2.5章 間話 その後3 中編
エルスが急に休日を作り、俺の実家に行くことになった為に、リーナ達が再現した転生前の服装を、俺達を含めた人達が着て、地面が陥没など変形してしまった裏庭に集まっていた。
それに、慌ただしくなったので、召喚魔法も後日にでもする事に。
参加者は、ノエルとセシリアさん以外の俺の婚約者とジアンとルセ、ミゲルさん達屋敷で働いている数十人の使用人達。 それに、ジアン達の召喚獣達【小型サイズ】
それと、リーナが商会を開いた数日後に、リーナ達から紹介された漢のエイシャさん。
最初に会った時は、外見が完全に女性な姿に驚いたものだ。
そして、俺が陛下達に正体を明かした数日後に、陛下から紹介された、ラフな服装で居るエルスの兄のアレク義兄さんと、こちらもラフな服装で居る嫁さんの、腰まである美しい薄金髪、整った顔立ち、豊満な胸にスラッとした体型と標準的な身長のオリビア義姉さん。
その二人の子供でまだ1歳になったばかりの、金色を短髪にした男の子ハウゼンリンク。 愛称リンクをオリビア義姉さんが抱きかかえている。
そんなオリビア義姉さんが近づいてきた。
「カイト君、ノエルちゃんは一緒じゃないの?」
「ノエルは後から来るそうですよ、義姉さん」
「そうなの。それなら良かったわ。 ノエルちゃんの料理は本当に美味しいから、教えてもらう約束をしていたの」
「大丈夫ですよ。 ノエルはそういう約束は守りますから」
それを聞いたオリビア義姉さんは、軽くお辞儀をして離れていった。
ノエルは俺と共に聖王陛下から、ジェイド兄さんとセリカ姉さんの代理として、指南役をして欲しいと頼まれていた。
ジアン達の修業を毎日四六時中する訳でも無いので、その合間にって事で引き受けた。
で、ノエルは騎士や魔法士達の訓練のその時に、食事も用意して、食べさせていた。
その結果、ノエルの料理の食べた者全員が、活力が向上して更にやる気満々になっていた。
しかも、それに相まって天真爛漫のノエルが、分け隔て無くにみんなに優しくするものだから、いつの間にか、ノエル親衛隊なんてモノが出来ていた。
その親衛隊は、騎士と魔法士の全員であった。
これを陛下に話したら、『みんなやる気に満ちて良いじゃん』と、すんなり許可した。
終いには、陛下直属の近衛騎士団の分の料理も頼むと言ってきて、それをノエルが了承した。
それと騎士王様が何日かごとに、ジアンとの修業を、騎士団の前でして欲しいと嘆願された。
聖王国はやや魔法に長けていて、騎士王国の方が盾の扱いに長けているから、盾を使うジアンは、そういう意味では、騎士団の団長に盾の指導を受けて貰えるから、承諾した。
俺は盾を使わない戦法をとっているから、教えるには限界があるから。
2年前には、聖王国の近衛騎士団の中に、剣魔武闘会代表選考会で、対戦したシトエン先輩が入団していた。
俺が教えた事を活かしてくれたみたいで、結構力を付けていた。
その結果、結構な数の料理を作ることになったので、以前立ち寄ったカサスの街の【アドベンチャー】の料理屋に行き、正式に弟子と認めて、修業と称して結構こき使って料理を作っている。
そのおかげで、店は大繁盛して、かなり儲かっているとの話。しかもリーナが、クサナギ商会系列の店にした物だから尚更だ。
で、現在も騎士や魔法士の人達の料理を差し入れる為に、朝から居なかった。
念話で連絡したら、既にエルスが報せていたみたいで、セシリアさんを向かいに行ってから来ると言っていた。
セシリアさんはエルスが宣言した通り、ふた月で騎士王国に関する情報を覚え、約3年経った今では、女性で初の宰相にまで成り上がり、騎士王国に居なくてはならない存在になっていた。
中には認めない人達も居たらしいけど、何故か後日、すんなりと了承したらしい。
そういう訳で、現在ノエルとセシリアさん以外のメンバーが集まっていた。
「よーし、みんなが集まった所で、向かいますか」
俺は何もない場所に向けて手をかざした。
「ちょっと待って、カイ。 通門を開こうとしたのでしょ?」
「そうだけど、それがなにかリーナ?」
「カイのゲートじゃ行けないわよ?」
「はぁぁッ!?」
イヤイヤ、リーナさん。何を言っているんです。
「何故に!?」
「ほら、通門って、1度行った場所の景色を覚えておかないといけないでしょ?」
「それはそうだけど。俺が生まれ育った場所だぞ? 今も、イヤでも覚えているけど?」
「あぁ、うん。………………………まぁ、ものは試しにやってみたら分かるわ」
え? 何故に歯切れが悪くなった? リーナさん?
俺は手をかざして、通門を発動した。 その先には、大人がすんなりと入れる大きさの、光りが渦巻いたモノが現れた。
「入ってみて」
通門を発動した後にリーナを見ると、そんなことを言ってきた。
それを受けて、俺は通門に入ると、そこは───
地面が陥没したりして、変形した見覚えのある場所であった。 そして、後ろを見ると、みんなが居た。
そう、素通りしただけなのだ。
「えっ!? ちょっとちょっと、リーナさん!? どういう事!? 俺に何かした!?」
「…………………………カイには何もしていないわよ?」
ちょっと待て! 今の間は何だよ!それに何故に目を逸らして話す!?
「さぁ、気を取り直して向かいましょうか!」
そう言ったリーナは軽く手をかざして、自身の傍に通門を発動した。 そして、次々にみんなが入って行った。
みんなが素通りする事無く、次々に入り最期にリーナ、エルス、俺が残っていた。
「どうしたのカイ?」
「………………………………また、俺の知らないとこで、何かしたな? それに、エルスは知っていた、と、みた」
「そうね。ただ知っているだけよ、私は。実際にはリーナが進めていたはずよ」
エルスは俺の腕にくっついて、そんなことを言っていた。
リーナはさっぱり、俺と目を合わせていないけど。
「もう済んだこと出し、さっさと行きましょう二人共!」
そう言ってリーナはさっさと通門に入って行った。
俺は留守の間、侵入者を入らせないように、敷地全体に10層の光の結界を張ってから、俺達も直ぐさま後を追った。
※※※
リーナの通門を通った後に見た景色は、俺の知らない場所と景色であった。
目の前に映るのは、町であった。
先に入った他のみんなもその場所に居た。
「…………………ここどこ?」
「うーん、今、リーナから説明があるわよ」
見知らぬ景色を見て、ぼやいてしまった言葉に、腕に絡みついているエルスが応えていた。
そしてエルスが言った通り、リーナが皆の前に立っていた。
「さぁ、皆さん。 ここがカイが生まれ育った場所です」
リーナが腕を上げて、どうですか!と言わんばかりの仕草をしていた。
「元々、村であったのですけど、村の人達と村長さんが快く許可してくれまして、ここまで発展する事が出来ました。 これもすべて、カイが偉業を成したからに過ぎないからです」
俺以外のメンバーがリーナの言葉に、盛大な拍手を送っていた。
確かに村の人達の一部と村長には、俺の強さが知れ渡っているけど、だからって俺に内緒で進める?
「そしてこれから皆さんが宿泊する場所は、カイの実家になります。 知っている方も居ると思いますが、カイの実家は宿屋兼食堂を営んでおります。 因みに、天然温泉となっておりますので、日頃の疲れを癒して下さいませ」
天然温泉と聞いて、また盛大な拍手があがった。
「と、簡単な説明はここらへんで。 さぁ、向かいましょうか」
リーナがそのまま先頭に立ち、案内役を務めていた。
町の中に入ると、全く知らない建物だらけであった。
俺が居た時は、平屋の木造だけだったのが、木造二階建て、レンガ造りの建物が殆どであったから。
住民も知らない人達が見受けられたが、中には顔馴染みの人達が居た。
居たけど、俺が手を上げて挨拶をしても、誰?の表情を浮かべていた。
あっ! 俺の髪色が変わったから、気付かないんだと、ウッカリしていた。
そんな、町の変化の驚きに目移りしていると、目的の建物に着いたらしい。
でも確かリーナは、俺の実家って言っていたよね?
眼前に映るのは、俺の知っている建物では無くなった。 分かるとすれば二階建ての面影しか無いのだ。 だって、見るからに旅館じゃん!?
「さぁ、ここがカイが生まれ育った家です。 少々改築、増築をしてありますが、カイが生まれ育った家に違いはありません」
いやいや、結構違いはあるよ、リーナさん! 他の人達も、『おぉーー!』の歓声は挙げなくていいから!
「皆さんにはここで、宿泊してもらいます。 名前は【旅館・クサナギ亭】と言います。 では、入りましょうか」
またリーナが先頭に立ち、旅館に入って行った。 やっぱり旅館って言ったよ。
次々にみんなが入り、また最期に俺とエルスが入った。
「お久しぶりですわ、お義父様、お義母様」
「「いらっしゃい、リーナちゃん」」
「今日は、急で申し訳ないのですけど、結構な人数でお泊まりに来ましたわ」
「あぁ、大丈夫だよ。 リーナちゃんに家を新しくしてもらって、まだ部屋は余るほど空いているからね」
「そうよリーナちゃん。 常に、何部屋かは空いているから」
「ありがとう御座います、お義父様、お義母様。 それと今回、カイも一緒ですわ」
その言葉を聞いていた前に居た人達が、一斉に両わきに避けて、最後尾に居た俺とエルスがあらわになった。
「………や、やぁ、久しぶり、父さん、母さん」
その言葉を聞いた着物姿の2人が、勢い良くかけてきた。
その前に、エルスが腕から離れていた。
「っ!?」
「おぉ、カイト!大分、見違えたぞ! 大人の顔付きになって! なぁ、母さん?」
「えぇ、そうね。 リーナちゃんから元気に過ごしているって事は聞いていたけど、貴方ったらまったく実家に戻って来ないんだもの、見限ったのかと思ったわ」
「ご、ごめん、父さん、母さん。 でもそれなら、屋敷の方に来てくれても良かったのに」
「そうしても良かったんだけど………………………なぁ、母さん?」
「えぇ。 貴方の性格を考えたら、こうして久しぶりに会った時の方だと、印象に残ってちゃんと思い出してくれるでしょう?」
2人はイタズラな笑みをこぼして、笑い合っていた。 えぇ、これからはなるべく帰って来ますよ。
「これからは気を付けるよ、母さん」
「えぇ。 それにエルスちゃんも久しぶりね?」
「中々挨拶に来られなくて申し訳ありません、お義母様。お義父様」
傍らに控えていたエルスが、両手を前にして、頭を軽く下げて挨拶をしていた。
「良いのよ、エルスちゃん。 エルスちゃんが忙しいのは前々から聞いていたのですから。ねぇ、お父さん?」
「あぁ、そうだとも。 エルスちゃんが頑張っているおかげで、国中の人達の生活が楽におくれているのだから」
「そう言って頂けると助かります。お義母様、お義父様。 それと今回、わたくしの兄夫婦も参加しておりますので、ここで紹介させて頂きます」
エルスは、アレク兄さん達の傍に寄って行った。
父さん母さんはそれを聞いた途端、表情が強張り始めたような気がした。
「こちらが兄のアレクお兄様、オリビアお義姉様とその嫡男のリンク君ですわ」
エルスは手のひらを向けて、簡単に紹介していた。
「初めまして。 私はアレクサンダー・グラン・ド・グラキアスと申します。 長いのでアレクでお願いします。 エルスと同様に、気軽に接して貰えると助かります。ミゲルさん、セシルさん」
「「は、はい」」
流石に両親もいきなりは、馴れ馴れしく出来そうも無いかな?
「わたくしはアレクサンダー・グラン・ド・グラキアスの妻の、オリビア・グラン・ド・グラキアスと申します。そしてこちらがわたくし達の子供、ハウゼンリンクと申します。 エルスちゃんと同様に、気軽に接して下さいませ」
オリビア義姉さんは、リンク君が落ちない程度に、軽くお辞儀をしていた。
「は、はいよろしくお願いします。 アレク様、オリビア様」
「様もいらないですよ、ミゲルさん。 今の私は公務ではなく、休暇で来ているので、かしこまらないで下さい」
父さんの返事を聞いたアレク義兄さんはそう言うけど、中々気軽には出来ないでしょ。
「お兄様、急に言ってもすぐに出来ることではありませんので、その話はこの辺で」
「あぁ、済みません。 エルスの時みたく、接して貰える人は、中々居ないので……………」
エルスに窘められても、アレク義兄さんは自身の思いを言っていた。
「それでお義父様、お義母様。 お兄様達の事は後々で、案内をお願いしますわ」
「では、皆さん案内をさせて頂きます。…………あぁ、それとカイト」
「ん?」
父さんは何かを思い出したらしい。
「ノエルちゃん達はもう着いているよ。 それにタイミングよく、ルカ達も今、遊びに来ている」
「えっ!?」
ルカ姉さん達って事は、バルザ義兄さんも来ているって事か? それに去年結婚もして、2人の間には、産まれて半年の男の赤ちゃんのロビン君も一緒って事だな。
「それじゃあ、皆さん、付いてきて下さい」
父さん、母さんはそのまま先頭を歩いて、皆で後を付いていった。
※※※
「なぁ、父さん、母さん。 俺、と言うより、俺達の部屋はどこなんだ?」
ジアン達やアレク義兄さん達、使用人のみんなには部屋を与えられていたのだが、どういう訳か、俺と婚約者達【プラス先生とティアの召喚獣、イクスとカルマ【小型状態】】だけが未だに部屋を与えられていないのだ。
「ん?………………んん。 まぁ、そのうち分かるよ」
父さんは歯切れが悪く返事を返してきた。
なんだか、イヤな予感がする…………………
※※※
「さぁ、ここがカイト達が泊まる部屋だよ」
父さんが言ったのは、使用人達が案内された部屋と違う造りをした、豪勢な装飾が施された部屋の入り口のふすま。
王族である、アレク義兄さん達が案内された部屋の入り口よりも更に、豪勢な造り。
「じゃあ、我々はこの辺で! 後はリーナちゃんが知っているから!」
「えっ!? ちょっ、ちょっと!?」
父さんは早口で話、母さんを連れて離れていった。
「なんだって言うんだ…………………」
「さぁ、皆さん。 中に入りましょうか!」
リーナは両手をポンッとするようにして、先頭で入って行き、皆が後に続いた。
俺は、腕にくっついているエルスに引っ張られる格好で、中に入った。
そして中に入ると、室内は至って普通の造りをしたモノであった。
十五畳もある間取りで、畳に直に腰をおとせて使用出来る位のテーブルに座椅子。
床の間には掛け軸が掛けてあり、【商売繁盛】の文字が書いてあった。 しかも書いたのが、リーナになっていた。
部屋から見える中庭も、手入れが行き届いている植木や池が見えた。 と、言うより、日本庭園と言った方が分かりやすい造りがされていた。
「────リーナさんリーナさん。 もしかして、全て再現したの?」
「もちろんよ。 その甲斐あって、結構人気が出て、この景色を観に来る人も居るのよ」
それは、そうでしょうよ。 スッゲぇキレイだもん。 先生達3人は未だに、見惚れているから。
「────して、リーナさん。 何故に、そこに立ったままなんです、か! エルスも!」
部屋に入って、気付いたときにはリーナは、隣にも部屋があるであろう、仕切りの襖の前に居て、エルスもいつの間にか一緒に立って、動かないのだ。
「何でもないわよ。 強いて言うなら、ここから先はオトメの秘密があるだけよ」
「ホントかよ、リーナ?」
ウソを付いてないかじーっと見た。
「────そんなに見つめられると、惚れ直してしまうわ、カイ」
語源が可笑しいが、目を背けないし、どうやらウソは付いていないようだ。
「でも、エルスが一緒って事は怪しいな」
「何も怪しくないわよ。 エルスには、ただ感想を聞いていただけなんだから。 そうよねエルス?」
「えぇ、そうよ。 リーナから、感想を聞かせて欲しいって言われたのよ」
「……………………そう」
何か怪しいのは明白だけど、とりあえず今は、納得しておくか。
「──リーナちゃん! 温泉にはいつ入れるの!」
そんな中、ロールさんが庭園の景色を見終えたみたいで、リーナに聞いていた。
「確か………………時間的に入れますね。 ですがその前に、コレに着替えて下さい」
リーナが自身のマジックバッグから取り出したのは、浴衣と帯、そして羽織であった。
「リーナちゃんコレは?」
「コレは浴衣と言います。 旅館で過ごすには定番の服装なのです、ロールさん」
リーナが自信満々に言っていた。
「さぁ、着方をお教えしますので、先生とティア様も受け取って下さいませ」
リーナはロールさん、先生、ティアに浴衣一式を渡していた。 エルスは自身のマジックバッグから取り出していたけど。 それと俺の分も。
「あれ? でも、他のメンバーはコレの着方が分からないんじゃあ?」
「心配無用よ、カイ。 既にミゲルさん達、使用人にはその手の知識を叩き込んでいるから。 今頃、アレク義兄さん達やジアン君達にも、着方を教えているわよ」
「あっ、そうですか」
抜かりないな、リーナの奴は。
「それを着たら、浴場に向かいましょうか」
リーナのその掛け声の前に、エルスがいきなり脱ぎ始めようとした。
「って、ちょっと待てエルス! まだ俺が居るだろ!」
「何を言っているのよカイトは。 既に、夜一緒に寝るときに、私達の身体を見ているくせに」
いや、確かに、貴女達が毎回スケスケのネグリジェで部屋に来ているときには、見てしまっているけどさ。
咄嗟に、あさっての方向を向いて話してはいるけど。
「だからって、他の人達もエルスと同じ考えとはいかないだろ! 特にティアとか!」
「アタシは別に構わないよ、旦那様」
「って、お前はティナだろ! 後で、ティアが泣くぞ!」
「あぁ、大丈夫大丈夫。 あの子、あぁ見えて結構エッチな子だから───って、ち、違いますよカイト様! ティナが勝手に言っているだけで!────ホントの事でしょ! ティアはいつ旦那様に抱かれるか夢見ているクセに!──」
それって、ムッツリって言うよね。 しかも、代わる代わるで話しているし、今も。 端から見たら、一人芝居をしている感じになっているしさ。
「クッ!……………せ、先生だってイヤでしょうから。 こんな明るい内からは!」
「いや、私も見てもらって構わないぞ」
最期の砦の先生までもがダメだった。
確かに先生は、一緒に寝始めた時は初心だったのが、半年経った頃には免疫が付いたみたいに、気にしなくなったからな。
ロールさんに至っては、その手はオッケーな感じだったし。
「と、みんなの同意があったので、堂々と見て良いのよカイト?」
リーナも同じ考えと思って、エルスはそう言ってくるけど、ケジメは大事だよね?
「そう言うけど、俺の気持ちの問題もあるから、ひとまず部屋を出るから!」
俺はそそくさと、部屋を出た。
さてさて、ほんの少しだけど時間が出来た。
浴衣一式をマジックバッグに仕舞い、旅館の中を散策する事に。
そういえば、ノエルとセシリアさんは何処に居るんだ?
ノエルの魔力を捜し出して、念話をしてみることに。
『ノエル』
『ん? カイ君? どうしたの?』
『俺達も旅館に着いたけど、今何処に居るんだ?』
『今はルカお姉ちゃんの所で、ロビン君を抱かせてもらっているよ。 セシリアさんも一緒』
『もしかして、部屋に居るのか?』
『そうだね、部屋に居るよ』
うーん? 長々と探しているよりは一気に移動した方が早いな。
『ノエル。 通門で一気に行くけど大丈夫か?』
『───────良いよ』
ルカ姉さんにでも確認をとっていただろう、少しの間があったけど、オッケーが出たので、その場から通門を開いて移動した。
※※※
俺が出た場所は、八畳間の広さで、俺達が案内された部屋と同じ造りと装飾がされていた部屋だった。
そして座椅子には、羽織を羽織った浴衣姿のルカ姉さんとその隣には、赤ちゃん用の浴衣を着たロビン君を抱きかかえている、ショートボブの髪型の浴衣姿のノエルと、その隣には羽織を羽織った浴衣姿のセシリアさん、少し離れた位置で座椅子に座って居る浴衣姿のバルザ義兄さんが居た。
「やぁ、カイト。 久しぶりだね」
「ご無沙汰してます、義兄さん。 休暇ですか?」
「あぁ。 やっと、まとまった休暇を取れたから、こうして家族で来ていたんだよ。 そこにカイト達が来るなんてな」
バルザ義兄さんはどこか、嬉しそうに話していた。
「俺も父さん達から聞いたときは、驚きました。 こんな偶然があるなんて」
「フフフッ、そうだな」
俺とバルザ義兄さんは、声を漏らしながら笑ってしまっていた。
「姉さんも久しぶり」
「えぇ、そうね。 貴方に会ったのはこの子が産まれた時以来かしら?……………………他のみんなは遊びに来ていたのにね」
「ウッ! そ、それは、まぁ…………」
姉さんはイタズラな笑みを浮かべていた。
でも確かに、バルザ義兄さんから産まれたの連絡をもらって、俺と婚約者達、それとカルトちゃんで遊びに行ったっきりだったけ。 俺はその時は、神格化をモノにするのに夢中になっていたからな。
「それはそうと、カイト」
「ん?」
「貴方は浴衣に着替えないの?」
「ん、あぁ。 ちょっとゴタゴタして着替えるタイミングを逃したんだ」
姉さんが、私服のままで居る俺にそんなことを言ってきた。
「それなら隣の部屋を使いなさい。 空いているから」
「お言葉に甘えるよ」
姉さん達の泊まる部屋にも、隣の部屋が使える所を案内されていたので、そのまま部屋に入り、浴衣に着替えた。
※※※
着替え終わり姉さん達の居る部屋に戻ると、今度はセシリアさんがロビン君を抱きかかえていた。
そんな中、手が空いたノエルが近寄って耳打ちをしてきた。
どうやらセシリアさんは、あまりの忙しさにまた発作を起こしたらしい。
その発作とは、俺とセシリアさんが始めて会った時の状態、後ろ向きな思考ネガティブ状態になっている、との事。
その状態になったセシリアさんには、とにかく可愛いモノや癒されるモノ、そして一番の効能が、俺との接触。
以前その事で話を聞いたエルスが、カイト成分が不足しているからと言っていた。
と、言うことは、ロビン君で癒されて、最後は俺にくっついて行動を共にする事になる。 そうすると、エルスもまたくっついてくるから、両手に花状態に。
で、案の定、ロビン君で癒されたセシリアさんは、俺の腕にくっついてきた。
そして、バルザ義兄さんが温泉に入りに行こうと言いだして、ノエル達と浴場に向かうことになった。
※※※
姉さん達が居たのは二階の方であったため、スッゴくデカく増改築されているから、浴場に向かうまで、結構な距離を歩いた。
そして目的の浴場、大浴場の前に着いた。
脱衣場の前に、男と女の文字が書かれた暖簾が掲げられていた。
部屋からバルザ義兄さんが、ロビン君を抱っこしたまま、俺達は男の脱衣場に、ノエル達は女の脱衣場に入った。
中に入ると、棚があり、細こく区切られて、衣服を入れておく籠も設置されていた。
ザッと見た所、何カ所か衣服があったから、先客がいるようだ。
俺とバルザ義兄さんは衣服を脱いで裸になり、腰にタオルを巻いた。 義兄さんはロビン君の衣服を脱がしてあげていた。
そして義兄さん達と浴場に入ると、完全な露天になっていた。
そのまま湯気が上がっている方を見ると、石造りの湯舟があった。
「遅かったわね、カイト」
「えっ!?」
その声は────
───エルスであった。
最初は湯気が多くて分からなかったが、段々と湯気が落ち着いた気がしてよく見ると、屋敷から来たメンバー全員と、アレク義兄さん達までもが揃っていた。
その傍らでは、カルトちゃんがジアン達の召喚獣【小型状態】バロン達と遊んでいた。
それでも湯舟はまだまだ余裕があった。 全員一応タオルを巻いて、隠すとこは隠していたし、女性陣で髪の長い人達は、お湯に浸からないよう、結い上げていた。
「ど、どうしてこうなっている、エルス!?」
「愚問ね、カイト。 そんなのお義父様、お義母様に頼んで、貸し切りにしてもらったに決まっているじゃないの!」
………………マジか~。 確かに喜んでやりそうだ。
「だからって、よく他の人達は了承したな?」
男性陣はともかく、女性陣はよく一緒に入る気になったもんだ。
「そんなのは簡単よ。 貴方が日頃から背中を流させなかったから、今回、そのチャンスがあるわよ。って言ったからね」
「イヤイヤイヤ! 別に俺の背中を流せるだけで集まるのはおかしいだろ!?」
「何を言っているのよカイトは。 英雄様の屋敷で働くだけで無く、英雄様の背中を流せたってことは、それはもう鼻高々で自慢が出来る事なのよ。 それに──」
「それに?」
「後押しに、王家の紋章と、お兄様と私の名前入りの保証書付きだから、それはもう嘘にはならないって事を言ったら、みんな快く承諾して、こうして入っているのよ」
だからか、屋敷で働く(ミゲルさん夫妻を除く)みんなの目つきがさっきから鋭く見えるのは。 それはもう、獲物を狙うかのような目つきをしているから。
「それにしたって、アレク義兄さん。 どうしてそう言うことを断らないんですか?」
「いや~エルスのやることは、とても面白いから、つい乗っかってしまうんだよね」
アレク義兄さんは笑みを浮かべていた。
「ふふふ、アレクは昔からそうだったね」
「バルザも今は昔みたいに、戻ってもいいと思うけどな?」
おや? バルザ義兄さんとアレク義兄さんは結構、親しい会話を交わしているぞ?
「え~いきなりですけど、2人の関係は?」
「バルザは親しく接してくれる、数少ない友人だよ」
「まぁ、学生の時からの付き合いだからね」
あぁ、そういうのは分かる気がする。
それから2人で話し始めてしまった。
「さて、ノエル達も来たことですし、始めましょうか!」
いつの間にか、屋敷のメンバー(ミゲルさん夫妻を除く)が臨戦態勢になっていた。
俺は少しづつ、みんなから離れていた。
ノエル達は状況が分からずに、どういう事?の表情を浮かべいたけど。
「第一回、英雄様の背中を流すのは誰だ選手権!を開催します!」
「「「「「「「うおぉーーー!!」」」」」」」「「「「「「「おーー!!」」」」」」」「おぉー!♡」
エルスの突然の宣言に、男女それぞれがやる気満々の掛け声をあげていた。
その中に、おかしな掛け声があったような気がしたけど!?
「ルールは簡単。 カイトに触れた人が今後カイトの背中を流せる権利を得る事が出来ます」
えっ!? 今、おかしな事を聞いたぞ!? 今後って言ったぞ!? 自慢出来るだけじゃないのかよ!?
「カイトはこの大浴場から出たら、コレからの入浴時は、大変な事になるわ。 そして更に、カイトには制約をもうけます。 5mまでのジャンプはいいけど、空を浮遊するのは禁止ね」
「クッ! 拒否権は無さそうだからやるとして、その前に聞きたいことがある」
「なにかしら?」
「全員、そのタオル姿でやるのか? こんな事をするんだ、タオルの下に水着でも付けているよな?」
本格的に動いたら、タオルがはだけるのは確実だからな?
「それこそ愚問ね。 そんなモノ、温泉に入るのに付ける訳がないじゃないの! タオルがはだけたら、一部を除いては色々と成長したモノが見えるわね!」
「それはそれでマズいだろ!?」
「だけどそこは心配無用よ。 カイト以外のタオルには、【ポロリはないけど、見えそうで見えない。だけど、チラッとくらいは見えるかな~】の魔法を発明して、それを使っているから!」
なんだよそのムダな魔法と名前は!?
「だからカイト、気にせずにジャンプすればいいわ」
「気にするわ! それにお前がジャンプを勧めるって事は、何かあるんだろぉよ!」
「そんなの決まっているじゃない! 貴方の息子の成長を拝顔するためよ!」
クッ! そしたらまともにジャンプも出来ないじゃないか!
「それじゃあ、始めましょう!」
エルスが開始の合図を出してしまった。
咄嗟に思い付いた、俺の廻りにだけの風の障壁を展開することにした。
……………。
眼前には獲物を狙う目つきをした者達が迫ってきた。
………………………………。
徐々に近づいてくる。
だけど、一向に風の障壁が展開されないから、解けないようにタオルの結び目を抑えながら逃げた。
ムダな広さのある大浴場だから、逃げるスペースが充分にあったから。
獲物を狙う者達から逃げながら、もう一度、風の障壁の展開を試みた。
…………………。
追い掛けて来るから、逃げる逃げる。
…………………。
また風の障壁が展開しなかった。
「なんで魔法が発動しないんだよ!?」
「あっ! 途中で居なくなったカイに言ってなかったけど、この旅館には、人を傷付ける魔法は使用禁止の魔道具を設置しているから」
「はぁー!? なんだよその魔道具は!?」
と言うより、いつの間にそんなモノ創ったんだよ! そしたら、風の障壁はぶつかれば多少なりともケガをするから、発動しなかったって事かよ!?
「さぁ、観念しなさい、カイ!」
クッ! 何か他に──
「「「「「「「うわぁ!」」」」」」」 「「「「「「「きゃっ!」」」」」」」
対策を考えている時に、突然悲鳴が聞こえてきた。
「カイトく~ん♡ まちなさ~い!♡」
後ろを振り向くと、使用人達が身悶えして、快楽の表情を浮かべて横たわっていた。
「アタシのゴッドハンドで快楽の世界に連れて行かせてあげるわよ~♡」
そう言いながら、それなりに膨らんでいる胸で、女性の体付きをしているモノだから、胸元までちゃんとタオルで隠しているエイシャさんが、指をクネクネさせて迫ってきていた。
ヤバいぞ! あの人に捕まったら色々と失われる気がする!
そんなエイシャさんの後ろには、エルスとリーナが追従していた。 他の人達は温泉を満喫していたけど。
この3人の誰かに捕まっても、色々と失われる! どうすれば──
──ドンッ!
「きゃぁっ!」
「あら♡」「「あっ!」」
後ろを向きながら思案していたら、誰かとぶつかり、俺は少しよろけたぐらいで済んだ。
エイシャさんとエルス、リーナはほぼ同時に声が揃っていた。
改めて足元を見るとそこには、尻餅を着いたカルトちゃんが居た。
「ご、ごめんカルトちゃん!? どこかケガをした!?」
「ううん。 大丈夫だよおにいちゃん」
「よかった! ホントにごめんね」
「うん、気にしないで。 それにおにいちゃん達、もう追いかけっこはしないの?」
あっ! そうだった! 追いかけられていたから、既に3人の誰かに捕まってもいいはず!
後ろを振り向くと、3人は苦笑いを浮かべていた。 どういう事?
「まだ分からないのカイト? 私は言ったわよね? 貴方に触れた人が貴方の背中を流せるって?」
あぁ! エルスの言ったことに、やっと納得がいった。 つまり──
「カルトちゃんが貴方の背中を流せるのよ」
「はははっ」「ふぇ?」
俺はから笑い声を上げて、カルトちゃんは素っ頓狂な声を上げていた。
「カルトちゃん。 これからはカイトの背中を思う存分流していいわよ」
「えっ? えっ? わたし、ただイクちゃん達と遊んでいただけだよ、エルスおねえちゃん?」
「それでも、カイトに触れたのは貴女なのだから、問題はないわよ。 カイトもカルトちゃんならいいでしょう?」
まぁ、カルトちゃんならまだ幼いから、余計な事は、してこないだろうしな。
「あぁ、カルトちゃんなら問題ないよ」
「と、言うわけで、早速カイトの背中でも流してみたらカルトちゃん?」
「うん!!」
エルスがカルトちゃんにそう言うと、元気よくカルトちゃんが応えていた。
それからは、カルトちゃんに背中を流してもらい、エルスの突然の提案で、追いかけっこをして疲れた身体を、やっと温泉に入って癒した。
他の人達も、面白おかしく話しながら、温泉を満喫していた。
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