2ー30話
ドス黒い禍々しい魔力を纏ったドラゴンを都市の外、平原方面に飛ばして、その後を追っている最中に見た都市は酷い有り様になっていた。
建物は焼け壊れて火の手が上がり、住民の悲鳴も聞こえたりしていた。
こんな事をするのは、さっきドラゴンの背に人影が見えていたけど、そいつ一人では厳しいから他にも仲間が居るに違いない。
皆と遭遇しないといいけれど。
そして、平原まで来ると俺が吹っ飛ばしたドラゴンが横たわっていた。
その隣には黒のフードを目深に被りローブを纏い、禍々しい魔力を持った者が居た。
「………………小僧、お前は何者だ?」
その声は先程、武闘場で聞いた冷酷非情な声をしていた。
そして傍らに横たわっていたドラゴンは起き上がり、その者の傍で静かに佇んでいた。
「アンタこそ何者なんだ! ドラゴンまで連れて何を為ようとしてるんだ?」
「なぁに、少々この都市の者達を殺す必要があっただけさ。フフフッ」
「……………………それは魔神復活に必要だからか?」
「っ!? フフフッ! アハハハハハハッ! そうかそうか! サヴァンが話していた子供はキサマか! 刀使いよ!」
サヴァンと言った奴は多分“あの村”で遭遇したヤツだろうけど、刀を知っているなんてコイツ何者なんだ!? ステータスもサヴァンと同じく視えないし。
「アンタは何者なんだ?」
その者は目深に被ったフードを取り、ローブを取り去った。
白灰のボサボサのショートヘアー、精悍な顔立ち、高身長で明らかに鍛えられ洗練された体格、黒を基調とした軽装をしていた。
そして、その男の腰には刀が帯刀されていた。
「良いだろう教えてやろう。キサマを殺す私の名を」
その男は抜刀して剣先をこちらに向けてきた。
男が持っていた刀の刀身は、俺の持つ【虚空】より、明らかに洗練され完成された漆黒の黒刀だった。
俺は、マジックバッグから【虚空】を出し、魔力を流し強化して構えた。
「私はアグル! アグル・ニグルニス。さぁ、小僧、殺し合おうか!」
アグルは最後に言い終えるタイミングに斬りかかってきた。
【雷装化】のままでいた俺は、軽々とアグルの攻撃を防いだ。
だが、アグルはその一太刀で終わらずに2連3連と続けて斬りつけてきた。
何十回かの剣戟を繰り広げた後、アグルは後退していった。
「ふむ。 やはりやりおるな小僧よ! しかも、私の知らない雷を身に纏っておるしのぉ? 剣聖が居ないからつまらないと思っていたからな、楽しいぞ小僧!」
「くっ!巫山戯やがって!」
しかも、ジェイド兄ちゃんが居ない事まで知っているなんて。まさか、コイツらがジェイド兄ちゃんとセリカ姉ちゃんが居ない事に関係しているのか!?
「小僧、余計な事を考えていると……………死ぬぞ!」
ヤツが最後に発した言葉と共に、途轍もない殺気を放ってきた。
これは、本当に余計な事を考えている暇は無いぞ! 少しでも油断したら殺される!
俺は、呼吸を整えて、再度構え直した。
「早々にくたばってくれるなよ、小僧!」
ヤツは先程より段違いな動きと剣速で斬りかかってきた。
その太刀筋は、ギリギリ捌ききれる剣速であったのだが、ヤツはまだ全力ではないと確信した。
本気のジェイド兄ちゃんと互角か、それ以上の強さを持っているのが、ヤツの笑みで分かった。
ヤツは【雷装化】状態の俺が捌ききれるギリギリの剣速で、攻撃してきているのだから、巫山戯ていやがる!
「小僧! もっと集中しないと死ぬぞ!」
ヤツの攻撃が段々と速くなってきた。
「(この子供の身体で何処まで保つ?)」
俺は、更に魔力を身に行き渡らせて、身体強化を最大限まで高めた。
「ハハハッ! 良いぞ小僧! その調子だ!」
ヤツの攻撃が鋭くなった。
※※※
その後は何十、何百もの得物だけで無く、魔法も駆使しての応酬を繰り返していた。
ヤツの攻撃が鋭さを増し、一瞬反応しきれずに右頬を少し切られてしまった。その他にも身体のあっちこっちに切り傷が出来てしまった。
俺は頬を切られた反動で、瞬時にヤツとの間に風を爆散させてその場から退いた。
ヤツとの剣戟があまりにも激しかったので、辺り一帯、大なり小なり地面が抉れていた。
「ハハハッ! どうした小僧! まだまだこれからではないか!」
ヤツが喋り出した時に、【ヒール】を身体全体にかけてキズを塞いだ。
「ふぅ~。 正直、アンタには今の俺では勝てる気が全くしないから参ったよ」
「なんだ小僧、まさか大人しく殺されるとでも言い出すのか?」
「それこそまさかだろ?」
それよりも、傍らで大人しくしているドラゴンが、いつ都市に向かうか分からないからな。警戒を怠る訳にはいかないしな。
「そうか、このドラゴンが気になって集中出来ていなかった訳か?」
俺の視線がドラゴンに向いていたのに気付いていた。
「当たり前だろ。 そのドラゴンも警戒しない方がどうかしている」
「クククッ! これは失礼だったな。お前が私を楽しませてくれている間は、このドラゴンはこのままの状態で居ると約束しようじゃないか」
楽しませてくれている間は、ね。これは、出し惜しみしている場合ではないか。
「分かったよ。楽しませてやるよ! そっちのドラゴンの相手も一緒にな!」
「雷装化でドラゴンも相手に出来るだと? 先程、キサマが押されていたのを忘れたのか? 巫山戯ていると直ぐさま殺すぞ? 小僧!」
「正直、代償と負担が大きいから使いたく無かった。だが、アンタの強さに対抗するには使うしかないからな」
俺は身体強化はそのままで、一度【雷装化】を解き、雷と光の属性を混ぜた。
この二つの属性はかなり相性が良かった。
いや、良すぎたのだ。恐ろしい位に。
鍛練中に色々な属性を合わせた時に分かった事だ。
雷と光を混合状態で自身に纏わせた。
それは、身体の原型を留めながら光の粒子の状態になりバチバチッと、音も立てている状態になった。
【雷光化】 両属性のバランスと魔力制御を間違うと、自身に大ダメージを。下手をすると身体が霧散するかも知れない諸刃の剣。
「待たせたな」
「ハハハハハハッ! 小僧、キサマ面白いぞ!なんだその状態は!? それにその魔法もまた私の知らないものだしのぉ! 剣聖よりも楽しませてくれるではないか小僧! いや、小僧では失礼だな。 其方の名前を聞こうではないか?」
「───カイト」
「カイトよ。 其方を一流の剣士、魔法士として認めようではないか」
「それはどうも」
「それではこれより、其方の言葉通りにドラゴンと一緒に相手をしてもらおうか!」
【雷光化】でいるのは10分が限界だな。魔力的にも、身体的にも。
ヤツとドラゴンが動こうとした瞬間に俺は閃光の如く動き、ドラゴンの首、腕、両翼を切断して、ドラゴンを倒した。
が、切断した後には、無数の泡が出来、あの時のオーガの様に再生を初めていた。
ドラゴンを少しの間動けなくした後はすぐに、アグルにフェイントを入れて斬りつけたのだが、アグルは俺の剣速に反応して、ほとんど防いだ。
今度はアグルが捌ききれなくなり切り傷を作っていた。
「ハハハッ! 良いぞカイト! 命のやり取りはやはりこうでなくてはな!」
この、戦闘狂が!
ヤツの相手をしている間にドラゴンは再生を終え、口を膨らませ火が少しもれていた。
ドラゴンがブレスを出そうとしている。
「(あと8分。 時間が無い! 先にドラゴンを片づけるしか無いか)」
そしてドラゴンはブレスを吐き出し、俺はドラゴンごと一刀両断するつもりで、ブレスを切り裂く程の魔力を【虚空】に乗せて斬撃を放った。
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