2ー33話
※リーナ達と別れ、カイトがアグル・ニグルニスとドラゴンの相手を仕始める頃──
【ノエル視点】
「宿屋は無事だったみたいで良かった!」
カイ君に懐いていた馬達が無事みたいで本当に良かった。
何だかんだでカイ君って、動物の面倒見が良いから、動物に好かれるんだよね。
だから、そういう動物は大事にしないとね。
この辺の住民の避難も済んだし、カイ君の所に向かわないと。
と、その前に。
「ヒャヒャヒャ! この辺に放った魔物の大半を殺ったのはやっぱりテメェかガキ!」
そこにはショートの金髪、つり目で口角がつり上がった特徴的な顔立ち、黒のローブを羽織った長身の男が居た。
今この人、やっぱり、と言った。つまり、この人とは以前に会っている。
「あぁん? オレ様の事を覚えて無いのか、ガキ。 まぁそりゃあそうだよな、あの時は顔を隠していたからな。 ならよ、こう言えば分かるか」
男は身体全体で笑っていた。
「あのクソ村のクソ共を根絶やしにして、テメェと同じガキにオーガを倒された時に居たけどな! ヒャヒャヒャ!」
「ふぅ~!」
正直、二度と会いたく無かった人だけど、会えて嬉しかった。 今の話を聞いて、この手でぶちのめす都合が出来たから。
私は息を整えて、武器も無い、無手の状態で身構えた。
「ヒャヒャヒャ! 魔神信仰教団の幹部であるオレ様、サヴァン様に勝てると思っているのかガキが!」
このゲスな人と会話もしたく無い! 早々に片をつける!
身体強化をして【雷装化】にもなり、身体能力を大幅に向上させた。
「あぁん? なんだ雷装化は! ガキ!」
そんな声を無視して、ヤツの鳩尾目掛けて肘鉄を喰らわせた。
「ぐはぁっ!!」
そしてそのまま後ろに吹き飛んで行った。
ヤツは立ち上がり、見事に喰らってしまった鳩尾を腕で抑えていた。
「こ、このクソガキィィィィ!!」
しぶとかった。殺すつもりで攻撃したのに、気絶すらしないなんて。
ヤツは突然身体からドス黒く禍々しい魔力を出していた。
そして、先程のダメージが無いと言わんばかりに、元気になっていた。
「この間の礼も返してやるぜ! 風よ、大気を震わせ、全てをのみ込め【竜巻】」
ヤツは、2階建ての家一軒丸々のみ込んでしまう程の大きさの風が吹き荒れる渦の竜巻を作り出した。
【竜巻】は家屋を次々と壊してノエルに迫っていた。
「ヒャヒャヒャ! どうするガキィ!! 逃げるか!」
逃げる? 冗談でしょう。この辺りは大切な施設があるんだ逃げる訳にいかない!
【竜巻】は段々と近付いて来ていた。
私は、魔力を圧縮して威力を高めた逆回転の【竜巻】を作り、相殺するようにぶつけた。
「ガキが! やっぱり詠唱も無しに魔法を発動したのか!」
そして私の作った【竜巻】がヤツの【竜巻】とぶつかった。
とてつもない魔力同士がぶつかり合い、しばらくしてヤツの魔法を相殺した所で、私は【竜巻】を消失させた。
「ガキがぁ!! 炎よ、全てを燃やし尽くせ【大炎球】」
ヤツは手を上にかざして詠唱した魔法は、家一軒丸々のみ込む程の大きさで、禍々しさも混じり赤黒く燃えてる炎の球を作り出した。
「ヒャヒャヒャ! 今度こそ終わりだ! 消し炭になりやがれ!」
そして私に向けて放ってきた。
今度のは魔神の力も加わっているのか。
カイ君が言っていたっけ。
魔神の力の一部を使っている魔神信仰教団が使える力を属性に分類するなら闇属性の上位、深淵と言っていた。
そう簡単にはいかないか。
それなら凍らせるしかない。
私はヤツの【大炎球】目掛けて右腕をかざし、光属性の上位、聖光を氷属性と混ぜて魔力を圧縮した【聖光零度】を放った。
【聖光零度】は光の粒子がヒンヤリとしており、それが【大炎球】を包むように纏わり付いた。
そして万遍なく纏わり付いた瞬間に、眩い光を放ちながら凍り付いた。
「な、んだ、と!?」
ヤツは驚愕の表情を浮かべていた。
私は左腕もかざして、凍らせた【大炎球】を小さくする為に、両腕でギュギュッと小さくする動きをして、小さくしていった。
そして、60cm程の大きさまで小さくした。
「──けるな! ふざけるな! ふざけるな !ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなぁぁぁっ!!」
ヤツは怒りをあらわににした表情を浮かべていた。
「オレ様が負ける訳がねぇんだ! こんな所で負ける訳がねぇんだ! きっと何かの間違いだ! オレ様は幹部だぞ! オレ様は強いんだ! オレ様がこんなガキに負ける訳がねぇんだ! ソウダ! マケルワケガナインダ!」
突如、ヤツの言葉がおかしくなったと思ったら、大量の禍々しい魔力を放出仕始めた。
私は直感でヤバイと悟り、【聖光零度】を放った。
だが、ヤツに纏わり付いて禍々しい魔力が私の放った光の粒子を、虫でも払うように払い除けた。
そしてヤツは、禍々しい魔力を球体にして、自身の姿を隠してしまった。
私はそれでも、聖光魔法で攻撃を仕続けた。
だが、私の聖光魔法でも、ヤツが作り出した球体に傷を付けることが出来なかった。
※※※
それから、ヤツが球体に隠れて30分程だろうか、変化が現れた。
球体にヒビが入ったのだ。
強敵と渡り合う時の心得をジェイドお兄ちゃん、セリカお姉ちゃんから教わっていた私は、警戒しつつ、気を緩められる時は緩めておかないと長期戦は出来ないと言っていたので、少し気を緩めてていた私は、気を引き締め直し、身体強化をして【雷装化】になり身構えた。
それと念の為に、宿屋と厩舎に5重の光の結界を張っていて、カイ君が成長したらしく眷属の加護に魔力、体力回復【中】が追加された影響もあり、魔力も完全回復した。
そして、ヒビが段々と大きくなってきた。
「──ウォォォォォォオオォォォ!!」
それは、雄叫びと共に球体から出て来た。
球体から出て来たヤツの姿は、人であった面影は無かった。
その姿は、頭部に2本の角が生え、口元にも鋭い牙が生え、肌は蒼白く、手脚の指先も鋭く尖っており、背中には羽が生えていた。そして、瞳は紅く、耳も尖っていた。
そう、背中の羽といい、地球での想像物の悪魔と呼ぶに相応しい姿形をしていた。
「──ス! コロス! コロス! コロス! コロスゥゥゥッ!」
ヤツは、身体全体を使って叫んでいた。
直感で、分かってしまった。
今の私では勝てない、と。
なら、少しでも長く足止めしないと。
ヤツの視線が私を捉え、一気に間合いを詰める突進をして来た。
突進をしてきたヤツのスピードはかなり速かった。
「ウォォォォォォオオォォォ!!」
私は瞬時に躱した。
突進を躱されたヤツは、そのまま見境も無しに周辺の住宅を次々と壊していた。
次の瞬間、結界を張った宿屋にぶつかった。
ヤバイ!!
私が張った5重の結界は瞬く間に3層まで破壊された。
「やらせるかー!」
人が使えるレベルの魔法の最高位まで極めた聖光魔法で作り出した結界が容易く破壊された時点で、私には打てる手が無いのは承知しているが、ヤツの狙いを私に絞ってもらう為に、手当たり次第に魔法を放った。
「ウォォオオォォォ!! コロス! コロス! コロス!コロスゥゥッ!!」
ヤツに放った魔法は幾つか圧縮もしたのも混ぜていたが、全くの無傷であり、そしてヤツの狙いが私になった。
ヤツは両手から禍々しい魔力を出し、80cm程の球体を作り出した。
それを防ぎきれないと分かり躱した。
躱したそれは、壊れた住宅に衝突して跡形もなく無くし、巨大な窪みが出来てしまった。消滅してしまったのだ。
マズイ! このままじゃあ、街が!?
さっき私が魔法で攻撃した時に知ったけど、傷は付かなかったが、少しよろけていたのをちゃんと見ていた。
私は、かなりの量の魔力を圧縮を繰り返して、質量を上げて、ヤツに圧縮した風をぶつけて都市の外に追い出そうと決めた。。
そしてヤツは私の放った魔法に抵抗していたが耐えきれなくなり、都市の外まで行きそうな速度で吹っ飛んで行った。
私は空かさずに後を追った。
そして私が飛ばした方角は──
お読みいただきありがとう御座います。