2.5章 間話 その後4 中編
休憩を挟みながらダンジョン内を進み、魔物に遭遇したら、4人の連携とバロンから貸し与えられていた武器で、難なく進んでいたジアン達の眼前には、洞窟ダンジョンではあり得ない大きさの扉があった。
「なぁ、コレってどう見てもボス部屋だよな?」
「うん、そう見るしかないよね」
「デカいわね」
「デカいです…………」
その扉はジアン達と比べるまでも無く、15mは軽く超えてあった。 しかも、石造りで凝った装飾が施されていた。
「このバカでかい扉、どうやって動かせっていうんだよ…………」
「私達だけじゃ、身体強化して筋力を向上させても動かないよね………」
「ちょっと無理ね………」
「どうしましょうか?…………」
「おにいちゃん達、コッチ!」
石造りの扉に絶望していた4人は、声がする方へ、視線を向けると、カルト達が離れた位置におり、手招きしていた。
そして4人はカルト達の下に向かったその先に
「コレ」
そう、カルトが指差した先には、通常サイズになったフールが、悠々と入れるサイズの普通の扉があった。
「「はぁぁっ!?」」「何でこんなとこに?………」「よかったです…………」
「君主達は、リアクションがオーバー過ぎるな。 見てて飽きないぞ。ハッハッハッ!」
ジアン達の度重なるリアクションを、バロン達は愉快に楽しんでいた。
「じゃあ、そっちの扉は何だったんだよ!?」
ジアンは、もっともな疑問を口にしていた。
「イヤ、ジアン。 そっちの扉も意味があるのよ」
「どういう事、先生?」
ジアンの疑問に応えたのは、ナリアだったが、真剣な表情を浮かべていた。
「これまでの3年近く、月一度だけど、定期的にダンジョンに入って、幾度となくボス部屋となる扉を見てきたでしょ?」
「あっ! 確かに!」
「そしたら、きっと今まで倒してきた相手では無い、魔物が居るはずよ」
ナリアがそこまで言う途中から、ルセとティアもその事に勘づいていた。
ボス部屋となる場所には、扉が設置されており、大きさや形、装飾の度合いによって、中に居る魔物の強さを、ダンジョン探索をする度に経験していた事。
つまり、今回のジアン達の見た、バカでかい扉と装飾から察すると、自分達を優に超える背丈と強さを持った魔物が居る事を、それぞれが理解していた。
「さて、ここまでで、考えうる情報を示したわ。 この後はどうするのリーダー」
ナリアの視線はジアンに向いていた。
カイトが課せた制限の一つ。
リーダーはジアンとする事。
そしてこの事の本当の意味を、カイトから知らされたのはナリアと使い魔達だけである。
これから先の事を考えてジアンには、状況把握とそれに対する決断力を養う為に。
「───フール。 中に居る魔物の数は分かるか?」
『──二タイダナ』
「種族は?」
『─────フム。 コレノアイテハ、オマエタチデハ、ニガオモイゾ?』
通常サイズに戻っているフールの嗅覚は、魔物の魔力を嗅ぎ分け、その魔物の強さも把握出来る程に優れていた。
「…………やっぱりか…………」
『ダガ、ノコリノセイゲンヲキニシナケレバ、モンダイナイダロ』
「…………………………」
フールが言ったはカイトとの制限。
バロン達使い魔の戦闘への介入禁止。
ジアン達の雷装化等の禁止。
「どうするの、ジアン?」「ジアン………」「ジアン様…………」「おにいちゃん…………」
ジアンはバカでかい扉を見上げて考えていた。
「(正直、ここで引き返すのが当たり前だ。 だけど、カイトが以前言っていた事がある。『冒険者になったんだから、いずれ冒険をする時が必要な時が来るだろう』って。 だけど…………)」
そこで視線をルセ達に向けていた。
「──ジアンの好きして良いよ」
ルセはジアンの思いに気付いていた。
「(………………ルセは、あぁ言ってくれたけど、みんなを危険にさらしてしまう。 それ程までに、ヤバイのが居るのを|、フールに聞く前から、《・》身体の奥底から感じていたから。)」
「───ジアン。 危ないと思ったのなら、撤退するのも一つの手よ」
「先生…………」
ナリアは戦う事を否定しなかった言葉を投げ掛けた。
「──いつまで悩んでいるのよ、ジアン。 アタシも前衛に出るから、任せなさい」
「ティナ…………」
いつの間にかティナに代わっていて、戦闘は問題無いと言っていた。
「君主よ」
「バロン?」
「君主が、一皮むける為の協力は惜しまんぞ?」
バロン【小型】は、小さな手で拳を作り、親指を立てていた。
そしてジアンはまた、バカでかい扉を見上げて、目を伏せた。
「(みんなにここまで言わせたんだ。 カイトとの制限を破って、それで見限られても、俺はこの先の相手と戦ってみたい!)」
ジアンは目を開きみんなに視線を戻した。
「みんな! 危険だとしてもやっぱり、この先のヤツと戦ってみたい! 協力してくれ!」
ジアンはみんなに向けて、最後に頭を下げていた。
そして、頭を上げたジアンの視界には、みんなが笑みをこぼした表情が映っていた。
「任せて!」
「あぁ!」
「アタシが参加するからには、絶対勝つわよ!」
「フフッ! そう来なくてわな、君主よ!」
「任せろ!」
『ワレラガクワワルノダ、マケワセヌ!』
「回復はお任せ下さい、ジアン様!」
「がんばって、おにいちゃん達!」
それぞれが、自信に満ち溢れた返事をしていた。
そしてジアン達は装備の確認、バロン達は通常サイズに戻って、小さい方の扉から、中に入った。
※※※
ジアン達全員が中に入った先で見たものは、だだっ広い空間があった。
あのバカでかい扉の正面に、扉より更に高い、装飾が施されている柱が左右対称等間隔で並んでいた。
そしてジアン達がバカでかい扉の前に向かい、扉の前からそのまま視線を真っ直ぐ向けると、かなり離れた位置に微かにだが、王様が座りそうな椅子が見えた。
壁一面も装飾が施されており、扉の中は玉座の間と言っていい程の造りをしていた。
「スッゲぇ!」
「キレイ!」
「見事ね!」
「スゴいです!」
「おっきいね~!」
5人はその光景に驚きを隠せないでいた。
『オマエタチ、ケイカイシロ、クルゾ!』
フールの警告を受けて、4人は身構えて、カルトはカルマが屈んだ背に乗ってしがみついていた。
──ガラガラッ! ガラガラッ!と、遠くから聞こえていた。
巨大な音のする方を見ると、遠くに見える椅子と扉の中心辺りに、岩石が崩れていた。
それは柱の外側の壁から崩れたものであり、よく見てみると壁が出っ張っていた。
出っ張った壁は、ガラガラと巨大な音を立て、更に出っ張ってきていた。
それを遠くから見ていたジアン達は─
「デカすぎね?」
「デカいね」
「デカいわね」
「倒し甲斐があるわね!」
「──フム。 アレは君主達には荷が重いな」
バロンがその存在を確認した途端、その様なことを言い始めた。
「どういう事だよ、バロン?」
「アレは昔、私1人で対峙した時に苦戦した程の強さを持っていたモノに、似ているからだ」
「お前が苦戦!?」
今回、探索する時に、カイトからバロンの強さを聞かされていた。
バロンの強さは、Sランクであるギルドマスター4人と対峙出来る程の実力を持っていると。
ジアンはカイトが、わざわざそんな嘘は言わないと知っている。
フール達も少し劣るが、ギルドマスター3人と対峙出来る程の実力があると、カイトから聞かされていた。
だから、バロンがそんな事を言いだした事にジアンは、驚いていた。
「流石の私でも、二体同時の相手はキツいな。 片方は足留めをしないと──」
「それなら、その足止めは俺がするよ、バロン」
「君主がか? 皆で協力してもらった私でも、一体倒し切るには時間が掛かるぞ?」
バロンは間接的に、死ぬぞ、と言っている事を、ジアンは気付いていた。
「──バロンやカイトの強さに追い付こうってんだ、こんなとこで躓いてなんかいられないさ!」
「っ!! ハハッ! アハハハっ! アハハハハハハッ!!」
バロンはジアンの言葉に突如、笑い出した。
「そうだ! 君主………いや、ジアンよ! それでこそ、私が鍛え抜きたいと思った人物よ! アハハハっ!」
フルフェイスの兜で、バロンの表情は見えないが、声から察すると、とても嬉しそうにしていた。
その間に、壁から現れたモノは、ゆっくり段々と近付いていた。
「さぁ、ジアンよ、どうする? 流石にお主一人ではいくら何でも、足止めにもならない可能性があるぞ?」
「──それなら私が!」
バロンの心配事を、ルセが手を上げて応えていた。
「カイト君とノエルちゃん程、完璧に呼吸は合わないけど、ジアンのクセは私なりに知っているから、充分サポートは出来るわ!」
「よしっ! それならジアンのサポートはルセに任せよう。 それと、カルマもジアンのサポートに廻ってくれ。 カルトを落とさぬ程度に」
「お任せを」
「ルマちゃん」
カルマが返事をした時に、カルトが急に話し掛けていた。
「何でしょう、カルト様?」
「ルマちゃんが私を落とさず、存分に動けるようにコレを付けていい? 苦しいかも知れないけど?」
カルトがマジックバッグから取り出したのは、馬の顔や頭部、口元に付けて制御するための、頭絡と呼ばれる道具を出した。
「構いませんよ。 今のままでは、ほとんど掴むところが無いですからね」
「ありがとう、ルマちゃん」
そしてカルマはカルトを降ろして、カルトは手慣れた手つきでアッという間に付けて、再度カルマの背に乗り手綱を握った。
「よしっ! では残りのメンバーで、もう片方を先に倒すぞ!」
バロンは、もうそこまで近付いて来ていたそのモノの片方に自信の腰に帯剣してあった黄金の剣を抜き、向けていた。
「ジアン! 健闘を祈る!」
「あぁ、そっちもな!」
そして、ジアン、ルセ、カルマ+カルト。
バロン、ナリア、ティナ【ティア】、フール、イクスの二手に別れて、動き出した。
※※※
【バロン側】
二手に別れたバロン達に反応するように、頭部を含めた身体全体が青黒い鎧に包まれた鎧の巨人兵二体の内、一体が手前で身構えてるバロン達に、もう一体は後方に廻ったジアン達に別れた。
「さて皆の者。 アレが、私が以前倒したモノと同じなら、一定のダメージを与えたら厄介な変化を遂げる!」
バロンは腰の黄金剣聖剣エクスカリバーを抜剣して身構えた状態で、情報を教えていた。
「バロン。貴方が言う厄介な変化って何なの?」
「うむ、それはだな、って攻撃が来るぞ! 避けろ!」
ナリアに答える前にバロンが、鎧の巨人兵がその体格に見合って持っていた大剣を振り上げる初動を見て叫んだ。
バロン達は散り散りに大きく安全圏まで避けた。
そしてバロン達が固まっていた場所に、恐ろしい速さで大剣が振り下ろされて、戦塵を巻き上げて陥没が出来ていた。
バロン達はその影響で、飛び散ってきた石や岩と言った塊を、弾いたり、躱したりしていた。
「なんて破壊力なの!?」
ナリアは岩塊などを躱したりしていた時に、驚きを隠せないでいた。
「フム。 今ので確信した!」
バロンは離ればなれになったナリア達に聞こえる様、声を張り上げた。
「コイツはやはり、私が対峙した事のあるヤツと一緒だ! むしろ、コイツの方が厄介かもしれん!」
巨人兵は大剣を持ち上げ、今度は自信より小さきナリア達に合わせる様に、地面すれすれに大剣を横薙ぎにした。
「ヤバイッ!? 飛べぇー!」
バロンの掛け声で、空を飛んでるイクスの他は、フールは問題なく、ナリアとティナは身体強化で脚力を向上し、大ジャンプをして避けていた。
その中でティナは大ジャンプをしただけで無く、巨人兵に向かっていた。 二刀一対の風魔剣を正規で持って。
「コノォー!」
バロンから貸し与えられた風魔剣には魔力を流すと、刀身に薄く長くに風が纏い、キレ味が向上し、刀身の長さを自在に変化させられる事が出来た。 その長さ最大5m。
ティナは掛け声と共に、風魔剣を最大5mまで伸ばして巨人兵に切り掛かった。
左右別々の角度から切り掛かったティナの斬撃は、巨人兵の鎧を切り裂いた。
と、ティナは確信したが、鎧は全くの無傷であった。
「なにっ!?」
「その程度の威力では、その鎧は傷付かないぞ!」
ティナが驚愕しつつ、右の風魔剣を逆手に持ち、風を吹かせ距離を取り始めた時に、バロンが叫んでいた。
「もっと魔力を研ぎ澄ませろ!」
今度は真上に大ジャンプしたままのバロンが、巨人兵がまだ体勢を立て直して居ない隙に、空を蹴り、勢いを付けて巨人兵に近付いた。
「お前達! 余すこと無く正確に魔力を剣に乗せろ! そうすると!」
バロンは、黄金剣である聖剣エクスカリバーをより一層輝かせていた。
そして、そのままバロンは巨人兵とすれ違い、バロンは着地した。
「「「「???」」」」
皆が疑問に感じたその時、大剣を持っていた巨人兵の右腕が切り崩れ始めたのだ。
「この様に、魔力を充分に剣に乗せられると、その真価を発揮する! 私の聖剣の特性はあらゆるモノを断ち切る力だ!」
巨人兵の右腕が、大きな音を発てて地面に落ちた。
そう、バロンはすれ違い様に、皆が分からない程の速さで聖剣を振り、既に切っていたのだ。
「さぁ、ナリアとティナの魔力をその魔剣に完全に乗せてみろ! さすれば、魔剣の真価が分かる!」
そう言ったバロンは、飛んでいたイクスを呼び、フールの傍に近付いた。
「バロン殿、そしたら我らはしばしの静観を?」
「あぁ、死なぬ様にサポートは怠らぬ様に、な」
『ソレガ、カイトサマカラノ、ヨウボウナラ』
「そうだ。 カイト殿が我らだけに話してくれた、あの者達の修業の為ならば」
カイト達がアデル町で息抜きした後、ナリアとジアン達だけの授業の時に、カイトがバロン達使い魔だけに話していた事。
『もし、ジアン達に手に負えない相手に遭遇して、お前達が手を出す事が在れば、ジアン達が死なない程度に、必要最低限の助力だけにして欲しい』と。
つまり、バロンが本気で聖剣を、巨人兵の胴体に向けて振るえば、一刀両断出来、アッという間に終わらせる事が出来るのだ。
あえて腕の切断に留めたのは、カイトとの約束の為だったから。
因みに、バロンが苦戦したのは、まだ駆け出しの実力しか無くて、聖剣を扱いきる前の話。
そんなバロンはナリアとティナを気にしつつ、ジアン達の様子を遠目に見ていた。
そんなカイトの思惑を余所に、バロンが助言してくれたやり方に集中していたナリアとティナ。
右腕を切り落とされた巨人兵は左手で大剣を持ち上げ、ナリアとティナに向けて大剣を振るっていた。
そんな広範囲の攻撃を二人は身体強化をしたまま躱して、魔剣に魔力を流していた。 代わりに、バロン達が巨人兵に傷が付かないが標的になる攻撃をして、二人の援護をしていた。
常に使っているミスリル剣自体に魔力を流して強化するやり方は、カイトから教えてもらっていたから直ぐに出来たのだが、あくまでもただ魔力を流して強化するやり方。
だが、バロンが言ったことは、その先の強化の仕方。
「なぁ、センセー」
「どうしたのティナ?」
二人はバロン達が援護してくれて、標的から外れた時に合流していた。
「バロンの言動は明らかにおかしいのは、気のせいか?」
「──いえ、おかしいのは明白よ。 ただ、バロンが私達に助言した時、聖剣の特性であの鎧の巨人を一撃で倒さなかったって事は、何かしらの目的があるのよ」
「なら、どうするんだよ! 問い詰めるか!」
「それをするにしても、鎧の巨人達を倒して切り抜けてからよ。 今は、バロンの言った通り、この焔剣の真価を確かめないと」
「分かったよ。 それにしても、旦那様から教えてもらった魔力操作で、結構余すこと無く流せているはずなんだけど、さっきと変わらない形状にしかならないけどな」
ティナの持つ風魔剣は、巨人兵に攻撃をした時の変化しかしていなかったのだ。
ナリアの持つ焔剣もまた、ティナの風魔剣と同じ変化しか見せていなかった。
「でもティナ。 どちらかと言えば魔力操作に長けてるのは、ティアの方じゃなかったかしら?」
「うん、そうだけど、こんな危険な相手、ティアには荷が重いわよ──って、ティア?」
ティナは目を伏せて黙ってしまった。
少しして、ティナは目を開いた。
「先生」
「ん? その言い方はティアか?」
「はい!」
「一体どうしたの?」
「サポートして下さい! 私達で試してみます!」
「私達?」
「はい! 私達です!」
ナリアは疑問しか浮かばなかった。 何故なら今まで、ティア達は別々で剣術、魔法を使用していたから。
剣術に秀でたティナ。
魔法に秀でたティア。
そんな二人の為にあると言ってもいいのが、現在ティア達が持つ風魔剣。
ティア達が言った『私達』
それがもたらすのは──
そしてティア達はまた、目を伏せていた。 その傍らでナリアは、焔剣に魔力を流すのは辞めて、身体強化に魔力を集中させて、バロン達が足止めしている巨人兵の攻撃がこちらに来た時に備えた。
「フム。 1番手はティアナ嬢か」
バロンは巨人兵の足止めをしている傍らで、ナリア達の様子を伺っていた。
自然体で居るティア達は目を伏せたまま、動かなかった。
『ティア、本当に出来ると思うの? 私達って、別々の人格なのよ?』
『ううん。違うよティナ。 私達は性格が違うだけで、元は一緒だよ。 だから出来るよ! それに』
『それに?』
『カイト様が言っていたでしょ? やる前から諦めるなって』
『…………………そうね。そうだったわね。 それにアタシ達には旦那様の加護が付いているのだからね』
『そうだよ、ティナ! 私達なら出来る!』
『えぇ、やりましょう! (それにしてもティア。貴女、随分と強くなったわね)』
目を伏せていたティナ達は、目を開けてしばしの沈黙を破った。
「センセー! コレがきっと、バロンが言っていた、この魔剣の真価よ!」
そう叫んだティナの両手の風魔剣は、刀身が無くなり、風が薄く長剣の長さまで伸び、静かにその柄に収まっていた。
「こ、これが、この魔剣の本来の形状……………」
「フム。 成功した様だな、ティアナ嬢」
巨人兵の足止めをしていたバロンが、タイミング良くナリア達の傍に寄っていた。 フールとイクスはそのまま足止めをしていた。
「それが魔剣が持つ本来の形状だ」
「やっぱりコレが本来の形状………」
ティナは呟きながら両手の風魔剣を見つめていた。
「ちょっと待って、バロン! 本来の形状って事は制約か何かを掛けていたってよね!?」
「ん? んまぁ、そうだな。 そうする必要があったからな。 それよりもだ。 ナリア嬢は期待に応えないのか? 」
バロンは意味深な言葉でナリアを煽った。
ナリアはバロンの煽りを受けて、目を伏せた。
「(………………バロンのこの言い方は多分、カイトが絡んでるんでしょうね。 あの子がそうする様に仕向けてくるって事は、この魔剣を扱うのを求めてるって事かしらね)」
ナリアは、カイトが意味の無い事をさせないのを、4人の中でいち早く察知していた。
「(そしたら………)」
ナリアは目を伏せたまま、焔剣に意識を傾けて、魔力の流れを感じる事にした。
そこで始めて、焔剣の中の状態が分かった。
ほとんどの回路が光っている中、一握りの回路が光っていないことに。
だけど、その回路は奥深く、ただ魔力を流しただけでは、そこまで届かない場所。
そこに届く魔力を流すには、より緻密に細く長く正確に魔力を流す必要があることも。
ナリアはそこまで理解して、魔力をその場所に向けて流した。
「センセー!」
ティナの叫びで目を開いたナリアの手の焔剣は形状を変えていた。
刀身が無くなり、代わりに真っ赤な劫火が静かに、だが力強く燃え盛り、刀身の代わりを成していた。
「──バロンコレが?」
「あぁ。 それらが、魔剣の真の形状だ。 ただナリア嬢は、ちゃんと理解してその形状に至ったから分かっただろ?」
「えぇ。 かなり精度が求められるやり方ね」
「そうだ。 ティアナ嬢は本能で理解したから出来た。 そしてカイト様がお主達の更なる修業で求められる、精密な魔力操作の仕方だ」
「……………バロン。 貴方、いえ、貴方達はカイトから何を教えられたの?」
ナリアは神妙な面持ちで、バロンを見据えていた。
「──そうだな。 コレだけは教えよう。 カイト様は人が望んでも出来ない事を、魔力で補う。とな」
「えっ! ちょっとそれだけなのバロン! 旦那様から教えられた事をちゃんと話しなさいよ!」
「いずれ分かるさ! それよりも、こちらの鎧の巨人兵を倒さないと、もう一体の注意を引き連れているジアン達の身が危ないぞ?」
「あぁ、もう! センセー、行くよ!」
「えぇ、分かったわ!」
そして二人は、魔剣の本来の力を引き出したまま、巨人兵に向かった。
「さて、こちらの二人は問題なく出来たから、もし巨人兵が形態変化して強化しても倒しきるだろう。 問題はジアンだな。 ここでカイト様の期待に応え無ければ、ホントに死んでしまうな、ジアンよ」
二人が向かって行ったあとに、その場に居たバロンは、遠くに居るジアン達を見ていた。
※※※
魔剣本来の形状を出せた二人は、フールとイクスを標的にしている巨人兵に不意討ちになる形で、それぞれの魔剣を振るい始めた。
ナリアが、本来の名前を持つ煌焔剣ヴァルクリムゾンを、そのまま巨人兵に一太刀浴びせると、ティナがただ魔力を流して強化のみの状態で、傷も付かなかった鎧、その左腕を灼き切った。
そして、巨人兵の左腕はズリ落ち、煌焔剣の特性として、切り口から燃えて、見る見るうちに腕全体に燃え広がり、蕩けていた。
両腕を切り落とされた巨人兵は、雄叫びを上げるかの様に、のけ反る体勢になっていた。
巨人兵がのけ反る体勢で無防備の状態に、ティナが空かさず、風塵剣ヴォーパルウェイザーを胴体目掛けて振るい、すれ違った。
ティナが着地した瞬間に、巨人兵の胴体に横に一閃入り、上下に別れた胴体は左右別々に崩れ落ちた。
それでも尚、二人は身構えたままで居た。
「どうやら、再生などは無いようだな」
二人の傍にバロンが近付いていた。
「えぇ、その様ね」
「まっ。 アタシ達が本気を出せばこんな感じだろ」
ナリアとティナは警戒を緩めた。
「いや、ティアナ嬢。 問題はこれからだ。 ジアンが注意を引いてるもう一体はきっと、同じようにはいかないだろう」
「ん? それはどういう──」
──ドゴォーン!!
ナリアがバロンの意味深な発言を聞こうとした矢先、遠くから大きな衝突音が聞こえた。
その音の方を確認すると、巨人兵が誰かを大剣で薙ぎ払った格好をしていた。
「マズいな!」
そう言ったバロンが直ぐさま駆け出し、その後を、他の者達が追い掛けた。
お読みいただきありがとう御座います。
評価や追加もしてくれている方には嬉しい限りで感謝感謝です。
ありがとう御座います。