閑話
このお話は、サイビス村で起こった後のお話となります。
「指名依頼ですか?」
「はい。 カイト君達がランクの更新をしに来たら、と言われていたのです」
ギルドマスターであるバーンさんから、被害拡大を未然に防いだ報酬として、俺とノエルはAランクに、ジアンとルセはCランク、リーナとエルスはDランクに上がる事になってしまった為に、ギルドに来て更新した時に、受付嬢のロールさんからその話をされた。
「えっと、それって誰からの指名依頼なんです?」
「ギルマスからはフォレスト公爵様からの指名って聞いてますね」
「お父様が?」
公爵家にお邪魔しているのにわざわざ、ギルドを通すって一体どうしたんだろう?
「詳しくは公爵様から聞いて下さいね」
「はい、分かりました」
ロールさんに挨拶をして、ギルドを出て公爵家に向かった。
※※※
公爵家の屋敷に来て早々、リーナが執務室まで駆け足で向かったので俺達も後を追った。
「お父様、ただいま戻りましたわ!」
の、掛け声と共にリーナが勢いよく、執務室の扉をノックした。
中から、公爵様の『どうぞ』の声が聞こえてから、中に入った。
「おかえり、リーナ」
「ただいまですわ。それでお父様。ギルドでカイを指名した依頼を出していたと聞いたのですけど?」
「そうだ。まぁ、まずは座りなさい」
執務机に向かって仕事をしていた公爵様がソファーに腰掛けるように促した。
それから公爵様もこちらに近付いて、一人掛けソファーに座った。
「それでお父様。 何故、ギルドを通して指名依頼なんてしたのです?」
「その方が、カイトが素直に受けてくれると思ったからだよ、リーナ」
「どういうことですの?」
「クルトから報せがあってな」
「お兄様から?」
どういうことだ、リーナの兄ちゃんとは面識が無いけど?
「どうにも、領地の近くにある森に居る、動物達の様子がおかしいようだ」
「動物達の様子が?」
公爵様はリーナの返答に頷いて返していた。
「それで、その異変の調査をカイト達にして欲しいのだよ」
「俺達にですか? でも俺達、学生でもあるので授業がありますよ?」
「その点は私の方で学園長に話しておくよ」
「でも、どうして俺達なんです? 他にも適任者はいますよね?」
「魔物退治となれば、ジアン君達の修業にもなるかと思ってね? 報酬も出すから、いい話だと思うけど、どうだ、カイト?」
まぁ、魔物討伐になれば修業には良いけど、お金は先日大量に貰ったし、どうするかな?
「因みに、王都から公爵家の領地までどの位の日数がかかるんです?」
「2日はかかるな。 普通なら」
ん? 引っ掛かる言い方をしたぞ。
そして、部屋の扉をノックしてきた人が居た。
それは、執事のオコードさんが銀のカートを押して入ってきた。
その後に、セリカ姉ちゃんが居た。
オコードさんは一礼してから、カートの上でお茶の準備を始めた。
セリカ姉ちゃんは一礼してから公爵様の脇に立った。
「陛下に頼んでセリカ殿を呼ばせてもらった」
「よろしく~」
「セリカ殿の通門でカイト、又はノエルが一緒に領地まで行けば自分達で何時でも帰って来れるだろう?」
「まぁ、そうですけど、それならセリカ姉ちゃんもしばらく同伴してもらった方が宜しいのでは?」
「ごめんね~カイく~ん。 私も~そうしたいのだけど~忙しくって~ずっとはいられないのよ~」
セリカ姉ちゃんは苦笑いをしていた。
俺達に修業を付けてくれている間も、たまに王都に戻っていたから時があったからな。
それに、セリカ姉ちゃんも呼んだ位だから、断る選択肢は無くなってしまったし、仕方ないか。
「そういう訳で、今からセリカ殿と一緒に行って、何時でも行けるようにして欲しい」
「そういう事なら分かりました。 今日はとりあえず、場所だけ覚えておきます」
「あぁ、それで構わないよ」
「それじゃあ、ノエル」
「は~い」
ノエルも一緒に、と言う前に察してくれた。
そしてセリカ姉ちゃんがその場で通門を開き、先にセリカ姉ちゃんが入り、その後を付いて入った。
※※※
「ここが~公爵家が国から任されている~領地の~フォージスです~」
通門から出て、見た景色は街と呼ぶに相応しい場所で、その入り口であった。
街の入り口には、門番らしき衛兵が二人立っていた。
「っ!? セリカ様ではありませんか!?」
「っ!? セリカ様!?」
「こんにちは~」
と、セリカ姉ちゃんは手も振って応えていた。
「もしかして、セリカ様が今回の事態解決を?」
門番の一人がそう話してきた。
「ごめんなさ~い。 私は公爵様から頼まれて~この子達を~連れてきただけなの~。 事態解決は~この子達がするわ~」
「公爵様が? この子達は何なのですか?」
「この子達は~私とジェイ君の愛弟子です~!」
セリカ姉ちゃんはドヤ顔をしていた。
「っ!? 噂は本当だったんだ!?」「っ!? お二方に付いていける者が現れたって話は本当だったんですね!?」
門番の二人は驚愕の表情で俺達を見てきた。
「初めまして。 カイトと言います」
「初めまして。私はノエルと言います」
俺とノエルはお辞儀をした。
「二人はなんと~ギルマスのバーン様から~Aランクの評価を頂いたんですよ~! まぁ、当然ですし~Sランクでも~おかしくないですけどね~!」
セリカ姉ちゃんのドヤ顔が止まらなかった。
門番二人は改めて、マジマジと見てきてから挨拶をしてきた。
その後は、場所は覚えたので、そのまま公爵家に戻った。
公爵様とこれからの話をして、夕食もご馳走になってから俺達寮住まい組は、学生寮に戻った。
※※※
次の日、学園の授業が終わった頃、リーナ、エルスと合流して、制服姿のままフォージスに向かった。
街の門番二人に挨拶をし、リーナの案内の下、公爵家の屋敷に着いた。
街の中は活気に満ちていた。 住民は活き活きと暮らせているのが窺えた。
そして目的である屋敷に着くと、屋敷は王都より二廻り程だろうか、小さい感じがしている以外は同じ造りをしていた。
屋敷前に門があり、そして門番二人が立っており、リーナの姿を確認すると敬礼をしてきて、リーナは挨拶を交わした。
そして敷地に入り、リーナが先頭で屋敷の中に入ると、中には30代位と思われる長身痩躯の執事服を着た男性が居た。
「お帰りなさいませ、リーナ様」
右腕を前にしてお辞儀をしてきた。
「エルスティーナ様もようこそお出で下さいました。 そして皆様、お初にお目にかかります。 私、この屋敷で家令長を任せて頂いています、執事のサブナードと申します」
再度、サブナードさんはお辞儀をしてきた。
「因みにサブナードはオコードのご子息ですわ」
リーナが補足説明をしてきた。
そう言われると、どことなくオコードさんに似ている所があるのが窺えた。
「初めまして、私は──」
「カイト様ですよね?」
自己紹介をしようとしたら、サブナードさんが確認をするように、言ってきた。
「そして、ノエル様。 ジアン様。 ルセ様。 ですよね?」
サブナードさんは掌を差し向けてきながら、俺達の事の確認をしてきた。
「実は先日届いた、父からの手紙で皆様の事が書かれておりました。 皆様の特徴も事細やかに書かれておりましたので」
なるほど。 流石、オコードさん。抜かりが無いな。そしてそれを覚えたサブナードさんは凄いな。
「それでは皆様、クルト様の元にご案内させて頂きます」
サブナードさんは一礼してから歩き出して、その後を付いて行った。
案内されて付いていくと、とある扉の前に着いた。
そして、サブナードさんは扉をノックして、返事が返ってきてからサブナードさんは扉を開けて入り、その後をリーナから順に入った。
「クルト様。 リーナ様、エルスティーナ様、カイト様、ノエル様、ジアン様、ルセ様をお連れしました」
「ありがとう、サブ」
入った部屋は執務室だったらしく、執務机に向かって仕事をしていた人物は、薄い水色の髪がショートで、精悍な顔立ちで気品漂う服装を着た男性だった。
サブナードさんは一礼してから退出した。
「お久しぶりですわ、お兄様」
「久しぶりだね、リーナ。 そして、エルスはご機嫌が宜しいようで」
「えぇ、愛しの人に会えて、とても気分が宜しいですわ、クルト兄様」
その人物、クルトさんは椅子から立ち上がり執務机の前に移動して、リーナとエルスに挨拶をしていた。
「まずは私から自己紹介をさせてもらうよ。 私の名前は、クルト・ツォン・フォレスト。 フォレスト家の長男で、歳は二十歳だ。 今は、父からこの屋敷の管理を任されている。 妻や子供も居るが後で紹介するよ」
クルトさんは最後に、軽くお辞儀をしてきた。
「ありがとう御座います。 それでは、今度は自分の方から自己紹介させて頂きます。 私はカイトと言います。 恐れ多くもギルドからAランクの称号を与えられております。 この度、公爵様から指名依頼をいただき、事態解決をさせて頂きます」
最後に俺はお辞儀をして、挨拶を終えた。
「初めまして、クルト様。 私はノエルと申します。 カイト君と同じく、ギルドからAランクの称号を与えられております。 私も微力ながら事態解決をお手伝いさせて頂きます」
ノエルは制服のスカートの端を少しつまみ上げ優雅に、上品なお辞儀をした。
「流石、ジェイド様とセリカ様が鍛えたと噂されていただけはあるな。 礼儀作法まで教わっていたとは………」
クルトさんは少しばかり、驚愕の表情をしていた。
「は、初めまして! じ、自分はジアンと言います! よろしくお願いします!」
ジアンは緊張し、強張った身体でお辞儀をした。
「よろしく。 フフフッ。 そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、ジアン君」
「は、はい!」
「は、初めまして! ルセと言います! よろしくお願いします!」
「よろしく。ルセさんもそんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
「は、はい!」
まぁ、二人の反応が普通だろうけどね。 平民からしたら、貴族でしかも上流階級の公爵家の人なのだから、こうやって挨拶、ましてや、会話をするのも恐れ多いしな。
そして一通り挨拶を済まして、クルトさんが俺達にソファーに座るように手で促し、俺達はソファーに座った。
そのタイミングで、扉をノックする人が居て、それがサブナードさんで、銀のカートを押して入って来た。
サブナードさんはそのまま、お茶の準備を仕始めた。
「さて、父から大まかに聞いていると思うが─」
「えぇ。お父様からは、領地の近くの森に居る動物達の様子がおかしいとか?」
「あぁ。定期的に巡回させてる衛兵からの報告だ。 そして、その報告を聞いて私も森に赴き、確かめた」
クルトさんが直々に、森の状況を確認しに行ったのか。
「それで、森の様子はどうだったのです、お兄様?」
「──結果だけ言うと、静か過ぎなんだ」
「静か過ぎ?」
動物達が居ないって事か?
疑問に感じていると、サブナードさんがクルトさんから順に、ティーカップを置き始めた。
中身は紅茶で、お茶請けにクッキーが入った器も置いた。
クルトさんから勧められるままに、紅茶とクッキーをいただいた。 紅茶とクッキー、それぞれ美味しかった。
サブナードさんはそのままクルトさんの傍らに控えていた。
「さて、先ほどの続きだが。 何時もなら何匹かの動物達の姿が森の外から確認出来たのだが、その何時もの姿が無かったのが事の発端だ」
もし魔物が居れば、例外の個体はいるが、基本的に魔物は産まれたその場所(森や洞窟などの場所)から他の場所に行くことはなく、その魔物のテリトリーに近付かなければ襲って来る事はないって、ジェイド兄ちゃんが言っていたな。
「それで、そういう異常事態が起こった時は、自分達だけで解決せずに、相談をするようにと父に厳しく言われていたからね。 それでまずはって事なんだよ」
そう言う事だったのか。 賢明だな。 不測の事態に備えるのに越したことはないからな。
「分かりました。 それでその森の動物達の様子がおかしいのは何時位から何です?」
「5日前だね。 今日のお昼頃にも巡回したが静かだったよ。そしてその森まで、馬で街から2時間掛かる場所にあるんだ」
そうすると、今から様子を見に行っても夜になるか。それに、そう言う時はいつ変化が起きるか分からないってジェイド兄ちゃんが言ってたっけな。
「ねぇカイ。 出来れば早めに解決したのだけど?」
「リーナの言い分は分かっているよ。 その異常がいつ変わるか分からないからね。 そしたらクルトさん」
「なんだいカイト君?」
「急で失礼ですけど、私達が泊まる事って可能ですか?」
「っ!? あぁ、大丈夫だよ! 空いている部屋は充分にあるからね! よし、そうと決まれば! サブ!」
「畏まりました、クルト様」
サブナードさんは一礼してから退出して行った。
クルトさんは興奮気味になっていた。
「ありがとう、カイ」
「あぁ。 そしたら俺は一度、公爵様の所に行って事情を話して来るよ。 学校の事もあるから」
「えぇ分かったわ」
リーナの返事を聞いてから、皆から少し離れた位置で通門を開き、公爵家に向かった。
公爵家の屋敷前に出てから、オコードさんに会い、公爵様のもとまで案内してもらい、公爵様に事情説明をしてからノエル達のもとに戻った。
フォージスの公爵家の屋敷前に通門で出た。
そして屋敷に入ると中に、見知らぬ紫髪の女性が居た。
「あら? どちら様です?」
「すみません。 クルトさんから森の調査の話を頂いた冒険者です」
俺はお辞儀も交えながら話した。
その女性は整った顔立ちに背中まで伸びたストレートの紫髪、長身で豊満な身体つきで、気品漂う服装を身に纏っていた。しかも、大人の魅力と言うのか、そういうものを感じた。
「あら、そうでしたの? でも随分と幼い冒険者が来たのですね」
「はい。 ですが、期待に応えられるように尽くします」
「まぁまぁ、よろしくお願いしますわね。 それではクルトの所に案内するわね」
「よろしくお願いします」
最後に会釈をした。
女性の後を付いて行くと、先程クルトさんと話していた執務室に着いた。
「クルト、お客様よ。 森の調査をしてくれるとの事で冒険者の方が来てくれたわ」
「──どうぞ」
1拍空いてからクルトさんから返事が返ってきた。
そして女性と共に中に入った。
「母さん、冒険者の方って───カイト君?」
「ハハハハ」
俺は頬をかいて笑うしかなかった。
「あら? この子の事を知っていたの?」
「えぇ、つい先程、顔合わせをしましたからね。母さんにも紹介します」
クルトさんは執務机からこちらに近付いてきた。
「まずは、カイト君。 こちらは母の、マリアナ・ツォン・フォレスト。 先程話した、私の子供の世話をしたくて父のもとから来ているんだよ」
俺は改めてお辞儀をした。
「だって赤ん坊はいつ見ても可愛いものでしょう!」
「だからと言って、ネーゼの育児まで取ろうとしないで下さい」
はは。 結構、面倒見が良すぎるのかな、マリアナさんは。
「──あのクルトさん。 ネーゼ、さん?って誰です?」
マリアナさんと少しばかり言い争いをしていたクルトさんに、知らない名前が出て来たので聞いてみた。
「あ、あぁ。失礼な所を見せたね。 ネーゼは私の妻の名前だよ。 後で紹介するよ。 そして母さん。こちらが父さんに手紙で相談して、今回の事態解決をしてくれる冒険者のカイト君だ。 こう見えてもAランクの称号を与えられている実力者だよ」
「まぁまぁ! 凄いのね! リーナと変わらない程の年相応にしか見えないのにね!」
マリアナさんは驚いた表情をしていた。
「なんてったって、ジェイド様とセリカ様の愛弟子なんだからね。 礼儀正しいだろ?」
「そういえば、最初に会ったときから礼儀正しかったわね。 あまりにも自然過ぎて気にしていなかったわ」
「さて、せっかくなんでリーナ達の所に案内するよ。 多分ネーゼの所に居るはずだからね」
「はい」
クルトさんが先頭で部屋から出て、次にマリアナさんが続いて最後に俺が続いた。
※※※
少し歩いて着いたのは、私室とクルトさんが言ってきた。
中に入ると、高級そうな装飾品類が飾られていた。
そして、ソファーに落ち着いた気品漂う服装の薄ピンク髪の女性が赤ちゃんを抱き、その周辺にノエル達が居た。
どうやら、赤ちゃんを見に来ていたようだ。
「あら? アナタ、お義母様。 その方は?」
「お義姉様。 さっき話していた私達のカイトですわ」
リーナが応えていた。応えていたのは良いけど、私達のって、どんな説明をしてんだよ。
俺達は座っている女性のもとに近付いた。
「初めまして。 カイトと申します。 森の異変を解決させて頂きます」
「ご丁寧にありがとう御座います。 私はクルト様の妻のネーゼと申します。そしてこの子がマックスです。男の子よ」
一緒に紹介された赤ちゃんは、つぶらな瞳でジーっと俺の方を見ていた。
「フフッ。可愛いですね」
「えぇ、ホントよね。 それに、こんなに人を見ているのも珍しいわ。 抱っこしてみる、カイト君?」
「良いんですか?」
ネーゼさんは立ち上がり、更に近付いてマックスを抱っこするように腕を出してきた。
そこまでされたからには、抱っこしないといけないので、マックスを抱っこした。
抱っこすると、赤ちゃんって結構重たいんだなと感じた。
俺に抱っこされたマックスは、喜んでいた。かなり可愛い。小さな手のひらに指を差し出すと、ギュッと握ってきた。
「ホントに珍しいわ。こんなに最初から喜んでいるなんて」
「確かに。 使用人達にも育児を頼んでいるけれど、最初は大人しいか、泣いている方がほとんどなのに」
「あらあら、カイト君。 マックスちゃんに懐かれて羨ましいわね~」
ネーゼさん、クルトさん、マリアナさんが続け様に言ってくる所を聞くと、マックスが喜んでいるのは本当みたいだな。
「はぁ~、いいなぁ~赤ちゃん」
「ノエルがそう言うのは当たり前よね」
「そうよね。 でも、私達も望めるのよね」
「「???」」
カイトにギリギリ聞こえない声で、ノエル、リーナ、エルスの意味深な発言に、ジアンとルセが分からずにいた。
その後は、みんな、マックスを抱っこ仕始めた。みんなに抱っこされてもマックスは終始喜んでいた。
気のせいか、マックスの視線が終始、俺の方に向いていたような?
そんなやり取りをしていると、サブナードさんが夕食が出来た、と、呼びに来て晩餐室に移動した。
豪勢な料理を用意してもらい、食事中はマリアナさんに俺達の事を聞かれる方が多く、その際に、エルスが婚約者と話してしまったりと、とんでもない方向に進んでしまったりもしたが、面白おかしく舌つづみを打ちながら頂いた。美味しかった。
その後は、浴場もあるからと聞いたので入り、気分をスッキリさせて就寝した。
※※※
翌日、朝食を食べてから、馬車を出してもらい森に向かった。
「で、リーナ。ここがその森なのか?」
「えぇそうよ、カイ。 お兄様が言っていた森は」
途中、魔物にも遭遇する事もなく順調に着いたため、新たに気合を入れ直し、それぞれ得物をマジックバッグから出して装備した。
「クルトさんが言っていた通り、静か過ぎるな」
「えぇ。一体なにが起きているのかしら」
エルスも流石に、来る途中で巫山戯ていた雰囲気から、一転して真剣な表情を浮かべていた。
ノエルは相変わらずだが、ジアンとルセは緊張気味になり表情が、強張っていた。
「な、なぁカイト。 く、来る途中で言っていた事は本当なのか?」
「そ、そうだよカイト君! 本当に私達で対処するの?」
「心配するなよ2人共。 ある程度はやらせてみるって言っただろ? ちゃんとサポートはするから心配するな」
2人の修業の為と思って、少しは任せてみようと話していた。
「先頭は俺が立つからな。最後尾はノエルだ。 よしっ、行くぞ~!」
「お、おう」「う、うん」「「えぇ」」「お~!」
俺の掛け声にジアン、ルセ、エルス、リーナは声のみで、ノエルだけが、俺の拳を挙げての掛け声に応えていた。
※※※
「結構進んだのに、一匹も動物達に遭遇しないな」
「えぇ。それに、もはや森の中心に着くわ。やっぱり何か起こったと考えるべきね」
自分の領地の事だけに、森に詳しいリーナが応えていた。
「だな───ん?」
「どうしたのカイト。って、結構荒れているわね」
「あぁ」
俺の視線の先を見たエルスが応えていた。
魔物同士がぶつかり合い、争ったように木々や草花が散乱していた。
「リーナ。森の中心には何があるんだ?」
「泉があるわね。 動物達がそこを飲み水にしているわ」
もしや、今回の元凶がそこにでも居るのか?
「みんな。更に警戒しながら進むからな?」
みんなの方を見て言うと、それぞれが頷いて応えてくれた。
※※※
「(アレは!?)」
荒れた木々や草花を発見してから更に進んだ先に、リーナが言っていた泉があった。
そして、そこ居たのは、大きいくちばしを持った鳥の頭、鋭く尖った爪を持ち、羽毛に包まれた3m程の4足歩行の体格、その背中に翼がある魔物が、泉の水を飲んで居る所であった。
「(カ、カイト!? あ、あの魔物、な、何なんだよ!?かなり強そうじゃないか!?)」
「(俺も実物を見るのは初めてなんだが、アレは、ジェイド兄ちゃん達に教えてもらった、魔物の特徴とピッタリで、グリフォンと言ったかな)」
「(グリフォン…………)」
「(Aに近いBランクの強さを持っているって言っていたような?…………………)」
確か、普段は大人しい性格が、一度激昂すると暴れ廻る習性を持っている。って、言っていたような?
「(で、どうするのカイ?)」
「(多分だけど、あのグリフォンが原因で、森の動物達が居なくなったんだと思う。いや、食われたか…………)」
「(……………食われた妥当な所でしょうね。それで、グリフォンの討伐をジアン君達に任せるのカイト?)」
「(あぁ。試したい事もあるからな)」
そんな2人を見ると、絶望している、と表現する方が分かりやすい位に顔面蒼白になっていた。
「(ちゃんとサポートするって言っただろ。………………因みに聞くけど、グリフォンと、これから少し厳しくしていく俺との修業どっちが良い?)」
俺は満面の笑みを向けてやった。
「「(…………………グリフォンで)」」
2人が何を想像したのか、何となく分かっていた。 なので、今回、どれくらいレベルアップしたかによるけど、2人の想像に応えてやらないといけないな。
「(そしたらノエル。 グリフォンが飛んで、逃げて行かないように水の結界を作ってくれ)」
「(オッケー)」
木々や草花に身を潜めて、ヒソヒソ話をしていて、ノエルに頼んで行動を起こす時に問題が増えた。
上空からもう一体グリフォンが降りてきたのだ。そして、水を飲み始めた。
「(って、もう一体かよ!?)」
「(ど、ど、ど、ど、どうするんだよ、カ、カ、カイト!?)」
「(も、も、も、も、もう一体なんて、わ、わ、私達じゃ無理だよ、カイトくん!?)」
確かに2人には荷が重いな。
「(それなら、もう一体は私とリーナで対処するわ)」
「(えぇ、そうね。 エルスと一緒なら、対応可能でしょうから)」
「(分かった。もう一体は2人に任せるよ)」
リーナとエルスはジアン達より、全体の能力値が上だからすぐにやられるなんて事にはならないしな。
「(そしたらノエル。 水の結界を2つにして、その後リーナとエルスのサポートに廻ってくれ)」
「(了解。 じゃあ、いっくよ~)」
ノエルはグリフォンの上空目掛けて手をかざして、魔法を発動した。
仲良く並んで水を飲んでいた2体のグリフォンを中心に、水の障壁が出来上がり、それぞれに別れた2体のグリフォンが居る所を端にして、100m程の大きさのドーム型の水の結界が作られた。
突然の事でグリフォンは騒ぎ出した。
俺達もそれぞれの結界になる位置に入って隠れた状態で居たので、行動を起こす事に。
「よしっ!行ってこい2人共!」
そう言っても2人は中々動こうとしなかった。
「カ、カイト!やっぱり、オレ達だけじゃあ無理だって!」
「そ、そうだよカイトくん!ジアンの言うとおりだよ!」
2人は腕が、ガタガタと震えていた。
「大丈夫だって! 俺が一緒に居る間は、お前達は絶対に死ぬ事は無いから。 それとも…………………俺じゃ心許ないから怖いのか?」
「………………………ごめんカイト!」
「………………………ごめんなさいカイトくん!」
2人の腕の震えが治まっていた。
「オレ、やるよ!」「私、やるね!」
「あぁ。頑張ってこい!」
俺は2人の肩に優しく手を置き、2人に俺の魔力を渡した。
2人はまだ魔力操作を初めて日が経っていないから、他人の魔力を感じる事が出来ない為、俺の魔力を感じられていない。
そんな事も分からない状態で、2人は意気揚々と向かっていった。
そして、目的のグリフォンはジアンとルセを視認すると、警戒心を表すように身構えていた。
先に仕掛けたのはルセであった。ルセは手をかざして【土塊】を5個作り、放っていた。
普通ならルセの魔法力だと、グリフォンには大したダメージにならないのだが、俺の魔力が上乗せされている所為で、普通にダメージを負わせる事が出来た。
その証拠に、グリフォンはブレスで、ルセの放った【土塊】を消して、そのままジアン達にブレスを喰らわせようとしたに違いないが、相殺も出来ずに、むしろルセの魔法がブレスを突き破って、グリフォンにダメージを与えていた。
グリフォンはよろめきながら鳴き声を上げて、ルセは信じられない、と言わんばかりの驚愕の表情を浮かべていた。
ジアンもその光景を見た瞬間はルセと同じ表情を浮かべていたが、瞬時に真剣な表情になっていた。
ジアンは続け様に切り掛かりに行き、グリフォンがよろめいた体勢から翼で防御しようと、片翼でジアンの攻撃を防いだ。
だが、こちらも本来なら、ジアンの力では、グリフォンの強固な羽毛の身体に、キズを付けられないが、俺の魔力で身体能力が飛躍的に向上しているので、グリフォンの翼を切り裂き、片翼だけにしてしまった。
そんな事をしてしまったジアンは、オレも出来てしまった!と、言わんばかりの表情を浮かべているのが分かった。
そんな2人は一度態勢を整える為に、後退していた。
と、少しばかりノエル達の方を観ると、ノエルは後方で、リーナとエルスが交互に切りつけていた。
そして直ぐさまリーナとエルスに雷魔法を、グリフォンを挟んだ両側から、放ち討伐してしまった。
本当に少ししか観ていなかったが、全く同時に掛け声無しで放つなんて、感覚共有のスキルが無いと、中々ああいう風には出来ないよな、流石に。
こちらのグリフォンが雄叫びを上げ、視界を戻すと、ジアン達に突進仕始める所であった。
俺はグリフォンとジアン達の間に、瞬時に2m程の風の障壁を作り、それにグリフォンが衝突した。
「今だ2人共!」
衝突しよろめいた瞬間を狙うように叫んだ。
先頭をジアンが、遅れてルセが走り、その途中でルセが【水刃】を、俺の魔力も使い切るであろう位に、ありったけの魔力で無数に作り放った。
無数の【(水刃】は、グリフォンの片翼を切り裂き、身体を切りつけた。
キズ付けられたグリフォンは暴れ廻っていた。
グリフォンはブレスをジアンに向けて放ち、ジアンは横に飛び退き、ブレスを躱して再度グリフォンに向かっていった。
ジアンは剣を振りかざしてグリフォンに切りつけた。だが、グリフォンは、阻止するかのように鋭く尖った爪の前脚をジアン目掛けて、振っていた。
ジアンは咄嗟に剣でグリフォンの攻撃を防いだ。
防いだは良いが、体格差もあり、グリフォンは死に物狂いで攻撃している為、ジアンは身動きが取れないでいた。
ちょっとマズいかな?……………
その矢先に、グリフォンに向かって矢が飛んでいた。
魔力を使い切った為、ルセが弓矢での援護に廻っていた。
グリフォンは自身に向かってきた矢に気付き、対応しようとしたほんの少しの隙をジアンが見逃さず、ジアンはグリフォンの前脚を横に受け流して、体勢が悪いままだったが、そのまま胴体に剣を突き刺した。
そして、グリフォンは鳴き声を上げながらよろめき、横たわり、動かなくなった。
トドメを刺したジアンはその場にへたり込んでいた。 後方で援護してルセもその場にへたり込んでしまっていた。
その瞬間に、ノエルが張った水の結界が消えた。 ノエルがこちらの様子を見て、タイミング良く消したようだ。
「お疲れ様、カイト」
エルス達が近付いていた。
「あぁ。 俺は何もしていないよ。 そっちこそお疲れ様。ノエルも結界サンキューな」
「どう致しまして」
「それで、あの2人に何をしたの、カイ? そうでなかったらこんなに早く終わる訳無いもの」
それはそうだよな。 流石に、3人は気付いたか。
「あの2人に俺の魔力を渡したんだ」
「…………だからと言って、ほとんどあの2人で倒せるものなのかしら?」
「エルスの疑問は最もだ。 俺も半信半疑だったんだけど、あの2人の大幅な能力アップは、付与スキルの効果が大きく働いたみたいなんだ」
「カイ君が試したい事があるって言っていたのは、それだったんだね」
「あぁ。そう言うことだよ」
だけど、全体の能力値が低いジアン達が、俺が渡した魔力で、グリフォン相手に勝てる位に大幅なアップをするんだ、これは危険な相手の時にだけに限定しないとな。今のジアン達には結構な負担もかかるだろうし。 それにこの付与スキルは、まだまだ何か出来そうな感じがするけど、ひとまずは置いておくか。
それから、空元気のジアンとルセを、疲労回復魔法【リフレッシュ】で回復させて、2体のグリフォンをマジックバッグに回収して、森を後にした。
※※※
その後は何事もなく、フォージスの屋敷に戻り、執務室にてクルトさんに今回の説明をしていた。
「ありがとう、みんな。 こんなに早く事態解決をしてくれて」
クルトさんはソファーに座ったまま、深く頭を下げてきた。
「気にしないで下さい。 今回森に向かって行かず放置していたら、確実に街まで来て被害があったでしょうから」
「そうですわよ、お兄様。 カイはやると言ったらやる人ですから」
「そうみたいだね。 リーナとエルスの想い人は頼もしい人物のようだ」
「もう、お兄様ったら」「当然ですわ、クルト兄様」
クルトさんはイタズラな笑みを浮かべて、リーナとエルスをからかっていた。
その後は、屋敷で夕食をご馳走になってから、王都の公爵家の屋敷に通門で向かった。
公爵様に説明をする為に、リーナを先頭に執務室に向かった。
中に入ると、バルザ隊長も居て、一緒に今回の説明を聞いていた。
クルトさんから解決した旨の手紙を渡して、公爵様から感謝を述べられた。 報酬はギルドに渡している、と言っていたので明日にでも取りに行く事になった。
それから、一緒に説明を聞いていたバルザ隊長から、我が公爵様の近衛騎士団と手合わせをして欲しい、と強く願われたので、手合わせすることになった。
公爵様に説明していて遅い時間になり、そのまま屋敷に泊まる事になった。
翌日は、登校しても何事も無くすんで終わり、ギルドに向かって報酬を貰いに行った。
貰った報酬は金貨20枚であった。 どうやら、日中に公爵様の使いの人が来て、金額を上乗せした、とロールさんが言っていた。
既に、10歳にして大金持ち持ちになってしまった。
それから数日後に、バルザ隊長が言っていた近衛騎士団と手合わせをすることになり、少しでも経験を積ませたくて、ジアンとルセにもやるように言った。
結果は実力や経験の差もあり大敗した。 これも1つの経験だ。
それにジアンは今回の手合わせで、何やら思うとこができたようだ。 やっぱり手合わせをさせて良かったかな?
それからは、バルザ隊長を含めた近衛騎士団20名と1度にまとめて手合わせをして、当然、俺の大勝であった。
その後も定期的に、騎士団と手合わせをする約束をした。
それに、終始バルザ隊長は気配りをしてくれた。かなりのお人好しのようだ。
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