3話
義父さんが貴族達との懇親会と言う名目で、王城でパーティーを開き、出席は俺とエルスだけで、正装をした俺が姿を現すと、貴族達はワラワラと集まって来ては、一方的に挨拶をして俺を囲ってきた。
少ししてから、王族らしいドレス姿のエルスが姿を現すと、俺を囲っていた貴族達は、血相を変えてそそくさと散らばって行った。
エルスは何食わぬ顔で俺の傍に立っていたけど。
エルスが傍に立ってから貴族達は、一人又は、夫婦だったり家族連れだったりと律儀になり、簡単にだが挨拶をしていった。
そんな中、他の貴族達より顔色が悪く、白髪頭の壮年男性が、妙齢の女性と共に挨拶をしに来たのだ。
「エルスティーナ姫様におかれましては、ご機嫌麗しゅう御座います。そして英雄殿には、初めまして。私は、セルシオ・マルティンと申します。伯爵の爵位を授かっております」
セルシオ伯爵は右腕をお腹辺りに添えて、会釈程度に頭を下げてきた。
………………あれ? でも、マルティンって、何処かで聞いた様な………………?
「エルスティーナ姫様におかれましては、ご機嫌麗しゅう御座います。英雄様におかれましては、初めまして。私は、セルシオの妻のルフィア・マルティンと申します」
ルフィアさんは、ドレスの裾をつまみ、上品に挨拶をしてきた。
「セルシオ様、ルフィア様。今日はパーティーに出席していただき、ありがとう御座います」
エルスもドレスの裾をつまみ、上品に挨拶を返していた。
挨拶を終えたエルスが目配せをして来たので、俺も続けて挨拶をする事に。
「初めまして。私は、カイト・クサナギ。恐れ多くも、聖王陛下、騎士王陛下、両名から英雄の称号を承りました。以後、よろしくお願いします」
俺も右腕をお腹辺りに添えて、会釈程度に頭を下げ、頭を上げた。
「それでセルシオ様、お加減はいかがですか?」
今までのエルスなら、余計な事を喋らずに済ませていたのだが、どうやらこの人達は違うようだ。
「姫様に心配を掛けて申し訳ありません」
「そんなに気にすることはありませんわ、セルシオ様。大事な一人娘であるセリカ様の行方が分からないのですから、心配になるのは当たり前です」
「……………えっ!? セリカ姉さんのご両親!?」
「カイト貴方、マルティンと聞いて、気付かなかったのね」
いや~面目ないです。
「そう言う訳で、些細な情報を知り得ているであろう、姫様にこうして挨拶をしていたのだよ」
「そうでしたか。すみません、中々気付かなくて」
「カイトったら、まったくね。それでセルシオ様。残念ながら、セリカ様の行方に進展は御座いませんわ」
「そうですか……………」
伯爵は気落ちししてしまい、ルフィアさんが伯爵の腕に捕まり、支える様にしていた。
「無理をなさってはいけませんわ。しばし、あちらの席で休まれた方が宜しいですわ」
「す、すみません姫様。それではこの辺で失礼します」
ルフィアさんはそのまま伯爵を支えながら、椅子のある方へ、歩いて行った。
「エルス。あの人が何でああなったか知っているのか?」
「えぇ。セルシオ様はセリカ様の事を大事になさっていたの。 ゆくゆくは、お兄様のどちらかに嫁がせたいと、思っていた所に、ジェイド様と交際していた、と言う事を知ったのよ」
ジェイド兄さんは外見だけじゃなく、内面もいい人だけど、それだけじゃないのか?
「そんな事を知ったセルシオ様は、ジェイド様とセリカ様の交際を渋りながらも認めざる負えなかったのよ」
「どうしてそんな事になったんだ?」
「ジェイド様は平民の生まれでありながら、実力は近代最強の剣士と言われ、剣聖の称号をお父様から賜り、そしてジェイド様はお父様経由でセリカ様との交際を認めて欲しいと嘆願したのよ」
そう言うことか。
「そんな状態で、セリカ様達が行方不明になったものだから、セルシオ様は白髪になるほど自分を責め、心労を重ねすぎたのよ」
「でも実際、ジェイド兄さん達が見つかり、戻って来ても、セリカ姉さんとの仲を認めないんじゃないか? こんな事があったのだから、交際は認めん。とかそんな感じで」
「その点は心配無用よ。ジェイド様達が戻って来たのなら、伯爵家の家督をジェイド様に譲るとおっしゃっていたから」
それは随分と寛大だな。
「それなら早く見つけてあげないとな」
「えぇ、そうね」
それならそれで、伯爵の心労を何とかしてあげた方が良いかな? 後でノエルにでも頼んで、薬でも作ってもらうか。そう言うのも、食の扱いだから任せてって言っていたしな。
その後もパーティーは続き、エルスとダンスをしたりと、エルスが終始傍らに居てくれたお陰か、何事も無く終わった。
やっぱり義父さんの言った通り、ほとんどの人がエルスを恐れているみたいだった。
※※※
そして夜遅くにパーティーが終わり、俺とエルスは正装やドレスから着替え、自分の屋敷に【ゲート】で戻って来て、俺は自室のベッドで横にだけなっていた。
「ふぅ~。それにしてもパーティーは疲れるな。エルスが居なかったら、もっと疲れていたんだろうな……………」
実際、俺1人で登場して囲われた状態が多くなっていたんだろうな……………こういう事はエルスのやり過ぎに感謝かな?
と、今日の出来事を振り返っていたら、誰かがノックをしてきた。
「どうぞ」
入室の許可をすると、ドアを開けたのは、寝間着にしているネグリジェ姿のノエルであった。 いや、ナリアやロール、セシリア、ティアナ、リーナ、そしてリーナの腕に絡みついているエルスも、ネグリジェ姿でいたのだ。
「どうしたんだ皆。全員で?」
「あははは。実はカイ君にお願いがあって」
「お願い?」
皆が部屋に入り、ドアが閉まった。皆、真剣な面持ちで居た。 ただエルスは、リーナの腕に絡みついて俯いていたが。
「実はね………………今日、皆を抱いて欲しいの」
「…………………えっ」
いやいやいや、ノエルさんよ、いきなり何を言うのさ!?
「あははは。いきなりでビックリしたでしょう? 実は私達もなんだ」
「はぁっ!? どういうことだよ、ノエル?」
「いやね、エルスちゃんが、そうする必要があるって、視えたんだって」
「エルスが?」
視えたって事は、未来予知で何かが視えたのか。でも、なんで今?
エルスの方を見ると、未だに俯いている。一体どうしたんだ?
「でも実際問題、この国の法律に触れるだろ? 俺はまだ15で未成年だ」
この国は16から成人と認めているから。まぁ、精神的には30過ぎのオッサンだが。
「その点は心配ないわ、カイ」
「どう言う事だ、リーナ?」
「特例。未成年でSSランクになる実力者には、成人前の性交を許可する」
「………………なんだ、それ?」
「エルスが貴方が心置きなく、出来る様にって作った法律よ」
「エルスが?」
またか。何をするにしてもエルスが絡むのか。それにしても…………
「どうしてエルスはずっと俯いているんだ?」
そう、未だに俯いているのだ。リーナの腕に絡みついて。
「あぁ、今は気にしないで。それよりも、カイ。そう言う事で心配する事はないから、私達を抱いてくれないかしら?」
「いや、まぁ、う、うーん?」
そう言われて、抱けって言われても、雰囲気も何もあったもんじゃないな。
「今日じゃないといけないのか?」
「出来れば。先生はカサドラ様の引き継ぎ、ロールさんはそのサポート、セシリアさんも騎士王国の政務の合間に来て貰っているから、今日を逃すといつになるか分からないわ。聖王陛下から、家族を捜しに行く許可が出たから、早々に出発するでしょ?」
確かにな。義父さんから、捜しに行って良いと言われたからな。ジアンも【ゲート】を使えるから問題無いが………
「分かったよ。でも確認するが、皆は一緒で良いのか?」
「うん。と、言うより皆、一緒じゃないとマズいかな?」
ん? ノエルが言ったのはどう言う意味だ?
「その前に、カイに聞きたい事があるのだけど」
「なに?」
「エルスを抱く事に、抵抗はあるかしら?」
「??? いや、ないけど。エルスの事だから、俺に抱かれるのを嫌がる事はないだろうけど、それが何か?」
「ほら、エルス。何も心配する必要無かったでしょ」
リーナからも言われてやっとエルスは、顔をあげた。その瞳には涙がこぼれそうになっていたけど。
「えぇ、リーナの言った通りだったわね。私の無駄な気苦労だったわ」
「どう言う事?」
そう言うと、ノエルが耳元に顔を寄せてきた。
「(実はエルスちゃん。カイ君に抱かれないと思っていたんだって。ほら、エルスちゃんって、元は男性でしょ?)」
あぁ、そう言えば、そうだったな。皆に俺達が転生者だって事を説明するとき、すっかり忘れていたな。エルスが転生前は男性だって事を。
ノエルはそれだけ言って、耳元から離れた。
「エルス、おいで」
そう言って、エルスが俺の隣に座りこんだ。
今更ナリア達に、エルスが男性だったと聞かれても問題はないが、それは日を置いてからでも良いかな。
そう思って、エルスの耳元に顔を近付けた。
「(なぁ、エルス。俺な、エルスと初めて再会した時以外、エルスを女性にしか見ていなかったんだよ。エルスはコッチの世界に来てから、途中で女性の躰に変わったのか?)」
「違うわ」
「(なら問題無いよ。途中から、女性に変わったって言うなら、流石に抵抗はあったかも知れないけどさ)」
「……………………カイト…………………」
その後、耳元から離れ、エルスとキスをした。
その後、エルスが皆に手を向けてコッチに来るような仕草をして、皆とキスを交わした。
その後は──
※※※
翌朝……………いや、昼頃に目覚めてしまった。
「ん。んん!」
ベッドから起き上がり、背伸びをして、躰の怠さを取った。
そしてベッドを見ると、一糸まとわぬ皆の姿があり、未だに寝ていた。
「やり過ぎたかな?」
ベッドは悲惨な状態になっていた。結構久しぶりだったから、羽目を外し過ぎた。
「────ん、んん。─────おはよう、カイト」
どうやら1番に起きたのはエルス。隠す素振りも見せず、上体を起こしていた。
「あぁ、おはよう、エルス。と、言っても、もうお昼の時間帯だが」
「あら、そうなの………………まぁ、仕方ないわね、昨夜のカイトはケダモノと化していたのだから。お陰で躰が怠いわ」
「すまん。【リフレッシュ】と【キュア】を掛けるよ」
エルスに向けて、手をかざし、気分回復と状態異常回復の魔法を掛けた。そして、一緒に、まだ寝ている皆には【リフレッシュ】だけ掛けてあげた。
「────ありがとう。お陰で楽になったわ」
「どういたしまして。で、エルスさんよ、少しは隠そうとしないのかい?」
「あら、今更じゃない。それにしても昨夜は『俺の名刀で姫をキズ物にしてやろう!』って言って、激しかったわね?」
「………おい、そんな事言った覚えはないぞ?」
「あら、そうだったかしら?」
そうです! かなりねつ造しているよ、まったく。
「私には『この名刀にどれ程の価値を付けるんだ、商人様よ!』って言ってたわよね?」
目覚めて早々、お前もかよリーナ。
「私には『この果物をどう調理するんだ、料理長様よ!』だったよね?」
ノエル、お前までもエルス、リーナと同じ事を……………
「私には『さぁ、先生。俺の息子をどう教育するんだ!』と無理難題をふっかけられましたね」
まさかのナリアまで!
「私も『さぁ、この魔物をどう討伐させるつもりだ!』って、言われましたね」
そして、ロールまでも……………
「私には『さあ、宰相殿。我が名将をどう攻略するつもりかな?』って、攻略不可能な事を言ってきましたしね」
セシリアまでもが……………
「そして『さあ、お前の全てを俺に差し出せ、俺色に染めてやろうこの魔剣で』って言っていたわよね。そのおかげで暫くティア恥ずかしくて出てこないんじゃないかしら?」
終いにはティナが出てきたよ。
「おい皆。ねつ造するなよな」
「ふふふ。皆考えてるのは一緒って事よ」
「何がだよ、エルス?」
「もう一度、貴方からの告白を聞きたいのよ」
皆がエルスに同調するように、頷いていた。
確かに皆には、抱く時に言ったけど………
「勘弁してくれ…………」
「さあ、早く」
「その前に、隠すなり、服を着るなりしろよ」
「別に一線を超えたのだから、気にすることもないじゃないの。自分だけ名刀を隠して、カイトの恥ずかしがり屋さん」
「はいはい」
その後、皆がもう一度告白を聞きたいと頑なになり、服を着もしないで迫って来たから、もう一度告白をしてあげた。
その間、執事長のミゲルさんさえ、誰も部屋に入ってくる者は居なかった。どうやら、察してくれた様だ。
お読みいただきありがとう御座います。