2ー21話
「「ふぁ~~」」
俺は辺りを気にせず大きく、ナリア先生は手で口元を隠して二人してタイミング良く欠伸が出てしまった。
あ~寝みぃ。本当に朝まで付き合わされるとは思わなかった。
それにしても、リーナ達め!俺が助けると思っていたから手出ししなかったと言っていたな。おかげで目立ってしまったよ。
「おはようございますカイ、ナリア先生」
「おはよ~う」「おはよう」「おはようございます」
そう声を掛けてきたのはリーナ、ノエル、ジアン、ルセであった。
「おはよう」「みんな、おはよう」
俺とナリア先生はそのまま食堂で座って居たので、リーナ達が身支度をして降りて来ていた。俺と先生を朝まで付き合わせた街の人達はそのまま食堂のあちこちで寝ていた。ここの宿屋兼食堂の店主と女将さんが諦めてそのままにしたから。
「それで朝まで付き合わせられたの?」
「あぁ。ふぁ~。眠くって仕方ないよ」
「先生まで付き合うことなかったですのに」
「そうはいかないだろ、カイトはまだ未成年なのだから」
「ですが、先生は女性です!寝不足は健康に悪くお肌が荒れる原因の一つですよ!」
リーナの言い分はごもっとも。
「そ、そうだが一日や二日不規則な生活で直ぐに悪くなるわけないだろ?」
「先生、侮っていると直ぐに肌荒れを起こしてボロボロになりカイに嫌われますわよ!」
「えっ!?」
イヤイヤ、先生、リーナに言われてこっちを向いてきたけどそれだけで嫌いにならないよ?
「先生。先生はもう自分一人の身体では無いのですから前以上に自分を大切にして下さい。昨日言われたでしょうカイに、『俺の女だ!』って」
「は、はい、以後気を付けます」
リーナが昨日の出来事を掘り返して、先生は俯いてしまった。今まで通りなら顔は赤くなっているはず。やっぱり他の人が言うと恥ずかしいこと極まりないな、今寝ている街の人達にも言われたけど。
「ですのでカイ」
「あぁ分かっているよ。先生は移動中、馬車の中で寝てて下さい、俺が御者を務めますので」
「いやそれは、カイトだって寝不足だろう!」
「俺は何とかしますよ。それに余り俺を困らせるなら先生の事、嫌いになりますよ?」
実際嫌いにならないけどさ、そう言わないと延々と続きそうだからな。
「ぐっ!ひ、卑怯だぞカイト、そう言う事を言うのは!」
「だったら素直に馬車の中で寝てて下さいね?先・生?」
「……………分かった。ここは素直にお前の言葉に甘んじて休ませてもらうよ」
「はい」
それともう一つ。
『ノエル』
『ん?念話で何てどうしたのカイくん?』
『馬車の中で先生に【スリープ】と【リフレッシュ】を掛けてあげてくれるか?』
『良いよ。ぐっすり眠らせて気分も回復させるんだね?』
『あぁそうだ。睡眠も状態異常扱いで【キュア】で治せるけど、切羽詰まっている訳でも無いからな』
『りょう~か~い』
それから朝食を食べてから、出発の準備を始めた。
俺達が出発の準備が終わる頃には食堂で寝ていた人達も起き出して宿屋の外に出て来ていた。先生はやはりスカートタイプのスーツ姿の格好だった。
「それでは皆さん、お元気で」
「あぁカイトも元気でな!」
「またお前の武勇伝を聞かせてくれよ!」
「俺達も武闘会に、お前達の試合を観に行くからよ!」
「はははっ。はい、観に来てくれるのを待ってますよ。それでは」
俺は馬達を走らせ、街の人達は手を振りながら見送ってくれた。
あの人達は話してみると結構気さくで話していると段々と楽しくなっていた。ただ、『俺の女だ!』を繰り返して来なければ。
街に入ってきた南側の反対の北側に向かい兵士に挨拶をして街を出た。
「お前達今日もよろしくな」
「「ヒヒィーン!」」
『カイくん』
『ん?』
『先生に魔法を掛けてあげたよ』
『サンキュー、ノエル』
『どういたしまして』
「それとすまないが出来るだけ静かに走ってくれると助かる。寝かせてあげたい人が居るからさ」
「「ブフゥン」」
二頭は了解したと言わんばかりに出来るだけ小さく鼻を鳴らして返事をしてくれた。結構器用なんだと感心するばかりだよ。
途中、かなり行き交う人達が居たがエルスの暴走?とも言える行為はかなり役立っている様で何よりだと感心した。それにしてもよく内政など解決出来るだけの知識を持っていたんだよ、あの人は。
その後も、順調に進み昼食をとる為に街道から少し外れた所に拓けた場所を見つけたのでそこに停まって昼食の準備を仕始めた。
「準備出来たよ!」
ノエルの呼び声を聞きみんながテーブルに近づきイスに座った。今日は先生が食べたがっていた温かいうどんを並べていた。
「ほぉ~コレが温かいうどんか!」
「そうです、お替わりもありますから遠慮無く言って下さい」
先生はノエルの言葉を聞いていない感じになっていた。早く食べたくて。
「よし、それでは」
「「「「「「いただき」」」」」」
──バシャッ!──
ます、と言うところで結界に何かが引っ掛かったみたいだった。
「カイ、今の音は?」
「何かが結界に当たった音だね」
その音の方向を向こうとしたらリーナが聞いてきた。
──バシャッ!バシャッ!バシャッ!──
「ガオォン!グルルルル!」
結界の範囲を50m程にしていたから、結界の音と何かの鳴き声が聞こえた方を向いた。
その方向にはベアーより更に凶暴な性格の毛が黒いグリズリーが一頭、ヨダレを垂れ流しながら結界に攻撃していた。
「どうして街道近くにコイツがいるんだ!?」
先生の疑問はごもっとも。あまりにも凶暴で攻撃性が強いから冒険者Bランクの者での討伐対象になっている、こんなのが街道に現れていたら通行している人達に襲い負傷者だけでなく死者も出てパニックになっている所だ。
「こんなのが街道に出たらマズいぞ!」
「そうですね。……………先生」
「何だカイト、こんな時に!」
「今からお見せしますよ、あの魔法を」
俺は席を立ち、グリズリーの方向に向かった。
──バシャッ!バシャッ!バシャッ!──
「グゥルルルル!」
俺が近付くとますます攻撃性が増して結界に攻撃をしていた。
「すまないな、お前は危険だから討伐させてもらうよ」
グリズリーに向けて手をかざして、コイツを充分に動けなく出来るだけの氷をイメージし放った。
そして、グリズリーを水の結晶の証、氷山の一角に閉じ込める程の大きさの氷で動けなくした。
「こ、これがあの魔法の真髄か…………」
いつの間にか傍に来ていた先生が呟いていた。
「えぇそうです。 それに生命力が強くない魔物はこの魔法で凍死します」
「とうし?」
「あぁすみません。生きている人や動物、魔物には熱がありますよね?」
「あ、あぁ、そうだな」
「一定以上の熱が無くなれば生き物は活動出来なくなり、死に絶えることになります」
「そ、そしたら………」
先生は氷漬けになったグリズリーを指差した。
「はい、このグリズリーはこのままで居ると、活動に必要な熱が無くなり死に絶えますね」
「やはり………」
「ですが、生命力の強い、もしくは強くなった者には仮死状態にしかなりません」
「かし……状態?」
「はい、仮死状態です。活動に必要な熱が最低限のままで機能している状態の事です」
俺は【虚空】をマジックバッグから取り出し魔力を流して強化してグリズリーの心臓めがけて刺した。
「なので、確実にトドメを刺さなければいけません」
「カイトお前…………」
先生は何処か表情が暗くなってしまった。うん、これはやり過ぎた、しかも飯時にやることでは無かった。
他のみんなは何ともなく、うどんを食べていたが先生は全く手を付けなかった。
そして片づけの時にリーナにこってりと怒られてしまった。
「それにしてもお前達はよく騒がなかったな」
「「ブフゥン!」」
当然、と言わんばかりに勢いよく鼻を鳴らして返事をしてきた。度胸もありたいした物だなお前達は。
俺はそのまま馬達に【キュアヒール】を掛けて元気にしてあげた。
先生はそのまま午後からも馬車の中に入り込み、俺が御者を務めていた。
「どうしたものかねぇ」
いつまでも話さないでおくわけにはいかないしな。本当にどうしたものかねぇ。
そのまま辺りも段々と暗くなり出してきて何故か行き交う人が全く無くなった、次の目的地のドール村が目に見えてきたが、何やら村のあちこちから火の手と煙が立ち上がっていた。
「みんな、何やら村の様子がおかしい!」
俺の呼びかけに馬車の中に居るみんなが顔を出して見ていた。
「カイ!」
「あぁ、もしかするかも知れないからしっかり捕まって居てくれ!」
「分かったわ!」
みんなが中に引っ込んだのを確認してから、馬達の手綱をしっかり握り占め手綱を一回振るうと馬達は理解して勢いよく走ってくれた。
村に入らずに傍まで着くと、やはり襲われている形式があった。俺はみんなに声を掛けて、みんなと一緒に警戒しながら村に近付いた。俺は手には【虚空】を携えて、みんなはそれぞれの得物を携えて。
村の入り口から中の様子を確認すると、木造の家屋が何軒か火の手と煙が上がって居るだけで対して壊れてはおらず、どうやら魔物に襲われた訳では無く人が、しかも盗賊の類いが村を襲った様だった。
「(カイ、これは?)」
「(多分、盗賊辺りだろうな)」
「(これからどうするのカイくん?)」
「(みんなはここに残っていてくれ)」
「(俺達だって力を付けてきたんだ、力になれるだろカイト!)」
「(うん、そうだよカイトくん!)」
「(そうじゃない。これから先は……………………人殺しをする事になるかも知れないからだ!)」
「「っ!?」」
そう言われて初めてジアンとルセは理解したらしく目を見開いていた。
「(それをジアンとルセに見せたくないしやらせたくないんだよ!)」
「(ここはカイの言うとおりね!私達は警戒しながらここで待って居ましょう!)」
「(私は付いて行くぞ!)」
そう名乗り出たのは先生だった。
「(いえ、先生も残っていて下さい!昼間の件よりヒドくなりますから!)」
「(いや、みんなに言われて忘れていたのかも知れない。お前も冒険者だって事がな)」
「(……………分かりました)」
先生は真剣な、だがまだ何処かで揺らいでいる感じの眼差しで見てきていた。
「(それでは、みんな警戒を怠るなよ!)」
「(えぇ!)」「(うん!)」「(おぉ!)」「(はい!)」
リーナ、ノエル、ジアン、ルセがそれぞれ返事を返してきた。
「(それでは行きます!)」
「(あぁ!)」
俺は先生に声を掛けてから村の中に足音をなるべく消して静かに入った。先生も同様に足音を消していた。先生の手には使い込まれていたミスリルの片手剣を携えて。
辺りを見回すとやはり家屋はそんなに壊されてはいなかった。が兵士と思われる鉄製の装備をした4人の人物は殺されていた。無残に。
そんな中警戒して進んでいると建物の間から村の広間らしき場所から灯りが見えていた。
「エへへへっ!やりましたねお頭!」
「オレ様の言った通りだったろ!ガハハハハ!」
警戒しながらその場所に近付くと、その様な会話が聞こえて、建物から少し除くと、主犯と思われる身なりが整っている10人の盗賊が村の人達と思われる30数人の人達が口と手を後ろにされてロープの様なモノで縛られている人達を囲う様に立っていた。
「で、お頭!この後どうするんです?」
「そんなの決まっているだろ!年若い女と子供はオレ達が楽しくヨロシクして他の奴は殺すんだよ!」
盗賊のお頭と言われている茶色の短髪の厳つい顔と体格の人物が鉄製と思われる剣を捕まえた人達に向けていた。
「(どうするんだ、カイト?)」
「(もう少し観てみましょう、アイツら離れているから1人でも取り残すと村の人を人質にするかも知れませんから)」
魔法で何とか出来なくもないけど、盗賊の奴らが余りにも近いし、混乱して手に携えている剣や短剣、片刃斧を闇雲に振り回して村人に当たって負傷させるわけにもいかないからな。
「それにしても、通行が便利になって行商人や身なりのいい観光客のカモも増えたのはいい事だぜ!聖王陛下様々ってか?アハハハハ!」
アイツら好き勝手言いやがって!
「(カイト、私が囮になりアイツらの注意を引いて、アイツらを一カ所に集めるようにするよ)」
「(ですが、どうやって?)」
「(昨日、絡んできた奴らが居ただろう、私のこの格好を見て)」
確かに先生の今の格好は、ヤバイ位に色っぽいけど、今は仕方ないとはいえ何か他の奴らに先生の姿を舐め回して見られるのは釈然としないな。
「(…………正直、先生の姿を他の奴らに凝視させるのはイヤですけど、今は仕方ないです)」
「(それでは、私はあのお頭と呼ばれた人物の後ろから現れるよ)」
「(はい、少しだけでも良いので出来るだけ村人達から離して下さい)」
そう言って先生は頷いて早々と行動した。
「あ、あの~」
その声はお頭の後ろの方から聞こえて来ていたので先生が仕掛け始めていた。
「あん?なんだ?」
「あ、あの~一体何をなされているのですか?」
「あん?姉ちゃんどこから湧き出てきた。と言うより色っぺぃ姉ちゃんだな!」
お頭がそう言うのも無理は無い。先生は上着を脱いでブラウス姿にボタンを胸元まで開けてスカートは左足の太腿が見える様に切っており、そういう格好をしていたから。
「姉ちゃんもしかしてオレ様を誘っているのか?グフフ!」
「い、いえそういう訳ではないですけど、で、出来れば助けて欲しくて」
先生が一定の距離でモジモジしながらお頭と話していると、囲んでいた他の盗賊の奴らがジリジリと先生の方に近付いていた。
それにしても先生演技上手いな。
「あん?何から助けて欲しんだ!言ってみろよ、オレ様が助けてやるぜ!アンタを堪能した後だけどな!グフフ!」
「お頭!もちろん俺達にも廻してくれるんすよね!こんな上等なのを独り占めする気は無いですよね!」
「あぁ、オレ様が飽きたらな!グフフ!」
「「「「「「「「「へへへへへへ!」」」」」」」」」
もう充分だな。
俺は村人達に手をかざし風の障壁を作り盗賊と分断した。
「な、なんだ!?何が起きた!?」
「ぐふっ!」
盗賊の奴らが事態を飲み込めずにいた所に先生がすかさず盗賊の1人に攻撃をして意識を狩り取っていた。
先生!1人でやるつもりか!?
俺が急いで駆けつける間に2人目、3人目と素手で意識を狩り取っていた。
「このアマ!いい気になるなよ!」
お頭は剣を振りかざして先生に斬りかかり先生は一度後ろに飛び退いて躱していた。
「まさか、アンタだけではあるまい姉ちゃんよ!」
「もちろんそうに決まっているだろ?」
「おい、警戒をし─」
「ぐふっ!」
お頭が他の奴らに注意を促している時に俺は一人の意識を狩り取りそのまま先生の傍に近づき先生を背に俺は盗賊達と向き合った。
「先生、1人で仕掛けないで下さいよ」
「すまない、自分でした事とはいえコイツらに舐め回される様に見られていたから発散するためにな」
「コイツが助っ人か、ガキじゃねぇかよ!」
「だからって、1人でやらないで下さいよ」
「そ、それはすまない」
「たかがガキ1人、増えたからっていい気になるなよ!」
「そ、それにカイト、お前はた、大切な人は守ってくれるのだろう?」
「えぇまぁ………」
「っておい!オレ様の話を聞いているのか!」
「だ、だから無茶してもいいかなって…………」
「だからと言って、俺が傍にいない時は無茶は止めて下さい!」
「おい!お前ら痴話ケンカは止めてオレ様の話を聞け!」
「っ何ですかさっきからうるさいな!今、大事な話をしているんだ!」
「い、いや、お前らオレ達の邪魔をしにきたんじゃ無いのか?」
「あぁ、そうだった。と言うわけでくたばってくれ!」
俺は脚に魔力を集めて速度をあげる身体強化をして、【虚空】の峰で盗賊達の意識を狩り取った。
「ふぅ」
「目の前で見ると改めてスゴいな!」
「ははっ。本来あってはならない力ですけどね」
「そう言うけど、この様な時は大切な力だけどな」
「そう言ってもらえると助かります」
「ぐっ!死ね!」
その声と共に、意識を完全に狩り取れていなかったお頭がどこに隠していたのかナイフを先生目掛けて投げてきて、俺はナイフを【虚空】ではじき落とし、お頭の心臓目掛けて刺した。
「カイトお前…………」
「先生何とも無いですよね?」
「あぁ……………」
その返事を最後に先生はだんまりになってしまった。
その後は、念話でリーナ達に馬車と共に来てもらい、村の人達と村に訪れていた行商人や観光客の人達のロープを切り自由に動ける様にして、代わりに盗賊達9人を縛り上げた。
年配の村長と思われる人が代表してお礼を言ってきたが、今の俺はそれどころでは無かった。
俺はみんなの了承を得て、村長に事情を説明して、少しの資金を渡して早々に村を出た。
村を後にした俺達は街道沿いから少し外れた場所に停まり、野宿の準備を始めた。
俺は先生の目の前でやったことをみんなに話してから、村での事情説明をするために、通門で王城にいるエルスの元に訪れた。
「エルス」
「…………ん?その声はカイト?」
エルスはベッドから上体を起こして、近くのロウソクに魔法で火を灯した。その際にエルスの寝間着はピンクのスケスケのネグリジェを着て小さな双房が見えていた。
「あぁ、夜分にすまない」
「いいわよ。夜這いに来たのでしょ?」
「ちょっと緊急の事態が起こったんだ」
「──分かったわ。事情を話してちょうだい」
エルスは巫山戯ている場合では無いと理解して、俺は村で起こった経緯を話した。
「分かったわ、すぐに兵士を向かわせます」
「すまない………」
「──カイト、先生達とちゃんと話し合ってみてよ?」
「どうしてそれを?」
先生の話はしなかったのに。それに先生達?
「私とリーナは離れていても大体の事は分かるのよ。リーナの怒りと哀しみの感情が私にも流れて来ていたから、あの中でアナタがやらかす相手は先生しか居ないからね。ノエルとリーナはともかくジアン君とルセにはアナタだからと割り切らせているから」
流石だな、よく分かっているけど、色々と俺の知らない事を知っているみたいだ。
「ありがとうエルス」
「フフフッ、どう致しまして。それにアナタの本質と向き合う機会だったのかも知れなかったしね。それじゃあ私はお父様を起こして事情説明をしてくるわ」
そう言ってエルスはガウンを羽織って部屋を出て行った。俺の本質?ってどうゆう事だ?
俺は通門でみんなの元に戻り、ジアンだけが見張りをする為に外に残っていた。座ってたき火を灯していた。
「おかえり、どうなった?」
「エルスがすぐに動いてくれたよ。他のみんなは?」
「飯を食べて、馬車の中で寝てるはずだよ。ただ、先生だけは食わなかったけど」
「そうか…………」
参ったな、どうしたものかね。俺は頭を軽くかきながらジアンの隣に座った。
「なぁカイト」
「ん?」
「先生な、カイトは心のどこかで殺す事を楽しんでいるんじゃ無いかっていっていたんだよ」
「えっ!?」
俺が殺しを楽しんでいるだって!?まさか、そんな訳無いだろ!
「昼間、カイトがグリズリーにトドメを刺したとき、お前口元が笑っていたんだって」
「えっ!?」
「それを見たとき自分の見間違いかと思っていたけど、盗賊のお頭と呼ばれていた人物が先生にナイフを投げてきたんだろ?」
「あぁ………」
「そしてお前はその人を殺した。その時もお前、口元が笑っていたんだって」
「………………」
俺が笑っていた?そんな、まさか。
「それを見た途端、お前が恐くなったって言っていたよ。それに俺とルセも最近気付いたんだ、お前が笑みを浮かべていたのを。それをエルスに話はしていたんだよ……………」
「………………………そうか…………………ありがとうジアン、話してくれて」
「あぁ」
その後はジアンに休むように言い、俺は1人で見張りながらジアンから聞いた先生とジアンの話を繰り返し思い出して、朝を迎えた。
先生を除くみんなはいつも通りに接して来たけれど、先生だけは暗いままだった。先生はスーツ姿を止めてラフな格好をしていた。
それから、先生も朝食を食べれて、出発の準備を始めて、リーナ達が先生を御者台に無理矢理座らせて俺は今日も御者をして手綱をふって出発した。
「先生」
「……………」
御者をそのまま俺がやっている隣で先生はずっと俯いて黙ったままで、馬車を走らせていたが耐えきれなくなり声を掛けたが返事が無かった。
「先生、ジアンから話は聞いたよ。俺、自分では笑っている自覚は無かったんだよ。まさか、そんな事していたとは分からなかったんだ……………」
「……………」
ふぅ~。どうしたものかな?
「なぁカイト」
「はい」
「私はな、心の片隅でカイトはこんな事を平気で笑みを浮かべながらする訳が無いと思っていたんだ」
こんな事とはグリズリーと山賊にトドメを刺した事。
「私の見間違いかと思っていたし、どんなに容赦しないと言っても手加減をしていたから」
「…………」
「私はお前と居る内に何処かで勝手に美化していたんだな。こんなんじゃ、お前の婚約者は失格だな」
「…………なぁ先生。俺、実は既に人を殺しているんだよ」
「…………」
「学園の試験当日に公爵様が盗賊に襲われている所を助けた時に、ノエルと共に」
「…………」
馬達しばし頼むぞ。と願い先生の方を向いて先生もこちらを見ていた。
「既に手を血で染めてしまっているけどそれでも俺は先生の事を守りたいんだ!そして、俺が殺しの快楽者にならないように傍に居て止めて欲しい!ダメかな?」
「!!!!!!」
見る見るうちに先生の顔は赤くなり出してきていた。
「先生!」
「……………な、名前で、よ、呼んでくれなきゃ、ダ、ダメだ」
「ナリア」
先生が目をつぶり、俺は先生に口づけをした。
「こ、これから、あ、改めて、よ、よろしく、た、頼むカイト。そしてお前が道を外さない様に傍で止める一員になるよ」
「はい!」
『カイト』
『な、なんだリーナ』
いきなりリーナからの念話で俺は動揺してしまった。
『私達も待っているからね、カイトからの熱い愛の告白とキスを』
やっぱり聞こえていたのか。俺ってばスッゲぇ事言ってたもんなリーナ達が傍に居る時に。
『じ、時期がきたらな』
『えぇその時を待っているわ、それじゃあね』
そして念話は切れた。とんでもないことしてしまったよ。
その後は、先生と充分に話し合う内に、昼時になりまた街道沿いの拓けた場所に停め、先生が食べ損ねた、温かいうどんを食べて先生は喜んでいた。
その際にみんなと話し合い、俺に1人で討伐の依頼をしないよう、また生物のトドメを刺さないように約束させられた。
食休みが終わり馬達も回復させて、次の街のカサスを目指した。
お読みいただきありがとう御座います。