2ー14話
「エルス、何だか機嫌良いな」
「えぇ、もちろんよ。カイトが代表者に選ばれたのですからね。この調子でリーナも午後からの試合は勝ってちょうだいな」
「もちろんよエルス!カイに続いて勝って代表者になってみせますわ!」
俺達いつもの6人のメンバーは昼食のためにいつもの屋上に来ていた。
日に日にエルスとリーナも上達してきているからこの時間がすごく楽しみになっていた。
そんな中、いつもの如く、ノエルがマジックバッグから料理を出した。
「今日のは、オムライスにしてみました!」
「うわぁー!今日のも美味し・・・そう・・・ってこれは?」
ジアンがそう思うのも無理は無い。なんせ出て来たオムライスの上には、トマトソースでハートマークにジアンと書かれているのが一皿に、そして、ハートマークにカイトと書かれているのが三皿もあるのだから。
他の四皿には無造作にかかっているだけだし。
「あの~ノエルさん、エルスさん、リーナさんこれはどうゆうことですかな?」
「え~と」
「・・・」
「私達の愛情表現よ!」
ノエルとリーナが目をそらし、エルスが自信たっぷりでそんなことを言っていた。
「ちなみに俺のは?」
「もちろんルセの愛情表現よ!」
ジアンの問いにエルスがルセの代わりに応えていた。
もちろんルセは顔を赤くして頷いていた。
「だからって、普通サイズで三皿はやめて!本当に!」
「確かに、少しやり過ぎた感はあったのだけれども、カイトなら、ちゃんと食べてくれると思って。ね」
エルスが最後にウィンクをしていた。
仕草がかわいいから参るよ本当に。
「今度作る時は、普通サイズはやめて!!」
「っ!?分かったわ。良いわね、ノエル、リーナ?」
「「うん!」」
「あっ、うん。まぁ、分かればいいけどさ。よし、それでは」
「「「「「「いただきます」」」」」」
後の料理はサラダにキノコや山菜が入ったスープ、果実水を出していた。
「それじゃあ私は準備があるから先に行くわね。ノエルちゃん、エルス後で教えてね」
意味深なことを言ってリーナは行ってしまった。
「一体リーナは何を言っていたの?」
「それは、後で分かるから、とりあえず全部食べちゃって」
エルスが応えてくれたが、教えてはくれなかった。
ジアンはあっという間に平らげて、おかわりを催促していて、それを予測していたらしく二皿目をノエルが出した。
先ほどと同じく、ハートマークにジアンと書かれた物を。
俺も一皿目を平らげて、二皿目、三皿目と食べたが、正直腹が一杯で苦しかった。
楽な体勢で休憩をするしかなかった。
ジアンの奴は、二皿目で終わり、こちらも楽な体勢でくつろいでいた。
「それで、カイト。どれが美味しかった?」
そんな中、エルスが聞いてきた。
「どれも美味しかったけど」
「あえて、順位を付けるなら?」
「うーん、これかな?」
いつもなら、早々に片付けるはずの木皿が俺が食べ終えて置かれた状態のままだったので、その木皿を指差した。
その木皿をノエルとエルスが見て互いに頷き合い、エルスが木皿を持ち上げ裏返した。
「ンフフフっ!やっぱり、カイくんの胃袋は私のものってことだね!エルスちゃん!」
「クッ!ま、まぁいいわ!まだ、チャンスはあるから!」
ノエルは喜び、エルスは悔しがっていた。
「そしたら、次に美味しかったのはどっちだった!」
「こっちだな」
また、2人は頷き合い、木皿を持ち上げ裏返してた。
「クッ!リーナにも負けた」
「エルスちゃん、残念だったね」
今度は、エルスは悔しさと絶望というような表情になり、ノエルが慰めていた。
「一体どうゆうこと?」
俺の問いに、エルスが木皿を寄越してきた。2人がしていたように裏返して見ると、リーナ、と書かれていた。
「エルスちゃんとリーナちゃんが美味しさ勝負をしたいと言ってきたから、それで三皿になっちゃったんだ」
なっちゃったんだ。じゃないよ!普通サイズで三皿は本当にキツいんだよ!本当に!
「そうか、分かった。だが、一つ言っておかなければいけない!」
「「なに?」」
「美味しさ勝負をするのは良いけど!普通サイズは本当にやめてよ!今回は食べたけれど、本当にキツいからさ!でないと、残しちゃうよ、さすがの俺も!」
「わ、分かったわ。これからは、量を減らして作るから」
俺の嘆願に、エルスが若干引き気味で納得してくれた。
これから先も、普通サイズでの料理を出されてはたまらないからな。10歳のこの体で。
その後は、第二試合が始まる時間になってきていたから、会場に向かい、途中でエルスは特等席に向かうので別れて、俺達は向かった。
「それでは、第二試合6年Sクラス、シャルト・リューゼ対1年Sクラス、リーナ・ツォン・フォレストの試合を開始する!」
俺達が選手専用席に着いて、程なくしてナリア先生が声を高らかに張り上げて宣言していた。
「それでは、始め!」
そして、第二試合が始まった。
※※※
【リーナ視点】
「それでは、始め!」
ナリア先生が開始の合図を言いました。
「リーナ様、これから先は、遠慮無しでいきます!」
「もちろんですわ!シャルト様!」
肩まで纏っている鉄製の胸当てに籠手、そして槍を携えたシャルト様が、鉄製の胸当てに籠手、細剣に長い髪を頭部で団子状にしている私に言ってきました。
シャルト様が、一気に槍の間合いまで詰めより、一突きを右胸目掛けていましたが、細剣で軌道をずらして躱しました。
「失礼をしました、リーナ様。様子見をさせて頂きました」
「それでどうでしたか?」
「はい。これからは、全力でいかせてもらいます!」
シャルト様は、一度間合いを取りました。
シャルト様は構えたまま、深呼吸をしていました。
呼吸を整えた瞬間に一気に槍が最大の力が出せる間合いまで詰め、今度は容赦の無い連続突きを繰り出してきました。
細剣で軌道をずらしたり、身をひねり躱しましたが、幾らか服は裂け、肌にも切り傷が出来ました。
たまらず私は、身体強化をして、間合いを取りました。
ただ、シャルト様は追従をして来ませんでした。
「どうですか、リーナ様?我が伯爵家が培ってきた槍術は!」
「見事。のひと言につきますわ、シャルト様。さすがに私も得意分野でいかないといけませんわね!」
「望む所です!」
そう言い放ったシャルト様は瞬時に間合いをつめようと動いていました。
私は手をかざして、20cm程のブーメランのような形をした【風刃】を10個作りシャルト様に放ちました。
「っ!?」
シャルト様は驚きながらも、槍で切ったり躱したりして対処していましたが、最後の一つは躱すことが出来ずに身に当たり、その拍子に少し戦塵が舞いました。
「────驚きました、いつの間に詠唱をしていたのか」
戦塵が晴れた時、シャルト様の躰は無傷の状態でした。
「私も驚きです。少しはダメージを与えることが出来たと思いましたのに」
「いえいえ、最後に詠唱が間に合ったから、無事で済んだだけで、間に合わなかったら、かなりのダメージを受けていましたよ」
やはり、槍の間合いには死角がありますから、その対応も心得ていますわね。さてさて、どうしましょうか?
「そちらが仕掛けて来ないなら、行きます!」
シャルト様はまた、詰めようと駆け出して来て、瞬く間に槍の間合いまで詰め寄り、また連続突きを繰り出してきて、細剣で軌道をずらしたり、躱しながらも隙を伺い、30cm程の大きさの【土塊】を一つ作りシャルト様のお腹に放ちました。
「っ!?グフっ!?」
シャルト様は【土塊】を直接受けて、後ろに吹き飛んで行き横たわっていました。
「──ゴホッ!──リーナ様、今、詠唱をしていませんでしたね!」
シャルト様はお腹に手を当てて、槍を杖代わりにして起き上がりました。
「はい。シャルト様にはズルイ、と思われますけど」
「いえ、先ほど私が感じた疑問を考慮しておくべきでした。これも勝負には付きものですので」
「それでどうします?続けますか?」
「いえ、やめておきますよ。直撃の攻撃を貰い、先ほどのような速さも鋭い槍捌きも出来そうにありませんからね」
さすが、上級生でSクラスの人ですわね。先のことまでよく考えていますわ。
「そう言う訳でナリア先生、私は降参します」
「分かった。───シャルト・リューゼの降参により、勝者、リーナ・ツォン・フォレスト!」
───ワァァァァァァァ!────
ナリア先生の宣言を聞いた観戦している学生達が歓声を上げていました。
「まさか、リーナ様まで、カイトと同じく詠唱無しで魔法を使えるとは」
「ここだけの秘密でお願いしますね、ナリア先生」
私が口元に人差し指を当て、それを見たナリア先生は頷いて返事をしました。
さすがに結界内に居る内は、ダメージが抜けないので、私はシャルト様に駆け寄り、肩を貸しました。
結界を出ても、幾らかダメージが残っていたシャルト様に回復魔法を掛けるべく、カイを手招きで呼び人気の無い通路でカイと合流してシャルト様とついでに私も回復魔法を掛けてもらいました。
カイに切り傷だから、結界を出たら傷は無くなると言われましたが、切られたという事実がありますから、と私の気持ちの問題でカイに回復魔法を掛けてもらいました。もちろん私も回復魔法は使えますけどね。
その後は、シャルト様がカイが無意識に無詠唱で魔法を使っている所をしっかりと見ていて、私にも教えてくれ、と言っていました。カイもシャルト様の気迫に負け、必要なことだけを教えることになりました。
※その後、シャルト・リューゼはカイトから助言を受けて、鍛練を積み重ね、確かな実力と実績を身に付け貴族では初めてのリューゼ伯爵家の当主になり、のちに、ユング・シトエンを婿に迎えることとなった。
※※※
※エルスがカイト達と別れ特等席に戻った頃
【エルス視点】
「ちょっとエルスたん!お昼はどこに行っていたの!パパと昼食を食べるンじゃなかったの!」
「・・・・・・」
「ちょっ、ちょっとエルスたん?」
「・・・・・・」
お父様は私が返事をしないものだから、慌て始めました。
「あの~姫様?」
「はい、何ですか学園長」
「あっ、いえ。お昼はどちらに?」
「お昼はカイト達と一緒に昼食を食べていました」
「えっ!?ズルイ!パパも一緒にエルスたんと食べたかったのに!」
「・・・・・・」
「えっ!?ちょっとエルスたん、どうして黙っているの!?」
お父様ったら、学園長の助け船に便乗して聞けたと思ったら、私がまた返事をしないから慌てていますわ。
「陛下、お昼頃にエルス様が言っていたことをお忘れですか?」
「えっ!?あの言葉は本当だったの!?」
お父様ったらジェイド様から、言われて初めて気が付いたようですわね。
「それなら、パパ、ちゃんと謝るから許してエルスたん!」
「陛下!!いくら何でも、公衆の面前でそれはおやめ下さい!」
お父様が立ち上がり、膝をつく様な仕草を予測したジェイド様に止められていました。
「エルス様もどうか、機嫌を直して下さい!」
ジェイド様がお父様の代わりに頭を下げました。
「分かりましたわ。お父様、ジェイド様に大いに感謝して下さいましね!」
「する!する!ジェイドにはすぐにでも王位を渡したいくらいじゃよ!」
お父様ったらすぐに調子に乗るのですから。ジェイド様なんて苦笑いになっていますわよ。
「お父様、それは言い過ぎです!ジェイド様が困っているではないですか!」
「すまんすまん。だが、それくらい感謝しておるよ、ジェイドよ」
「身に余る言葉です、陛下」
ジェイド様が最後に頭を下げました。
「それでは、第二試合6年Sクラス、シャルト・リューゼ対1年Sクラス、リーナ・ツォン・フォレストの試合を開始する!」
「それでは、始め!」
ナリア先生が試合開始の宣言をなされました。
「ふむ、リーナたんの相手はリューゼ伯爵の一人娘か」
「そのようですね。リューゼ伯爵様は根っからの武人ですから、彼女は相当仕込まれて手強いかも知れませんね」
「そう言えば、セリカ様はどちらに?」
「陛下から許可を貰いセリカは今、昼食を取ってもらっておりますよ。結界の修復に時間が掛かりましたからね。私一人でも護衛は充分ですし、もし万が一のことが起きましたら、カイトを巻き込みますからね」
ジェイド様は最後はイタズラをするような笑みをしていました。
「オホッ!伯爵の娘のあの槍捌きは凄まじいの!」
「あの槍捌きは伯爵様に匹敵するやも知れませんね」
お二人がそう言うのも仕方ないくらいの連続突きをしていて、リーナは何とか対応していました。
さすがのリーナも苦しいかしら。
「さすがにリーナ様は距離を取りましたね」
「うむ。さすがのリーナたんでも、ここまでの手練れに勝つのは無理だろうな」
「お父様。リーナや私、そしてカイトとノエルの傍にいます、ジアン君とルセのことを侮ってもらっては困りますわ」
「【風刃】を一度に10個も」
学園長がリーナの魔法の行使を見て驚いていました。
「さすがですね彼女は。不測の事態に備えて詠唱をしていたとわ」
ジェイド様がそう言うの無理はありませんでした。シャルト・リューゼ(彼女)が槍で捌いたり、躱していて、一つだけ対処出来ずに、直撃したと思ったら全くの無傷でしたから。
「学園長、大会の日までの間は、代表者の方たちをどうなさるのですか?」
私はふと、疑問に思ったことを喋っていました。
「代表者の者達には、大会までの間に少しでも能力向上出来るよう私が指導することを予定していたのですが、考えを改めないといけませんね」
これはきっとカイトの所為ですわね。私のカイトがごめんなさいですわ。
学園長は、最後に暗い表情を浮かべていました。
「ジェイドよ、どう見る?」
「今のを直撃して今度は無傷とは思えませんね!軽減出来たとしても、先ほどまでの槍捌きは厳しいでしょうね」
学園長の方を見た一瞬の間にリーナがどうやら、会心の一撃でも与えた様でした。
「ごめんなさい学園長、私のカイトが」
「いえ、姫様が謝ることでは」「ん!?エルスたん今、おかしなことを言わなかった?」
学園長は苦笑いをしていました。お父様はどうやら聞き耳を立てていたらしいですが、無視することに。
「シャルト・リューゼの降参により、勝者、リーナ・ツォン・フォレスト!」
───ワァァァァァァァァァ!───
ナリア先生の宣言を聞いた学生達が大歓声を上げていました。
「やはり、直撃を受けていた様でしたね」
「うむ。実に有意義な試合だったのぉ!」
「それでは本日はこれにて試合は終了とする!明日が試合の選手達は充分に英気を養って試合に望んでほしい!それでは解散!」
学園長が声を高らかに張り上げて宣言していました。
「それではお父様、私は三日程リーナの所にお泊まりしますので」
「えっ!?ちょっ、ちょっとエルスたん!?ワシ、初耳なんですけれど」
早々にカイト達の所に行こうと、お父様にそう言った途端、慌て始めました。
「お母様には前もって言っていましたから。それでは学園長、ジェイド様また明日。ご機嫌よう」
最後に制服のスカートの裾を少しつまみながら、会釈してカイト達の元に向かいました。
それから、カイト達と合流した私はリーナの屋敷に向かい、カイトとリーナの代表決定と明日のジアン君とルセの激励を兼ねてのプチ祝勝会をして、そのまま皆で屋敷に泊まりました。
そして翌日─
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