2ー25話
「それじゃあセシリアさん、よろしくお願いしますね」
「は、はい…………」
ギルドから出た俺は、俯いた状態のセシリアさんの手を繋ぎながらとりあえず歩いていた。
「セシリアさん、この都市で有名なアクセサリーの店ってどこですか?」
「…………………この先を真っ直ぐ進んだ所に………………【紺碧の希望】と言う名前のお店が……………あります……………」
「ありがとう御座います、セシリアさん」
「……………い、いえ…………」
うーん?ずっと俯いた状態でいるのは良くないんだけどなぁ。どうしたものかな?
「セシリアさん。セシリアさんの好きな事って何ですか?」
「…………………読書です……………」
「そうなんですか。そしたら、どんなジャンルの本を読むんです?」
「…………………色々読みます………………特にこれといって決まったジャンルはありませんね………………」
「そうですか。俺も本は読むんですけど、冒険談のジャンルばかり読んでしまうんですよ。仲間達からはそれだけではダメだと言われていますけどね」
「…………………はぁ………………」
えっと? 本当、こういう時ってどうすれば良いのか教えて、エルスさーん!リーナさーん!
と、こういう時だけ頼るのはいけないな。自分でやれるだけやってみるか!
それから目的の場所、アクセサリー店に着いた。
その間、セシリアさんに話し掛けていたのだが、セシリアさんから話し掛けてくることは無く、ほとんどが俺からであった。
「ここか」
「…………………はい…………………」
店の入り口の上に【紺碧の希望】と書かれていた看板が掛けてあった。
「いらっしゃいませ!」
店に入り挨拶をしてきたのは、身嗜みが整って衣服もスパッと決まっている長身の男性が笑顔でいた。
「いらっしゃいませ、お客様!本日はどういった品物をご所望でしょうか?」
「えっとですねぇ、髪留めを見せてもらいたいのですけど、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫で御座いますよ! それではご案内します!」
その店員さんはそう言って、こちらです、と手を差し出して案内してくれた。
「こちらで御座います」
案内された場所は色々な種類のヘヤピンやヘッドバンドなどが陳列されていた。
「あの~聞きたいことがあるのですけど?」
「はい、なんで御座いましょうか?」
「幸福とかの言葉がある宝石が埋め込まれているヘヤピンってありませんかね?」
「御座いますよ。少々お待ち下さい」
お辞儀をして店員さんは俺の注文した品を取りに向かった。
少しして店員さんの手元に布地があった。
多分、それらしい品物を持ってきたのだろう。
「こちらで御座います」
店員さんは布地を広げて見せてくれたのは、緑色をした石が小さく四つ葉のクローバーの様になって見えるがそこに一枚多く、五つ葉のクローバーになっていたヘヤピンが店員さんの手にあった。
「こちらの石はエメラルドを加工しております。このエメラルドの石言葉は幸運、幸福の意味があります。他にも安定や希望も込められています」
フムフム。ちょうどピッタリの宝石があって良かった。
「それじゃあ、このヘヤピンを下さい」
「ありがとう御座います。ただ、お客様、申し訳ありませんがこちらの品、少々値段が高いのですが……………」
そう言って店員さんは、指を3本だけ立てて俺にだけ見えるように見せてきた。
「金。ですよね?」
「はい、申し訳ありませんがエメラルドなどの鉱石を素早く上手に加工出来るドワーフがおりませんので……………」
加工、手間などの時間が掛かり、それも相まって中々売れないからこんなに高騰しているとの話は、王都でも聞いたなぁ。
「大丈夫です」
マジックバッグから金貨十枚を出し店員さんに渡した。
「お客様!これはいくら何でも──」
「他にも欲しいものがありますし、足りなければ追加もしますので、良ければオススメの品があったり、そして良ければアドバイスもお願いしたいのですけど?」
「分かりました! この【紺碧の希望】の店長であるガムドにお任せ下さい!」
急に元気ハツラツになったガムドさんはかなり意気込んでいた。
それより、貴方、店長だったのかよ!?そっちにビックリだったわ!
そんなやりとりをしつつ、俺はヘヤピンを手に取り、セシリアさんの方を向いた。
「セシリアさんちょっと失礼しますね」
セシリアさんは戸惑いつつも、抵抗することなく、俺がセシリアさんの顔に伸ばした手を受け入れてくれた。
そしてセシリアさんのこめかみ辺りの髪にヘヤピンを付けてあげた。
そして店長さんがそれを予期して、手鏡を用意してくれてセシリアさんに渡してくれた。
「どうセシリアさん?俺は似合っていると思うんだけど、こういうのは嫌いだった?」
「………………キライじゃないです………………でも私、こんな良い物もらえないですよ?……………」
「そんな事言わずに、貰ってくれませんか?案内とこれからお世話になる俺からのプレゼントですから」
「……………分かりました。ありがとう御座います、カイト様……………」
セシリアさんの表情は少し笑みがこぼれて、赤面していた。
喜んでくれて良かった。
「(それとお客様、このエメラルドには他にも愛の成就の意味の言葉が御座います)」
店長さんは俺にだけ聞こえるように、耳打ちをしてきた。
店長さんよ!貴方、本当に出来た人だよ!こっそりと教えてくれありがとう御座います! そんな事までセシリアさんに聞かれたら、変な期待をさせてしまうからね。
その後は、店長さんのオススメやアドバイスを貰いながら、ノエル達婚約者組とジアン、ルセの分も買った。
これから先も、迷惑?を掛けたり掛けられたりするから、プレゼントでもして、ご機嫌取りしないといけないから。
「大変誠にありがとう御座いました、カイト様!」
大量に購入したものだから店長さんに名前を聞かれてしまった。途中から、従業員を呼んだりして少し大事になってしまったよ。
「またのご来店をお待ちしております!」
店長さんの挨拶で、他の従業員の人達もお辞儀をしてくれる中、店を出た。
「結構時間がかかってしまったな」
「………カイト様、次はどこに行くのですか?」
おっと、セシリアさん、店に入る時より、明るくなったぞ。良い傾向かな?
「うーん? そしたら、小腹が空いたし、それにちょっと疲れましたから、どこかでそれらしい店ってありませんかね?」
「………あります、こっちです………」
手を繋いでいるからセシリアさんが今度は積極的に引っ張って案内をしてくれた。
目的の店まで行く間は、今度はセシリアさんから聞いてくれたりと、積極的になっていた。
「………ここです………」
セシリアさんが言っていた目的の店は喫茶店の造りをしていた店であった。店の名前は【リラクカフェ】となっていた。
しかも、オシャレな造りをしていた。ちょっと場違いな気がしてきたかな?
と、どうでもいいことを考えつつも店に入った。
「いらっしゃいませ!2名様ですか?」
女性の店員さんが笑顔で挨拶をしてくれた。
「はい」
俺の返事を聞いた店員さんは俺達を案内してくれた。
そして店員さんはこちらです、と言って離れて行った。
案内されたのは四角いテーブル席で、対面で座る二人席であった。
俺はセシリアさんが座れるようにイスを引いてあげて、俺の行動にセシリアさんは少し驚いた表情に見えた。
「………ありがとう御座います、カイト様………」
セシリアさんはお礼を言って座ってくれた。
その時に、周りにいた他の男女のカップルや女性のみのグループがこちらを見て何やら話していたけど、気にしてもしょうがないから気にせずに俺もセシリアさんの対面のイスに座った。
そして先ほど案内してくれた店員さんが水の入った木製のコップとメニュー表を持って来て、離れて行った。
「…………………セシリアさんは何を頼みますか? 俺はこのパンケーキ紅茶セットにしようかと思っているのですけど?」
「…………………わ、私も同じもので…………………」
俺は店員さんを呼び注文をした。
で、先ほどから周りの人達からの視線を何故か浴びていた。
セシリアさんも話してこなかったので、俺は気になったので聴覚を強化して聞き耳してみた。
「珍しい黒髪だねぇ~」
「そうだねぇ~。それにしてもあの女の人、ずっと俯いたままでなんか暗くない?」
「あっ!私も思った! せっかく子供ながらも紳士的な事してくれたのに、ずっと俯いたままだし、なんか気持ち悪いよねぇ」
「うんうん」
「はぁ~。あの男の子、子供ながらもあんな事してくれるんだ、羨ましいなぁ?」
「バッカ!あんなのガキが背伸びしたいから、見よう見真似でやったに決まっているだろう!アレぐらい俺だって出来るっつうの!」
「それもそうよね。それにしてもあの女の人、髪が黒いよ。なんか不気味」
「あぁ。なんか不吉な事でも起きそうだよな」
と、そんな勝手な事ばかりを周りの奴らが言っていた。
スッゴく胸クソ悪くなってしまった。流石にこんな奴らがいる空間で食べる気にならなかった。
「すいませんセシリアさん。ここを出ましょうか」
「えっ!?」
俺はセシリアさんの手を握って、店員さんに金貨一枚を渡して早々と店をあとにした。
「カ、カイト様!」
セシリアさんの呼びかけで俺はハッとしてしまった。
「カ、カイト様、一体どうしたんですか?」
「すいません、セシリアさん。ちょっとムカつく事がありましたので、頭に血が上ってしまったみたいです」
「……あの、お店で何かあったのですか?……」
セシリアさんは困惑をしつつも、積極的に聞いてきた。
「いえね、なんか周りの視線が気になったものですから、耳を澄まして聞いていたら、下らないことばかり言っていたものですから。ついね」
「……そうだったんですか………………………それは私と居たからですよね………………………ごめんなさい」
セシリアさんは最後に頭を下げてきた。
「セシリアさんの所為じゃあありませんよ!」
俺はセシリアさんの肩を掴み頭を上げさせた。
顔を上げたセシリアさんは涙を流していた。
「セシリアさんが気にする必要ありませんよ!だから泣かないで下さい」
俺はセシリアさんの涙を優しく指で拭ってあげた。
「…………カイト様はどうして私に優しくしてくれるのですか……………こんな私なんかを…………………私と居たからイヤな思いをしたのに……………」
セシリアさんは涙を流しながら、今まで一緒にいた中で真剣な眼差しで俺を見ていた。
「セシリアさん、俺は優斗兄の教育で、女性には例え小さな女の子でも、優しく紳士的な対応をしなさいって教え込まれているんだよ。それに、こんな魅力的なセシリアさんと居て俺はドキドキしっぱなしだったんだ。確かに、イヤな思いはしたけれど、楽しいこともあったから、おあいこ………イヤ、むしろ、プラスかな? セシリアさんが段々と明るくなってきたからね」
俺は最後に笑顔を向けていた。
セシリアさんは涙が止まり、段々と赤くなってきているのが分かった。
「……………カ、カイト様の……………(バカ)」
セシリアさんは目を背けて言ってきたが、最後は聞き取れなかった。
まぁ、セシリアさんが元気になってひとまずは良かったよ。
「と、そう言えば、小腹が空いたって言っていたのを忘れていたよ。どこかでお昼にしましょう、セシリアさん」
「…………はい」
俺はセシリアさんと手を繋いだ。
そして自分達がどこに居るか辺りを確認するために、見渡したらかなりの人集りが出来ていた。
えっ!?もしかして、やっちまった!?
「坊主、格好良かったぞ!」
「兄ちゃん、お前こそ男だ!」
「同じ男としてアンタを見習うよ!」
「姉ちゃん、幸せにな!」
「お姉ちゃん!こんなイイ男、逃がすんじゃないよ!」
「私もこんなイイ男に言われたいねぇ!」
など、拍手喝采をしながら、そんな事を言っていた。
あぁぁぁぁぁっ! こんな公衆の面前でとんでもないことしてしまったよ! メッチャメチャ恥ずかしい!
俺はセシリアさんの手を離さないようにしっかりと握りしめ、野次馬達をかき分けて、人気がない場所を求めて走った。
「ハァ………ハァ………ハァ………ハァ…………すみません、セシリアさん」
「ハァ……………ハァ………………ハァ……………ハァ…………ハァ…………い、いえ」
俺は人気がない場所を探しながら、ひたすら走ってしまい、それらしい場所を見つけて立ち止まり息を整えた。
辺りを見渡すと、どうやら都市の塀が近くに見え、ちょっとした木々と芝が生えている広場に居た。
人は数人しか居ないため、ノンビリと出来そうな所であった。
「セシリアさん、ここで休憩しましょうか?」
「ハァ…………ハァ…………ハァ、は、はい」
セシリアさんはまだ息を切らしていた。少し振り回しすぎた。
マジックバッグから、敷物を出し広げ、その上に靴を脱いであがり、次にノエルとリーナがいつでも食べられるようにと俺に渡してきたピクニックに持っていく、取っ手と蓋付きの結構大きめのバスケットを出した。それと、コップと果実水入り瓶も。
「セシリアさん、ついでにお昼ご飯も食べましょう」
「は、はい」
セシリアさんは敷物にサンダルを脱いであがり座り、俺は喉も渇いているだろうから、果実水をコップに注いでセシリアさんに渡した。
受け取ったセシリアさんは、ゆっくりとだが一気に飲み干した。かなり走らせてしまったからしょうがないけどね。
そして俺はバスケットの蓋を開けると中身は、タマゴや野菜、焼いた肉などを挟んだ色んな種類のサンドウィッチであった。
「わぁ~!スゴくキレイに仕上がっていて、食べるのが勿体ないくらいですね。これはカイト様が?」
「違いますよ。俺の仲間に料理好きが居まして、その者が何時でも食べられるようにって渡してくれたんですよ」
「えっ!?何時でもって!?」
「あぁ。このマジックバッグは生物以外の時間を止める付与が付いていますから、腐ってはいませんよ。ちなみにこの料理はサンドウィッチって名前です」
セシリアさんは驚いた表情を浮かべていた。それにしても、最初の時よりハキハキと喋ってくれて良かったよ。
「と言うわけで、さぁ、遠慮せずにどうぞ、セシリアさん」
「は、はい」
セシリアさんが掴んだのはタマゴサンドであった。確かタマゴサンドはノエルが担当で作ってくれてたっけな?
セシリアさんは一口目を食べて少ししてから目を見開いていた。
「カイト様!このタマゴとても美味しいですね!私、こんなに美味しいタマゴ料理食べたことないですよ!」
「それは良かったですよ、セシリアさん。どうぞ好きなだけ食べて下さい」
「す、すみません。いただきます」
そう言ったセシリアさんは美味しそうな表情を浮かべて、黙々と食べていた。
美味しそうに食べるものだから、腹が減っている俺も一つ二つと取って食べた。
「ごちそうさまです」
「お口に合ったようで何よりですよ」
セシリアさんは本当に美味しそうな表情を浮かべながら、ほとんどのサンドウィッチを食べてしまった。ちなみに、子供の体に合う5人前の量がバスケットに入っていた。
「ご、ごめんなさい、カイト様!私がほとんど食べてしまって!」
セシリアさんは急に食べ過ぎてしまったのを思い出して赤面していた。
「いえいえ、気にしないで下さい。人って本当に美味しいモノを食べると、ついつい食べ過ぎるのはセシリアさんだけではないですからね」
そう、ジアンはともかく、ルセも最初にノエルの料理を食べた時には結構な量を食べていたから。その時にジアンが、『こんなに食べる奴ではないんだけどな』と言っていたからね。先生も王城でカレーを食べた時、エルスに止められていたからな。
「は、恥ずかしいです………………」
「ははは。 ついでにここで、お昼寝でもしましょうか」
俺はバスケットなどをマジックバッグに仕舞い込み横になった。
「ほら、セシリアさんも」
「は、はい」
セシリアさんも隣で横になった。
「ここは静かで良いところですね?」
「はい。 ここって隠れた名所なんですよね」
「そうだったんですか?」
「はい。っと言っても私が勝手に決めただけなんですけどね」
そう言っていたセシリアさんの方を向くと、笑顔を浮かべていた。
やっぱり笑顔のセシリアさんは可愛いいな。
俺はこっそりとセシリアさんの方に手を向けた。
「カイト様、ありがとう──」
こっそりと【スリープ】の魔法をかけた時に、セシリアさんが何かを言う所だったみたいだがスヤスヤと静かな寝息を立てて眠ってしまった。
うーん?今、何かを言ってたみたいだけど、タイミングが悪かったな。
俺は上体を起こして、セシリアさんに向けて手をかざして今度は、【リフレッシュ】の気分回復と【キュア】の状態異常回復の魔法をかけてあげて、再度【スリープ】をかけ直した。ついでにメガネを外してあげて、少し暑いだろうけどブランケットを足下に掛けてあげた。寝返りをうって他の人に見えたらいけないからな。
これで、気分と目の下にあった隈が良くなったはずだ。
それにしても、ここは静かだし、心地良い風が吹いて、日差しも和らぐから、昼寝するにはちょうど良いな。
自分達の周囲に光魔法で自分達の姿が消えない、極最小の光の結界を作り、誰か近寄ってきたら感知出来るようにして、俺も昼寝をした。
ふと、目覚めた俺は上体を起こして辺りを見渡すと既に夕暮れになっていた。
かなり寝ていたみたいだった。やっぱりここは心地良い場所だったな。
俺の傍らに居るセシリアさんを見るとまだ静かな寝息を立てて寝ていた。本当に気持ち良さそうに。
精神を病んで後ろ向きな状態で【リフレッシュ】をかけても効果はないから、こうして前向きな気持ちの状態にして【リフレッシュ】をかけたから、出会った時よりは良くなったはずだ。
でもこのまま寝かせとくのも出来ないからな。
「セシリアさん、セシリアさん、起きて下さい」
セシリアさんの肩を擦りながら起こそうとしたら、衣服がピッタリとくっついているから、膨らんでいる双房が一緒に揺れてしまっていた。
セシリアさんって、先生と同じ位の大きさなんだな。結構着痩せするタイプなのか。────ってイカンイカン。
「セシリアさん起きて下さい」
「───ん。……………………ここは?」
セシリアさんは起きて辺りを見渡していたが、状況把握が出来ていない状態だったみたいだ。
「あれ、カイト様?」
「そうですカイトです。セシリアさん帰りましょうか」
「えっ!?あっ!?えっ!? す、すみませんカイト様、私ったらこんな時間まで寝ていたなんて!」
「いえいえ、気にしないで下さい。俺もさっき目覚めた所ですから」
そして俺は立ち上がりセシリアさんに手を差し伸べてあげた。
「ありがとう御座います」
そして靴とサンダルを履き、敷物をマジックバッグに片付ける時にセシリアさんのメガネを取っていた事を思い出してセシリアさんに渡した。
「これ、私の!あ、あれ?私、そしたらメガネをかけていないのに見えているの!?えっ!?あ、あれ!?」
あぁ、【キュア】をかけた時に目の異常も直していたんだな。
うーん? 後々教えてあげれば良いかな?
「ま、まぁ、良いじゃ無いですかセシリアさん。さぁ送っていきますから帰りましょう」
「えっ!? は、はい」
俺は強引に話を逸らして、セシリアさんの手を繋ぎ、セシリアさんがギルドに用があるとの事で、ギルドまで楽しく談笑しながら向かった。
もう、朝の様な俯くような感じは無くなったから良かった。
そしてギルドに着いた俺達は、中には入らずに入り口でセシリアさんに別れを告げて、宿の【ドリームス】に帰り、皆と合流して、今日あった事の報告をしあった。
俺の報告を聞いたリーナが『その人物を何としても口説き落としてカイのモノにしなさい!』と何故か意気込んで言ってきた。
理由を聞いてもはぐらかされてしまったから、リーナの本心は分からずじまいであった。
ほんと、リーナと言い、エルスと言い、どうしてそんなに俺に女性関係を勧めるのか謎なんですけど? 普通は嫌がるはずだと思うんだけどなぁ? 絶対、何かあるに違いないよ、全く。
そして、明日以降はギルドで討伐系の依頼を受けつつ、ジアン達の修業も兼ねる事に決まり、その日は就寝した。さっきまで寝ていたから、【スリープ】をかけて寝たのは言うまでも無い。
※カイトとギルドの入り口で別れたセシリアは──
セシリアが建物に入ると、中に居た人達は誰が来たのかと見てきて、その人物を確認すると数名の冒険者がプルプルと震えているのを確認したセシリアは『何で震えているのだろう?』と疑問に感じた位で、そのまま、受付に向かった。
「セシリア、お帰りなさい」
「ただいま、ミランダさん」
「って、貴方、メガネも掛けていないのに、私の顔、分かるの!?」
「うん。何でか分からないけど、眼の調子が良くなったの」
「そ、そうなんだ。もしかしてカイト様が何か魔法をかけてくれたんじゃ無い?」
「うーん?どうなんだろう?私が起きてる間は、特に魔法を使った感じはしなかったけど?」
「起きてる間はって、何セシリア、貴方、カイト様と寝たの!?」
「えっ!?あっ!?いや!?ち、違うよ!?私、お昼ご飯を食べたら、急に眠たくなって寝てしまったから、一緒に寝たとかはしてないよ!?多分」
「ふーん?まぁ、そういう事にしてあげるよ。それより、カサドラ様に報告しに行くんでしょ?ほら一緒に付いて行くわよ」
「うんありがとう、ミランダさん」
セシリアはミランダと共にギルドマスターが居る執務室に向かった。その途中、ミランダはセシリアが明るくなったのを、セシリアに聞こえない呟きを漏らして喜んでいた。
セシリアとミランダが執務室の扉をノックして、中から返事が返ってきてから、中に入ると、カサドラが執務机で仕事をしていた。
「お帰りなさい、セシリア。って、貴方メガネを掛けなくて大丈夫なの?」
「ただいま帰りました、カサドラ様。メガネは掛けなくても大丈夫です。何故か、眼の調子が急に良くなったので」
「そうなの。それに貴方、ここを出て行く時より明るくなったわね。ううん、違うわね。むしろ、以前の様に戻ったのね」
「はい!きっとカイト様と一緒に居れたお陰かと思います。カイト様の行動の一つ一つが紳士的に対応してくれまして、とても優しく接してくれましたから」
「そう。それじゃあ、カイト君の、と言うより、カイト君達の専属のにしても良いわね?」
「はい。それと、達ってどういう意味ですか?」
「あぁ、それはね、カイト君は現在6人パーティーを組んでいるから、その人達もって事なのよ。カイト君の人達以外は、事務仕事にしようかと思ってね。また、心根のない冒険者の人達に言われる恐れがあるからね」
「はい、分かりました。それでは、私はこれで失礼します。明日、カイト様が来て下さるので」
「えぇ、お疲れ様。それと、ミランダは残ってちょうだい、話があるから」
「はい」
そして、セシリアは最後に挨拶をして執務室を出て、そのまま家に帰った。
「それでね、ミランダ」
「はい」
「セシリアをこのままカイト君とくっつけようと思うのよ」
「それは良いと思いますけど、カイト様ほどのお方ならお相手が居るのでは無いですか?」
「えぇ、確かに居ますよ。まだ、公では無いですけど、相手はグラキアス王家のエルスティーナ様、フォレスト公爵家のリーナ様、カイト君の幼馴染みで同じAランクのノエルちゃん、グラキアス学園の先生をしているナリアさんに王都支部のロールちゃんが、カイト君の婚約者になっていますね」
「そんなにですか!?それでは、セシリアをカイト様とくっつけるのは無理があるんじゃ無いですか!?」
「いえ、可能性はあります。これを見て下さい」
そう言ってカサドラは、2枚の手紙をミランダに渡した。
「えーと、『カサドラ・ミストルチェ様、突然のお手紙で申し訳ありません。私はカイゼル・グラン・ド・グラキアス聖王陛下が第二息女、エルスティーナ・グラン・ド・グラキアスと申します。この度は、まだ公にはしておりませんが、私の婚約者であります、カイト様の事でお話しがあります。カイト様には、私の他にフォレスト公爵家第二息女であります、リーナ・ツォン・フォレスト様。カイト様の幼馴染みであります、ノエル様。グラキアス学園の教師であります、ナリア・ヤハウェ様。冒険者ギルド王都支部受付嬢、ロール・ウェスタン様。それともう一人居りますが今は控えさせて貰います。私を含めた六名が現在、カイト様の婚約者となっております』」
と、ここで1枚目が終わり、2枚目を見始まった。
「『そして此処からが本題です。詳しい理由は言えないのですが、実は、カイト様には言っておりませんが、まだまだ婚約者、又は友人を増やそうと思っております。友人は問題無いのですが、婚約者はカイト様の事を本当の意味で愛せる方を探しております。そんなカイト様は、大切になった相手には出来る限りの包容力を発揮します。もし、そういう方が御座いましたらカサドラ様の配慮で勧めてもらいたいのです。そして、この手紙の真偽を確かめたいのでしたら、リーナ様とお会い下さいませ。 エルスティーナ・グラン・ド・グラキアス P・S この手紙の事はカイト様には内緒でお願いします。』って、王女様直々の手紙ですか!?」
「そうなのよ。私も最初に見たときは驚いたわ。カイト君がバーン君からの手紙って言うものだから、そう思って見てみたらバーン君の手紙の他が、王女様からだったのよ。それでね、見てもらった通り、セシリアをカイト君のお嫁さんにしようかと思ってね。だから、セシリアには希望を持てるように嘘付いて、王女様の他に二人って言っていたのよ」
「いや、まぁ、良いのではないですか。王女様が増やして下さいと言っていますから。でも、どうしてそんなにカイト様の婚約者を増やす必要があるのでしょうね?」
「そうなのよね、それが分からないのよ。王女様からの手紙に私の配慮でってなっているのだけど、本当に勧めていいのかちょっと分からないから、手紙にあった、リーナ様に話を聞きたいのよ」
「あぁ、そういう事ですか!もし、リーナ様が来たらお連れすれば良いのですね?」
「そういう事よ。そういう訳でお願いね、ミランダ」
「はい、分かりました」
そして、二人はもう少し雑談をしていた。
お読みいただきありがとう御座います。
※備考※
ギルドマスターであるバーンが“あの村”の事を報告書に書く時にカイトとノエルだけで無く、ナリア先生を除くメンバーも書いているのでカサドラは既に他のメンバーの実力もある程度知っている。