6話
そして俺が情報集めに来た場所は、娼館。
何でここに来たかと言うと、お見送りの時に渡されたエルスの手紙にあったから。
情報集めをするには聞き込みをする。それは当たり前。
そして有益な情報集めに適している場所が、酒場か娼館らしい。
で、最初に酒場に向かったのだが、案の定閉まっている。 何軒か探してやってる店を見つけたが、まだ昼時だから準備中と言う事で閉まっていたのだ。
で、最後の手段で娼館に来たら、ここはやっているのだ。
正直、正~直、ノエル達に申し訳ない気持ちでいっぱいなのだが、エルスの手紙にはそれも必要な事をノエル達に言っており、それであの晩、いきなり抱いて欲しいと言ってきたらしいのだ。
だからって貴女達の婚約者に勧めるかね、こんなとこ。まぁ、エルスが絡んでいる時点で、色々と言い方向に事が運ぶから強く言えないんだよな、最近…………。
「よしっ! 行くか」
そして俺は意を決して娼館に入った。
中に入ると室内は薄いピンク柄をしていた。スッゴくイヤラシイ色気を醸し出している雰囲気をしている。
「いらっしゃい」
声をかけられてそちらの方を見ると受付があり、全体的にそこそこ肉付きのいい恰幅の女性が、キセルをくわえて腰掛けている。
「見ない顔だね。ここは初めてだろ?」
「えぇ、15になったばかりですから」
「そうかい」
ロイさんの情報によると、帝国は15で成人としているから、それが例え、国外の人であっても適用対象になるって事を言っていた。だから、帝国では酒も飲む事が出来ると言っていた。
「それじゃあ、この中から選びな」
「選ぶ?」
差し出されたリストには女性らしき名前と年齢、そしてその人達の脇に料金しか書かれていない。
「アンタが抱きたい女性を教えな。ああ、その前に。ここに出している女性は、今空いてないから選ぶんじゃないよ」
受付の人がキセルで、受付の台に乗るくらいの小さな掲示板に、名前の書かれた表札が掛けられていた。
で、リストを見ながらそれを確認すると、1番高い人、金貨100枚と書かれた人物は今空いていなかった。そして上位の値段の人達も空いていなかった。
中間くらい、つまりお手頃価格の人達は今は空いてる様だった。安い値段で金貨10枚。すっげー差があるな。それにしても金貨100枚って、大貴族の人じゃないと、とてもとてもって言う値段だぞ。
「さあ、誰にするんだい?」
さて、どうやらエルスの手紙によると、大抵、有益な情報を持っているのはその店の一番人気の人らしいのだが、ここまで上位が全滅となるとどうしたものか……………。
「あぁ、心配しなさんな。私みたいなのは居ないから。ほとんどが私より細身だよ」
どうやら、勘違いをしたらしい。
「すみません。そしたら、世話係をしてる人で、可能な人っていますか?」
「ん? 居るには居るけど………………アンタ、初めて来てそんなのでいいのかい?」
「はい、構いません」
「分かった。そしたら初めてってもあるから銀貨50枚だ」
「はい」
腰に付けたただのバッグに手を突っ込んで、異空間収納から金貨1枚を取り出した。流石にバッグからじゃないと色々と怪しまれるだろうから。
「あん? お釣りかい?」
「あっ、出来れば、明日も………」
「明日も来ておんなじ子でするのかい?」
「は、はい」
「分かったよ。そしたら明日の分も貰っておくよ。それじゃあアンタはこの部屋番号に行ってな。今、アンタの相手をさせる子を呼んで、行かせるから」
「分かりました」
受付の人は俺に札を寄越して、その場から離れた。
俺は札に書かれている部屋に向かい、そして中に入った。
それにしても、部屋の中までそれらしい雰囲気の造りをしているよ。しかも、なんか甘ったるい匂いもするし。お香を焚いているからか、それらしい煙は?
少しデカいベッドが一つしかないし。
座るところがベッドしかないから、腰掛けて寛いでいた。
しばらくしてからドアをノックする人が居て許可をすると、そこに居たのは栗色の髪をして、まだ幼さが残っている顔立ち、小柄な背丈。でも、それに見合わない程、実った双房がピンクのネグリジェを押し出して、その下はピンクの下着を履いている。
そして、その幼さの残る顔は赤みを帯びていた。
「ほ……本日は……ご……ご来店……あ……ありがとう……ご……御座います」
女性は噛み噛みながら、お店に対する口上を述べていた。
「そんなに緊張しなくていいよ。とりあえずコッチに来て」
ベッドに腰掛けていた俺は、自分の隣に来るように軽くベッドを叩いた。
「し、失礼します」
今だに緊張している彼女は、恐る恐る腰掛けた。
「それじゃあ初めはお互い自己紹介をしない? キミの名前を知らないからさ。俺の名前はカイトって言うんだ。キミは?」
「ミ、ミカって言います」
「ミカさんか。いい名前だね」
「あ、ありがとう御座います」
それにしても、未だに俯いているな。
「ミカさんは、今日が初めてなんでしょ?」
「は、はい。そ、それと私の事はミカで結構です。さんは付けなくて大丈夫ですから、カイト様」
「分かった。そしたら、俺の事も様は付けなくて大丈夫だから」
「そ、そんな訳にはいきません!」
ミカはやっと顔をあげてくれた。
「そしたら俺もミカさんって言うしかなくなるけど、いいよね?」
「…………………わ、分かりました、カイトさん」
「さんもいらないよ。呼び捨てでいいのに、ミカさん」
「………………そ、それじゃあ、カイト君、で」
「……………まぁ、そこが落としどころかな、ミカ」
ミカは顔をあげてから、終始俺の事を真っ直ぐ見てきた。赤みは多少残っているけど、入って来たときより大分緊張が解けたみたいだ。
「それでミカ、聞きたいことがあるんだけど良いかな?」
「は、はい。大丈夫ですけど…………」
「ミカって、誰の世話係をしているのかな?」
世話係。又は傍仕え。エルスの手紙によれば、上位の娼婦には自分の身の回りの世話をさせる子が必ずいるって書いてあった。そしてその子は妹分みたいな存在なんだ、と。
それにしても、エルスはどうしてそんなことまで知っているんだよ。
「私はユノ姉様の世話係をしています」
ビンゴ! 受付で見た一番人気の人の名前だ! さて、どうやって、その人と接触しようか? すぐにその人に会いたいと言うと、かなり警戒させてしまい、余計に情報が集めにくくなるからな?
「あ、あのどうしてそんな事を?」
「あっ、深い意味はないんだ。噂で聞いたんだ。その人の世話係をした子は、技術を教えられているって」
「そ、そんな事ないですよ…………」
あらら。赤面して俯いてモジモジしちゃったよ。
どうせするつもりもないから、このまま話でもして時間を潰すか。
※※※
どれほどの時間が経っただろう。2時間くらいか。ドアをノックをして来た人が居たが、そのままその場から立ち去った気配を感じた。
「あっ! もうそろそろ終了の時間です」
「あ。その合図なんだ」
「はい。そう言う事です」
「あっという間だったね」
「はい」
ミカは満面の笑みを浮かべてきた。この子、笑うと結構可愛いんだよね。ノエルに負けず劣らず。
「カイト君、御免なさい」
「何が?」
「そ、その……………せっかく、お金を払ってまで、しに来たのに、お話しだけで終わって……………」
「ああ、その事。気にすることないよ。お話しするだけでも楽しかったから。それと出来れば、俺が冒険者だって事は内緒で」
俺は人差し指を立て、口元に寄せた仕草をしてみせた。
「はい、カイト君との話は内緒にします」
「まぁ、ミカの姉様にくらいには喋ってもいいからね。それじゃあ、また明日」
「はい、また明日」
俺は手を振って、ミカも小さくだが手を振り返してきたのを確認してから、部屋を後にした。そして、受付の人に軽く会釈をして娼館を後にした。
外は夕方になっており、酒場が開く時間になっていたので、その足でそのまま酒場に行った。
酒場に行き、人生で初めて酒を飲んだ。果実酒だったから甘みもあり、中々美味かった。
酒場のマスターに話をそれとなく聞き出そうとしたが、そんな事を察して、俺が冒険者だって事が分かるとむしろ積極的に情報を教えてくれた。
どうやらこのマスター、前皇帝派の人みたいだ。
酒場には、兵士の格好をした人が少なからず居たのだが、まぁ、酒を飲んでいるから、こちらの事を気にすることもなく程々に騒いでいる。
マスターから聞いた情報も騎士団長は良い人だったって事位で、ギルマスのシュミットさんから聞いた話と対して変わらなかった。
そして夜が更けて、少しほろ酔い気分でギルドに戻り、リーナが馬車の中にあった家のドアを異空間でつなぎ、いつも通りノエル達と一緒のベッドで寝ることに。
そして今日あったことを話した。ノエル達もエルスから前もって聞かされていたから、その事の咎めは無くてすんだ。
ただ、いつも以上に愛してね、と言われた。ああ、愛しますとも!
そしてそのまま眠りについた。
※※※
※カイトが娼館を出た頃──
「失礼します」
「今日は疲れている所、悪いねミカ」
「大丈夫です、ユノ姉様」
ミカが入った部屋は、ユノ姉様と呼んだ人の専用の部屋。上位の娼婦は浴室も付いた部屋を預けられている。
そして姉様と呼ばれた水色の長髪の妖艶な女性は、その容姿から妖艶な雰囲気を醸し出しバスローブを着て、ベッドに腰掛けキセルをふかしていた。
「それでミカ。今日初めて相手をすることになって、ちゃんと出来たかい?」
「そ、それが………」
「おや、ダメだったのかい?」
ミカは片付けの手を止めて、首を振っていた。
「……………一体どうしたんだい?」
ユノは隣に座る様に仕草をして、ミカはユノの隣に座った。
「な、何もしなかったんです………………」
「何もしなかった……………? じゃあ、一体何をしていたんだい?」
「お話しだけしてました……………」
「………………話だけ…………? わざわざこんなとこまで来て、話だけしていくそんな奇特の奴が居たのかい?」
「……………はい…………」
ユノはキセルをふかし、ミカの頭を優しく自身の胸元に寄せて撫でてあげていた。
「……………まあ、ごく偶にそんな人が居るか……………………それでミカ、楽しかったかい?」
「はいスッゴく! それにあの人、カイト君って言うんですけど、貴族様じゃないのに気品もある人なんです!」
「貴族様でもないのに気品もある……………? その人、一体どんな人なんだい?」
「カイト君と約束したから姉様には話しますけど、カイト君、冒険者をしているんですって。それで外の色んな話を聞かせてくれて、スッゴく面白かったんですよ!」
ミカはカイトとの話を思い出し、笑顔をみせていた。
「………そうかい、そうかい。それは良かったよ。………………それでミカ、その人の外見って覚えているかい?」
「あっ、はい。背が高くて、凛々しい顔立ちをしていて、そして一番印象に残っているのは、キレイな銀色の髪でした」
「…………………銀色の髪…………………そして、冒険者…………………」
「どうしたんです、ユノ姉様?」
ブツブツと話していたユノを心配していた。
「───ねえ、ミカ。その人はまた来る事ってあるかい?」
「は、はい。また明日って言ってましたから、来ると思いますけど…………それが?」
「そしたら明日、またミカに何もせず話をしたのなら、私の所に連れて来てくれないかい? 受付の人に話をして、明日は誰ともしないで空けておくから」
「は、はい。分かりました」
そしてユノはミカから更に、カイトとどんな話をしていたのか聞いていた。
お読みいただきありがとう御座います。