2ー24話
今回はちょっとしたモブキャラが登場します。
食堂に向かう途中、リーナから鍛練してかいた汗を流してから食堂に行こうと言われたので、一度部屋に戻り、部屋に備わっているシャワールームで汗を流してから、食堂に向かった。
この宿屋に備わっているシャワールームの器具は、日本で使っていた時と同じ作りになっていた。正直、楽でありがたかった。
俺とジアンが食堂に着いた時には、まだリーナ達が来て無かったので、席に着いてメニューを見ていた。
しばらくして来たリーナ達の最後尾に先生が居たのだが、何故か不機嫌な表情を浮かべていた。
理由を聞いた所、『出来れば私も早朝からの鍛練に付き合わせて欲しい』との事だった。
先生の事情を知っているから、断るつもりは元から無いので、明日から先生も交えると約束して、朝食を食べた。
それからは、俺はバーンさんから預かった手紙を渡しに、此処グラティウルのギルドに行くことにした。
用事は早めに片付けた方が良いから。
ノエルとリーナは、ジアン達の修業に付き合うとの事で俺一人で行くことになった。
しかも、ノエルとリーナから、デートする場所も見てきてねと言われてしまった。
まぁ、ノエルと約束もしていたからちょうど良かったけど。
そして俺は、支配人のホスディさんからギルドの場所を聞き、ギルドまでの地図を書いて貰った。
結構、事細かに分かりやすく書いてくれていた。
宿屋を出発する前に、宿屋でお世話をしてくれているから、馬達の様子を見に行った。
なんせ、俺の言葉を理解してくれていたから、はいさよならって事はしたくなかったから。愛着が出て来てしまった。
初老の男性の世話係の人の話だと、馬達は俺の姿を確認すると、暴れるほどではないが、いつもより元気になっているそうだ。こんなに馬達に好かれている人は、久しぶりに見たそうだ。
馬達を軽く撫でてあげてから、厩舎をあとにした。
その後は、ホスディさんから貰った地図を頼りに、順調にギルドに着いた。
キョロキョロとまではいかないが辺りを見ながら歩いていたから途中、デートに向いていそうな店を発見したりした。あの二人………では無く三人が喜んでくれると良いのだけどなぁ。
目的のギルドの建物は、王都にあったギルドより一廻りデカいだけで外観は同じ造りをしていた。
建物に入ると、中も一廻り広いだけで同じ装飾で食堂も兼ねていた。
朝早くに来たために他の冒険者はそんなに居なかったが、やはり誰が来たのかと、一斉にこちらを見てきたのは同じであった。
そんな視線は気にせずに、朝早い所為か、ガラガラの受付に向かった。
「おはよう御座います。初めての方ですよね?本日はどういった御用件でしょうか?」
「おはよう御座います。実はギルドマスターのカサドラさんに会いに来たのですけど?」
「失礼ですが、どちら様でしょうか?一般の方はお会いできませんので、出来れば身分を証明してもらうのにステータスカードを提示して頂きたいのですが?」
「はい」
俺は自身のマジックバッグから、能力値とスキルを偽造、隠蔽した状態のカードを受付嬢に渡した。受付嬢は背中まである茶髪を三つ編みに可愛らしい容姿に背丈をしていて、王都と一緒の制服を着ていた。
「それでは、確認して参りますので、しばしお待ち下さい」
カードを受けとった受付嬢は奥に引っ込んでいった。
王都に居る時にロールさんに聞いてみたら、他人のカードを視たり、称号を加えるのに専用の装置があるとの事だった。
少しの間待っていただけで直ぐに受付嬢は戻って来た。
先ほどより少しだけ顔色が悪くなっていた様な気がするけど、気のせいだと思うことにした。
「た、大変お待たせしました。か、確認なのですが、あ、貴方様は本当に王都のギルドで言われているお方なのですよね!?Aランクのカイト様!」
「え、えぇそうですね。不本意ながら」
受付嬢は驚いていたのだが、声はかなり抑えてくれていたため、他の人に聞こえずに済んでいた。ちなみに王都のギルドで言われているって所が気になるけど。
「それで、カサドラさんに会うことは出来ますか?」
「は、はい、それは! もし、このギルドに噂のカイト様が来たらいつでも通すように言われていますので!」
「は、はぁ~」
話が通っているなら、それはそれで楽で良かったけど、噂のってどう言う風に広まっているだろうか?
受付嬢がこちらです、と案内してくれて後を追い掛けたときに、他の冒険者の人達がこちらを見て話し出していた。
王都の冒険者の連中と同じだと思った。
それより、王都の冒険者達、エルスの教育を受けて気持ち悪くなっていたのはどうなったんだろうな?直っているのかな?
受付嬢の後を付いて来たら、建物の2階で、扉に【執務室】と表札があった。
「(トントントン)カサドラ様、今、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ」
「失礼します」
受付嬢に応えたカサドラさんの声は、女性の声であった。
そう言えば、バーンさんからどういう人物か聞いていなかった。
部屋に入った中に居た人物は、肩より少し長いグレーヘアーを後ろでひと結びにして、優しそうな顔立ちに目元や口元に少しシワがあり、やや長身でブカブカの白いローブを着ている年配の女性が、ギルドマスターの執務室らしく棚にある書類を整理していた。
「それでミランダ、そちらの御仁は?」
「はい。こちらの方が以前、カサドラ様がお話しで言っていました、カイト様です」
「っ!? あら、貴方が王都で噂になっていると言われているカイト様なのね!」
「初めまして。 それと“様”は辞めてくれませんか、私はそこまで偉くはないですから」
俺は礼儀正しく挨拶をした。
「そうは言ってもねぇ? まぁ、まずは腰掛けてから話しましょうか」
カサドラさんは、三人も座れるソファーに手で座る様に促してきた。
ミランダさんはカサドラさんに挨拶をして部屋を出て行った。
カサドラさんは、執務室に設置していた陶器のティーカップに紅茶を注いで俺の前のテーブルに置いてくれた。
「どうぞ」
カサドラさんは俺と対面するようにソファーに座った。
「いただきます」
飲んだ紅茶は美味しく煎れられていた。
「美味しいです」
「ありがとう。 それでは改めまして、私はカサドラ・ミストルチェ。ここグラティウルにギルド本部を置かせてもらい、ここのギルドマスター兼、他の支部のギルドマスターのまとめ役の統括をしています。見ての通りお婆ちゃんだけれどよろしくねカイト君」
「お婆ちゃんだなんてご冗談を。まだまだそんな歳には見えませんよ?」
「フフフッ。お世辞でも嬉しいわ。私、こう見えても60歳なのよ。フフフッ!」
はぁ!?嘘だろ!?そんなに見えないって!?
「あらあら、そんなに驚いた表情をしている辺り、本当にお世辞では無かったのね」
「………は、はい。正直、40代かと思っていましたから」
「フフフッ。ありがとう。若く見えているなんて嬉しいわね。フフフッ」
「そ、それより挨拶が遅れて申し訳ありません。私はカイトと申します。この度は王都のギルドマスターであるバーンさんから手紙を預かっておりますのでご挨拶に来た次第です」
自身のマジックバッグから手紙を出し、カサドラさんの前に出した。
「ご丁寧にありがとう。 やっぱり“様”と呼んだ方が良いと思うのだけどねぇ?」
カサドラさんはイタズラな笑みを浮かべていたので、俺は苦笑いしか出なかった。
そして手紙を受け取ったカサドラさんは、手紙を読み始めた。
「事情は分かりました。そしたら、一人紹介したい子が居るのだけど良いかしら?」
「??? えぇ構いませんよ」
カサドラさんはソファーから執務机に移動して、机にあった小さな鈴を鳴らした。
一体誰を紹介されるんだろうか?
「お呼びでしょうか、カサドラ様」
部屋に入ってきたのは、先ほどのミランダさんであった。
「えぇ、そうよミランダ。 あの子は今日は来ているかしら?」
「はい、来ておりますよ」
「そしたらここに呼んでちょうだい」
「それは構いませんが……………宜しいのですか?」
ミランダさんはこちらを見て困惑顔をしていた。
「大丈夫ですよ。カイト君ならあの子の事を何とかしてくれますからね」
カサドラさんは笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「分かりました。すぐにお呼びします」
ミランダさんはカサドラさんにお辞儀をして、部屋から退出して行った。
「あの~カサドラさん。一体誰を紹介されるんですか?」
「実はね、その子、受付の担当にしていたのだけど、冒険者達から不吉なことが起きると言われて、精神を病んでしまってね、事務処理に廻していたのよ」
「そうなのですか。それにしても不吉なことが起きるって何が原因で、そんなこと言われているんですか?」
と、その時に、部屋の扉をノックして来た人が居た。
先ほど呼ばれていた人かな?
「どうぞ」
「失礼、します」
部屋に入って来たのは、ボサボサの黒いショートヘアーで、整った顔立ちに縁が黒い丸型メガネを掛けて、高くも無く低くも無い平均的な背丈にスラッとした体型をしており、ギルドの制服を着ている女性が入ってきた。ただ一つ気になった事があった。目の下に隈が出来ていたことだ。
「お呼び、でしょうか、カサドラ様」
「えぇそうよ。まずはこちらに来てちょうだい」
ソファーに座っているカサドラさんは部屋の入り口に立ったままの受付嬢に自分の横に来るように手で促していた。
「まず、カイト君この子を紹介するわね。この子の名前は、セシリア・クロワール、歳は17歳」
「初め、まして…………」
セシリアさんは座ってからずっと俯いた状態で、お辞儀をしてきた。
「そして、セシリア。この御仁は、ギルド内で噂になっているカイト君よ」
「初めましてセシリアさん」
俺がお辞儀をして、最後に笑顔を見せた時、セシリアさんは少しビクッとしていた。
そこまで、怖がらなくても良いのになぁ。
「それでね、セシリア。貴方にカイト君の専属の受付嬢にしようかと思っているのよ」
「……………いえ、結構です…………どうせ、カイト様だって……………私に関わると不幸になるって思うでしょうから………………」
セシリアさんは俯いた状態で話していた。
「あの~その前に、一体何が原因でそんなこと言われているんですか?」
「あぁそうだったわね、御免なさい。実はね、この黒髪が原因らしいのよ」
「???」
確かにこの世界では珍しい黒髪だけど、それだけなのか?
「最初にセシリアが依頼を受理した冒険者がその依頼を失敗して帰らぬ人になってしまって、それからセシリアが依頼の受理や、セシリアを口説いたりと、何かしらセシリアに関わった人が不幸にあっているらしいのよ。しかも、髪が黒いせいで不吉、不幸な事を起こしているに違いないって言っているらしいのよ」
「……………もしかして、それに関わった人達全員男性ですか?」
「えぇそうよ。そしたら、冒険者の誰がセシリアの噂をしだしてね、黒髪の魔女セシリアに関わる者は不幸が降りかかるって。男性限定で。」
それはそれは、何とも言えない不幸体質だな。
「えぇ~と、それでどうして自分にセシリアさんを専属の受付嬢と言うことになるんですか?」
「…………まず、セシリアの黒髪をどう思うかしら?」
「特には。強いて言うなら、セシリアさんには、ボサボサより、艶やかな状態の方が魅力的ですけどね」
「フフフッ!バーン君の手紙に書いてある通りの正直な子ね!フフフッ!」
カサドラさんは、笑顔で言ってきていた。
その傍らに居るセシリアさんはずっと俯いていた顔を上げて、こちらを見てきた表情は赤く染まっていて口元が少しほころんでいた。
「それでね、出来ればセシリアには以前の様に明るくなって欲しいのよ」
「……………ひとつ聞いて良いですか?」
「どうぞ」
「カサドラさんはどうして、そこまでセシリアさんを気に掛けるのですか?」
いくら何でも、一人の職員に肩入れを為過ぎているから。そこまで肩入れする理由があるのか?
セシリアさんはまた俯いてしまっていた。
「この子は、私の亡くなった友人の孫なのよ。この子の親の事も知っているの。それでね、この子の事を護って下さいって言われていたのよ。それなのに、私はこの子がこんなになるまで気付いてあげれなかったのよ。これじゃあ、亡くなった友人達に叱られしまうわね」
「……………亡くなった友人達はもしかして?」
「えぇ、冒険者をしていたわ。依頼で向かった時その時に………」
カサドラさんも最後は俯いてしまっていた。
「分かりました。セシリアさんが不幸を呼んでいるって噂何て無くしてあげますよ! それにセシリアさんは笑顔がお似合いでしょうからね?」
セシリアさんが顔をあげた時に、また赤らめていた。
「フフフッ! やっぱり、貴方はバーン君が書いていた通りの子だわね、フフフッ!」
バーンさん!一体何を書いたのですか!
「それじゃあよろしくお願いしますねカイト君。それと、今日はこの後ご予定はありますか?」
「この後は、都市に来たばかりですので都市の中を見て回るつもりです。婚約者達にデートするのに良い場所を見てくるように言われましたから」
「それでしたら、セシリアを案内に付けますので都市の中を見て来ると良いでしょう」
「カサドラ、様!?」
セシリアさんは驚いた表情をしていた。
「私としても、都市に詳しい方が居てくれますと助かりますので大丈夫ですよ」
「それでは決まりね!」
カサドラさんは喜んでおり、席を立ち執務机に向かい小さな鈴を鳴らした。
「お呼びでしょうか、カサドラ様」
少しして部屋に来たのはミランダさんであった。
「ミランダ。本日、セシリアはお休みしてカイト君をこの都市の案内をしてもらう事にしましたから」
「分かりました」
「それで、セシリアを出掛ける状態にするから手伝ってちょうだい」
「分かりました。喜んで!」
カサドラさんとミランダさんは満面の笑みを浮かべていた。セシリアさんは俯いてモジモジとして居たけど。
「それではカイト君、セシリアの準備をするから、下で待っていてちょうだいね?」
「分かりました」
俺は席を立ち、お辞儀をしてから部屋から退出した。
俺は一人で下に降りたときには、カサドラさんに会う時より、冒険者が増えていて、受付の奥から一人の子供が出て来たものだから、ほとんどの奴がこちらを見てきた。
俺は気にせずに、時間を潰すように、ここのギルドではどんな依頼があるのかと思い掲示板に向かった。
掲示板を見ると、王都と違い結構な数の討伐や素材集め、護衛の依頼が多かった。
でも一つ疑問に思ってしまった。ここでこれだけの依頼が出ているのに、王都のは少なすぎない、かと。もしかして、エルスの内政改革のおかげ、なのかと。
そんな確かめようのないことなどをして時間を潰していたら、少し騒がしくなっていた。
「カイト様」
そう声を掛けてきたのは、ミランダさんであった。
そちらの方を向くと、ミランダさんとボサボサだった黒髪を梳かして艶やかな髪になって、メガネをかけているが、先ほどまで目の下に隈があったのが分からないほどの厚過ぎない化粧をして、膝上の丈に肩だしの袖付きに小さなリボンとフリルが所々にある白いワンピースを着て、足下は、ヒールの高いつま先出しで足首で留めるタイプのサンダルを履いていた、セシリアさんが居た。
「お待たせしましたカイト様」
「……………」
「あの~カイト様?」
「あっ、すいませんミランダさん。セシリアさんがキレイになっていたものでついつい見とれていました」
俺は頭をかきながら少し俯いてしまっていた。
「あ、ありがとう、ございます、カイト様」
そう言ってきたセシリアさんを見ると顔を赤らめて俯いてしまっていた。
「それではカイト様。セシリアの事、お願いします」
最後にミランダさんはお辞儀をしてきた。
「はい、任されました」
そう言って俺はミランダさんの隣に居たセシリアさんの手をとった。
「それではミランダさん行って来ます」
「ちょっと待て、坊主!」
と、不意にそんなことが聞こえてきた。
「坊主、悪いことは言わねぇ!その女、黒髪の魔女に関わると不幸な事が起きるぞ!」
「「「「「そうだそうだ!」」」」」
背格好は筋骨隆々の180cmはあろう体格にスキンヘッドに堀が深い目が特徴のコワい顔立ちにピチピチの赤のタンクトップにベージュのズボンに脛まである茶色のブーツを履いた人物だった。
あれ、この人どこかで見たことあるぞ?
「って、貴方様は!?」
俺がその筋骨隆々の人物の方を向くと、その人物は青ざめていた。
「ど、どうして貴方様がここに居るんです!?王都に居るはずじゃあ!?」
「???」
あれ、俺の事もしかして知っている?えっ!本当に誰だっけ?
「どうしたんだよゴメス。急に言葉遣いがおかしいぞ」
「そうだぞ。坊主の顔を見た途端急に青ざめたりして、本当にどうしたんだよゴメス」
ゴメス……ゴメス……ゴメス……。あれ、その名前どこかで………?
「や、辞めろお前達!悪いことは言わねぇ!このお方にそんな口の利き方をしてはいけない!」
「どうしてだよ!」
「一体この坊主がどうしたんだよ」
今度は、ゴメスと呼ばれていた人が他の冒険者をなだめ始めだしていた。
それにしても、誰だっけかな?こう喉の所まできているのに思い出せない。あと少しなんだけどなぁ。
「良いかよく聞けよお前ら! このお方は、王都で噂になっているお方で、いちゃもんをつけた数々の猛者の冒険者を返り討ちにしたり、その実力はギルマス、いや、かの剣聖に匹敵する実力を持ち、その実力で“あの村”の事件を解決して、特例でAランクになったカイト様だ!ちなみにもう一度言うぞ!かの剣聖に匹敵する実力の持ち主だからな!」
ゴメスと呼ばれていた人の説明で、周りが急に静かになり、ほとんど冒険者が目を見開いてこちらを見ていた。
この説明口調、どこかで聞いたことあるんだけどなぁ?あとほんの少しなんだけどなぁ。
「まさかこんなガキがそんな化物な訳があるか!」
「アハハハ!そうだぞゴメス!お前が急に青ざめたりするから、なにがあるのかと思ってしまったじゃ無いか。アハハハ!」
「「「「「アハハハ!」」」」」
ゴメスの説明を聞いた冒険者達は、バカにするように笑い出してしまった。
「お、お前達………」
ゴメスはますます青ざめはじめていた。
「……………………………あぁ!思い出した!アナタは俺が初めて冒険者登録をしに来たときに絡んできた人だ!」
「…………………えっ?今更ですか、カイト様」
ゴメスさんは俺の言葉にキョトンとしてしまっていた。
「いやぁ~すみません。どこかで見たことある人だなって思っていたんですけど、中々思い出せなくて今やっと思い出したんですよ。アハハハ」
やっと思い出せたよ。やっと喉のつかえがとれた。
「なんだよゴメス。そんなに怯えるほどのガキでは無いじゃんかよ」
「そうだな。それより、小僧、悪いことは言わねぇから、その黒髪の魔女に関わるのは辞めときな。不幸になるからよ」
そう言って、一人の冒険者が俺が繋いでいるセシリアさんの腕を掴もうとしていたので、俺はその冒険者の腕を掴んだ。
「それが何なんですか!そんなことは知っているけど、俺には関係ないね!」
俺は掴んだ冒険者の腕を突き飛ばすように離した。掴まれていた冒険者は、俺が掴んでいた部分を擦っていた。
「このガキ!人が親切に忠告していればいい気になりやがって!」
「どうせなら、冒険者流の洗礼でもしてやるか!アハハハ!」
ふぅ~。どうしてこう毎度毎度ありきたりなトラブルが起きるのかな?
他の冒険者達もやる気満々の構えをしていた。もちろん素手で。
「あ~ミランダさん。ここでのいざこざは問題になりますか?」
「いえ、サブギルドマスターである私が一部始終見ていましたので、カイト様を処罰することはありません」
えっ!?ちょっと待って!?サブギルマスならこのバカ共止められたんじゃ無いの!?理由を聞きたいけど、今はそれどころでは無いか!
「セシリアさんはミランダさんと共に離れていて下さいね」
「は、はい」
二人は離れてくれた。
「それじゃあいくぜガキ!」
「はぁ~どうぞ」
それから、ゴメスさん以外のその場に居た冒険者全員を容赦なく気絶させた。
「さ、流石はカイト様だ!鬼神の異名は伊達では無いですね」
「ゴメスさん。まさかその鬼神って呼び名広めたりしていませんよね?」
俺は、ジト目を向けてゴメスさんを見ていた。
「ま、まさか~……………」
あっ!目をそらしやがったよ!
「…………………まぁいいですけどね。 それじゃあ、行きますかセシリアさん」
「は、はい」
俺はセシリアさんと手を繋いでギルドを出た。その時にセシリアさんは赤面していたのは言うまでもない。
※カイトがギルドマスターの執務室を出た後のお話し──
「それじゃあセシリアを可愛くキレイにしましょうかミランダ?」
「はい!」
「…………カ、カサドラ様ど、どうしてそこまでして…………する必要があるですか?」
「それはね、バーン君の手紙に書いてあったのよ」
「王都の…………ギルドマスターが……………」
セシリアは俯いた状態でカサドラに聞いていた。その間、ミランダは別室に行って居なくなっていた。
「カイト君は、まだ公になっていないけれど、第三位王位継承者であるエルスティーナ様の婚約者になっているのよ。それにね、他に二人も婚約者が居るらしいのよ」
「……………そんな方が私なんか相手にしませんよ…………」
「そんな事はないのよ。あの子はあぁ見えてね、自分の大切な人は大事にしてくれる力と包容力を持ち合わせているのよ」
「……………それが何なんですか…………」
「私としてはね、出来ればそう言う殿方に貴方のことを任せたいと思っていたのよ。将来的にも」
「……………そんな方が私なんか相手にしませんよ。どうせ、不幸が起きて、カイト様も居なくなりますよ…………」
カサドラはセシリアの後ろ向きな言葉に困惑顔をしていた。
「ねぇ、セシリア。カイト君は貴方の黒髪の事を何て言ったか覚えているかしら?」
「………………ボサボサより、艶やかな状態…と……………」
「そうよ!カイト君は貴方の珍しい黒髪を奇異の目で見たりせずに、そう言っていたのよ! それは、貴方のことを普通の人と同じに見てくれていた事だと私は思うのよ!」
「………………それは私も気付いていましたが……………それでも私に関わった男性は、不幸になりますよ、きっと…………」
「……………分かったわ。それじゃあ、条件を出しましょう。もし貴方がカイト君に少しでも好意を持てないなら、この先、カイト君との仲を無理にくっつけようとはしません。でも少しでも好意が持てたのなら、どうか前向きになってちょうだい。私からのお願いよ」
最後にカサドラは頭を下げていた。
「………………分かりました。カサドラ様からのお願いですから」
セシリアは頷きながら返事を返していた。
「お待たせしました、カサドラ様、セシリア」
「さぁ、ミランダが戻ってきたから、セシリアをうんと可愛くキレイにしましょうか!」
執務室に戻ってきたミランダの両腕には大量の衣服が抱えられていた。
「………………程々にお願いします……………」
「それとミランダ」
「何でしょうかカサドラ様?」
「もし、カイト君絡みで問題が起きたらどの位の実力があるか知りたいからなるべく手出しはしないようにね」
「分かりました。ですが、カイト様の実力はバーン様からの報告書でご存じのはずでは?」
「えぇそうなのだけど、やっぱり剣聖と同じ実力があると言われていれば、身近で知りたいじゃない?」
「そう言う事でしたら、承知しました」
「よろしくね」
「…………………」
衣装合わせやメイクをしているセシリアを余所に、二人してそんな話をしていた。
お読みいただきありがとう御座います。