2ー11話
翌朝、寮住まいの俺達は、いつも通りの鍛練をこなして学園に向かった。その日の授業もナリア先生がことある事に俺を集中的に当ててきて上手くボロを出さずに午前中は終わった。
お昼になり屋上で昼食を食べようと、いつもの俺、ノエル、ジアン、ルセに今日からエルスとリーナが加わったメンバーで来ていた。
「じゃーん!今日は卵焼きとおにぎりと野菜スープにしてみました!」
「おー今日のも一段と美味しそうなメニューだ!最近はこの時間が楽しみでしょうがないよ!昨日の夕食は豪華だし公爵様と一緒だしで緊張して食べたって感じがしなかったんだよな!」
まぁ確かに、公爵様は遠慮はするなと言っていたけど、さすがにな。ジアンの言っていることも分かるけどさ。
ノエルが自身のマジックバッグから料理を取り出して、ジアンが感想を言っていた。
「ん?ノエル、これって?」
俺はノエルが言っていた“おにぎり”を指差して聞いていた。いつもは茶色の細長いのから太い形の粒が不揃いのがこちらの世界の“米”がそれだからだ。だが、今回は元の世界で慣れ親しんだ白くて同じ粒の大きさの“米”だった。
「そうだよ。昨日、リーナちゃんがくれたんだ」
「えぇ。ノエルちゃんからいつもここで昼食を取っていると聞きましたから、私達も参加するからと色々な食材を渡していたのです」
「いや、それにしたって、これって一体どうやって手に入れたんだ?」
「あぁそれはお父様に頼んで、気候に適した領地がありましたからそこで作らせたのですよ。ただ、試験的にやってたのが、やっと最近になって出来たのですわ」
俺が白米のことを聞いて、リーナが何ごともなかったように答えていた。
「ん?カイト、これのこと知っていたのか?」
ジアンは白米のことを知らないのは当たり前のことを俺が知っていればそう聞いてくるのは分かっていた。
「良いから食ってみろよ!驚くぞ!」
「あぁ」
そう返事してジアンはおにぎりを食べた。
「っ!?・・・なんだ!?この噛みごたえに甘さ、それにちょうどいい塩加減!美味しい!」
「ふふっ。ありがとう、ジアンくん」
「どれ、俺も!」
っ!う~ん、コレだよコレ!懐かしい味に食感!久しぶりに知っている、おにぎりを食べたよ!
「美味い!さすがノエル!」
「ありがとう、カイくん!」
「くっ!やるわね、ノエル!カイトから褒め言葉をもらうなんて!」
「そうですね、エルス!既に私達は出遅れていますから圧倒的に不利ですしね」
「ふふん!エルスちゃん、リーナちゃん!カイくんの胃袋は既に私の物だから勝ち目はないよ!」
ん?何だか、ノエルがいつも以上にテンションが高い気がするぞ?
「くっ!やはり私達の恋敵はノエルなのね!抱きしめたとき確認したけれど、結構育っていたし」
「っ!?エ、エルスちゃん!?きゅ、急になにを言い出すの!?」
「ん?何の話しだ?」
「わーわー!カイくんはまだ知らなくてもいいことなの!」
ん?ノエルの奴、急に顔を赤らめてどうしたんだ?
「リーナ、早急に対策を立てなければいけないわね!」
「えぇ。私達も寮住まいにした方が良いわね!」
「ぷっはははは!」
エルスとリーナ、それにノエル達のやりとりを見ていたジアンが急に笑い出した。
「あら?急にどうしたの、ジアンくん?」
エルスが急に笑い出したジアンに聞いていた。
「いや!──王族の姫様と貴族の娘ともあろう人達が俺達と変わらないやり取りをしているのがおかしくて。はははは!」
「私達だって公の場以外のところでは普通の女の子になりたいのよ。だから、変に緊張しないで普通に接してね?ジアンくん」
「あぁ、分かったよエルス。改めてこれからもよろしく。リーナも」
「えぇ。よろしくね、ジアンくん」
ジアンがリーナにも俺達と同じく接すると約束していた。それは昼食を食べつつ、雑談した。
昼食を食べ終え午後からの授業のために訓練施設に向かう途中でルカ姉ちゃんを発見した。が一緒にもう一人いた。いたのは、確かホージウム伯爵家の二番目の息子のランド・ホージウムだったはずだ。そいつは二人取り巻きを連れていた。
「───ですか、ルカさん!」
「だから、言っているじゃないですか!お断りです!」
「お前!平民のクセにランドさんのご好意を無駄にするのか!」
「そうだぞ!せっかくランドさんが目を掛けてやったのに!」
あん!?アイツらなにルカ姉ちゃんに好き勝手言ってやがるんだ!
「ルカ姉ちゃん!」
俺はたまらずにルカ姉ちゃんに声を掛け近づいた。
「っ!?カイト!」
「っ!?お前はこの間の!?」
「っ!?誰だ、お前は!」
「っ!?誰だ、キサマは!」
俺の呼びかけにそれぞれが応えていた。
「ルカ姉ちゃん、また絡まれていたの?」
俺はわざとみんなに聞こえるように聞いてみた。
「え、えぇ。そうなの」
「お前は発言から察するにルカさんの姉弟か、近しい者なのだろう?」
ルカ姉ちゃんに聞いていたのに、俺にとってはどうでもいいランドが聞いてきた。
「あ~だったら何でしょうか?」
「お前!ランドさんに失礼だぞ!………よく見たら、1年の落ちこぼれクラスの者じゃないか」
俺のネクタイが黒色だと確認して、ショートの茶髪に悪くもなく格好良くもない平凡な顔立ちの中肉中背の長身の男性でネクタイの色が赤色でSクラスと分かる取り巻きその1が吠えていた。
「だったら何でしょうか?」
「キサマ!そんなクラスにいるのになんだ!その態度は!」
またもや、黄緑色をした首までの長髪に痩せ細った顔立ちに体型の長身の男性でネクタイの色が赤色で取り巻きその1と同じSクラスと分かる取り巻きその2が吠えていた。
「だったら何でしょうか!」
かなりイライラしてきた俺は発言が荒々しくなっていた。
「ふん!そんなキサマに朗報だ!俺がルカさんをもらってやったらキサマにおこぼれをやろう!」
「あん!?」
なんだコイツ!もらってやったらだと!取り巻き達と同じSクラスだからって調子に乗っているな、コイツは!
「あんたにルカ姉ちゃんをやる訳ないだろう!顔を出直してこい!というより二度とルカ姉ちゃんに近づくな!」
「なんだ、キサマ!上級生に向かってその口調は!下級生で最低クラスの癖に生意気だな!」
「あん!?だったらなんだって言うだよ!」
「キサマみたいな奴は少し痛い目をみないと分からないからな!──そうだな、キサマと決闘をしてやろう!」
「決闘?」
「あぁ。この決闘でもしキサマが勝てば俺様は二度ルカさんに近づかないと誓おう。だが、俺様が勝てばルカさんを潔く俺様の下によこせ!」
「(はぁ~、バカにつける薬はないってこのことか)良いぜ!その決闘受けてやる!」
「カイト」
ホージウム家の二番目の息子、ランドの提案に俺が賛成した時にルカ姉ちゃんがやや心配な声で俺の名を呼んでいた。
「じゃあどこ─」
「その決闘待った!」
「「「「「っ!?」」」」」
俺がどこでやるのか聞こうとしたら、いきなりその声が聞こえた。その声のした方を見ると、ナリア先生がいた。
「その決闘私が預かる」
「これはこれは、ナリア先生ではないですか!いきなり現れて何ですか?それに先ほどの発言はどうゆうことでしょう?」
ランドの奴がナリア先生に食ってかかっていた。
「五年のランド・ホージウム。その決闘、来月からの剣魔武闘会代表者選考会で決めないか?」
「選考会で?」
「あぁ。特例措置で一対一にして、その時に私が立会人になりその決闘の勝敗を見届けてやろう。どうだ?」
「────まぁ、いいでしょう。決闘はその時にでもということで」
「カイトもいいな!」
「えぇ、まぁ」
「よし、決まりだ!それでは二人の決闘を剣魔武闘会代表者選考会の時に執り行う!ランド・ホージウムはそれまでちょっかいを掛けないように!」
「いいでしょう!どうせ、結果は分かりきっているのだから楽しみにしてますよ!」
そう言いランドの奴は笑いながら取り巻き達を連れて去って行った。
「どうしてナリア先生がここに?」
「辺りを見れば分かると思うが?」
そう言われて見ると、かなりの人だかりができていた。誰かが知らせたのだろう。
「あっ。すみません、ナリア先生」
「うむ、分かれば良い。それにしてもお前の何気ない一面を見れてよかったがな。それでは私は先に行っているぞ」
早々とナリア先生は集まった人だかりを散らしながら去って行った。去り際にナリア先生が笑っていた気がした。
「カイト、私のためにゴメンね」
「いいんだよ、ルカ姉ちゃんが気にすることないよ。あんなやつに負ける気なんて微塵もないからさ」
「えぇ、そうね。それに関しては心配してないわ」
「んふふ、あんがと、ルカ姉ちゃん」
ルカ姉ちゃんも俺の強さは知っているからこその言葉だった。まぁ、実際に負ける気なんて微塵もないしな。
「カイ」
その呼び声の方を見るとリーナ達が近くに来ていた。
「ん?何、リーナ」
「ご挨拶してもいいかしら?」
「あぁ、ごめん。それじゃあ改めてこちらが姉のルカ姉ちゃん」
なんだか、元の身内に今の身内を紹介するってすごく複雑で変な気持ちだよ。
「初めまして、カイトの姉のルカと申します。いつも弟がお世話になっております」
そう言いルカ姉ちゃんは綺麗なお辞儀をしていた。
「(っ!かなりやるわね!元祖、姉として負けてられないわ!)初めまして、わたくしは、ライナー・ツォン・フォレスト公爵が娘のリーナ・ツォン・フォレストと申します。ルカ様」
リーナは制服のスカートの裾をつまみながらお辞儀した。
「先ほどは大変見苦しいところを失礼しました、リーナ様」
「いえ、カイのお姉様に様は付けて欲しくはないですわ」
「ですが───分かりましたわ、リーナ。私のことも様はいりませんわ」
「(くっ!かなりのやり手ね!)分かりましたわ。ただルカお姉様と呼ばせて頂きますわね」
「恐れ多いですが、分かりましたわ。よろしくね、リーナ」
「よろしくお願いしますわ、ルカお姉様」
あ~。なんだか俺の方で緊張しましたよ、かなり。元姉と今姉なんだもんなぁ、実際は。
リーナとルカ姉ちゃんの挨拶が終わり、エルスが前に出て来た。
「初めまして、わたくしはカイゼル・グラン・ド・グラキアスが娘、エルスティーナ・グラン・ド・グラキアスと申します。気軽にエルスと呼んで下さいませ、ルカお姉様」
エルスもスカートの裾をつまみながらお辞儀をした。
「初めまして、カイトの姉のルカと申します。いつも弟がお世話になっております。エルス様」
「いやですわ。リーナと同じく呼び捨てでお願いしますわ、ルカお姉様」
「………分かりましたわ、よろしくねエルス」
「えぇ、よろしくお願いしますわルカお姉様」
ふぅ~。エルスも無事に挨拶が終わったぞ。さすがにエルスも初っぱなは何もしないな。
そのあとジアン達が軽く挨拶をしてから、訓練施設に向かった。
エルスとリーナはクラスが別だから違う訓練施設に向かった。俺達はいつもの訓練着に着替えていつも利用している訓練施設に向かった。
「さて、先にお前達に話すことがある」
ナリア先生がクラス全員が集まったのを確認してから、言い出した。
「先ほど、ちょっとしたトラブルを目撃した者もいたはずだが」
何人かの視線が俺に向けられてつられるように、知らなかった者達もこちらを見ていた。
「知っている者もいると思うが、隣のソティウル騎士王国との国境に友好の証であるグラティウルと呼ばれる都市がある。その都市で約二カ月後に開催される学生同士によるチーム戦の腕試しの剣魔武闘会をする訳だが、我が学園も来月からその代表者5名を決める必要がある訳で、参加は基本的に自由だ。1年から6年の中から腕に自信のある奴、ただ他の人と腕試しがしたい奴など様々な奴が参加する訳だ。だが、一部を除いて最低クラスのお前達は辞めておいた方が賢明だな」
最後に忠告をして授業が始まった。
授業の剣術と魔法の訓練が終わり、みんなが着替えるために早々と退出して言ったのを確認してからナリア先生に疑問を聞いてみた。
「それにしてもナリア先生、どうして決闘の立会人なんて引き受けてくれたんですか?」
「ん?それは、今、学園長が例の村の調査で不在中だからだ。理由はカイト、お前がよく知っているだろう?」
「そうだったんですね」
サナア学園長も結構な強さの魔法士だから調査に呼ばれていたんだな。そしてすでにナリア先生にも俺の強さがどのくらいなのか、ばれていそうだな。
「そう言う訳で更に余計な、いざこざは起こすなよカイト。私は選考会のときまで楽しみに待っているがな!」
最後にナリア先生が笑みを浮かべながら退出して行った。
はぁ~、何だか色々と隠すのがどうでもよくなってきたよ。
それから残りの4日間はナリア先生が授業中に当ててこなくなった。俺がやっとボロを出したからだろう。
自由日の一日目に他のみんなはそれぞれ用事や鍛練をすると言うので久々に一人でギルドに顔を出すと、いつものごとく視線が集まったが今回はいつもと違う空気を感じた。
そう思いながら中に入り少ししたら、一人の冒険者が眼前にやってきた。
話を聞くと、この間のサイビス村のことで生き残りのミゲルさん達に謝りたいとのことだった。その話を聞いている最中にも次々と冒険者達がやって来ていた。
その話を聞いて、この人達も根は良い連中だと改めて認識した。
最近になって念話をできるようになったリーナに連絡をとり、もうギルド内に居る連中には知られているからすぐ様、通門で公爵家に居るミゲルさん達を向かいに行って連れて来た。
ミゲルさん達は冒険者達のいきなりの謝罪にびっくりしていたが、事情を聞き謝罪を受け入れていた。それからは自分達もサイビス村の弔いに行くと冒険者達が約束をミゲルさん達にしていた。そのあとは、ミゲルさん達を公爵家の屋敷に戻しながら俺はそのまま、公爵家の敷地内にある訓練施設にジアン達が鍛練しに来ていたので修業を付けてやった。
ただ、少し気持ちが高ぶっていたから相手をしていたジアンのケガの具合を見たルセから怒られてしまった。
剣魔武闘会代表者選考会の前日まで俺は、修業を付けたり、ジアン達のストレス解消のためにギルドに行き依頼をしたりとそんな感じで過ごしていた。
ここまで読んで下さっている方々、ありがとう御座います。