2ー29話
開会式をするために俺達は試合をする舞台に上がり、横一列に並んで、王族専用特別室がある方を見ていた。
エルスがとんでもない爆弾を仕掛けた所為で入場した時は、かなりの歓声を浴びてしまっていた。
俺達選手はリーダーを先頭に学園ごとに整列していた。
「それではこれより、第8回剣魔武闘会の開会式を始めます!」
先ほど、選手紹介をしていたミディさんが話していた。その時に、煙花火が盛大に打ち上がっていた。
「それにつきまして、開催の挨拶を聖王陛下様、並びに騎士王陛下様、両名から選手の皆様に激励の言葉を頂く事となります!」
今度はキルククさんが話していた。
そして聖王と騎士王がイスから立ち上がり前に出て来ていた。
───ゾクッ!───
なんだ、このイヤな感じは! 前にも感じた事がある禍々しさだ!
「それは私がしようでは無いか! 両陛下の命を以て!!」
その声の主は冷酷非情な声をしていて、上空から聞こえていた。
「な、何じゃアレは!?」
「ま、まさかド、ドラゴン!?」
両陛下の驚愕の声を聞いてその方向を見るとそこには、居てはならない生物がいた。
それは、体長は30m近くは有りそうな体格に、鋭いツメを持ったやや太い腕に、腕より明らかに太く筋肉質の脚、鼻先と頭部に立派なツノを生やしたドラゴンが飛んでいた。
どうしてここに、こんなヤツが居るんだ!しかも、ここまでの接近を許している! 都市の衛兵はどうして警告音を出さなかった!
観戦者もその姿を見て、騒ぎ出していた。
衛兵がどうして警鐘を叩かなかったのか疑問に思い、聴力を強化して辺りの様子を聞いてみたら、都市のあっちこっちで爆発音が聞こえた。
「死ね!」
その声と共に、ドス黒く禍々しい魔力を纏ったドラゴンの口が膨れ上がっていた。
そして、口から少し火が漏れているのが確認できた。
マズイ!
その時に、武闘場全体を覆う水の結界が出来ていた。
ドラゴンの姿は確認できなくなったが、ドラゴンは溜めていたブレスを吐き出したらしく、水の結界にぶつかっていた。
だが、無惨にも結界は破られてブレスがエルス達が居る場所に迫っていた。
エルス!!
瞬時に、魔力を最大限まで上げた身体強化をして【雷装化】になりエルス達の居る眼前に飛んだ。
その時に、ノエル達以外の他の学生の悲鳴が聞こえた。
そして、エルス達の居る場所とドラゴンブレスの間に入った俺は、かなり魔力を高め、圧縮した2m程の大きさの水属性の上位の【海盾】を展開した。
ドラゴンブレスは【海盾】にぶつかり合い、ドラゴンブレスは暫くしてから威力が無くなり、消失した。
俺は続けざまにその元凶のドラゴンに、圧縮した【風の牢獄】を発動してドラゴンを閉じ込めた。
無数の風が球状に渦巻いてその生物を閉じ込める事の出来る魔法が【風の牢獄】だ。
空中に居た俺は【雷装化】を解き、風魔法を使用してエルス達の居る場所に着地した。
「エルス、大丈夫か!」
「えぇ、大丈夫よカイト。ありがとう」
「良かった! それとみんなに避難するように言ってくれ!」
「それなのだけど、きっと都市全体も巻き込まれているでしょうから、むしろこの武闘場を避難場所にするしか無いと思うのよ」
「そう言うことなら分かった! 俺があのドラゴンを都市の外まで連れて行く!」
───バシュっ!───
───バシュっ!───
ドラゴンが【風の牢獄】から出ようと突撃している音が聞こえていた。
「お願いねカイト」
「あぁ」
「待ってカイト君!」
「何です、カサドラさん?」
その場に居る他の人達が事態を呑み込めずに驚愕の表情を浮かべている中、早々にあのドラゴンに向かおうとした俺をカサドラさんが呼び止めた。
「いえね、禍々しい姿をしているから本来の色が分からないくて多分なのだけれど、あの体格の大きさを持つ種のドラゴンはレッドドラゴンと呼ばれている龍種よ」
「つまり?」
「通常のレッドドラゴンなら私達Sランクかその実力を持つ者が四名で対処出来る位の強さなのだけど、アレはそれを遙かに超えたSSランクの剣聖が対処する程の災害レベルの強さを持っているわ。私が張った結界が易々と破られたのがその証拠よ」
「そうですか、分かりました。忠告感謝します。それとエルス。皆の事を頼んだ」
「分かったわ」
危険と教えてくれたけど、ジェイド兄ちゃんとセリカ姉ちゃんが居ないんだ。そしたら、俺がやるしか無い。
と、話が終わった時に【風の牢獄】が切られた。
直ぐさま、身体強化をして【雷装化】にもなり、ドラゴンの眼前近くまで飛び、都市の外、平原のみの方角目掛けてドラゴンに、風を纏めて質量を上げた【風の槌】を喰らわして都市の外まで飛ばした。
その時に、ドラゴンの背に人影が見えた。
俺は、光を纏めあげ圧縮して強度を高めた【聖なる光の加護】で武闘場を覆う程の結界を作った。
これで悪意を持った攻撃や魔物の侵入は無くなった。
それから、風を蹴り、飛ばしたドラゴンの後を追った。
※カイトが武闘場に結界を張り居なくなった後──
【エルス視点】
「お父様、いつまで呆けているです? 都市の人達にこの武闘場に避難する様に呼びかけないと!」
「あ、あぁそうだな、エルスの言うとおりだな!」
それから皆、事態を呑み込み我に返りました。
「カ、カイゼル! 先の者は一体誰だ!エルス嬢とカサドラ様と随分親しい人物の様に感じたが!」
「落ち着けオルドネス!今は、民達に避難勧告をする方が先だ!」
「エルス、無事?」
お父様が都市全体に聞こえる様に風魔法で避難を呼びかけている時に、リーナ達が舞台上側から現れました。
そしてリーナは私の手を掴み私の無事を確かめてきました。
きっとノエルが風魔法を使ってここまで運んだのね。
「えぇ、私達は無事よ!ちゃんとカイトが護ってくれたからね」
「それでエルスちゃん、私達はどうする?」
ノエルも事の重大さに気付いたのね。
「私達は街に出て民達の避難誘導をしつつ、臨機応変に対応しましょう!」
「分かったわ」「分かったよ」「おう!」「うん!」
みんな覚悟を決めた良い表情を浮かべていた。
「それでカイゼル、説明してくれ!」
お父様が都市中に向けての避難勧告を終えたのを待っていたオルドネス様は、お父様に詰め寄っていました。
「あの者の名は、カイト。エルスの婚約者にして、今、この場に居ない剣聖であるジェイドと魔導師セリカの愛弟子で、ジェイド達曰く、自分達を凌ぐ程の実力を有している持ち主だよ」
「なっ!?」
バルザ隊長様に目配せをして、バルザ隊長様は頷き返してきました。
そして、私達は部屋から出ました。
この間、カイトと久しぶりに会った時に、いざと言う時の為に、婚約指輪に時空間魔法を付与してくれていたから、いつも持っていたマジックバッグをそこから取り出して、途中で空き部屋に入り、ドレス姿から動きやすい服装に急いで着替えました。
そして、先生とも合流して、私とリーナ。ジアン君とルセと先生。ノエルの三手に別れて街の人達の避難誘導を始めました。
「ねぇエルス。この騒動は一体何だと思う?」
「残念だけど私にも分からないわ。ただ言えるのは何か良からぬ陰謀がこの都市で起こっている事ね」
「やっぱりそうなるわよね。っと、やっぱり魔物が入り込んでいたのね!」
街を走って避難を呼びかけていた私達の目の前に、レイジスボアと呼ばれる、体長2m程の大きさの暴れ猪が数十体居て建物などを壊していました。
私は手をかざしてレイジスボアを凍らせて動かなくしました。
「ちょっとリーナ、貴方かなり腕が上がったんじゃ無いの?」
私より明らかな数のレイジスボアを凍らせていました。
「当然じゃないエルス。ジアン君達の修業に付き合ったり、かなりレアなダンジョンでレベルアップしたのだからね」
「なにその羨ましい話。しかも、カイトと甘い一時も過ごしたりしたとか?」
「当たり前じゃ無いの、フフフッ!」
でも本当にかなり魔力と魔法の質が上がっているのが分かるわね。
そして、凍って動かなくなったレイジスボアにトドメを刺して、この場に魔物が居ないのを確認してから次の場所で避難を呼びかけるために移動しました。
※エルス達と別れたジアン達は──
【ジアン視点】
「ハァァ!」
住民に避難を呼びかけていた俺達は、都市に入り込んでいた数十体居たベアーの変異種の最後の一匹を倒し終えた。
「お疲れ様、ジアン」
「あぁ、ルセも援護サンキュー! それにしても、何が起きているんでしょうね先生?」
「分からん。だけど途轍もない程の魔物の大群がこの都市に入り込んでいるんだ、何が起ころうとしているのは確かだな。さぁ、警戒しながら住民の避難誘導をしないと」
「「はい!」」
それからは数人の衛兵も住民の避難を呼びかけていた時に、魔物が現れて対処していたが、イマイチ決め手に欠けていたので、手助けをして衛兵の人達と協力して住民の避難の手助けをした。
※エルス達と別れたノエルは───
【ノエル視点】
「【聖光槍】」
数十匹居た好戦的な蜂のソルジャービーの最後一匹を倒し終えた。
「大丈夫ですか?」
「助けて頂きありがとう御座います」
私が声をかけたのは、ソルジャービーに襲われていた住民で子供連れの方でした。
「私はご覧の有り様ですのでこの子だけでも連れて逃げて下さい!」
「お姉ちゃん、ママを助けて!」
「大丈夫だよ。今、ママを直してあげるからね」
子供の頭を撫でてあげて、辺りにもケガして動けなくなっていた住民がいたから、【エリアキュアヒール】を私を中心とした100m程一帯に行き渡らせてケガをした住民のキズを治療した。
【エリアキュアヒール】は薄緑色の光の粒子状で私が決めた範囲で拡散して、ケガや状態異常を直す事が出来る。
その光に触れて身体が光り、その光りが収まった時にはケガした所が無いことに、住民が驚き感激していた。
「さぁ、これで歩けるはずですから避難して下さいね?」
「はい、ありがとう御座います」
「お姉ちゃんありがとう!」
住民はそれぞれ私に感謝を言ってから、避難を始めた。
そして私は、この一帯に魔物や住民が居ない事を確認してから他の場所に向かった。
お読みいただきありがとう御座います。