、容赦なさすぎ!」
「ハッハッハッ! 俺もそう易々と何回も取らせるつもりはないからな!」
そうは言ったけど、実際コイツらの上達ぶりは、カイトとノエルに匹敵する程だからな。俺も、久々に楽しくなっていたけど。
「おーい、お前ら! そろそろ出発するぞ!」
師匠の呼ぶ声が聞こえ、この島での朝稽古を終了して、師匠達の下に向かった。
俺は白を、ナツメとソウジは青と赤を基調とした服装、師匠はツナギ服、アイリ様、セリカ、アイカとクララはワンピースにエプロンドレス。
ミランダさんは膝丈までのスカート、胸元や肩が出ている、露出の多いメイド服を着ていた。頭にはヘッドドレスを付けていた。
「あれー? ミラ姉、角が見えないけど、取ったの?」
ナツメの疑問はもっとも。ヘッドドレスを付けただけでは、あの立派な角は隠れないのだから。
「取ってませんよ。このヘッドドレスには隠蔽の魔法が付与されているです。その証拠に──」
ミランダさんはヘッドドレスを取ると、立派な角が現れた。
「「おぉ! すげー!」」
ナツメとソウジが感心していた。
そしてミランダさんは再度、ヘッドドレスを付けて、角が隠れてしまっていた。
「あとさぁ、今日に限って、ミラ姉のメイド服はどうしてそんなに、布地が少ないの? いつものメイド服じゃダメなの?」
「私もアイリ様に言ったのですけど、このメイド服にも隠蔽の魔法が付与されているのです。その証拠に、尻尾が見えないでしょう?」
くるりと静かに背を向けてきた。
「本当だ。でもさぁ、別にいつものメイド服でも良かったじゃん」
「私もアイリ様にそう言ったのですが──」
みんなの視線がアイリ様に向かった。
「そんなの決まっているじゃない。私の趣味よ!」
誇らしげに言っていた。
「と、言うわけなのです」
「なるほどー。そう言えばママってば私達に、色んな衣装を着せて楽しんでたっけ」
「そう、私は決めたのよ。趣味を隠すことなく生きるって!」
ヤバイ! あのキラキラした目は、楽しそうに長々と語り出すときの目だ!
「って、お前らいい加減に出発するぞ!」
そこで、師匠が遮ってくれた。助かった~。
「でも、ガリアーノ様。一体どうやって、この島から出るのです?」
「まぁ、見てな。セリカはアイを抱っこしてな」
そう言われて、セリカはアイカを抱っこしていた。
「それじゃあ、やるぞ」
師匠は目を閉じてしまった。
そして次の瞬間、師匠の身体から途轍もない程の、銀色に輝く魔力が溢れ出して、師匠の身体が輝きだしていた。
「し、師匠、それは!?」
「コレが、この島から出れる可能性だ」
「じーじ! きらきらー!きらきらー!」「パパが輝いてる!」「父ちゃん、かっけー!」
子供等は大変喜んでいるけれど、それどころではない。
「コレは、丁度半年前に突然、俺の魔力の中に現れた力だ。アイリも使える」
アイリ様を見ると、Vサインをしてきた。
「それほどの力、何かリスクはないのですか?」
「あぁ、俺もそれを考慮して、この力に気付いた当初は少ししか試さなかった。だが、何回か試す内に、この力は大丈夫だと思い、半日近く試したが、少しの疲労感があるだけだった」
あぁ、確かに。いつだったか、朝から晩まで師匠の姿を一日見かけなかった事があった。
「でも、どうして師匠とアイリ様にそんな力が?」
「分からん。それを確かめる事もこの島から出る目的だ。あの女神に会っているだろう、カイト達が何か知っているかも知れないからな」
「そうですか…………」
「よーし! んじゃ、ゲートを出すぞ」
師匠は右手をかざして、ゲートが開かれた。
「おー! まま、まま! じーじ、すごぉい!」
「えぇ、そうね。ばーばもじーじと同じ事が出来るんだって」
「おー! ばーば、すごぉい!」
アイカはかなり興奮して、セリカに見たことを話していた。
「すっげー! けど、父ちゃん。コレって何なの?」
「そうそう。一体何なのパパ?」
「コレは、遠く離れた場所に瞬時に移動出来る魔法だ。まぁ、その場所のイメージ、もしくは知っている魔力を頼りにしなきゃならん欠点があるがな」
「「へぇ~」」
「それで師匠。どこに繋がってるんですか?」
「問題無ければ聖王国の王城だ。ただまぁ、王都から離れて大分経つからな、最悪王都の何処かには出るだろうよ」
それもそうか。セリカが魔法を使えれば、まだイメージが強かっただろうけど、魔法を使う分の魔力が足りないからな。
「と、言うわけで、さっさとゲートに入れ。コレ維持すんの結構疲れるんだから。不測の事態に備えて、どこに出るかも分からんから、ジェイドから入れ」
「はい」
そして俺はゲートに入った。
※※※
次に見た景色は、王城が離れて見える景色。そこは、王城に向かう前の城門。
そして、槍をこちらに構えた、洗練された若手の兵士数名。
「なに奴!─────って、ジェイド様?」
「「「えっ!?ジェイド様?」」」
何人の兵士も、同じ反応をしていた。
「や、やぁ~。久しぶり、かな?」
俺は軽く手を挙げて、挨拶をした。
「おぉ~!! ジェイド様だ! ジェイド様が帰ってきたぞ!」
槍を構えていた兵士達は、構えを解き、喜び始めていた。
「って、なんだコレは? ジェイド?」
師匠の声がして、その方向を見るとみんなが居て、最後に師匠が通って、ゲートが閉じている時だった。
「雰囲気が少し違うが、セリカ様も居られるぞ!」
そうしてまた、騒ぎ始まった。
かなり雰囲気が違うが、よく見ると、俺が王城に居た時に剣の訓練をしていた兵士達であった。年配者が居れば、師匠の事を知っていただろうが。
なら、師匠達の事を知らなくてもしょうがない。
「みんな! 喜んでいるところ悪いが、陛下に会いたいのだが?」
「あっ!と、すみませんジェイド様! 少々お待ち下さい。確認を取りますので!」
「あぁ、頼む」
そう言って兵士は、その場に佇んでいた。
ん? しかも誰一人、王城に伝達しに行かないのは何故だ?
「ジェイド様、陛下の確認が取れましたので案内します」
「………えっ!? ちょっと待ってくれ! 誰一人王城に向かっていなかったのに、どうやって確認したんだ!?」
「はい! それは──」
「念話だろ?」
師匠が口を挟んできた。 …………確かに、念話なら可能だろうけど…………
「でも、一体いつからそんな事出来る様になったんだ?」
「はっ! 姫様の指示でノエル様から享受して貰い、出来る様になったのは2年前からでして、陛下や王妃様の王族の方達から末端の兵士まで出来ます!」
「ほぉう。たいしたものだな」
「ありがとう御座います! それと失礼ですが、貴方様はどちら様でしょうか?」
「あ~。俺達はジェイドの身内だ。ジェイドが世話になったから陛下に挨拶したいんだが?」
「失礼ながら、本当ですかジェイド様?」
まぁ、教えを請うているから、身内になるかな?
「本当だ。だから、この方達も陛下にお目通りさせたいんだ。構わないか?」
「そう言うことでしたら分かりました! どうぞ、案内しますので付いてきて下さい!」
それ以降、師匠達は余計な事は喋らずに居て、兵士から何処に居たとかのちょっとした質問を、俺が受け答えしていた。
こちらからも、俺達が居なくなった後の事を聞いたりした。
※※※
「こちらに陛下が居ります!」
兵士から聞けることを聞いたりして、陛下が居る部屋の前に着いた。
「ありがとう」
「はっ! それでは自分はこれで失礼します!」
兵士は敬礼をして、その場から去っていた。
「(トントントン)」
「入れ」
「失礼します」
案内された部屋は、王族のプライベート部屋であった。
そして中に居たのは、陛下と王妃様の2人が、畳の上で寛いでいた。
「おぉ!! ホントにジェイドか!」「まぁ、ジェイド!」
2人は目を見開いていた。
「はい。まさしくジェイド・ラーディエルです。そして──」
「よっ! カイゼル! それにラヴィちゃんも元気にしてたか!」
「ガリアーノ!?」「ガリア君!?」
2人は俺を見た以上に驚いていた。
お読み頂きありがとう御座います。