5話
ユークリッド義兄さんの助力もあり、すんなりと帝国領に入ることが出来、馬達に【キュア】と【リフレッシュ】をかけて、4日は掛かると言われていた距離を2日で走りきり、帝国の中枢、帝都に着いた。
帝都の中に入る時は、観光客と言う事で入った。
ユークリッド義兄さんの所の兵士のロイさんの話によれば、今の皇帝は冒険者の事を快く思っていないらしく、冒険者の出入りを厳しくしていると言っていたから。
「それではカイト様、自分は引き続き情報を集めておきます」
「はい、よろしくお願いします。 何か進展があれば遠慮なく報告しにきて下さい」
「分かりました。では、私はこれで」
そしてロイさんと別れた。
「それでカイ、この後は?」
「ひとまずギルドに向かう。 カサドラさんの話では、ギルマスが情報を集めておくって言ってきたらしいから」
「分かったわ」
俺はロイさんにギルドの場所を聞いていたから、その場所に進路を取った。
それにしても、帝都に入った時も思ったが、帝都全体がどこか殺気に満ちていて、息苦しさを感じる。
王都にも引けを取らない程の都市なのに、人の行き来も少ないから賑わってもいない程、一体全体この帝都はどうなっているんだ?
そんな事を感じつつ、目的の場所に着いた。
木造二階建ての造りをしている。
馬車で留守番をするのは、俺以外のメンバーでしておくと言っていたから、俺1人で入った。
中に入ると冒険者が誰も居なかった。
受付の方を見ても誰も居ない。 どういう事だ?
「すみませーん! 誰か居ませんか!」
声を張り上げて呼ぶと、2階の方から物音が微かに聞こえた。
少し待っても出てくる気配がしないから、物音が聞こえた2階の方に、忍び足で向かった。
階段を上がりそこで一旦立ち止まった。 すると、またしても物音が聞こえたので、その音がした方に再び忍び足で近寄った。
そしてそれらしい場所で立ち止まるタイミングで、またしても物音が聞こえた。 その音が聞こえた場所は、ドアにギルドマスターの表札が掛けられている。
そっとドアノブに手を掛けて、ゆっくりとドアを押すとそこには、何やら大量の本と書類らしき紙の山で埋め尽くされ、それを片付けている感じの男性1人、女性1人が居た。
「マリー君! すまないね! キミだって家に戻りたいだろうに!」
「いいんですよ、シュミット様! どうせ、家に戻ってもする事もありませんから!」
そんな会話をしつつ、イスに座っている男性がハンコを押して、女性が空かさず紙をドサッと机に乗せる、と言った作業をしていた。
そしてまったくコッチに気付かないのだ。スゴいことに…………
「あの、すみません!」
俺はラチがあかないと思い声をかけた。
「「えっ!?」」
二人してビックリして、その拍子に書類らしき紙の山が崩れ、大惨事になってしまった。 なんかすみません、本当に………………
「すみません。 いきなり声をかけてしまって。 下で声をかけたのですけど、返事もなくて……………」
「あ、ああ、すまない。 仕事が忙しくて、私もマリー君も気付かなかったようだ。ところでキミは?」
男性が気を取り直して、作業の手を休めていた。だけど女性の人は、大惨事になった紙を片付けていた。
「申し遅れました。 私はカイト・クサナギと申します。 恐れ多くも、SSSランクを授かりました」
「おぉ! キミがカサドラ様が言っていた噂の子か! キミの事はだいたいの話は聞いているよ。 初めまして。 私はシュミット。 シュミット・ルバート。 ここのギルドマスターをしている。 そして今、書類を片付けてもらっているのが、受付嬢をしてもらっているマリー・バイヤード」
シュミットさんから、紹介されたマリーさんは軽くお辞儀をして、また書類拾いを仕始めた。 いや、なんか本当、すみません……………
シュミットさんは、薄い藍色の髪に、精悍な顔立ちだけど、目の下にとてつもないクマが出来ている人物。
マリーさんは、薄い金髪をして、整った顔立ちにソバカス、そしてこちらもとてつもないクマが出来ている人物。
「おっと、いつまでも立ちっぱなしじゃいけないね」
そうは言いつつも、どこにも座れそうな場所がないですけどね。
「マリー君。 ちょうど良いから休憩をしようか」
「分かりました」
「それじゃあクサナギ殿、申し訳ないが下で話そうか」
「分かりました」
そして俺達は1階に来て、ちょっとしたスペースにイスとテーブルがあるので、そこに座った。
途中、何人で来たのか聞かれたから、ノエル達の事も話、この建物の裏に馬車を停めて置けるスペースがあると聞いて、その話を念話でノエルに知らせ、後で建物に入るように言った。
そしてノエル達が来て、ノエル達も挨拶を交わし、マリーさんがお茶も用意してくれて、全員が席についてから本題に入った。
「シュミットさん、一体ギルドに何が起こったんです。 まったく冒険者が居ない何て、おかしいのでは?」
「いや、カイト君の言うとおりだよ。 それもコレも、新皇帝の所為なんだよ」
そう来るか。 そして俺への呼び方はいつも聞き慣れている呼び方をしてもらった。 さっきの呼び方はどうにもくすぐったかったから。
「カイト君達はどこまで、話を聞いているかな?」
「前皇帝を亡き者にした人物が、新たな皇帝に。 そしてその人物は皇帝の信頼も厚かったって事ぐらいですね」
「あぁ、まさにその通りだよ。 新皇帝になった途端、ギルドに規制が入り、冒険者は自粛するよう勧告を受けてしまってね。 それで冒険者はこの帝都では満足に活動も出来なくなり、他の支部に行ってしまったんだよ」
「それは大変ですね。 冒険者としてもギルドとしても」
「あぁ、まったくだよ。 それでも依頼は廻ってくるもんだから、その依頼を他の支部に廻さないといけないし。 唯一残ってくれたマリー君には感謝しても仕切れないよ」
「もうシュミット様、それは言いっこなしですよ。好きで残ったのですから」
なるほどね。 その目の下のクマはそう言う事か。
「ギルドの状況は分かりました。 それで帝都全体の状況は?」
「ここに来るまでに知ったと思うが、ご覧の通りだね。 新皇帝を認めない者がほとんどなんだ。 前皇帝は我々民を愛してくれていたのが分かっていたから……………」
そんな人徳者が亡くなりもすれば、そりゃあ、あの殺気に満ちた空気にもなるか…………
「最初は都市の人達も、新皇帝に不満を抱えて皇城に押し寄せるくらいの団結力があったんだけど……………」
ん? シュミットさん、いきなり口籠もってしまったぞ?
「何があったんです?」
「────惨殺だよ」
シュミットさんは、両手を握っていた。 そして両方の爪が肉に刺さり、血を流す程、力を入れているのが分かった。
そんな事をしているシュミットさんの手に、マリーさんは優しく両手を置き、シュミットさんの両手を解いた。 あぁ、マリーさんはシュミットさんの事が──
「新皇帝は躊躇うこともなく市民を殺したんだ。 兵士達も命令があったとはいえ、無表情で暴動を起こした市民を斬ったりして廻った」
何とも惨い。 カルトちゃんにシュナイダー達の世話を頼んでおいて正解だったな。 あまりにも聞かせられない話だ。
まぁ、この敷地に、悪意のある者が入れないように、視えなくした聖光魔法で結界を張ったし、カルトちゃんには、紅鬼と織姫が付いているから、大丈夫だと思うけど…………
「そして殺されるのを免れた者も居たのだが、その者達は捕まったりして、その事があったから、店を開けている所も少なく、出歩く者も少ないんだ」
「帝都の状況は分かりました。 そんな新皇帝に関する情報はないですか?」
シュミットさんはお茶を飲み、喉を潤していた。
「新皇帝は前皇帝の信頼も厚い騎士団長だったってのは知っているよね?」
「はい」
「私が集めた情報によると、その人がおかしくなったのは、どうやら半年前かららしいんだ」
「………………半年前に何があったんです?」
「残念ながら、そこまでは掴めなかった。 だけど、暴挙に出るひと月には、こんな事を言っていたらしい『やっと、やっと全てが手に入る』と」
やっと全てが手に入る、か。
「一体何があったんですかね? 半年前に」
「分からない、半年前に何があったのか…………騎士団長は誠実な人だったんだけどな…………」
んー? その人の話を聞くと、ますます反乱何てやりそうに無い人物に聞こえるんだよなぁ。
「それで皇族の方達はどうなっているのですか? 殺されたり?」
「いや、その話は聞かないから大丈夫だと思うが、安否が不明で、実際は分からないってのが正確かな」
「……………だいたいの事は分かりました。 それでシュミットさん。 出来ればここを拠点にしばらく厄介になってもいいですか?」
「あ、ああ、もちろん構わないよ。 奥にキッチンもあるし、今は私達以外居ないからね、部屋も空いてるからべッドも用意するよ」
「あぁ、その点はご心配無く。 自分達、そう言う類いも用意して来ましたので。 それで代わりと言っては何ですが、彼女達を置いていくので、仕事を手伝わせて下さい」
「いや、しかし……………」
「大丈夫ですわ。 私、これでも商人の端くれですから、書類の整理も出来ます」
今まで大人しくしていたリーナが自信満々に言っていた。
「私もリーナ様のお手伝いをします」
「私も微力ながら。 でも、料理に関しては任せて下さい」
ティアとノエルも自信に満ちていた。
「と、言う事ですので」
「わ、分かりました。 こちらこそ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
シュミットさんとマリーさんは、軽く頭を下げてきた。
「それじゃあ俺は、情報を集めてくるよ」
「分かったわ。いってらっしゃい」
リーナ達に見送られ、ギルドを後にした。
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