2ー26話
翌朝、何時もの時間に起き、ジアンも叩き起こして、この宿の地下の訓練室に向かった。
俺とジアンが入った時には既に、ノエル達が居た。もちろん先生も。
ノエルが昨日の内に、先生も知っているけど、再度、魔力操作の重要性を教えていたから、先生も交えてジアン、ルセに魔力操作の修業から始めた。
ジアンとルセは常にやっているから、俺が定めた内容を早くに終わらせた。
先生は、やはりと言うべきか、最低限の操作しか出来ていなかった。 この世界の人は、ほとんどの人が詠唱だけすれば魔法を使えると思っているから、魔力操作は基本中の基本の段階で止まってしまっている。
冒険者のAランクの一部とSランクの人はこの魔力操作を理解しているから、魔法による撃ち合いではその人達が勝ちやすいって、セリカ姉ちゃんが言ってたな。
先に魔力操作を終わったジアンとルセに、ノエルとリーナが付いて、雷魔法修得に向けて教えていた。
そして、俺は先生に付いて、魔力操作を教えていた。
「先生、力みすぎです。もっとリラックスしてやって下さい」
「す、すまない。改めてやると難しいんだな」
「まぁ、魔力操作なんて意識しないと気にしませんからね。基本、レベルアップすれば勝手に強くなると思っている人がほとんどですから」
「そう言われると私もその分類に入っているな」
「ですが、先生はそれではいけないと思ったから、俺達に修業をして欲しいって言ってきたのでしょう?」
「それもあるが。そ、そのなんだ。で、出来ればお前の、と、隣に立って、や、役に立ちたいからな!」
先生ってば、赤面する位なら、無理に言わなくても良いのに。まぁ、嬉しいから良いけどさ。
「そしたら、ますます此処で躓いていられませんね、先生?」
「そ、そうだな」
って、先生ってば、力みすぎてるし。先は長いかな?
「先生、そしたら一度深呼吸して下さいよ。そして気持ちを落ち着かせて下さい」
先生は、俺の言うことを聞いて、深呼吸を始めた。
二度、三度と先生は深呼吸をして、身体が自然体になっていた。
「そしたら先生、そのまま魔力全部、右手に集めて下さい」
先生は自然体になった状態で、何処か一点を見つめながら、俺が言った通りにしてくれた。
「次に、左手に全部」
「次は、右脚に」
「次は、左脚に」
「最後に、右手、右脚、左手、左脚のみに、均等にお願いします」
先生は、ゆっくりながらも、俺が言った通りにすべてこなしていった。 その全力状態のまま、5分ほど維持してもらった。
「お疲れ様です、先生」
「ふぅ~。これは結構疲れるな。此処まで大変だとは思わなかった」
「最初はそうですよ。ジアンとルセもこの段階で躓いていましたからね。慣れてくると、今のジアン達みたくなりますから」
「そうか」
先生を見ると、本当に疲れた表情を浮かべていた。
「とりあえず休みますか、先生」
「あぁ」
俺と先生はその場に座った。
そして、マジックバッグから、俺がアイテム創作で創った、500ml瓶に入れた、ノエル特製のレモネードを出し、先生に渡した。
「ありがとう。ちなみに、この容器はどうしたんだ?」
「それは、セリカ姉ちゃんにアイテム創作の話を聞いて、俺が創ったんですよ」
「………………………………………そうか」
先生? 今の間は何ですか?呆れた目で見ないで下さいよ。
「それと先生、コレを」
俺は昨日買ってきた、濃い青色をした鉱石のラピスラズリが小さく加工して埋め込まれている、ピアス一組を渡した。
「コレは?」
「先生に似合うと思って、昨日買っていたんですよ」
「そうか、ありがとうカイト」
先生は笑みを浮かべて、ピアスを自分のマジックバッグにしまっていた。
その後は、先生には氷結魔法のイメージトレーニングをしてもらい、朝の鍛練が終わった。
朝食の後に、ラピスラズリが小さくそれぞれの形に加工されて埋め込まれている、穴をあけないタイプのイヤリングをノエルには雫の形、リーナには桜の花びらの形の物を渡した。
大会が終わった頃にでも、エルスに星型のイヤリングに、ロールさんにはリボン型のピアスを渡す予定。もちろん、ラピスラズリが小さく加工して埋め込まれている。
ジアンとルセには、黄色の鉱石のトパーズが小さく埋め込まれている、ネックレスを渡した。
皆、俺からのプレゼントを喜んで貰ってくれていた。そんなに喜んでくれると、買ったかいがあったよ。
それに、今回のアクセサリーには、万が一、一撃死するような大ダメージを受けたら、一定のダメージは肩代わりする付与魔法を掛けたからな。
馬達の様子を見に行った後は、リーナと共にギルドに向かいお手頃な依頼を探す事になった。
ノエルは残って、ジアン達の修業に付き合い、依頼があったら合流する事になった。
「ねぇカイ」
「ん?」
ギルドに向かう途中で、恋人繋ぎをして隣に居るリーナが不意に声をかけてきた。
「貴方から見て、先生の魔法修得はどの位になりそうなのかしら?」
「うーん? まだ始まったばかりだから、現時点では、2、3年はかかるんじゃ無いかな? 詠唱で魔法を使う概念を壊さないといけないから。先生辺りの熟練者だと、詠唱アリ=魔法使用って固定されているからね」
「そう。それじゃあ、愛弟子二人は?」
「うーん? ジアンは雷撃は出来ても、雷を纏う【雷装化】は難しいかもな」
「自分が痺れちゃったら意味ないモノね」
「その点、ルセは魔法に特化しているから、【雷装化】も問題なく出来るだろうけど、それでも結構かかるかな」
「でもねカイ、私の見立てだと、ルセには精霊の加護があるから、大会までにはモノになるんじゃ無いかしら?」
「だと、良いんだけどな」
結局は精霊に関する事は分からないしな。あんまり当てに出来ないと思うけどな。
その後も談笑をしながら、ギルドに着いた。
中に入った瞬間に、空気が変わったのが分かった。王都でも体験した、緊迫した感じの空気であった。
俺はその発信元の食堂の方を見ると、昨日、返り討ちにした冒険者共数人が居て、カタカタと震えていた。
そんなにビクつかなくてもいいだろうに。
リーナはその光景を見て傍らでクスクスと笑っていた。
まぁ、気にしても仕方ないから、そのまま受付に向かった。
「おはよう御座います、ミランダさん」
「おはよう御座います、カイト様。今、セシリアを呼びますけどその前に、お隣の方は?」
ミランダさんは、手を離していたリーナの事を聞いてきた。
「おはよう御座います。私リーナ、と申します。カイのパーティーメンバーです。どうぞよろしくお願いします」
最後にリーナはお辞儀をした。
「は、はい!よろしくお願いします! それで急なのですが、リーナ様!私に付いて来てくれませんか!?」
「??? はい、構いませんよ」
「ありがとう御座います! それとセシリアを呼びますから、カイト様はここでお待ち下さい!」
そう言ったミランダさんはリーナを連れて受付の奥に行ってしまった。
ミランダさん、リーナの名前を聞いた時、結構驚いていたな。それに奥に行ったって事は、カサドラさんの所かな?
「カイト様!」
少しして、キレイな髪に昨日プレゼントしたヘヤピンをして、元気になった眼鏡無しのセシリアさんが笑顔で受付の席に座った。
「おはよう御座います、セシリアさん」
「おはよう御座います、カイト様。昨日はありがとう御座います!」
「いえいえ、セシリアさんが元気になってよかったですよ」
「それで、今日は依頼を受けていきますか?」
「はい。それでお手頃な依頼があれば良いのですけど。あります?」
「はい、御座いますよ」
セシリアさんは席を外して、すぐに戻って来た。その手には、1枚の紙を携えて。
「コレです」
セシリアさんが出してきたのは、洞窟ダンジョンの探索の依頼と書かれていた。
「ダンジョンの探索?」
「はい。 このダンジョンは現在12階層まで進められているのですが、まだ先があるのでは無いかと言われていて踏破されていないのですよ」
「でも、そんなに進んでいたら、アッという間に何処かの冒険者が攻略するのでは?」
「いえ、それがまだしていないのですよ。現時点での報告では、五階層に、オークキング。十階層に、スケルトンナイトキング。と、きりの良い階層に階層ボスが現れて、段々と強くなって、攻略をしていたAランクのベテランの人達でも負傷したりと攻略がしにくくなっているのですよ」
確かオークキングはBランク相当で、鎧アンデッド系のスケルトンの、その最上位にあたるスケルトンナイトキングがAランク相当のレベルだったはずだな。
そんなおかしなダンジョン、結構危なくないのか、他の奴らには?
「そんなおかしなダンジョン、よく、12階層まで行けましたね?」
「はい。Aランクのベテラン冒険者パーティーでも、12階層からは手も足も出ない位に魔物達の強さが異常に高くなったとのことです。ですので、正式には11階層までとなりますね」
俺はみんなとの約束で討伐は出来ないけど、ジアン達の修業にうってつけで魅力的な依頼だな。
「でも、その依頼、俺が受けて大丈夫何ですか?」
「はい、大丈夫です。カサドラ様からカイト様とノエル様は既に剣聖様と魔導師様に匹敵する強さがあるから、多少の問題は解決してくれるでしょうから受けさせてみたら、と、言われていますから」
あぁ。まぁ、当然だけど、バーンさんからの手紙で知っているから許可したんだろうな。
「そう言うことなら、そのダンジョンの探索を受けます」
「分かりました。…………………コレをお持ち下さい」
セシリアさんが出してきたのは、20cm四方の大きさの1枚の紙であった。それには、ギルドの紋章にギルドマスターであるカサドラさんのサインがされてあった。
「コレは、ダンジョンに入る際に必要になります」
「必要?」
「はい。先ほど述べた通り、Aランクの冒険者の方達でも厳しいですので、無闇に低ランクの冒険者が入らないように制限しております。ですので、ダンジョンの入り口にはギルド職員がおりますので、それを提示すると入る事が出来ます。つまり、通行証と言うわけです」
「そう言うことですか」
俺はその通行証をマジックバッグにしまった。
「それと、ダンジョンから出てきましたら報告をしに来て下さい」
「分かりました」
「お待たせカイ」
その時に、リーナが受付の奥から戻ってきた。
「何か依頼はあったかしら?」
「あぁ、あったよ。洞窟ダンジョンの探索」
「そう。 それと申し遅れましたわ。初めまして、私、リーナと申します。カイの婚約者です」
リーナはセシリアさんに向かい、そう言っていた。なんでセシリアさんに婚約者って言ったんだ、リーナの奴は?
「は、初めまして! 私はセシリアです!カ、カイト様の専属受付をさせてもらっています! も、もちろん、カイト様のパーティーメンバーの方の受付もします!」
セシリアさんはリーナに負けじと、挙動不審になりながらも挨拶をしていた。
それを見たリーナは笑みを浮かべいた。しかも、何か企んでいる笑みだった。きっと、ロクでも無いに違いない。
「これから先もよろしくお願いしますね、セシリア様?」
「えっ? は、はい!」
セシリアさんは予想外の言葉を聞いてビックリしていた感じがした。
その後、もう少し詳しくダンジョンの話を聞いてギルドを出る時に、リーナが先に行ってて、と、言うので外で待っていた。
少ししてからリーナが出て来た。
「お待たせカイ」
「ん。何していたの、リーナ?」
「もう、カイったら野暮ね。それは乙女の秘密よ」
リーナさんや、何か企んでいる笑みを浮かべている時点で怪しさ満点なのですが?
「それでカイ、この後、どうするの?」
「この後は、ダンジョンに向かおうかと思っている」
「それじゃあ、ノエルに連絡しないとね」
「あぁ。だけど、今日のダンジョンの探索にはジアン達は連れて行かない。ちょっと、ダンジョン内に居る魔物の具体的な種を知りたいから、様子を確認するだけだ」
「分かったわ。それじゃあ、向かいましょうか?」
「あぁ」
俺は【念話】でノエルに連絡してから、そのまま都市から出て北に位置する、歩いて1時間の距離にある洞窟ダンジョンに向かった。
※リーナがミランダに連れて行かれた時──
「すみません、リーナ様。急に」
「構いませんよ。大事なお話でしょうから」
ミランダはギルドマスターが居る執務室の扉をノックした。
「カサドラ様、ミランダです。少しよろしいでしょうか?」
「大丈夫ですよ」
「失礼します」
ミランダは中に入ると、その人物にお辞儀をして入り、続けてリーナも軽く会釈して入った。
「それでミランダ。そちらの方は?」
「はい。こちらの方はリーナ様で御座います」
ミランダは掌を向けてリーナを紹介した。
「お初にお目に掛かります。私はライナー・ツォン・フォレスト公爵が娘、リーナ・ツォン・フォレストと申します」
リーナは気品漂うお辞儀をして挨拶をした。
「これは失礼しました」
カサドラは執務机で仕事していた手を止めて、リーナの正面に立った。
「私はここグラティウルのギルド本部でギルドマスター兼各支部のギルドマスターの纏め役をしております、カサドラ・ミストルチェと申します。本日は、ここまでご足労いただきありがとうございます」
カサドラは優雅に挨拶をした。
リーナに腰掛ける様に、手で促して、ミランダに飲み物を用意する様に目配りをしていた。
「それで私は何故ここに呼ばれたのでしょう?」
「実はリーナ様に確認してもらいたい事がありまして」
カサドラはマジックバッグから二枚の手紙をリーナに渡した。
ミランダはその時に、紅茶の入ったティーカップをリーナの前のテーブルに置いて、カサドラの傍に控えていた。
「拝見させてもらいます」
リーナが手紙の内容を確認して、しばらくしてから顔を上げた。
「事情は分かりました。この手紙に書かれています事は本当の事です」
「そうですか。どうしてカイト君にそんなに婚約者が必要何ですか?」
「すみませんカサドラ様。婚約者って言うよりは、カイが大切に、大事に出来る方を探しておりますの」
「大切に、大事に出来る方?」
「はい。この手紙に書かれていた通りに、本当の事は言えませんが、将来の事を考えて、カイの事を好き、いいえ、愛している位の方が必要になるのです。そう言った方の想いをカイは無下にはしませんし、手紙にも書いてある通りで相応の期待に応えてくれますから」
「そうですか」
リーナは用意された、紅茶で喉を潤していた。
「それにカサドラ様は既に、あの方をカイと結び付ける様になされていたのでは?」
「はい。彼女の名前はセシリア・クロワール。17歳です。セシリアは昨日まで、精神を病んでいました」
「はい、その事はカイから、聞いております。そして私がセシリア様を見た所、既にセシリア様はカイに夢中ですわね」
「はい。セシリアからの話でカイト君によくしてもらったみたいでして、それでセシリアはこのまま?」
「えぇ、セシリア様をカイの婚約者にしましょう!」
「分かりました。その様に進めます!ミランダもお願いね?」
「はい、承知しました!」
その後リーナは、執務室をあとにしてカイトと合流した。
※リーナがカイトに先に行っててと言った時──
「セシリア様、コレを」
リーナがマジックバッグから取り出して、セシリアに差し出したのは、度の入っていない眼鏡であった。
「コレは?」
「実は、カイは………………黒髪の女性で眼鏡を掛けている方が好きなんですのよ」
「そ、それは本当ですか!?」
「本当ですわ!それにこの眼鏡は度が入っていませんから、オシャレアイテムと思ってくれて構いません。さぁ、どうします?」
「分かりました!リーナ様の言う事は間違ってなさそうなので、この眼鏡は貰っておきます!ありがとう御座います!」
セシリアは深く頭を下げて感謝していた。
「それと、他のパーティーメンバーの顔を一度見せに来ましたら、後はカイを一人で来させますから、安心して下さいね?」
「は、はい」
顔を上げたセシリアの顔は赤面していた。
その後はリーナも外に出て行った。
お読みいただきありがとうございます。