2ー7話
公爵家の屋敷に着くまでの間はずっと二人は寂しかった、だのなぜすぐに会いに来てくれなかった、だのと言ってこちらの話を聞かなかったが、公の場以外は名前だけは呼び捨てしろ、だのと言い出して気圧されながら承諾した。
すでに帰りたい気分だった。もうたくさんです。
そんなやりとりをしていて、やっと公爵家の屋敷に着いたようだった。
俺は馬車から降りると、目の前には立派な屋敷があった。
学園の寮に劣らない位の敷地と屋敷だった。
「うふふふっ、どうなされました?カイト様」
「いや、立派な屋敷に驚いていたところ。スッゴく場違い過ぎてさ。リーナ」
屋敷の凄さに驚いていた俺の正面に執事服を着た御者の人が洗練された佇まいでいた。
「先ほどは、名乗らずに申し訳ありませんでした。私はフォレスト公爵家の家令長をさせていただいております、執事のオコードと申します。以後お見知りおき下さいませ、カイト様」
「よろしくお願いします」
寮のときにも感じたが、お辞儀を交えた挨拶をしてきたオコードさんは隙がなくかなりの腕前の持ち主に感じた。
それを余所に、馬車の中で起こったことが嘘のようにリーナとエルスは上品な振る舞いに戻った。
「では参りましょう、リーナ様、エルスティーナ様、カイト様」
そう言ったオコードさんのあとに続いた。
屋敷の中に入ると、派手過ぎない豪華な装飾がされてあった。
いや、本当に場違いな所に来てしまったと改めて思った。
「さぁ、こちらです」
オコードさんが先頭を歩きそのあとを続いた。
少しして、ひとつの部屋の扉の前に着いた。
「こちらで御座います。(コンコンコン)旦那様、お連れしました」
「─分かった、通してくれ」
「──どうぞ」
オコードさんが扉を開けてオコードさんは部屋に入らずに、俺達に入るように手で促した。
「リーナお帰り」
「はい、ただいま帰りました、お父様」
「お久しぶりです、公爵様」
「おぉ、カイトよ待っていたぞ」
「ご機嫌麗しく、ライナー叔父様」
「えっ!」
執務室であろう部屋に本棚やソファ、テーブルなどがあり、机の上に書類がありそこで座って仕事をしていた、ニコニコ顔だった公爵様が固まってしまった。何やら居てはならないエルスが居たことに対する反応だったみたいだ。
「お父様!お父様!」
「はっ!・・・リーナもしかして?・・・」
「はい、一緒に」
「・・・・・」
「ウフフッ。ダメですよ、叔父様。わたくしを欺こうとするなんて」
「・・・・・」
エルスは笑顔で、公爵様は少し青ざめて見えた。何やら不具合が生じたらしい。
「ふぅー。・・・分かった、それも含めてカイトに話しておこう。二人は部屋に行きなさい」
「はい、それでは失礼します。カイト様後ほど」
「それでは叔父様、カイト様失礼します」
挨拶をして二人は部屋から退出した。
「まずは、腰掛けてくれ」
「はい」
公爵様がソファに移動して座り、俺もソファに座ったのを確認してから、話し始めた。
「まずは、入学おめでとう」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げながら感謝の言葉を言った。
「うむ、それでだ、カイトはどのクラスになったのだ?どうもこの5日間、リーナに事情は言えないから、それとなくリーナに学園の話を聞いたのだが、リーナとの話にお主の名前が出てこなくてな。リーナと同じSクラスではないのだろう?」
「え?あ?・・・はい、実は・・・Eクラスでして」
「っ!・・・いったいどう事なんだ?」
「実は、試験でかなり手を抜き過ぎたみたいでして。そしたら、今年の入学生達がかなりの腕前だったらしく、大変申し訳ありませんでした」
「うむ、そう言うことだったか。・・・たしか学園の規則で一度決まったクラスを替えるには自身の力で学園に何かしらの功績や成長を示さないといけないはずだ」
「あっ、それなら別に今のクラスで大丈夫ですけど?」
「いや、それだけなら問題はなかったのだがな」
「何か?」
そう言ったときに、部屋にノックの音が聞こえた。
「失礼します。旦那様、お飲み物をお持ちしました」
どうやらオコードさんのようだ。
「ああ、良いぞ」
「──失礼します」
食事を運ぶ銀色のカートを押してオコードさんが入ってきた。カートにはティーカップやティーポットの陶器類が見えた。
オコードさんはそのまま飲み物の準備を始めた。
オコードさんはティーカップを公爵様、俺の順に置いた。
「どうぞ、お紅茶で御座います」
公爵様は手でどうぞ、と飲むように促してきた。
「いただきます。────美味い!それにちょうど良い熱さですし」
「ありがとう御座います。それと、こちらお茶請けで御座います」
オコードさんが出してきたのは、四角い縞々のクッキーが乗っていた皿であった。また公爵様は手でどうぞ、と促してきた。
「失礼します。───こちらも美味しい!ちょうど良い甘さで紅茶に合いますし」
「大変ありがとう御座います、カイト様。───では、私は失礼します」
オコードさんが公爵様を見て、それから部屋を退出していった。オコードさんが退出していってから公爵様が話始めた。
「それでだ、カイト先ほどの続きだが」
「はい、何か問題が出たとか」
「うむ、実はな、エルス姫様のことなのだ」
「姫様が?」
「うむ、まぁ順を追って話そう。まず、今回お主の迎えをリーナに行かせたのには理由があってな」
「はぁー?」
「私は、お主が気に入った、それで出来ればリーナの婿、もしくは嫁にと思ってな」
「嫁っ!!?えっ!?でも、僕は平民ですよ!?無理ですよね!?」
「うむ、普通は爵位も名誉もない者との結婚は無理だが、幸いにリーナの上に姉と兄が居て長子ではないからな。そこら辺は私の方でなんとでも出来た」
「・・・・・・」
「それに馬車の中を三人で居ただろう?」
「・・・はい、それが何か?」
「家族以外で未婚のそれに社交界デビュー前の女性と何もしてないとはいえ密室で居たのだ、世間では良くない話なんだ。純潔で無いとな」
「なっ!?」
あの時点で、既に外堀が埋められていたのか!浅はかだった!
・・・・・・あっ!
「それで、今の話で察しただろうが、問題が出たのだ」
「姫様ですね?」
「あぁ、そうだ。さすがにこれはマズくてな、いくら何でもエルス姫様は上に兄と姉が居ても王位継承順位第三位だから陛下に話してみないことには何とも言えないのだ」
「あの~僕はどうしたら?」
「ひとまず、この話は陛下に聞いてからになるな」
スッゴく厄介事を持ち込んだぞ!あの人は!
「それでな、カイト。お主の素性を陛下に話さないといけないのだが良いだろうか?」
「はい、それなら構いません」
「すまないな。陛下もジェイド殿から話は聞いているだろうが。・・・それでは後日知らせる。私からは以上だ」
「はい、分かりました。僕はこれで失礼します」
公爵様に挨拶をして部屋から退出した。
部屋から退出したあと、メイドさんを見つけリーナ達の居場所を聞き案内してもらった。
「こちらで御座います」
「ありがとう御座います」
途中からニコニコ顔したメイドさんがリーナ達の部屋の前まで案内して俺に挨拶してから立ち去ろうとして俺は感謝の言葉を言って解放した。
俺は部屋の扉をノックした。
「どうぞ」
「し、失礼します」
リーナの声の通りに部屋に入った。部屋の中は派手過ぎない装飾の色合いに、天幕付きのベッド、衣装ケースやテーブル、イスなどがあったが、それでもまだ余裕のある広さだった。
「やっと、お父様とお話が終わったのですね」
部屋のテーブルに紅茶とお菓子が置かれており、それを二人はイスに座って飲食していたようだ。
俺も座るようにリーナが手で促した。
「ええ」
「今か今かと待っていましたよ。叔父様ったら、私のカイトを独り占めするなんて」
んん!?何かおかしかったぞ?
「あの~エルス?」
「何か?」
「今、なんて言ったの?叔父様ったら、のあと」
「もう、いやですわ!私のカイトって言ったのですわよ!もうカイトのほ・し・が・り・屋・さん」
「っ!ちょっと待て~!!」
「何ですの?」
「いつの間にそうなった!」
「アナタを迎えに行った帰りの馬車のときに、ね!そうよね、リーナ?」
「えぇ、そうね。お父様に聞いたのでしょう?お父様は私とカイを結婚させたかったらしく、カイは知らずに乗ってくれたからよかったわ」
「それに、便乗させてもらったのよ。リーナとは双子の時より何だか感覚が鋭敏になっているから意識共有している感じで分かるのよ」
この二人の方が公爵様より、たちが悪かった。スッゴく計画的だったよ。
「何ともならないんだよね?」
「な~に、それじゃあカイトは、未婚の女性がそういう事して純潔では無くなったと世間一般ではそうなった私達を見捨てて一生独り身で居ろと?」
エルスが泣きながらどこから出したのかハンカチを目にあてていた。
「えっ!?いや~そこまでは~」
「私達のこと、キライなの、カイ?」
リーナは涙目で訴えてきた。
二人にそんな顔させたかった訳じゃなかったのに。
「キライじゃ、無いよ」
「じゃあ、好き?」
「えっ、あっ、うん」
「はっきり言って」
リーナが催促してきた。
「好きだよ」
「なら、問題無しね」
あれぇ~?嵌められた!?いきなり二人共、さっきの泣き顔が嘘のように笑顔になったぞ!
「騙した?」
「や~ね、カイト本当のことよ。それにどっちにしろ手遅れよ?」
「なぜ?」
俺の問いに二人は頷きあった。
「「だって、馬車と同じ状況になっているから」」
あっ!・・・・・・終わった・・・・・・そうでした、この部屋に三人しか居ないし、あのメイドさん、ニコニコ顔だったのはそう言う理由だから知っていたんだった。
「「よろしくね、カイト。(チュッ)」」
そう言って席を立ち、俺の頬に二人はキスをした。
そんな二人を余所に俺はなんともいえない複雑な表情をしていただろう。
そのあとは、二人とたまに脱線しながらも情報交換をした。
二人と話して分かったことは、3年前にジェイド兄ちゃんとセリカ姉ちゃんに剣術や魔法を指南してもらう少し前にスキル欄に眷属の加護が現れて、ジェイド兄ちゃん達が王国に定期報告の時に話していた少年のことを聞きそれが俺だと確信したらしい。
知識は俺達と変わらない程度で、それでも王宮で魔神のことを調べたがそれらしいのがなかったとのこと。
能力は王国から出たことがなく最低限の強さしかなかったこと。
【エルスのステータス】
名前 エルスティーナ・グラン・ド・グラキアス 10歳 女
Lv 20
種族 人族
職業 (転生者) 聖王国の姫君 細剣士 学生
(称号) (全属性を使える者)
体力 1150┃1150
魔力 2150┃2150
筋力 650
守備力 550
魔法力 850
魔法耐性 850
知力 200
素早さ 200
運 25
スキル 剣術Lv 4 杖術Lv 2 火属性Lv 3 水属性Lv 3 風属性Lv 3 土属性Lv 3 光属性Lv 3 闇属性Lv 3 無属性Lv 3 (隠蔽Lv 3)(鑑定Lv 3)(創造神の加護【中】)
(感覚共有)
【リーナのステータス】
名前 リーナ・ツォン・フォレスト 10歳 女 Lv 2O
種族 人族
職業 (転生者)公爵家令嬢 細剣士 学生
(称号) (全属性を使える者)
体力 1200┃1200
魔力 2000┃2000
筋力 700
守備力 600
魔法力 800
魔法耐性 800
知力 200
素早さ 300
運 25
スキル 剣術Lv 4 杖術Lv 2 火属性Lv 3 水属性Lv 3 風属性Lv 3 土属性Lv 3 光属性Lv 3 闇属性Lv 3 無属性Lv 3 (隠蔽Lv 3) (鑑定Lv 3)(創造神の加護【中】)(感覚共有)
そのあとはノエルに念話で連絡を取ったら、一つ依頼をこなしてギルドに報告に戻って来て、今は隣の食堂で休憩がてら早めの昼食をしているとのことだった。
合流することを伝えて終わり、それをエルスとリーナに話たら二人も行くと言い出した。二人に何を言っても負けると思い了承した。
それからの二人の行動は早かった。二人は部屋に置いていた俺やノエルと同じセリカ姉ちゃん特製のマジックバッグを持っていてそこからエルスは動き易いだろう服を、リーナは衣装ケースから服を出した。
二人はいきなり着ていた服を脱ぎ始めて、俺は驚きながら部屋を出た。二人の下着が少し見えたときはドキッとした。
「お待たせ、カイ」
少しして、その呼びかけと共に、部屋の扉が開いた。
「どう?おかしくないカイ?」
「・・・大丈夫、似合っているよ」
白と水色を基調とした凛とした服装をしたリーナは本当に様になっていた。
「ありがとう、カイ」
「私は、どうかしらカイト?」
「・・・エルスも似合っているよ」
こちらは、白と赤を基調とした凛とした服装をしていて同じく様になっていた。
「ありがとう、カイト」
「うん。──それよりも二人共、いきなり服を脱がないでよ!」
「あら、私達の下着姿を見せたかったのに。ねぇ、リーナ?」
「えぇ、いずれ見せることになるんですから、好きなだけ見てよかったのに」
「・・・・・・」
二人は笑顔で言ってきた。
この元兄姉は!それに元兄め!もう女性の躰を存分に活用している。
それからは、公爵様に挨拶をしてから行こうと思い、公爵様の執務室にリーナ先導のもと訪ねた。
「(コンコンコン)お父様、リーナです、よろしいですか?」
「───あぁ、どうぞ」
「失礼します」
リーナが先に入りエルス、俺の順で入った。
「──それでどこかに、行くのか?」
リーナ達の服装を見てそんなことを言っていた。
「はい、カイが戻ると言いまして、一緒に出掛けようかと」
「っ!そこまで仲良くなったか!それなら理由は言えないがカイトと一緒なら大丈夫だろう」
「あっ!公爵様、二人には僕のことを話しましたので大丈夫です」
「そうか!そうか!そんなことまで話す仲になったか!」
公爵様は笑顔ですごく嬉しくしていた。
「叔父様、私のことはだいぶ前にお父様に話していますので、心配ないですわ」
「そうでしたか!それなら陛下に話しやすい!待っておれ、カイトよ!」
「は、はい」
スッゴくやる気に満ちている。さっきまでの青ざめた表情が嘘みたいだよ。
「そ、それでは公爵様、僕はこれで失礼します」
「お父様、行ってきます」
「私も、失礼しますわ」
「うむ、カイトと一緒なら心配はして無いが、気を付けてな。カイトよ、待っておれよ!」
「はい、行ってきます」
「は、はい」
俺達は、スッゴく嬉しそうな公爵様に挨拶をして部屋を退出した。
そのあとは、リーナが公爵様に挨拶する前に馬車の手配をしていたので、馬車でギルドまで行くことになった。
ギルドに着くまでの間は、これからのことを話しつつ二人は来る時と同じく腕を絡めてきた。先ほどの着替えのこともあったため来る時よりドキドキしてしまった。