2ー9話
※ノエルが合流する少し前※
オーガが突進をして来た。
「っ!(ちっ!速い!)」
オーガが先ほどより速く突進して来た。
さすがに避けきれないと思い【虚空】で受けた。その際に魔力を更に注いで【虚空】を強化した。
「(くっ!)」
さすがに重量が桁違いでオーガの突進を受けて吹っ飛ばされたが、少しの差で後ろに飛んで衝撃を減らした。吹っ飛んだ俺をオーガが空かさずまた突進して来た。
「(さすがにアレを何度も受けるのは、マズイな!)」
オーガが先ほどの速度で迫っているが、こちらからも攻撃に転じた。オーガは俺が迫っているのを今度は腕を振り下ろすような行動に移った。その瞬間に俺は一気に速度を上げてオーガの両腕両脚、胴体を切り落とした。つもりが、胴体だけが少しのキズだけが付いた。
「(心臓を狙ったがダメか!)」
オーガはまた横たわったがすぐに小さな泡が無数に出て再生を始めた。
「(ぶっつけ本番であの魔法をやるしかないか!)」
「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!ムダムダ!魔神様の力のおかげでそのオーガはいくらでも再生するぜぇ!───炎よ、貫き焼き尽くせ、炎槍」
ローブの男がまた魔法を放ってきた。先ほどもオーガが倒れた時に邪魔をしてきた。
「(またか!)」
「水盾!」
また【虚空】で切り裂くかと思っていた瞬間に俺の眼前に、俺が隠れるほどの大きさの水が渦巻いて現れた。
「大丈夫!カイくん!」
「ノエル!サンキュー!」
「あん!?ガキの仲間か?たかが、ガキがもうひとり増えただけで、何ができる!」
「ノエル!あいつの相手を頼む!あいつを足止めするだけでいい。あいつに聞きたいことがあるんだ!」
「オッケー、任せて!」
「俺はコイツをすぐに片付けるから!」
そう言ったそばからノエルが手をかざして、ローブの男の周囲に土魔法【土壁】を使用した。
「ちっ!あのガキ、いきなり魔法を使いやがった!」
【土壁】にいきなり囲まれたローブの男は悪態を付いていた。
「さぁ、こっちはこれでお終いだ!」
俺はこの魔法を使うイメージをした。
セリカ姉ちゃんが言っていた。魔法を使うには魔力と詠唱という言霊でその使いたい魔法を発動することができると。だが、それは並の魔法使いがその魔法のイメージが足りないからだと。ハッキリとしたイメージがあれば詠唱という言霊を使わなくても魔力さえあれば発動すると。
だからイメージを繰り返し重ねた。こちらの世界では冬はあるけど寒い程度で水が凍るまではいかないからこちらの人達は分からない。
だから元の世界で体験した“極寒、冷たい、凍える”そんな連想が必要な、自然では当たり前な現象を魔法に変えて。氷結魔法を。
「終わりだ、オーガ!」
まだ再生途中で動けないオーガに手をかざして、全身を氷山の一角に閉じ込めるかのように氷結魔法を使用した。
それは見事に成功して、オーガの全身を氷が覆った。再生途中だったキズも再生が止まった。
「ふぅ~、ぶっつけ本番だったがなんとか成功した」
「やったね、カイくん!」
「あぁ、だが、まだだ」
そう、まだオーガの動きを止めただけに過ぎないから。コイツの心臓を斬らないと、いずれ動きだすから。
【虚空】に雷撃を付与し、【虚空】にバチバチと音を立てて、小さく無数の雷が迸った。それを氷の上から心臓目掛けて突き刺して、氷を溶かしながら【虚空】はオーガの肉をも突き破り、心臓を貫いた。
心臓を貫かれたオーガはたちまち、肉体が溶け出した。
「ふぅ~。次は─」
──ドゴォン!
異常なオーガを片付けて次にローブの男を捕らえるか、と思ったら大きな音が鳴って、そちらの方を見ると【土壁】が崩れていた。
「クソガキどもが! 俺様を侮るんじゃねぇ!!」
お~おぉ、荒れてらっしゃる。だが、お前の感情は知ったことではないけどな。
ローブの男は結構苛立っている感じだった。
「っ!! オーガがやられただと!? ちっ!知らない魔法まで使いやがる!」
「あぁ、今度はお前の番だ!」
「ちっ!………まぁいい、ここでやることはやったからな!」
「それはどうゆう意味だ!」
「テメェらガキどもの面は覚えたぜぇ! 次に会ったら覚悟しな!」
「「っ!!」」
そう言い放ちローブの男は、闇を纏って消えた。
「クソっ! 逃がしたか!」
「──カイくん、あのローブの人物は何だったの?」
「あぁ、あのローブの男はこの村をやった黒幕で魔神に繋がる手掛かりを持っていたんだ。」
「っ!!」
「まぁ、逃がしたのは仕方ない。それよりみんな──」
「おーい! カイトー!」
「って、来たか」
ジアンが手振りながらこちらに向かって走って来た。他のみんなもジアンの後ろに付いて来ていた。
「カイト!──どこかケガしたとこある!?」「わぁ!?」
「ちょ、ちょっと、エルス!」
エルスがジアンをこちらに着く直前に押しのけて俺に抱き付いてから離れ躰の心配をしてきた。
「だ、大丈夫だから!?」
「そう、ケガがなくて安心したわ。─ノエルもケガはしてない?」
「大丈夫だよ、エルスちゃん」
「そう、ノエルもケガがなくてよかったわ」
エルスは最後にノエルに抱きついた。
「わ、わ!?エルスちゃん!?」
「(お疲れさま、ノエル)」
「っ!(──ありがとうエルスちゃん)」
エルスが何かを呟いていたが、こちらまで聞こえなかったが、ノエルの反応からすると良いことがあったのだろう。
「それでカイト、これからどうするの?」
「あぁ、それなんだが、この村とそちらの人達のことも含め、俺は一度ギルドに行き、ギルマスを連れてくるよ」
「分かったわ」
「それと──」
「それと、まだ警戒を怠るな、でしょう?」
さすが、エルスだな。お見通しか。
「あぁ、俺が戻る少しの間、気を付けてくれ。それとノエル」
「なにかな?」
「セリカ姉ちゃんに連絡を」
「オッケー」
「「??」」
あぁ、まだジアンとルセには念話のこと言ってなかったな。まぁ時間があるときで良いか。
「みんな、ノエルは少しの間、無防備になるからそっちの警戒も頼む」
「分かったわ」「任せて」「っ!お、おう!」「っ!は、はい!」
エルス、リーナ、ジアン、ルセがそれぞれ応えた。
それを聞いて、俺は手をかざして通門を発動して、光の中に入った。
※※※
「っ!だ、誰だ!?」
俺が通門の光から出る直前にそんな声が聞こえた。
「僕です、カイトです。バーンさん」
そう言いながら目的地に出た。
「カ、カイト!?──いきなりここに現れるとは何ごとだ!」
俺が出たのはギルドマスターが仕事する執務室で以前に揉め事を起こしてここに案内されていたから通門でこれた。 そんな俺のことを叱責したバーンさんこと、バーン・ストリング。赤髪をオールバックにして、少しつり目と厳つい顔立ち、赤と白を基調としたローブを羽織った長身の30代男性で、Sランクの冒険者でここのギルドマスターだ。
「突然すみません、緊急事態が起きました」
「…………なに? 一体なにがあった?」
「依頼で向かったひとつの村が壊滅しました」
「なんだと!? 本当か!?」
「はい」
「っ!! 分かったすぐに向かおう!」
「ありがとうございます」
バーンさんは俺の言葉の真偽をちゃんと確かめずに即決で判断し行動してくれた。この人は自分にも他人にも厳しい人だが、話はキチンと聞いてくれる性格の持ち主だ。
発動しっぱなしの通門の光に向けてバーンさんに手でどうぞ、と促してバーンさんは入りそのあとに俺も入った。
※※※
「こ、これは!?」
通門の光から出た俺の耳に入ったのはバーンさんの声だった。
「カイくん、これは一体なにがあったの?ノエちゃんに急に呼ばれて来てみたらこんな有り様だし、みんなはカイくんが来てから、と説明してくれないし」
セリカ姉ちゃんがこの状況を重くみて、いつもの緩いしゃべり方ではなかった。それよりみんな、説明を俺に丸投げしやがった。
「あぁ、今から説明するよ。まずこの村は──」
バーンさんとセリカ姉ちゃんに俺達が依頼でこの村に来たときにはすでにこの有り様だったこと、それを引き起こした黒幕のこと、その際にオーガが異常な強さになったこと、そして最後にこの村の生き残りで男性がミゲル、女性がケイト、小さな女の子がまだ4歳でカルトと言っていた。
「そうか、分かった。すぐに王城に向かい、陛下にこのことを話さなくては」
説明を聞いて、その言葉を言ったそばからバーンさんは自身のマジックバッグから紙と板とペンと墨を取り出しその場にしゃがみ込み、何やら板の上に紙を敷き紙に書き始めた。
少ししてバーンさんが紙に書き終えた。バーンさんは自身のマジックバッグから封筒を取り出しその紙をしまった。
「すまないが、カイト。急ぎこれをロール君に渡してほしい」
「これは?」
バーンさんは先ほど書いていた紙が入った封筒だった。封筒の表紙にはギルドの紋章があった。
「それには、この村の状況とそれに対する必要な対応処置、それとすまないが、カイト、キミの素性を書かせてもらった。ただ、そのことはロール君にしか分からないようにしている」
「それは仕方ないです。状況が状況ですから」
「それと王宮でもキミの素性を話さなくてはいけないかも知れないが?」
「はい、構いません」
「すまない。──マルティン殿、私を王宮に連れて行って下さい」
「分かりましたわ、ストリング様」
「待って下さい。私とリーナも一緒に行きますわ」
「えぇ、そうですね、エルス。私達が一緒だと早く話しがすみますしね」
「お心遣いありがとう御座います、エルスティーナ王女殿下、リーナ様」
「それでは行きます」
その掛け声と共にセリカ姉ちゃんは手をかざして通門を発動して、エルス、リーナ、バーンさん、セリカ姉ちゃんは光の中に入っていった。
「よし、俺達もギルドに行くぞ」
それを見届けてから俺は行動した。
俺は手をかざして、通門を発動した。場所は先ほどのギルドマスターの執務室だ。通門の光に入るようにみんなに手で促した。みんなが入ってから最後に俺が入った。
※※※
「カイト、ここは?」
俺の姿を見たジアンが訪ねてきた。
「ここはギルドマスターが使っている執務室だ。急ぐ必要があるから一気にここに出たんだ。行くぞ」
俺は部屋から出てそのあとをみんな続いた。執務室はギルドの建物の2階にあるから急ぎロールさんがいる1階に降りた。
「ロールさん!」
「っ!?カ、カイトくん!?ど、どうしてそこから!?」
ロールさんがギルド内に聞こえる位の驚きの大声になり、それに反応してギルド内にいたみんなが驚き騒ぎ出した。
「ロールさん、今は詳しい話はあとです! まずはこの手紙を見て下さい!バーンさんからです!」
「ギルマスから?──っ!!」
ロールさんは俺が出した封筒の表紙を確認した途端更に驚いていた。
「確かに、ギルドで使われている封筒ですね。分かりました」
封筒を受け取り中から手紙を取り出し読み始めた。
しばらくしてロールさんが手紙を読み終えた。
「ふぅ~。カイトくん、事情は分かりました。あとは任せて下さい!」
「はい」
「(スゥ~)緊急事態発生、緊急事態発生!これよりギルドマスターの意向により私、ロールがサブギルドマスターの権限として発令します!」
ロールさんが状況を把握してギルド内に充分聞こえる大声を出して、ギルド内にいたみんながロールさんを見ていた。
それよりもロールさん、サブギルドマスターだったんだ。確かに、かなり優秀でギルマスからも信頼されてないと任されないからなぁ。
「ギルドの職員は、ただちに私のところに至急集まって下さい!そして、ギルド内にいるCランク以上の冒険者の方はただちに装備の確認をして下さい! 緊急の依頼を発注します!」
「おぉー!」
それを聞いた冒険者達は一斉に歓声を上げた。
「緊急の依頼だから報酬は期待できるぞ!」
「一体なんだろうな!」
「楽しみだぜ!」
内容を知らない冒険者達はそんなことを口走っていた。
それを聞こえていただろうミゲルさんとケイトさんは俯いていた。カルトちゃんはまだ4歳だからなにがあったのか把握できていなかったようだった。
「そこ!喜ばないで下さい!そんなことではないのですから!」
ロールさんは冒険者達の会話が聞こえていたみたいで、その冒険者達に注意をしていた。冒険者達はロールさんから注意を受けてかなりやばい状況だと認識したらしく静まり返っていた。
「ごめんなさい。冒険者の方たちにはきつく言い聞かせますので、ごめんなさい」
ロールさんは冒険者達の代わりにミゲルさんとケイトさんに頭を下げ謝っていた。
やはりロールさんはできた人だな。他の人のために頭を下げてまで謝るなんて。
「い、いえ!? お、お気遣いありがとうございます」
ミゲルさんがロールさんの対応に戸惑いながらも応えていた。
「それでは私はこれで! これからみんなに指示を出さないと行けませんので!」
ロールさんは俺達に挨拶をして離れて行った。そのあとのロールさんはギルドの職員に指示を出して、職員はそれぞれ対応していた。冒険者達はロールさんに連れられて奥の部屋に入って行った。
「カイト、俺達はこれからどうするんだ?」
「俺達はやれることはやった。あとはギルドやベテラン冒険者達、王城に向かったギルマスに任せよう」
「本当に良いのかよ?」
「あぁ、村の調査は大人に任せよう。それよりもミゲルさん達の方が心配だ」
そう、なんてったって自分たちの生まれ育った村があんなことになってしまったのだから、その心労は辛いはずだ。
「ありがとう、カイトくん。こんな見ず知らずの僕達のために心配をしてくれて」
ミゲルさんが自身のことを卑下するような言い方だった。
「そんな、それに見ず知らずではないでしょう?」
「「?」」
ミゲルさんとケイトさんが俺の発言に何を言っているの、と首を傾げていた。
「あなたの名前はミゲルさん。ケイトさん。小さなこの子はカルトちゃん。そして僕はカイト、ノエル、ジアン、ルセ」
俺は一人ずつ手を指して名前を呼んだ。
「ほら、もう名前が分かったし、見ず知らずではないでしょう?」
「「っ!!──ふふふっ。」」
なぜかミゲルさんとケイトさんが笑い出した。
「ありがとう、カイトくん!確かにもう見ず知らずではないね。本当にありがとう、気持ちが少し軽くなったよ」
「ありがとうございます、カイトくん」
ミゲルさんとケイトさんがお礼を言ってきた。
「よかったです! 少しでも気持ちが和らいだなら」
「でも、カイくん。ミゲルさんのことこれからどうするの?」
「う~んそれなんだが─」
「心配無用よ、カイ」
その声のする方を見ると通門の光が出来ていた。
その光からリーナが出てきた。
「そちらの人達は、公爵家で面倒をみますから」
「「「「えっ!?」」」」「「?」」
リーナが出て来てそんなことを言い出した。俺、ノエル、ジアン、ルセは見事にハモっていて、ミゲルさんとケイトさんは分からずにいた。
そんなリーナのあとにエルス、バーンさん、セリカ姉ちゃんが出てきた。
「えっと、それはそうとそちらの状況は?」
リーナの発言も気になったが、さすがにあの後のことが気になった。
「うむ。こちらは陛下に話したらすぐに部隊を編成してサイビス村の調査をすることになった。ただ少し時間がかかるから騎士団の準備ができ次第、マルティン殿が魔法で送る予定だ。ギルドも合同で調査にあたるつもりだ」
「そうでしたか」
「ロール君は奥の部屋か?」
「はい、今は冒険者の人達に説明と説教をしているはずです」
「っ!─あぁ、分かった。それでは私はこれで失礼する」
「それでは私もストリング様と一緒に行きます」
そう言いバーンさんとセリカ姉ちゃんは奥の部屋に向かった。
「それでリーナさっきの話だけど」
「カイ、詳しい話は屋敷に行ってお父様と交えてしましょう」
「あぁ」
「それじゃあ、カイ、魔法で一気に私の部屋に行きましょう」
「えっ!?」
「さあ、早く早く!」
リーナに急かされるまま俺はギルド内で通門を使用して光が出き、それを残っていた冒険者達は見て驚いて視線を浴びてしまったが、それを気にすることなくリーナはさっさと光の中に入りあとにエルスが入りみんなも続けて入り、最後に俺が入った。