2.5章 間話 その後1
「よしッ!」
体調が戻ったぞ。
ベッドの脇で準備運動をして、自分の身体の調子を確かめていた。 伸びていた髪も、以前のような長さまで切ったのだが、次の日には、毛先だけが銀色になっていた。
グラティウルで起こった出来事で、神格化になり、その反動の所為で、身体の肉が落ち、満足に動けない状態になってからひと月半が経ち、ようやく自分で動けるようになった。
こんなに早くに動けるようになったのは、ノエルの料理のおかげだろう。
俺への料理はノエルが専属で、栄養バランスの良い料理を作ってくれたから。
だけど、それだけでも無いような気がするけど? 日に日に力が漲るのを感じたから。
「(トントン)」
まだ準備運動をしていた時に、誰かが扉をノックしてきた。
「どうぞ」
部屋に入る許可をして入って来たのは、動きやすい服装に身を包んだ、ティアナ・ザン・フォン・ソティウル。 俺の婚約者の1人。
「し、失礼します………………って、カ、カイト様!? 起き上がって大丈夫ですか!?」
「うん。 むしろ、身体が鈍って仕方ないよ、ティア」
「そ、それなら良かったです」
ティアは安堵してくれた。
彼女は、俺の婚約者に決まった日から、エルスの発言で、此処グラキアスの王城に住み始まった。
そして、婚約者達が毎日代わる代わる、俺の世話をすることになったのだが、その半分程をティアがやってくれていた。
ノエルの料理をメインに、他の婚約者達も料理を作ってくれて、その料理を食べさせてくれた。
エルスとリーナ、ロールさん以外の婚約者の料理は、ギリギリ何とか食べられる腕前だった。
ノエルが付きっきりで教えてその腕前なのだから、ノエルが居なかったらどうなっていたことやら?
流石に、催す時は頼め無かった。 と、言うよりどういう訳か、タイミング良く執事のアルフさんが来てくれた。
爺やは『また、大切な思い出が出来ましたなぁ』と、嬉しそうに言ってきた。 コッチはかなり恥ずかしい思いをしたけど。
エルスに至っては『あら? 今から将来お世話になるカイトの息子の成長具合を確かめたかったのに』と言ってきたよ。 アンタが言うと、色々とヤバいけどな。
「よしッ」
準備運動を入念にしていたのを終えた。
「カ、カイト様、今日はどうするのです? 自分で動けるようになった事ですし、お世話は必要無いですよね?」
「うーん? 体調は戻ったけど、まだ万全では無いし、何かあるといけないから、傍にいてほしいかな?」
「わ、分かりました。 そ、それで、この後は?」
「訓練場に行こうと思っていたんだよ。 この鈍った身体を少し動かしたくて」
どの位、動かせるか確かめておかないと。 これから先、ジアンとルセを本格的に鍛えないといけないから。
「それじゃあ行こうか、ティア」
「は、はい、カイト様」
ティアを引き連れて部屋を出た。
※※※
王国の騎士団が日々鍛練をするように造られた訓練場。 数ある訓練場の中で、俺達が来た所は、100人程度が訓練出来る広さの小さめの訓練場。
「誰もいないか……………」
誰かしら居るかと思ったんだけどまったく居ないとは…………まぁ、適度に動いておくか。
俺は訓練場の中心に移動し、ティアは入り口付近で待機した。
「どれ……………」
身体に染み付いた独自の型の構えを取り、1人で動き回った。
だが、動ける事は動けるが、キレが無かった。 以前のようなキレを取り戻すのは結構大変だ。
※※※
「カイト様!」
しばらく1人で動き回っていたら、不意にティアが呼び掛けてきた。 呼び掛けてきたティアの方を見ると、カイゼル陛下が数人の騎士を連れてティアの傍に立っていた。
動き回るのを止めて、ティア達の傍に近付いた。
「カイトよ、体調が良くなったみたいだのぉ?」
「はい、お陰様で。万全ではありませんけど………」
「そうか……………そうしたらもう少し先にするかのぉ……………」
「ん? なにをです?」
「いや、なに。 お主を国民にお披露目をする事をじゃよ?」
あ~。満足に動けなくて先延ばしにしていたからな。
「動く分には問題無いですから、して構いませんよ?」
「そうか。それなら明日にでもしようか」
って、明日かよ!?
「急ですね明日って。準備とかあるんじゃ?」
「それなら心配無用じゃ。 お主の体調が戻り次第、何時でも出来るように準備はしていたからの。 と、言うわけで皆の者。準備をしてくれ」
「「「「「「「はっ!」」」」」」」
傍らに控えていた騎士達は、敬礼をして陛下の下した命令に返事をして、居なくなった。
「してカイトよ。 お披露目の大まかな流れを話しておこうかのぉ」
「はい」
※※※
陛下から聞いたお披露目の話は簡単にまとめると、こんな感じであった。
此処グラキアス聖王国と隣のソティウル騎士王国、友好都市グラティウルにて、お披露目とエルス達との婚姻を発表。
お披露目にはジアンとルセは参加させないと言っていた。 何でも、先を見据えた王侯貴族が私利私欲の為に利用する者が居る為に、それに対応出来る耐性が付くまでは、なるべく隠すらしい。
行きの移動には、俺が眠りについた後、ノエルに予めソティウルに行って貰っていたので、通門で移動するとの事。
帰りは馬車で、村や街を通って帰ってくる。と、言う話であった。
そして陛下は要件だけを言って、執務に戻って行った。
陛下が居なくなってから、少ししてジアン、ルセ、ノエルが訓練場にやって来た。
せっかくなので、以前のキレを少しでも取り戻そうと、ジアン達と組み手をした。 ジアンとルセに負ける事は無かったが、ノエルにはあっさりと負けてしまった。
ノエルとは、ずっと組み手をしていたが、ここまで見事に負けたのは初めてだった。 それだけ、鈍った証拠だな。
その日は休憩をはさみながら、無理の無い程度に鍛練をした。
※※※
翌日、聖王国でのお披露目は、大歓声を浴びた。 都市全体でお祭り騒ぎだ。 それにしても、急に決まったのに、よく街の店の人達は色々と準備出来たな? 商魂たくましいよ。
俺達は王城の1角の高台から、姿を見せただけだから、ティアの瞳まで住民は分からないから、問題無く済んだ。
続いて次の友好都市グラティウルでは、武闘場にて行った。勿論、カイゼル陛下とラヴィエス王妃様も同席した。
此処で少しばかり問題が起こった。
観戦席から近い事もあり、ティアの瞳に気付いた住民がいて、ザワつき始めた。 だが陛下が、俺が家族を大事にする事を住民に知らせ、この都市を救った事も反映して、大騒ぎにはならなかった。
そして、この都市では、ノエル、リーナ、エルス達3人が、住民のケガを治した事もあり、聖女様、と呼ばれていた。
エルス、リーナ、ノエルと認識されているみたいだ。 誰がそんなことを?
最後に、初めて来るソティウル騎士王国でお披露目をした。
ソティウル騎士王国の都市も、グラキアス聖王国と変わらない程の土地で、住居や王城は外装が凝っている造りをしていた。
聖王国と同じで、騎士王国の王城の1角の高台から姿を見せる事になっていた。
だが、お披露目をする前に、問題が生じた。
「騎士王様、正気ですか!?」
他の文官達と顔合わせをする為に、俺達は玉座の間に通された。
「私は正気だよ、大臣」
「いいや! 騎士王様は正気ではありませんぞ! グラティウルでの事は聞いております。 それでカイトを英雄にする事は認めましょう! ですが、その英雄にティアを押し付けるのは、如何なものか!」
オルドネス騎士王様とサティナ王妃様は、どうしてここまで自分の娘の事を酷く言われて怒んないんだ! 俺、正直頭にきているんだけど!
いかにも、私腹を肥やしてます、の体型に、派手な服装の姿の大臣が、他の文官達の代表としてわめき散らしていた。
「あ~大臣よ。 今後の発言はマズいからの?」
「いいえ、この際だから申します!」
騎士王様の忠告を無視して、大臣は喋っていた。
「グラティウルの事は、ティアが、本当に呼んだのではないですか! だから、今回の事態が起こったに違いありませんぞ!」
「……………………」
今度はティアを指差しながら喋っていた。
どうして騎士王と王妃は黙っているのか知らないけど、流石にぶっ飛ばしたくなってきた。
「だから、さっさと殺せば良かったものの…………」
あーダメだ。 我慢の限界だ。
「エルス」
「何かしら、カイト?」
「後始末を頼めるか?」
「任せなさい。 貴方の好きにするといいわ」
「サンキュー」
俺は、騎士王様に近付ける距離まで近寄った。
「──どうした、カイトよ?」
「騎士王様にお聞きしたいことがあります」
「なんじゃ?」
「───1人くらい居なくなっても構いませんよね?」
「………………まぁの………………仕方あるまい」
騎士王様は口元がニタニタしていた。 多分、俺がキレるのを待っていたのだろう。
「2人して何を───ブギャ!!」
人の話を聞け、と、言わんばかりに大臣が近付いて来たので、顔面に拳を叩き込んでやった。
そして大臣は、壁に勢いぶつかり、ピクピクとしており、騎士達が駆け寄り手当てをしていた。
他の文官達は何が起こったのか、分からない表情をしていた。
「だから忠告したのにのぉ~。 カイトよ、何か言う事があるだろ?」
俺は文官達を見据えた。
「やってしまってから言うのもどうかと思いますが、俺の大切な家族を、どのような形であれ傷付ける者が居れば、俺は世界を敵に回しても、家族を守りますので!」
発言を聞いた文官達一同は、青ざめた表情で、千切れんばかりに首を縦に振っていた。
「と、言うわけでの、ティアナを傷付ける事は、英雄殿を敵にする事になるからの、気を付けるようにの、皆の者?」
騎士王様の黙認の許可が下りた。
「でも、どうするかのぉ~? あの大臣はこの際だから、辞めてもらうとして、後任は誰に継がせるか?」
あっさりと大臣のクビ宣告をしたよ。 あっさりクビにする所をみると色々とやらかしていたのか?
「それでしたら、オルドネス様」
エルスが他のみんなと並んでいた位置から一歩前に出て、ドレスのスカートを少しつまみ上げお辞儀をしてから話していた。
「何かな、エルスティーナ姫?」
「差し出がましいようですが、ふた月の猶予を頂きましたら、相応しい人材をご用意致しますわ」
「ほう。 ふた月でか。 一応言っておくが、そちらの聖王国とは内部事情が違うぞ? それでも出来ると申すのか、姫よ?」
「出来ますわ! 愛しい人の為ならば、どんな苦難な道であろうとも」
エルスはセシリアさんの方を向いていた。 相応しい人ってセシリアさんの事!? 本当にふた月で可能なの!? セシリアさんは自身を指差して、驚き戸惑っているけど?
「そしたら、姫に任せてみようかの」
「ありがとう御座います、オルドネス騎士王様」
エルスは再度、お辞儀をしていた。
それからお披露目と婚約発表をして、大歓声を浴びた。 ここの住民には予め、騎士王様から、俺が家族を大事にする旨(大臣を吹っ飛ばした後に言ったセリフに近い事)を伝えていたらしく、騒ぎにはならなかった。
端から見たらそれはそれで、脅迫しているみたいなものだよね?
騎士王国でのお披露目が終わった時に、ティアの兄3人と妹に、ティアをよろしく頼むって言われた。 勿論、これからもティアを守っていきます。 守っていくのはティアだけでは無いけどね。
その時に、ティアの長兄の嫁さんには、エルスをよろしくお願いね、と言われた。 詳しく聞いたら、此処ソティウル騎士王国に嫁にきたエルスのお姉さんであった。 意外なとこでエルスの兄姉に会ったものだ。
そして俺はお披露目の時に、家名を名乗った。
その家名は【クサナギ】。 カイト・クサナギの名を2つの国と友好都市で発表した。
その後、馬車で時間を掛けて、途中の町や村にも寄りながら、1度聖王国に戻り、陛下とこれからの話をした。
まず、戻って来て早々に戴冠式が開かれた。 勲章を授けられたのだ。
これに関しては、騎士王様も同意していたらしく、聖王国で開く様に、と言っていたそうだ。
そして俺はジェイド兄ちゃんと同じ、一本の剣を中心に、帯が二本、柄の後ろ側を通り×(かける)の状態と切っ先の部分に纏わり付いた感じの勲章、剣聖の証を授与された。
ノエル、リーナ、エルスの3人には、セリカ姉ちゃんと同じ、一本の宝珠が形取られた杖を中心に、帯が二本、宝珠の後ろ側を通り×(かける)の状態と先端部分に纏わり付いた感じの勲章、魔導師の証を授与された。
後からジアンとルセ、ナリア先生の時には、必要最低限の人数だけでの略式授与が開かれた。
ジアンには、盾の上の部分に、剣の柄の部分だけが描かれている勲章、騎士の証と、強者に立ち向かい勝つ事を諦めなかった勇気を称えて【勇騎士】の称号を授与された。
ルセとナリア先生には、宝珠が付いた杖二本を×(かける)にした勲章、魔法士の証と、ジアンと同じく強者に立ち向かい勝つ事を諦めなかった勇気を称えて【勇魔士】の称号を授与された。
そしてその時に、ギルドマスター統括のカサドラさんの申告があったらしく、俺達のランクアップも陛下から言い渡された。
俺とノエルがSSランク。 リーナとエルスがSランク。 ジアン、ルセ、ナリア先生がAランクにアップした。
詳しく聞いたら、カサドラさんが他の支部のギルドマスターに事情を話して認めさせたらしい。
俺が眠っている間に、皆、色々と進めていたみたいだ。
それから、報酬金を貰った。 その額、王金貨50枚、金貨5万枚。 これは国からでは無く、両陛下共、個人のお金と言っていた。
『国からでも良かったのに』とエルスは言っていたが、それだと、『本当に感謝しているのが薄れる気がする』と、陛下が言っていた。陛下の気持ちの問題だった。
まぁ、貰って困るモノでも無いのでありがたく貰っておくけど。
最後に俺に、二本の太刀、2刀一対と呼ばれた、刀を授けられた。
それは両刀とも、混じり気が全く無い完全な白一色の刀身と完全な黒一色の刀身をしていた。
両刀とも柄から鞘まで白一色、黒一色で、柄と鞘には、【草薙家の家紋】がそれぞれ両方に彫られていた。
陛下が言うには、ガリアーノさんは鍛冶もこなせていたらしく、自身が造った中で最高の物を献上してくれていたとの事。 でも、どうして草薙家の家紋を彫ったんだ?
それでもありがたかった。 前の刀【虚空】は砕けてしまっており、手持ちのミスリル剣では、いざって時、全力も出せないから。 しかも二本も授かるなんて………………
因みに、リーナとエルスにも国から褒美を授けると言ったら、俺からの褒美をご所望との事だったらしい。
凄い剣幕で陛下に詰め寄ったみたい。その話をしている陛下が遠い目をしていたから。
まぁ、俺が出来る範囲での褒美を期待……………………出来るかな?あの2人だしなぁ……………無茶を言ってきそうで怖いな…………
そして次に、学園はそう言う訳で特例措置で卒業となった。それには、ノエル、エルス、リーナもである。
ジアンとルセは、まだこのミリテリアの事を知らないから覚える為に、名前だけ在籍して、一緒に居ることになるナリア先生の個人授業を2人だけで受ける事になった。
つまり、ナリア先生も学園には行かず、俺達の傍にいるって事になった。
そして、エルスが騎士王様に進言したように、セシリアさんには、騎士王国の内政に関わる事の知識を蓄えさせる事になった。 そう言う訳で、ギルドを辞めてそっちに専念してもらう事になった。
次に俺達の拠点、もとい、住居が友好都市グラティウルに造られた様なので、そこで暮らす事になっていた。
何でも、片方に居るのは、いざ、もう片方に何か起こったときに、対応してくれ無いのでは?と、住民が騒ぎ出すのを防ぐ為に、国境のグラティウルで生活をした方が、住民が安心するからとの事になった。
いつの間に用意したのやら。
※※※
友好都市グラティウルに造った住居に向かう準備が出来たので、俺、ノエル、エルス、リーナ、ジアン、ルセ、ナリア先生、セシリアさんの代わりで本部に務めることになった受付嬢のロールさん、ティアのメンバーで向かった。
向かった場所には、屋敷があった。 公爵家に匹敵する程のデカさの屋敷が。
その屋敷に入る前に、此処グラティウルに住んでいるセシリアさんと合流した。
セシリアさんは屋敷を見て呆然としていた。
まぁ、それが当然の反応だよね?
そして屋敷の中に入ると、中で待っていたのは、公爵家で執事とメイドの職務に励んでいたはずの、ミゲルさん、ケイトさんとその2人の娘のカルトちゃんと数人の使用人さん達が居た。
どうして此処に?の疑問を持ちながらリーナを見ると、『いずれ何か偉大な事をやるカイの為に、準備していたに決まっているじゃない』と、自信満々で言われてしまった。
俺とナリア先生、ロールさん、セシリアさん、ティアのメンバーだけは知らなかったけど。
だから、ミゲルとケイトが公爵家で働いていた時、リーナに聞いた時にはぐらかされていたのはこの時の為だったのか。 用意周到過ぎるよ。
この屋敷の家令長になったミゲルさんと、その補佐役のメイド長になったケイトさんは、僅か三ヶ月近くで結構様になっていた。その2人の娘のカルトちゃんは、ただただ可愛いだけの小さなメイドさんだったけど。
で、当然屋敷の主は俺になっていた。 皆の方を向くと、『なに、当たり前な事言ってんの?』って、顔をされた。 やっぱりそうなのね。
そのままミゲルさん達家族に屋敷の中を案内してもらった。
水廻りやらの設備や灯りが、転生前に近くなっていた。
もしやと思い見てみると、ノエルは首を横に振り違うと示し、リーナとエルスはそっぽを向いていた。 やっぱり、2人の仕業であったか。
それを2人に問い詰めると、キッチン関係はノエルも関わっていた。 あまりにもやり過ぎているので、後でお仕置きをするとしよう。
ただ一つだけ褒めることがあった。 浴場を造っていたことだ。 やっぱり、湯舟につかるのは良いことだから。
その後も、屋敷の案内をしてもらった。
案内してもらった途中、屋敷の裏手に、屋敷2棟分の大きさの更地があった。 これだけ広ければ、ジアン達の修業にはもってこいである。色々と修業に必要なモノを置けるな。
最後に厩舎を案内されると、そこに居たのは王都から友好都市まで世話になった馬2頭が居た。
カルトちゃんは喜びながら馬達に近付くと、馬達は頭を下げて、無邪気なカルトちゃんの小さな手で、ぺちぺちと叩かれていた。 そんな事をされても馬達は怒る訳でもなく、カルトちゃんの好きにさせていた。
何でも、馬達が俺に懐いていたのを、エルスがリーナに聞いて、陛下の許可を貰い、譲って貰ったと言っていた。
これはちゃんと、名前を付けてあげないといけないかな?
ここで案内が終わりの為、そのままカルトちゃんと馬達にブラッシングをしてあげた。 馬達は気持ち良さそうにしていた。
※※※
屋敷の探索と馬達のブラッシングで終わるその日の夜、疲れた身体をベッドに横たわらせていると、誰か扉をノックしてきた人が居た。
返事を返して入室の許可をすると、ネグリジェ姿でそこそこ発育が良い身体、髪を後ろに一房結んだティアであった。 彼女は部屋に入るなり、扉を締めてその場に立ち尽くしていた。
だが、何かいつもと違うと感じて、鑑定で魔力を視るといつもの魔力とは少し違う魔力の色をしていた。
「…………ティアじゃないね。 キミは誰なんだい?」
「───やっぱり旦那様は違いが分かるんだな」
その口調は、オドオドする訳でもなく、ハキハキとしたものであった。
「…………それでキミは誰? ティアは無事なのか?」
「無事っちゃ無事だよ、旦那様。むしろ、アタシ自身でもあるしね」
「……………そう。ならよかったよ」
「いいねぇ旦那様。 本当に安心して任せられる人に会えた」
「意味が分からないけど? それより、その旦那様って何さ?」
今、目の前に居るのはティアの身体であって、ティアじゃない。 何かに取り憑かれている訳でもないし、何なんだ?
「旦那様は旦那様だよ。あの子が完全に心を許した相手の事をそう呼んで何が不都合が?」
「不都合だらけだね。俺はキミの事を知らないからね。 キミは一体誰なんだい?」
「そうだね、そろそろ旦那様にはアタシの事を教えないとね。アタシはティナ。 あの子が生んだもう一人のアタシ」
生んだ、か。 ティナは生まれ持った瞳の所為で、心が崩れそうになった時に生まれた人格何だろうな………………
「つまり、ティアは二重人格者な訳だ?」
「まぁ、そう言うこと。 でも、そのアタシはお役御免な訳だけどね」
彼女は、両手でやれやれの格好をしていた。
「どういう意味だい?」
「言葉通りの意味だよ。 あの子は実の親、兄姉妹でさえ、完全には心を許していなかったからね。 いつ裏切られるか分からなかったから。 その恐怖の中でアタシが生まれたって訳。今の自分の心を守る為に……………」
やっぱりか…………………自決にならなかっただけましか………………
「そんな日々を過ごしていたある日、息抜きをする為にこっそりとお父様達から抜け出した時に、旦那様に出会った。 グラティウルでの事があり、旦那様の婚約者になった。 それから旦那様の婚約者になっても、あの子はまだ完全には旦那様を信用していなかった。………………だけどね、この間、騎士王国での一言であの子は完全に旦那様を信頼したの」
「…………………」
「そんな相手が見つかったのだから、アタシのお役目は今日までと思ってね。だから最後の挨拶にきたの」
「──ティナ。それは消えるって事なのか?」
「えぇ、そういう事よ」
彼女は悲しそうな表情を浮かべていた。
「ティアはお前の事を自覚しているのか?」
「えぇ、しているわ。 あの子とアタシは全て共有出来ているから………………今はあの子が寝ているから、ここに居る事すら知らないけどね」
「そうか……………なら、お前が消えたらティアが悲しむんじゃ無いか?」
「えぇきっと悲しむでしょうね。 だけど、旦那様が居る。 それに他の子達も居るから、あの子はもう一人じゃないし大丈夫だわ」
「………………事情は分かった。だけどな、ティナ。俺、言っただろ? どんな形であれ、俺の大切な家族を傷付ける者が居れば世界を敵に廻しても、家族を守るって。 それに例外は無いぞ?」
「っ!?で、でも……………」
「だから、ティナ。 消えるなんて言わずに、ティアと共に俺の傍に居ろ。 俺がお前の分まで、守ってやる」
「……………だ、旦那様……………ウゥ………………」
ティナはその場に崩れ落ち泣き出してしまった。
俺は傍に近付き、ティナの身体を抱き起こして、ベッドまで誘導した。
その後しばらく、ティナは泣いていた。
※※※
「グスッ! あ、ありがとう旦那様」
しばらく泣いていたティナがお礼を言ってきた。
「気にするな」
「フフッ 旦那様はやっぱり優しいね」
「っ!!?」
ティナは不意討ちでキスをしてきた。
「あの子に怒られるけど、これはお礼よ旦那様」
「えっ!? ちょっ、ちょっとティナ!?」
「じゃあ、あの子をよろしくね、おやすみ」
ティナは最後にウィンクをして、彼女達の身体はグッタリしてベッドに横たわった。
………………とり返しのない事をしてしまったかな? それはさておき、やれやれ、どうしたものか……………
よく見たら、ティアの着ているネグリジェはスケスケだった為に、そこそこ育った双房と下着が丸見えであった。
そのままにしておく訳にもいかないので、ティアの身体の向きを直して、薄い掛け布団を掛けて、俺はソファーで寝ることにした。
※※※
翌日、俺を起こしにミゲルさんとカルトちゃんが来た。
体調がまだ万全では無いから、朝の鍛練を休んでいた為に寝ぼけた状態で、部屋の入室を許可してしまった。
その所為で、部屋の中の状況を把握したミゲルさんは何も言わなかったけど、カルトちゃんがエルス達に話してしまい、その事で俺とティアは詰め寄られ、ティアは顔を赤らめて恥ずかしくなり、気を失ってしまった。
エルス達に説明をしても納得してもらえずに、その日の夜から、一人ずつ代わりばんこで寝ることに決められた。 しかもここで、この事を俺からの褒美と称した。
まさかここで陛下との授与の時の褒美を求められるとは……………
そして皆とは、本当にただ寝ただけです。
が、どうして皆さん、素肌が見えるようなネグリジェ姿なんですか? 身体が10歳児の子供に何をさせるつもりなんですかね?
ナリア先生とロールさんは二人で来ました。 ナリア先生があまりの恥ずかしさでロールさんに頼んで来たみたいです。 そんなナリア先生は恥ずかしがっていたけど、ロールさんは結構大胆でした。 やっぱりロールさんは婚約者の中で、ダントツに胸は大きかったし。
大人2人と子供1人でも、まだまだ余裕がある位にベッドは大きかった。
別の日の夜は、エルス1人では無く、リーナ、ノエルと一緒に寝ることになった。
意外な事に、何かしそうなエルスが何もしてこなかった。
どういう事? まぁ、ベッドは大きいから良いけど。……………………あれ?でもちょっと待てよ。 俺の部屋のこのベッドの大きさってもしや、エルスとリーナの仕業か?
そんな疑問を2人に聞いても知らないと言っていた。 2人は本当に知らない表情を浮かべていたから本当の事のようだった。そしたら、一体誰がこんな大きさのベッドを?
そんな疑問を頂きつつも、そんな日々を過ごしていった。
ティアは割と1人で来るのだが、来るのはティアの時ではなくティナの状態で、ティナの時に一緒に寝ていた。 翌日目覚めると、ティアは昨晩の事を思い出してか、失神をしていた。
結構、身体の主導権をティナに取られているみたいだ。 夜の事に関しては。
それからは、体調を万全の状態に戻しつつ、ジアンとルセ、それとまだ中途半端なナリア先生を鍛える事に。
エルスとリーナは通門が使えるようになった為に、何時でも王都に戻ったり出来ていた。
俺とノエルは知らなかったけど、エルスとリーナ曰く、通門の維持には結構魔力を消費しないといけないから、今まで出来なかったそうだ。
レベルが上がったおかげで魔力が増えたから、出来るようになったとの事だ。
お読みいただきありがとう御座います。