10話
マリアンナとレイシャードの首輪を外さないまま、活気が無い都市を歩き、数十人かの人の目にさらした状態でギルドに戻って来た。
中に入って早々に、指をパチンと鳴らして2人の首輪を外してあげた。
「ごめんな、2人とも。苦しかったろ?」
「…………………ん。大丈夫」
「ボ、ボクも大丈夫です、ご、ご主人、様」
レイシャードが辿々しくもそう言ってきた。
「ご主人様なんて呼び方は辞めてくれ。お前達はもう奴隷じゃ無いんだから」
「……………………ん。じゃあ、なんて呼べばいい?」
「あぁ、名乗るのが遅れたな。俺はカイト。冒険者をしている。歳は15で、マリアンナと同じ歳だよ」
「……………………ん。分かった。なら私はご主人様って呼ぶから、レイは兄上とでも呼ぶと言い」
「分かりました姉上」
「だから、どうしてご主人様呼びになる!?」
つい今し方、ご主人様呼びは辞めてくれって言ったのに……………。
「……………………奴隷じゃ無くても、ご主人様に買われたのは事実。 私達はご主人様に何も返すモノがないから、私が呼び方だけでも、と」
「確かにお前達を買ったが、そんなことは気にするな。非人道的なやり方が気にくわなかったから、俺達が勝手にやっただけなんだから」
「……………………ん。そしたら感謝の意味を込めて、私はご主人様と勝手に呼ぶ。だからレイの呼び方も勝手に呼ばせる」
「ボ、ボクは姉上の言うとおりに…………」
……………これ以上マリアンナに言ってもダメだな。芯のある瞳をしているから……………
「…………分かった、好きに呼んでくれ。そしたらまずは腰掛けてくれ」
「………………ん」
マリアンナはレイシャードの手を引きながら、手を差しだしたイスに腰掛けてくれた。
と、しばし、俺達のやり取りを座り黙って見ていた、シュミットさんとマリーさんは何故かニタニタと笑みを浮かべている。
「どうしたんですか2人とも、ニタニタとして?」
「………いや、アンナ様とレイ様がご無事でよかったと思って」
「それに、お二方様がこんなに楽しそうにしている姿を見るのは久しぶりで」
「ん? なんか2人の事を身近に知っている言い方ですね」
「……………………ん。私とレイはよくこのギルドに遊びに来ていたから」
はははっ。見た目以上にお転婆な姫様だったか。
「そしたら積もる話もしたいだろうから、さっそく2人に聞きたい。どうして、ランス・チャールズは新皇帝になるほどの暴挙に出たか知っているか? お前達の父親からの信頼が厚い人物だったのは知ったが」
「……………ん。あの人が変わったのは、半年程前から」
「それは、いきなり現れた洞窟の調査をしに行った事か?」
「……………ん。そう」
そしてマリアンナはマリーさんが出した紅茶を飲み出した。レイシャードはノエルが作っておいたクッキーを黙々と食べている。
それにしても、やはり洞窟の調査に行った事が元凶か……………。
「………………あの人は、洞窟の調査をした日から、独り言を言う様になったの」
「つまり、それまでは独り言を言う様な人では無かったって事か…………」
マリアンナは頷いて返事をした。
「…………………それに、あの人と一緒に行った騎士達もおかしくなってた」
「それはどう言う風に?」
「…………………一言で言うなら、何も感じない」
「……………何も、感じない………?」
「………………ん。生きてる感じがしないと言えば分かる?」
………………それは………………もしや…………………。
「死者………?」
「…………………そこまでは分からない」
マリアンナは首を横に振りながら応えた。
闘技場に姿を見せた時に鑑定をすれば良かったな。これは俺の落ち度だな。
「それともうひとつ。皇后様………………お前達の母親はどうして居るか分かるか?」
「…………………ん。今もまだお城に幽閉されているはず。私達、二日前まで一緒に閉じ込められていたから」
「どこに閉じ込められているか分かるか?」
「…………………ん。私達が居た部屋は、お母様達の寝室。今もお母様達が、その部屋に居るかは分からない」
「そうか……………」
………………隈無く捜さないといけないか…………………………ん? 今の言い方おかしかったぞ………………?
「ちょっと待て! マリアンナ、今お母様、達って言ったのか?」
「…………………ん。言った。お母様だけじゃ無く、お父様も居るけど、それが何か?」
「「「えっ!?」」」
事も無げにマリアンナが口にした人物の名前に、俺だけじゃなく、シュミットさんとマリーさんも驚いていたよ。
マリアンナとレイシャードはどうしたの?の表情をしていたけど。
「……………お前達のお父さん。亡くなったんじゃないのか?」
「………………ん? 元気にしていたけど?」
おいおい、一体どうゆう事だ。まさか生きてるって。
その後もマリアンナに聞いても、それらしい情報も無く、シュミットさん達と話し合い、その時に聖王国の俺の屋敷に戻り料理などを振る舞っていたノエルと、ノエルの手伝いをしたいと申し出たティア、ミカ、ユノと奴隷扱いを受けていた人達を引っ張って行ったカルトちゃんが戻って来た。
だけど、その日はリーナが帰って来ることは無かった………………。
※※※
カイトと別れたリーナは──
「さて、時間はたっぷりありますから、楽しい楽しい拷問を再開しましょうか?」
「…………も、もう…………やめて…………くれ…………」
「それじゃあ、洗いざらい話て下さいな」
リーナが紅鬼【小型】と共に向かった先は、進行役をしていた男の下。
その進行役の男に接触したリーナは、いずれ必要になる時があると思い、問答無用でその男を【ゲート】で異空間に作っていた拷問部屋に連れて行き、イスに座らせ手脚を拘束した男から何か詳しい情報を集めていた。
エルスと共に造っていた拷問器具を用いて…………。
「だ、だから、私は何も知らないんだ! ただ、オークションの進行役を頼まれただけで!」
「イヤですわ。私が何も知らないと思っているのかしら。人攫いや強姦、強奪など犯罪になる事を平気でやってきた、帝国に拠点を置く盗賊団ナイトメアの頭目、トアゴさん」
「……………く…………くふ……………ふふふっ……………くふふふっ……」
先程までわめき散らしていた男は一転して、笑い声を出し始めていた。
「アハハハハハッ! よくオレ様の正体を知っていたな小娘!」
男は顔を歪ませ、リーナを値踏みする様な視線を仕始めた。
「当然でしょう? 世の中を知るには情報が無くてはいけませんから。ましてや人相手には尚更情報を知っておかなくては、自分の身を守れませんからね」
「だったら、オレ様にこんな事をしてただで済むと思ってねぇよな小娘!」
「あら? 貴方が私に何をすると言うのです? 手脚を拘束しているのに?」
リーナの指摘を受けても男は笑みを浮かべていた。
「こんな拘束なんざ、オレ様にとっては何ともねぇんだよ! それにさっきまでの鞭打ちなんてただただ痒いだけだったぜ!」
「それはそうでしょう。だって、手加減していたのですから」
「………ああ? 手加減だと?」
「そうですわよ。なんてったって、拷問器具を造ったまでは良いけど、試す機会が無かったのですから」
「……………まさか、全部をオレ様で試すつもりか?」
リーナは男に負けず劣らずの笑みを浮かべ出した。
「大丈夫ですわ。ちゃんと生かしますから、死なない様に。誰に歯向かったか思い知らせて、貴方を飼い慣らしてあげますわよ?」
「…………人の皮を被った悪魔がっ!!」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
そしてリーナは、男に死んだ方がマシと言われる程、じっくりと時間をかけて拷問をしていった。
それを人形の様になって、大量の汗をかきながら黙って観ていた紅鬼は後悔していた。
とんでもない者達と関わってしまったと──。
お読みいただきありがとう御座います。