2ー34話
※エルス達が観覧部屋から出て行く頃──
【ティアナ視点】
「あの者の名は、カイト。エルスの婚約者にして、今、この場に居ない剣聖であるジェイドと魔導師セリカの愛弟子で、ジェイド達曰く、自分達を凌ぐ程の実力を有している持ち主だよ」
「なっ!?」
聖王国のカイゼル陛下が自信たっぷりに言っておりました。
その言葉に驚愕の表情を浮かべていたお父様。それにお父様だけで無く、お母様や護衛で居る騎士王国の騎士達も同じく驚いておりました。
きっと私も。
カサドラ様を含めた聖王国の騎士の方達は、その事を予め知っていると言わんばかりに頷いておりました。
「そ、それは本当なのか、カイゼル!?」
「あぁ。本当だ。 それにカサドラ様の魔法が容易く破られ、ジェイドとセリカが居ない今はカイトに任せるしかないのだ」
カイゼル様は絶望するような表情や瞳をしておりませんでした。それに聖王国の騎士の方達も同じ表情をしていました。
それに比べて、騎士王国の騎士達は戸惑いや困惑の表情を浮かべていたのです。
それに、あの時ぶつかった人がそれ程の実力を持っていたなんて。
『キレイな瞳ですね』
家族以外の異性に初めてあんな事を言われた。
正直、両眼の違う私の瞳を見て、恐怖や軽蔑の眼差しも無く褒めてくれたのはあの方が初めてだった。
───カイト、様──
あの方ならもしかしたら私のもう一人の──
「カイゼル君、オルドネス君、私はこれから街に出て住民の避難誘導をしてきます」
「分かりました。それと民の命が大事ですので、国からギルドに報酬金を出しますので冒険者のやる気を出させて下さい」
「カサドラ様、我が騎士王国からも同じく報酬金を出します!」
「ありがとう二人共。 それでは私はこれで」
そう言ってカサドラ様は退出して行きました。
でも、お父様達のさっきのやり取りはどう言う事なんでしょうか?
「あ、あのお父様…………」
「ん? どうしたティアナ?」
お父様に近づいて質問をしていました。
「さ、先程の………冒険者のやる気を出させてとは……どう言う事です?」
「あぁ、そのことかい」
お父様は先程まで興奮状態で話していた時と違い、優しい口調で話してくれていました。
「ティアナは知らない事だったね。 ほとんどの冒険者は利益が無い事はしない者が多いんだよ。中には利益に関係無く動いてくれる冒険者もいるけどね。 その中で利益が無い冒険者を動かすのは」
「………………お金、ですか?」
「そうだ。 冒険者は内容と金額次第でどんな依頼も受けるからね。 その中でギルドが緊急事態の依頼を発注すれば、冒険者は喜んで動いてくれるんだよ。報酬金がたんまりと手に入るからね」
「そうなんですの。 …………何だか残念ですわね。 そうしないと動いてくれない冒険者がいるなんて…………」
「そうだね、ティアナの言う通りだね。 カサドラ様も改善はしないといけないと言っていたよ。 だけどね、冒険者はそれで生活を続けているから仕方の無い事でもあるんだ」
それに、無力な私にはどうする事も出来ませんものね。
「それでカイゼル、我らも前線に行くか?」
「行けません、騎士王様! 状況の分からない場面で王が自ら前線に出る何て以ての外です!」
騎士の一人がお父様を嗜めておりました。
「そんな事を言っている場合では無い! 民が居ての王だ! それをここで手をこまねいておれるか!」
「いや、待てオルドネス!」
「なんだ、カイゼル!」
「カイトが何とかしてくれる」
「まさか、カイゼル……………視えたのか!?」
お父様だけで無く、お母様とラヴィエス様も何か知っている感じでした。
「あぁ。ハッキリとではないがな。 エルスが色々と手を廻しているみたいだから、最悪の事態にはならないはずだ」
「そうか、視えたお前が言うなら、そうなのだろな」
お父様はカイゼル陛下の言葉を聞いて納得しておりました。
一体どう言う事なんでしょう?
「あぁ。 だが、出来る限りの事はしないといけない。 バルザ隊長、皆を引き連れて民の避難誘導を手伝ってくれ。 頼む」
「……………分かりました、陛下。 行くぞ、皆」
「「「「「「はい!」」」」」」
聖王国の騎士達は出て行きました。
「お前達も民の避難誘導に向かうんだ!」
「ですが!!」
「頼む!!」
そしてお父様は頭を下げてました。
「頭をお上げ下さい騎士王様!!」
お父様は騎士の一人に言われ、頭を上げました。
「騎士王様。騎士王様にそこまでの事をさせてしまった我らが浅はかでした。そんな我らをどうかお許し下さい」
そして騎士王国の騎士達は、お父様に跪き、頭を下げてから行ってしまいました。
「それでカイゼル、我らはどうする?」
「我らはここで状況把握をするしかあるまい。 二人共出来るか?」
カイゼル様は、ラヴィエス様とお母様を見て言っておりました。
「サティちゃん久しぶりだけど出来る?」
「きっと大丈夫よラヴィちゃん」
そして二人は目を閉じ手を繋いで、小さく口元を動かしていました。
一体何をなさるのでしょう?
「お、お父様、お母様は一体何を?」
「ん? あぁ。 二人は今からここにモニターを作るんだよ」
ん? 聞き慣れない言葉をお父様が仰いました。
「お、お父様、今、聞き慣れない言葉が?」
「あぁ、ティアナが知らないのも無理は無いよ。 元々この世界に存在しないモノを魔法で創り出すのだからね」
どう言う事ですの?
「お父様、それはどう言う意味ですの?」
「まぁ、見てなさい」
ラヴィエス様とお母様が同時に手をかざして、何かの魔法を発動しようとしてました。
そして次の瞬間、眩い光が部屋全体に広がりました。
とても目を開いていられない程です。
光が収まった時に、目を開くとそこには見馴れないモノがありました。
「お、お父様、これは一体…………」
「これは、聖王国の魔導師セリカの師匠である、アイリーン殿が創作した魔法【モニタリング】と言って、この都市とその周辺の範囲になるが、離れた場所の状況を視る事が出来ると言う魔法だよ。」
そこにあるのは、光魔法で作り出された、両腕で抱きかかえる程の程良い大きさの丸い光の球体が六つ、ありました。
「これは、アイリーン殿との盟約で、王族と信頼出来る一部の者にしか教えてならないと言われていたのだよ。その証にラヴィ殿とサティの二人が揃った時に発動出来るようにと、制限付きで教えられていたのだよ。」
その一つをよく見て見ると、鮮明に人が見えました! しかも、動いているのです!
「これで都市で何が起こっているか分かるはずだ」
その中の一つを私が見たのは、あの方が戦っている場面でした。
──カイト様
お読みいただきありがとう御座います。