2ー15話
お読み下さりありがとう御座います。
「ヨ、ヨシッ!」
「ん?ジアン、緊張でもしているのか?」
「あ、当たり前だろ!普通に考えたら緊張するものだろ!」
「まぁそうなんだろうけど、そんなに緊張していたら、勝てるものも勝てないぜ。俺との手合いでの普段の動きが出来れば勝てるからさ。それは俺が保証するよ」
「お、おう!」
あっ、ダメだこりゃ。かなり緊張してしまっている。どうしたものかねぇ。
俺達はリーナの屋敷から馬車で学園に向かっている途中で、学園に近づいていたときに、ジアンが自身に喝を入れている声が聞こえていた。
「それじゃあ、私がジアン君とルセに勝てるおまじないをしてあげる」
エルスが打開案があるらしい。
「カイト、昨日の最後にどうして結界を壊すような攻撃を出したの?」
エルスが突然俺に話を振ってきた。
「ん?あぁ、あれは、シトエン先輩がかなりいい人だったからさ、何か鍛練の目標になるようなものはないかと思ってやっただけなんだ」
「そうなんだ。ちなみにセリカ様が言っていたのだけれども、カイトが壊した結界の強度って実は…………」
「うん」
「ジェイド様とセリカ様がどちらか一人の全力攻撃で少し壊れる位の強度を持っていたんですって」
「ッ!?」「「えっ!?」」「カイくんスゴい!」「さすがカイね!」
エルスの衝撃の発言に俺は絶句し、ジアンとルセは驚き、ノエルとリーナはそんなこと出来て当然と言わんばかりに言っていた。
「……………エ、エルス、それ本当かよ!?」
「えぇ、間違い無いわよ。はっきりとセリカ様はおっしゃっていたし、ジェイド様なんて、アナタと闘えるのを楽しみにしていたのよ!」
マジかよ!あの二人でさえ、少ししか壊せないほどだったのかよ!マジ、やり過ぎたな!
「カイトお前、あの剣聖様と魔導師様のお二方より強くなったってことかよ!?」
ジアンの奴が若干、引き気味で言っていた。
「そう言うことなのだから、ジアン君。そのカイトからのお墨付きなのだからまったく緊張する必要はないのよ、ルセもね」
「さすがにエルスちゃんには、敵わないなぁ。私のこともよく見ていたんだね」
「えぇ、当然よ。私達の大切な友人なのですから」
エルスには参っちまうよ。俺の異常な強さの話で二人の緊張をほぐすなんてな。まぁ、おかげで二人の緊張がほぐれたしな。
エルスに言われて初めてルセも緊張気味になって、やや表情がかたいことに気が付いた。
「───うん。俺、勝てるって自信が出てきたよ!」
「うん、私も!」
そんなこんなで学園に着いた。
俺達は選手専用の観戦席に向かう途中で、特等席に向かうエルスと別れた。
「これより第三試合、5年Bクラス、ヒュム・クライスラー対1年Eクラス、ジアンの試合を行う!」
俺達が観戦席に着いて間もなくに、審判をしているナリア先生が声を高らかに張り上げ、言っていた。
「それでは、始め!」
その合図と共にジアンの試合が始まった。
※※※
【ジアン視点】
「それでは、始め!」
ナリア先生の試合開始の合図があった。
俺の装備は、刃を潰した鉄製の片手剣に盾、胸当てに、籠手、脛当てを装備している。
相手の5年の先輩も似た装備をしていた。
その先輩が開始の合図から、一呼吸置いてから一気に間合いを詰めてきて鋭い一撃を放ってきていたから、盾で防いだ。
「ふむ、さすがに一撃では決まらないか。やるじゃないか後輩」
「それはどうも、先輩!」
盾で防いだまま、こちらからも、弱いが剣を振りかぶって先輩に一撃を与えようとしたら、先輩がいた場所に先輩がおらず、空を切った。先輩はすかさずに間合いを取っていた。
先輩の一撃を受けてみて分かったことがあった。強力な一撃ではなくて、やや強い一撃しか出せなかったこと。
あの細身の体格だから身体強化していて、あの一撃の強さ、そして、すぐにいなかったことを考えるとスピード重視に身体強化をしている人の様だ。
先輩はまた、距離を一気に詰めて、今度は手数で攻めてきていた。俺は剣と盾で防いでいき、先輩の攻撃が途切れた一瞬を付いて、攻撃をしたがまた空を切っていた。先輩は間合いを取っていた。
「やるねー後輩。俺の攻撃を受け止めつつ、隙を伺っていたとはね」
「それほどでもないですよ。実際には空振りしていますからね」
カイトが言っていた通りだったな。あの先輩はスピード重視で翻弄して来るかもって言っていたのは。
「この先も俺に当てることは出来ないだろう」
「うーん、そしたら、今度はこちら攻めてもいいですかね?」
「出来るものならな」
喋っている最中に脚に魔力を集めて身体強化をして、先輩が喋り終えたと同時に一気に間合いを詰めた。
「ッ!?なに!?」
先輩が自身の目の前に来ていたことに驚いている最中に、俺は脚に集めた魔力を剣を持っている右腕に集めて攻撃に転じた。
先輩は咄嗟に盾で防いでいた。
「グッ!?やるじゃないか後輩。俺はまだみくびっていた様だな」
先輩が攻撃しようと剣を振りかぶっていたので、俺はすぐに脚に魔力を集めて、間合いを取った。
「どうでした、先輩?」
「俺と同じ身体強化をしているのだろう?先ほどのは全力なのかな?後輩」
「うーん、多分半分ですかね」
「あれで半分の力だと!?」
先輩は驚いている表情になっていた。
「後輩は身体強化は何年も使っていたのかね?」
「いえ、ここ半月近くで身につけましたよ」
「─────ふ、巫山戯るなよ!たった半月程度で先ほどの速さは身につけられるほど容易くないんだぞ!しかも、まだ半分の力だと!?巫山戯るなよ!」
先輩は先ほどまでの穏やかさが消えて、怒りの形相に変わっていた。何が先輩の逆鱗に触れたのかが分からなかった。
「もう容赦はしないぞ、後輩!そんな戯れ言を抜かすことのないように徹底的にしてやる!」
そう発言している時点で、普通は審判をしているナリア先生が止めそうなのだが、まったくと言っていいほど、ナリア先生は動かなかった。
先輩が喋っている口調が変わっていたことで途中でヤバイと感じて目と脚に少し多めにそして全身に魔力を通わせていた。
先輩は先ほどよりも更に速く動いているのが確認出来た。
俺もその場から移動していたが先輩の一撃目が襲い掛かってきていたから剣で防いで、それは防がれると思っていたのか、すぐに二撃目、三撃目と続けて攻撃してきて、それを剣と盾で防いでいった。
正直、カイトの助言で目にも魔力で強化していなければ、既にやられていただろう。
普通は身体強化をすると僅かだが、視力が向上している位なのだが、意識的に魔力を高めると、どれほど速くても捉えることが出来るといっていたが、ただ捉えるだけで、身体の方が追いつかないと意味がないから常に身体強化をしていないといけないと。
先輩は高速移動しながら、攻撃をしてきていた。
俺も高速移動しながら防いだり、防御している合間に攻撃をしたりしていた。何撃目かに一回は、先輩は剣や盾で防いでいた。
それとリスクもあるから、カイトが早めに決着を付けろって言っていた。なので
「先輩、申し訳ないですが、早々に決着を付けさせていただきますよ!」
「ふざけたことを抜かすなよ!偶に、攻撃をしているだけで、俺の速さに付いてこれないクセになぁ!」
次の一撃で決める為に魔力を目に少し多めに、腕と脚に残りの魔力を高め、胴体にはまったく通っていない状態にした。
「では、先輩行きます!」
その一言を言って、高速移動している先輩を捉えて、一気に間合いを詰めて、脚にある魔力を瞬時に腕に集めて強烈な一撃を浴びせた。
そのまま、咄嗟に剣で防いでいた先輩を地面にたたき込んで、戦塵が舞った。
「ッ!?そ、それまで!勝者、ジアン!」
ナリア先生が俺の強烈な一撃をくらい、戦塵が晴れて気絶をしていた先輩を確認してから、宣言していた。
「ヨッシャー!」
ついつい拳を作りガッツポーズを左腕で取っていた。
「クライスラーの発言の時点で止めるべきだったのだが、ここまで勝ち残っていたお前の実力を知りたくてな。まさか、ジアンお前がここまでの力を付けているとはな」
「いえいえ、ここまで強くなったのは、カイトの容赦の無い指導のせいですよ。正直、ナリア先生の指導はかなり優しいですよ。アハハハハッ!」
「そ、そうか。それにしてもよくやった、おめでとう、ジアン」
「ありがとうございます」
ナリア先生は指導の話の時は若干、引いていたが最後は素直な気持ちで言ってきていた。
そして俺は舞台から降りて、選手専用の観戦席に向かった。
「ジアン、少しばかり無理をし過ぎたな。右腕は上がるか?」
観戦席に向かっている途中の俺は、開口一番にカイトからそう言われた。カイトが待ち伏せていた様だ。
「なんだ、ばれていたのか」
「当たり前だ。人は意識していないと利き腕とは反対の腕ではガッツポーズなんてしないからな」
「よく見てるな、カイト」
そう言い右腕を出した。
今、右腕は拳すら握れないほど力が入らず、袖の中は血が少し流れている状態になっていた。
さすがに結界から出てもかなり負傷したのは治りきらなかった。
その右腕にカイトは回復魔法をかけてくれていた。
「あれ、カイトいつもの回復魔法ではないのか?」
「あぁ、いつもの【ヒール】ではなく、その上の【ハイヒール】と状態異常を治す【キュア】が混ざっている【キュアヒール】だよ。かなり無理をしたな」
「まぁな、勝つって約束したしな!」
カイトが使っていたいつもの【ヒール】は淡い緑の光を放っているが【キュアヒール】は淡い薄黄緑の光を放ちながら、俺の腕の状態を治していった。
「どれ、次は目の治療だな」
腕を瞬く間に直して、カイトはそんなことを言っていた。
「なんだ、こっちのことも、ばれていたのか」
「あの高速移動にくらいつくんだ、俺が教えたやり方で対応しようとしたら、目に負担がかかる。それに下手したら、何も見えなくなるリスクのあるやり方なんだよ」
「でもいつかは、そんなことをしなくても、捉えることが出来る。だろ?」
カイトは頷き返事をして、俺の目に手をあててきた。
光が漏れてきたが、すぐに収まり、カイトの手が離れるのが分かり、目を開いた。
「どうだ?」
「あぁ、すっきりとした気分だよ。目にかかっていた重さ?かすみ?がとれたよ」
「ジアン、今回みたく少しの魔力による負担と病気による失明は治せるが、それ以上の魔力による過剰負荷での失明はおそらく治すことが出来ないだろう。だから使い過ぎるなよ」
「あぁ」
「それでは少し早いけど昼食を兼ねて、今日も晴れているから屋上に行こうか」
カイトがそう言いながら歩き、後に続いた。
※※※
※エルスがカイト達と別れて特等席に着いた頃
【エルス視点】
「あっ!エルスたん、おはよう!」
「おはようございます、学園長、ジェイド様、セリカ様、ついでにお父様」
「「おはようございます」」「おはようございます~」
「えっ!?ワシ、ついでなの!?」
3人は、私とお父様とのやり取りに慣れたのか、スルーしていました。
「これより第二試合、5年Bクラス、ヒュム・クライスラー対1年Eクラス、ジアンの試合を行う!」
ナリア先生が声を高らかに張り上げそう宣言していました。
「それでは、始め!」
「ふむ。カイトは仕方ないとして、1年のしかもEクラスの者が勝ってここにいるとは、どうゆうことなのじゃ、学園長よ」
「いえ、実はあのジアンと言う子は、試験の時は本当にEクラスのしかも、下の実力しかなかったのですよ」
「ッ!もしや、サナア様!?」
「えぇ、ジェイド、アナタの予想通りですよ」
「どうゆうことじゃ?」
「あのジアンともう一人いるのですがその子は、カイトとノエルと行動を共にして居るのですよ」
「つまり?」
「つまり、ジアンは確かな実力の持ち主になっているのですよ、陛下」
「なんと!?」
学園長の話を聞いたお父様は驚き、ジアンを見ていました。
「カイトの奴が一緒に行動させているところ、あの子にかなりの鍛練を付けているのでは」
「えぇ、もちろんですわよジェイド様。ちなみに私とリーナも一緒にやっています。それに、鍛練というより、カイト式の修業をさせていますわね」
「ほほう!つまりカイトの弟子と言うことですね!それなら、この試合、あのジアンって子が勝ちますね」
「ウホォ!スゴいの!あっという間に間合いがなくなったぞ!」
「えぇ、対戦相手の彼は速さに自信がある様子ですね」
お父様が興奮しているところにジェイド様が解説をなさっていました。ジェイド様は目を見開き、笑みをこぼしていました。
やはりこうゆう武術に関することは、ジェイド様は嬉しそうになさいますのね。
「そう言えば、学園長とセリカ様のお師匠様はどのような方なのです?」
「私達の師匠ですか?」
昨日、聞いた二人のお師匠様のことが気になって学園長に訊ねていました。
「そうですねぇ。師匠は体術と魔法の天才と言えばよろしいですかね」
「体術と魔法の?」
「はい。まず体術ですが、私達が誰も知らない、たしか………合気道と言っていましたね。その技の使い手で、たいした力もいらずに相手を倒してしまうほどでしたね」
「合気道……」
学園長が知らない、そのお師匠様が使っていた名前とその技の特徴からして、異世界人?私達と同じく転生者?しかも日本人?
「本当に~お師匠様は~スゴい方なんですよ~!」
「そして魔法の方は、言われて始めて納得したのですが、詠唱をすることなく発動出来る」
「無詠唱」
「えぇ、そうです。ご存じでしたか」
「私が~少し説明を~していましたから~」
「はい。そちらの方はセリカ様から少しだけ聞いていまして、リーナと一緒にカイトとノエルから教わり私も出来るようになりましたわ」
「なんと!?」「さすがです~」
「ほほぅ!あのカイトの弟子もやりおるわい!」
「弟子の身体強化の魔力の使い方はスムーズに出来ていますね!よっぽどカイトにたたき込まされたのでしょう!」
お父様とジェイド様ったら、かなり興奮していますわね。
楽しそうですわ。
「姫様は魔法使う際に必要なイメージが充分に出来るのですね」
「はい。本当に言われてみるとなるほど、と思いましたわ」
「そうなんです。師匠はそのことに気付いて瞬時に魔法を使うことが出来るのですが、それと同時に危険性も考慮していました」
「危険性?」
「はい。通常の詠唱は、口に出して唱えている最中にその魔法の属性を知ることが出来きその魔法の対応が出来ますが、無詠唱だと対応が遅れ、瞬時にやられることがあるため、師匠はその方法を信頼出来る者にしか教えていなかったのですよ。ですので」
「えぇ、分かりましたわ。このことは秘密にしますわ。もちろんカイト達にも厳密に言っておきます」
「はい、お願いします姫様。それとセリカも気を付けて下さいね」
「はい~姉様~!」
「今度は凄まじい速さで移動しているな!」
「それだけではありませんよ陛下。高速移動しながら両名共に激しい攻防を繰り広げています!」
「なんと!?」
「それでそのお師匠様はどうなされたのですか?」
「師匠は………現在行方不明で今どこで何をしているのか分からないのですよ」
「そうですの………そのお師匠様のお名前は──」
──ワァァァァァァ!──
「ジェイド、今のは!」
凄まじい歓声と共にお父様が何やらさっきまでの出来事が分からずにジェイド様に聞いていました。
「陛下!あの弟子は素晴らしいですよ!相手に追いつくために脚に集めた魔力を瞬時に右腕に集めて強烈な一撃を与えて相手を倒してしまいましたよ!」
「勝者、ジアン!」
ナリア先生が勝者の宣言をして、ジアン君が左腕でガッツポーズをしていました。
「いやー!やはり試合はこう出なくてわな!」
「そうですね陛下。私も久々に疼いてきましたよ!」
「それなら、このままカイトと試合をしたらどうだ、ジェイドよ!」
「陛下、エルス様に怒られますよ」
「じょ、冗談だよ、エルスたん!」
お父様は私が少し睨んだだけですぐに悪ふざけをやめました。
「これにて、午前の試合は終了とする!お昼休みを挟み午後から試合を行う!午後からの試合の者達は充分に準備をして試合に臨んでほしい!以上!」
学園長がこの場から、声を高らかに張り上げ、そう言っていました。
「それでは、お父様。私、カイト達と昼食を取りますので」
「えっ!?エルスたん、ワシも一緒に!」
「いえいえ。お父様が来ましたら友人二人が緊張して無礼をはたらき、問題になることが起きますので」
「無礼なんて、エルスたんと一緒に昼食を食べられれば、塵に等しいわい!それにエルスたんと一緒が出来なかったら、ワシ、絶対カイトとの婚姻なんて認めないもん!」
「っ!?」
もん。ってやっぱり子供ですわね。それにここでカイトとの婚姻話を持ち出すなんて、お父様やりますわね!
「分かりましたわ。それなら学園長も一緒に昼食を取りましょう。」
「私もですか?」
「はい、どうせこうなるだろうと、思ってましたから」
「分かりました。姫様のご好意に甘えます」
「そしてお父様は本当に友人達が無礼なことをしても問題にしないで下さいましね?」
「もちろんじゃ。エルスたんと一緒に昼食を取れるなら、そんなこと塵に等しい!」
「分かりましたわ。それでは行きましょうか」
そう言った私の後に、お父様とジェイド様、セリカ様、学園長が付いて来ました。
「エルス、これは一体どうゆうこと?どうしてジェイド兄ちゃん、セリカ姉ちゃん、学園長そして聖王陛下まで居るの?」
屋上に着いた私達を見たカイト達は、驚いた表情を浮かべていて固まっており、何の反応も示さないものですから、それぞれ座らせました。
その後にカイトが驚きのような呆れたような表情をして聞いてきました。
「ヨッ!カイト久しぶりだな」
「私は~ひと月近くだよね~ノエちゃん」
ジェイド様とセリカ様がそれぞれカイトとノエルに挨拶をしていました。
「知っているかもしれないが改めて名乗ろう。ワシはカイゼル・グラン・ド・グラキアス。ここグラキアス聖王国で王様をしておる!そちらの4人よ、よろしくな。特にカイトは!」
お父様ったら、最後にカイトの名前を強調して言いましたわ。
カイトは呆れ果て、ノエルはにこやかに平然とジアン君とルセは目を見開き驚いた表情をそれぞれしていました。
「先に言っておくが、ここでの場での無礼はどのようなことがあろうと、問題にしないと言っておく。でないと、エルスと一緒に昼食を食べられないのでな」
「と、言うことですので、連れて来ましたわ」
「────エルス、本当は?」
やっぱりカイトにはお見通しの様ですわね。
「カイトとの婚姻話を盾にされましたの」
「………………………」
あら、カイトったら、黙ってしまいましたわ。
「まぁ、色々積もる話もあるでしょうから、食べながらしましょう!」
それを聞いたノエルがマジックバッグから料理を出しました。
ノエル特製カレーにコロイモのグラタン、木の実パイ、果物を細かく刻み入れたパンにサラダ、タマゴスープに果実水を出しました。
「っ!?この匂いは!?」
お父様がいきなりそう言って、カレーの匂いに鼻を向けていました。
「どうなされたのです、お父様?」
「すまぬが、その料理をくれぬか!?」
「はい」
お父様がカレーを指差して、ノエルが返事をして、鍋に入ったカレーをご飯が入った木器に入れお父様に渡してました。
「っ!?これは!そしてこの程良い辛さ!」
お父様が一口食べて、大声で言っていました。
「学園長!ジェイド!セリカよ!お主達もこの料理を食べてみよ!」
そう言われた3人は、ノエルがよそっていたカレーを受けとり、食べました。
「っ!?これは!?」
「「っ!?」」
カレーを食べたジェイド様が目を見開きながら声を漏らし、学園長とセリカ様は目を見開いていましたが、黙々と食べていました。
「一体、ジェイド様達はどうなされたのですお父様?」
「いやいや、エルスたん。つい、懐かしい味に驚いたのじゃよ!」
「懐かしい、ですか?」
「そうなんじゃよ。学園長とセリカの師匠のアイリーンがよくこの手の料理を作っていてな。ワシも一緒に食べていたのじゃよ」
あらあら、何だか良くないことが起こりそうな。
「それにこの味!久しぶりに食べたが、よく似ている味付けじゃ!これは誰が作ったのじゃ!」
私達の方を確認したお父様がルセのわずかな視線を発見したようなのです。
「ノエルが作ったのじゃな!どうやってこれを!?しかも味付けまで似ている」
「え~と、それは~」
「ええい!はっきりせぬか!」
さすがのノエルも困って私を見て、助けて、と視線を向けてきましたわね。
「お父様落ち着いて下さい!」
「これが落ち着いていられるか!エルスは黙っておれ!」
「チッ!」
「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」
あらあら、ノエルを除くみんなが私がした舌打ちに戸惑いを感じてますわ。
「い、今のはエルスたんが………」
「どうなされたのですか陛下」
「エ、エルスたん!?どうして急に陛下なんて言うの!?いつもみたく、お父様もしくはパパで良いんだよ?」
お父様ったら、どさくさにパパ、なんて付けましたわ。一度も呼んだこと無いですのに。
お父様が私が急に“陛下”なんて言い出したものですから、焦りだした様になりました。
「いえいえ。かわいい愛娘を邪険にしてくれた陛下のことは二度とそのような呼び方はしませんので」
私は終始笑顔で言いました。
「えっ!?ご、ごめんよ!エルスたん!ワシが悪かったよ!」
「いえいえ。お気になさらないで下さいまし、陛下」
お父様は取り返しのつかないことをしたと悟り、胡座をかいていた楽な体勢から、土下座の体勢になり謝ってきました。
「陛下どうしてそのようなみっともないことをされているのですか?」
「ほ、本当にごめんなさい!パパが完全に悪かった!」
「いえいえ。本当にお気になさらないで下さいまし。邪険にした可愛くない愛娘のことなんて。お母様にもそう言っておきますので陛下。さぁ、皆さん陛下のことは放って置いて料理が冷めてしまわない内に食べましょう」
「「「「「「「「「は、はい」」」」」」」」」
みんなは引き気味で返事をしていました。
その後はみんな、お父様を気にしつつ、先ほどの試合のことやこれからの試合のことなどを話ながら料理を食べていました。
その間、お父様は私達が食べ終わるまで終始土下座をしていました。
「エ、エルス、いい加減、王様を許してやれよ」
カイトが終始土下座の体勢でいたお父様を憐れんで私に言ってきました。
「まぁ、愛しのカイトがそう言うのであれば、約束をしてくれたのなら陛下のことを許してあげ無いこともないですわよ?」
「はい!ワシはエルスたんとの約束を守ります!」
お父様ったら、これは好機とばかりに笑顔で返事をしましたわ。まったく。
「まず一つ、深く料理に関する出所の詮索はなさらないこと。それが守られている間は先ほどのような料理を食べさせると約束しましょう。これに関してはお三方も約束して下さい」
「はい!ワシは絶対約束します!」「「「はい」」」
お父様は元気よく返事をしていました。学園長、ジェイド様、セリカ様も頷きながら返事をしていました。
「一つ、本当に本当に今回のようなことがありましたら、カイトから言われようとも二度と絶対にお父様、と呼びませんのでよろしいですね、お父様?」
「はい!二度とエルスたんを邪険にはしません!」
お父様ったら、呼ばれてひとまず安心した表情をしていますわ。
「最後に私とカイトの婚姻をすぐに認め、国中に発表をして下さい!」
「はい!ってちょっ、ちょっと待ってエルスたん!?」「エ、エルス!?」
カイトとお父様は驚き、慌てていました。
「どうしたのですのお父様。返事は?」
「いや、ちょっと待ってエルスたん!すぐに返事は出来ないよ!?カイトとの婚姻は認めるけども、国中に発表は出来ないよ!」
「どうしてですの!」
「こればかりは、さすがにカイトが原因だからだよ!?」
「そこで俺!?」
カイトはお父様から話を振られて自身を指差していました。
「カイトが何処かの貴族、伯爵位以上の出自なら本当に今すぐにでも、発表をして挙げてあげたいけど─」
「平民だから」
「そうエルスたんの言う通りに、カイトが平民だからやはり何かしらの名誉がないといけないのよ!貴族の者達が特に納得しないから、だから今回、剣魔武闘会で優勝をして貰わないといけないのじゃよ!あの大会で優勝以外で優秀な者にはワシの近衛騎士団に入ることも出来るからのぉ!何なら今すぐに近代最強の剣聖、ジェイドと試合をして国中に力を示してもいいくらいじゃぞ!」
「ふむ、やはりカイトには今すぐジェイド様と─」
「ストッープ!!エルス!」
「何かしらカイト?」
お父様の提案に納得しそうになっていた私にカイトが大声で言ってきました。
「王様!俺が大会で優勝すれば良いだけですよね!?」
「あぁ、カイト、お主が優勝すればその時点で観戦者の前で宣言してやろう」
「じゃあ、そっちの方向で!エルスはちょっとこっちに」
カイトは私と共にみんなから少し離れました。
「エルス、あんまり大事にしないでくれよ」
カイトは小声で話始めました。
「どうして?」
「この世界に来た目的は?」
「カイトと結婚して子を成し幸せに暮らすため?」
「はぁ~違うでしょう」
カイトは呆れているようでした。
「本当にそうしたいなら、まず、魔神を倒さないとそんな未来は来ないんだよ」
「ハッ!盲点だったわ!」
「忘れないでくれよ。その他にも父さんや母さん、ハナとミケを見つけるのと、どうして俺に創造神の力が与えられたのか原因を調べないといけないんだよ。あまり目立ち過ぎて行動を制限されたら原因を調べられなくなるし」
「そうね、かなり失念していたわ。それにどうせ父さんと母さんはこちらの世界でも仲良くしているわよ。ハナとミケも何とかなっているわね、きっと」
「どうしてそう言い切れるのさ?」
「女性になったかしら、女の勘という奴ね。何となくそんな気がするのよ」
「本当かよ~エルス?」
うん、本当に何とかしてそうなのよね、父さんと母さんは。それにハナとミケはどんな姿になっているのかしらね。
最後に疑問をいだきながらみんなの元に戻りました。
戻った時には、ルセが試合の準備があるからと先に行ったとリーナが言いました。ジアン君も共に。
その後は私との婚姻話はカイトが大会での優勝を条件にと決まり、観戦席にそれぞれ戻りました。
ここまで読んで下さりありがとう御座います。