2.5章 間話
このお話は、カイトが目覚める数日前のお話になります。
お父様に、私も王家の一員として、友好都市グラティウルの復興を手伝いたい、と進言して学園を休学していた時、久々にギルドに顔を出そうと思い来ました。
ギルドの扉を開け中に入り、1拍してから中にいた冒険者達は、軍隊のようにキレイな隊列で並びました。
「「「「「「「お疲れ様です、姐さん!!!!!」」」」」」」
そう言ってくるのは、私が教育して更生させた冒険者達。
そして、他にも何人かの冒険者も居たのですが、状況が呑み込めておりません。 その冒険者達は、初めて見る方達ですから仕方ありませんけどね。
「皆さんもお疲れ様。 しばらく顔を出せなくて御免なさい」
「「「「「「「いえ、滅相もありません!!!!! お心遣いありがとう御座います姐さん!!!!!」」」」」」」
「そう言ってくれてありがとう。 さぁ、今日も始めましょうか」
その矢先に、1人の冒険者がキレイな角度で、スパッと手を挙げてきました。
「どうしたの?」
「姐さんにどうしても聞きたいことがあります!!」
その瞬間、空気が変わり、更生させた冒険者達の顔色が悪くなりました。
「どうしてグラティウルで起こった騒動に、自分達を呼んで頂けなかったのでしょうか! 姐さんに鍛えられた自分達も、力になれたはずです!」
質問をしてきた冒険者の顔色が、段々と悪くなってきていました。 そこまで、ならなくてもいいのに。
「──それはね、グラティウルで起こった事が、此処、王都でも起こらないとは限らないからよ。 もし、ここが襲われたら、誰が守るの? 騎士団も万全では無いし、力の弱い民を囮にしたり、むざむざ死なせたりさせるつもり?」
「すいませんでした!! 自分達、どうしても姐さんの力になりたくて、愚かな質問をしてしまいました!!」
その冒険者は、深く頭を下げていた。
「良いのですよ。 力を付けたら試したくなるのは、人として当たり前な事なのですから」
「許して頂きありがとう御座います姐さん!!」
「さぁ、他に質問が無ければ、始めましょうか。 紳士淑女への道を」
そう。 私は、冒険者達に礼儀作法を教え、更に、王都支部に居る冒険者達の能力アップを図っているのです。
私の楽しみです。
※※※
「───合格ね」
「ありがとう御座います姐さん!!」
礼儀作法の試験をして、私が更生させた冒険者のみんなは無事、私が課した試験を乗り越えたのです。
「さぁ、これで一通りの礼儀作法を身に付けたわね。これからの目標は、目指せ指名依頼ね」
次の目標を発表した時に、キレイに並んでいた1人の女冒険者が手を挙げてきたのです。
「どうしたの?」
「実は…………」
女冒険者は口籠もってしまったのです。
「遠慮せずに言ってご覧なさい」
「はい。 実は私、既に指名依頼を何回かやっております!」
「まぁ! それは本当なの!」
「はい!」
確かこの人はしばらく前は、指名依頼を受けられるBランクになっていたのに、素行の悪さが原因で指名もされて居なかったはずね。
「これも姐さんに出会い、鍛えられたからです!ありがとう御座います姐さん!!!!!」
深々とお辞儀をしてきました。
「ありがとう。──だけどね違うのよ。 私はきっかけを与えたに過ぎないのよ。 この短期間でそれだけの事をしたのは、他でも無い貴女よ。 貴女が頑張った成果がちゃんと現れた証なのよ」
「姐さん……………」
女冒険者は感極まったらしく、涙を流し出しました。
それにしても嬉しいわ。 更生させた甲斐があったのだから。他のみんなの実力も、BかAランクの実力の持ち主に成長した事ですし。
「───他には居ないの? 遠慮無く言ってくれて良いのよ?」
その言葉を受けて、更生させた全員が手を挙げたのです。
「まぁ、全員なの!?」
「「「「「「黙っていてすみませんでした!!!!!」」」」」」
「いいのよ、気にすることは無いわ。 とても喜ばしいことだわ。………………そうね……………卒業祝いにあなた達の生涯のパートナーを見つけるパーティーを開こうかしら………………」
「っ!? ちょっと待って下さい姐さん!! 卒業祝いってどういう事ですか!?」
私が最後に呟いたのを聴き取ったらしく、冒険者が言ってきたのです。
「どういう事も何も、もう私が教える事は無いわ。元々、実力者揃いのあなた達に、少しばかり助言をして実力を更に伸ばしたし、それに礼儀作法もみんな合格したのだから」
「そんな……………姐さん、自分達を見捨てるのですか?」
他の冒険者達も悲しそうな顔をしてきたのです。
「見捨てるだなんて違うわ。 あなた達が私の手元から巣立って行くのよ。 それは大変喜ばしいことなのよ。 きっと親として子供の成長は、悲しみもあるけれど、喜びの方が大きいのよ」
「「「「「「姐さん………………」」」」」」
途端に、冒険者達は涙を流し初めたのです。
私まで、もらい泣きで涙がこぼれてしまったわ。
「もうあなた達は、一流の実力と礼儀をわきまえた冒険者よ」
「「「「「「ありがとう御座います」」」」」」
「でも、これからも精進はしていかないとダメよ? ───そしたら後日、卒業祝いのパーティーをするわね」
「「「「「「はいっ!!!!!」」」」」」
「それじゃあ、私は行くわね」
「「「「「「お疲れ様でした、姐さん!!!!!」」」」」」
私はそのままギルドを出ました。
※一方で、エルスが出て行った後のギルド内は──
「姐さん……………何て慈悲深いお方なんだろう……………」
「今後は姐さんではなく、聖女と呼んだ方が良くないか、みんな?」
「クフッ! アレってどっちかって言うと、母親の方じゃ無いのかよ。結構、年寄りな言い方だったぜ! ハハハハハハッ!」
更生された冒険者達の会話を聞いて居た、未更生の冒険者が、笑いながら更生組にワザと聞こえるように言っていた。
「母親………………それなら聖母だ! 聖母エルス様。 そんな素晴らしいお方を、今後は我らだけで無く、他のみんなにも普及しなくては!」
それがきっかけで、未更生組を手始めに、更生組がエルス式教育をして、エルスが知らない所で、エルス教団が設立された。
そして、その一部始終を気配を消し、観ていた人物が居た。
この王都支部のギルドマスターである、バーン・ストリング。
最初にエルスのやらかした事を、自分からよりは、カイトから言ってもらう方が、大人しくなると思っていたのだが、予想外の出来事が起きて、カイトが眠りに付いてしまい、中々言うことが出来ずにいた。
そんな中で、エルスに更生された冒険者達のおかげで、王都支部の評判はかなり良くなり、指名依頼が今までより増えていた。
それはギルドマスターとしては、大変喜ばしいことなのだが、非常に色々と複雑な心情を抱えていた。
そういう思いもあり、王都支部はエルスに任せてみようかと真剣に考えてしまっていた、ギルドマスター、バーン・ストリング。
そして、エルスが教団やギルドマスターの件を知るのは、もう少し先の話である。
お読み下さりありがとう御座います。