2ー6話
その日の、初めての授業は魔法の座学から始まった。
「───であるからして、皆も知っている通り魔法はその属性、例えば火魔法を使う際に魔力を込めながら、呪文となる詠唱を唱えると発動し使うことが出来る。火魔法の初級で火球の詠唱は【火よ、礫となりて、我が敵を燃やせ】と唱えると発動し火球が出てくる。これがもっとも知られている通常の詠唱で、火属性のレベルが高い者になると【火よ、礫となれ】と短い短縮詠唱が出来、発動することが可能になる」
ナリア先生がそこで一度区切った。
「初級の魔法は詠唱は短く魔法の威力が弱いが、中級、上級となると詠唱は長くなり魔力の消費も大きくなりその分威力が上がる。なので如何にその時と場所でどの魔法を唱えるかが重要になってくる。但し、初級でも熟練者にかかると魔力の込める量で中級、もしくは上級に匹敵する威力になることがあるので初級の魔法だからといって油断しないように。それに一部例外があるらしいが」
教室内を歩き回っていたナリア先生が最後の言葉は、なぜか俺とノエルの間で止まり、俺とノエルの両方の頭に手を置きながら言っていた。
何だか、色々ばれている?・・・。
そう思わずにはいられなかった。
※※※
次に、この世界の歴史の授業をした。
「この世界は三つの大陸があり、その中の一つで、バルスミド大陸には、ここグラキアス聖王国、聖王国の隣にソティウス騎士王国、その騎士王国の反対側、聖王国のもう隣にドライア帝国があり主に、我々人族が住んでいる。そして、帝国の隣のデルタミア獣王国には獣人が、獣王国と騎士王国の間に魔の森と呼ばれる森に囲まれているラムル国にはエルフが住んでいる。ここの大陸は大体、丸い感じの大陸になっているな。そして、大陸の中心に4000mもあるラティフ火山と呼ばれる山がある。噂であるがドラゴンが住んで居るとか居ないとか、まぁ、あくまで噂だがな」
また、ナリア先生は歩き廻っていて、今度は俺の後ろに止まり、俺の頭に手を置き、今度は優しく撫でてきた。
またですか?俺に対するスキンシップ多くないですか?
と、言いたかった。
※※※
この学園には食堂がありほとんどの人がそこで昼食をとっている。食堂の中は貴族専用のスペース、Sクラス専用のスペース、それ以外の一般の人達のスペースに分かれている。その中で貴族達には専用に料理があり分かれているとの話だ。
「カイト、昼飯どうするんだ?学食か?」
お昼頃になり、昼食をどうするかと話になった。
「ノエル、どうなった?」
ジアンの質問を、ノエルを見て答えた。
「うん!バッチリ用意できたよ!」
「よし、それじゃあ・・・屋上に行こうか」
「ん?カイト、どうゆうことだよ?」
「いいから、いいから。さぁ、行くぞ」
ジアンとルセが何、どうゆうこと?と言う、サッパリ分かりませんの表情で見てきたが、俺は気にせずにノエルと先に教室を出ると慌てて二人が付いてきた。
屋上に出た俺達は、ちょうど良いスペースがあり、そこにノエルがマジックバッグから敷物を取り出し広げて俺達は座った。
「ノエル」
「はいはーい。・・・お待たせー」
ノエルは引き続きマジックバッグからバスケットと木製の皿を取り出し片っ端に広げていった。
「じゃーん、どうぞー!」
「な、何だよ!?この料理は!?」
「美味しそう!」
ジアンとルセが初めて見る料理のようで、そんなことを言っていた。
「この料理はサンドイッチ、と言って、ただパンに具材を挟んだお手軽で片手で食える物なんだよ。昨日ノエルに頼んでいたんだ」
「うん!昨日、寮母さんに許可をもらって、厨房を借りて昨日の夜作ってたんだ」
「「えっ!昨日!?」」
「さぁ、食べよう」
二人をそっちのけで料理を食べ始めた。
ノエルの料理はいつも通り美味い。今度は何作ってもらうかな。
俺が美味しそうに食べていると、はっ!としたのか、二人も食べ始めた。
「っ!──うまっ!」
「っ!美味しい!ノエルちゃん、今度、料理教えて!」
「うん、良いよー。今日も作るから一緒にやろうよ。」
「うん、お願いします」
「カイト!ノエルちゃんって料理うますぎじゃないか?」
「まぁ、確かに美味しいからノエルの料理は楽しみだな」
「何を言っているの、ジアンくん。好きな人のために胃袋をつかんでおくのは当たり前だよ!」
「っ!ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」
「!!熱いねー!お二人さん!」
いやっ、知っていたけどさすがに改めて言われると、照れるって。クソっ!ジアンの奴、はやし立ててきやがった。
俺がむせったのを見て、ノエルがマジックバッグからミルクを取り出し木製のコップに注ぎ俺によこし、俺はミルクを飲んで何とか落ちつけた。
俺はジアンに仕返しをすると決めた。
「いや、ジアンもこれから胃袋をつかまれるから、安心しろ」
「ねっ!ルセちゃん!」
仕返しとばかりに、ジアンとルセを交互に見て言い返した。その際にノエルが援護をしてくれた。
「ちょっ!何言ってんだよ!?」
「んもう!ノエルちゃん!カイトくん!」
「「ははははは────」」
そんな雑談をしながら、昼食をとった。
※※※
午後からは訓練場と呼ばれる建物に移動して実技の授業が始まった。
「さて、お前たちに言っておくことがある。・・・お前たちは弱い!この学園でお前たちより弱い者は居ない。・・・だからこそ、強くなれる。すでに最低辺なのだから、あとは上を目指すだけだ。お前たちの周りには自分たちより強い奴らがたくさん居るのだからな」
赤を基調とした服装の訓練着に着替えてるナリア先生が開口一番に俺達に言っていた。
ナリア先生が訓練着に着替えると、冒険者にしか見えない位に様になっていた。
「さて、最初に魔法の授業を始める。皆には試験でやってもらったようにそれぞれ魔法を見せてもらう。自分たちのクラスメイトの実力を知るのも強くなるためには必要だからだ。まず最初に・・・」
ナリア先生が誰にしようか、と言う感じで見渡していた。
せっかくの機会でジアンとルセ以外の、ましてやクラスで上にいる人達の実力を見れるチャンスで参考にできると思い目を背けた。
「カイト!前に出て来なさい」
「僕ですか?」
「そう、アナタです」
俺は自身を指差して質問した。
「いやいやいやいや、僕はあとでいいですから」
「遅かれ早かれやってもらうのだから来なさい!」
「何で僕から~?」
「目を背けたから」
「あ~」
あれがまずかったのか。クソっ!失敗した。・・・いや、違うな、笑っているよあの人。はめられた!
あきらめてた時に、ナリア先生の口元がうっすらと笑みを浮かべていたのが見えた。
「さぁ、カイト。自身で出せる威力で的に当てなさい」
ナリア先生が試験で使われたと思われる同じ位の大きさの的を指差していた。目標の的まで15mもあった。
くっ!何だか言う通りにするとイヤな予感がするな。
「風よ、礫となりて、我が敵を切り裂け。風球」
手を的の方に突き出し詠唱をして魔法を発動させて、的に目掛けて魔法を放った。魔法は的に当たると少しキズを付けて霧散した。
「カイト、私は自身で出せる威力でと言ったはずよ。」
「えっ?やりましたよ?」
ここは、とぼけないと、後から面倒くさくなりそうだからな。
ナリア先生の目つきが鋭くなった。
「あとでお仕置きだ。良いかお前たち!。私の言葉に逆らったりしたら・・・まぁ、覚悟しておくように!それでは次に・・・・ノエル、前に」
ナリア先生が俺から視線を外してから皆に改めて言った。
ナリア先生が俺に皆の元に戻るように手で促し、代わりにノエルを呼んだ。
ナリア先生がノエルの耳元で何かを言っていて、ノエルが頷き、魔法を発動させた。
「光よ、矢となりて、我が敵を射貫け。光矢」
ノエルの魔法が的目掛けてキズも付かずに霧散した。その代わりに霧散した瞬間に一瞬だけ光が強くなって収まった。
ナリア先生はノエルの頭を優しく撫でてからこちらに戻した。
「さて、今、見てもらったのは、何も標的にキズを負わせるだけでなく、先ほどのように、一瞬でも目眩ましにも使えると言うことを知って欲しかったわけだ。なぜ今、教えたかと言うと、授業の最初に言ったようにお前たちはまだ弱い。それ故に逃げることの対処方法も知って欲しかったからだ。弱いなら弱いなりに様々な工夫が必要になってくるわけだ。分かったな!」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
この時、クラス全員が一致団結した瞬間だった。
その後も続いて、クラス全員がやり終わってその日の魔法の実技が終わった。最初の5日間の実技は魔法と剣術を交互にやっていくと言っていた。
「カイト、一体、ナリア先生に何したんだよ?」
「あ~、言われた通りにしなかったからな」
「一体何したんだ?」
「ん?ただ試験と同じくしてみろ、って言われてしなかった程度なんだけどな」
「どんな?」
「ん?魔法で的にキズが付いただろ?」
「うん?普通にやったら付くだろ、キズくらい。みんなも付いてたし。大小キズの付き具合はあるけど、それが?」
「ん、試験でやったのはキズを付けずに的に当たった時に霧散する程度に抑えた威力にしただけなんだよ」
「・・・・・・やっぱりカイトはスゲェな。そんなこと俺達にしてみたら熟練者の人達と変わらないのに。実際にノエルちゃんがその例だろ?」
ジアンが言いながら指を差した方を見ると、ノエルにクラスメイトのほとんどが群がっていた。
あぁ~、それでか。何で群がっていたのか疑問に感じていたが。
「さぁ、次に剣術の授業を始める。二人一組になってちょうだい」
「カイト、組もうぜ」
ジアンがすかさず言ってきた。
「もちろん。それに稽古も付けられるしな」
「げっ!ここでか?」
それからは、各二人一組で打ち合いをして、おかしい所があればナリア先生が指摘をして見廻っていた。
その日の授業が終わり、みんなが更衣室に向かう中、俺とノエルにこっちに来い、とナリア先生からお呼びがかかった。
「カイト、お仕置きのことだが」
「えっ、おかしなことして無いのにですが?」
「あぁ、それは置いといて、お前たちどれ程の実力を隠してる?」
「えっ!何のことですか?」
「実はな、サナア学園長とは旧知の仲でな。色々と隠してる二人の実力がどれ程の物か知りたいと言ってきてな。私は回りくどいことはしたくない性分でな、それでこうして質問しているわけだ」
「いやー、隠してるも何もこれが僕達の実力ですよ?ちょっと魔法が長けている位だと思うんですけど」
「ノエルはどうだ?話すか?」
「えっ・・・カイくんの判断次第です」
「っだそうだ。どうだ?カイト、素直に話さないか?」
またか!何でか運は最高値なのによく無い方に行くぞ。
「さぁ」
「・・・あくまで話さないか。いいだろう、お仕置きも含めこれからが楽しみだな」
ナリア先生は笑みを浮かべながら、俺達を解放した。
その日、夕食までの時間にジアンとルセの特訓をして終わった。
それから5日間は朝日と共にジアンとルセをひたすら走らせて、授業が終わってから夕食の間に魔力の操作をひたすらやらせた。授業の方はナリア先生が授業で事あるごとに俺を指名して答えさせてボロを出すように仕向けてきた。ちょっとした職兼乱用だよねこれ、と思いながら俺はナリア先生の攻撃を躱して5日間は乗り越えた。
この学園は基本5日間授業があり、その他の2日は自由に各自で自主的に訓練したり休んだりする日がある。つまり、あちらの地球とサイクルが似ていることだ。その日は学園は関係なく開いているから訓練をすることができる。
俺達はいつものように、朝の訓練を終えて朝食を食べていた。
「カイト、今日はどうするんだ?」
「ん?今日は・・・久しぶりにギルドに行って見ようか」
「ギルドにか?」
「あぁ、ジアンとルセのストレス発散と、ついでにお金を稼がないとな」
「さすがカイト、お見通しか」
「あぁ、そう言うことだ。じゃあ、準備でき次第、寮の前で待ち合わせな」
「「はーい」」「おう」
それから朝食を平らげて各自部屋に戻って行った。
部屋に戻る途中にノエル以外の眷属の気配を感じた。二つ。
一人は、姫様なのはわかるが、もう一人は確か、薄紫髪の女の人だったはず、どうゆう関係なんだ?
段々と近づいているのが分かった。
その気配がちょうど寮の前で止まった。
部屋には戻らずに、外に向かった。
寮の前には豪華な馬車が止まっていた。
紋章を見るとフォレスト公爵家の家紋であった。
執事服を着た白髪をオールバックにしたシワと髭が似合う優しい顔立ちの長身の御者の人が馬車の入り口に踏み台を設置していた。
馬車の扉が開き中から薄紫髪の女の子が先に降りて、次に姫様が降りてきた。
「初めまして、わたくしはリーナ・ツォン・フォレスト。ライナー・ツォン・フォレスト公爵の娘です」
そう名乗った水色を基調のドレス姿の女の子がドレスの裾を少し上げて軽くお辞儀をした。
「初めまして、わたくしはエルスティーナ・グラン・ド・グラキアス。カイゼル・グラン・ド・グラキアス聖王陛下の娘です。カイト様」
姫様は、薄ピンクを基調のドレス姿で同じくドレスの裾を少し上げ軽くお辞儀をした。
何故か、最後に名前を呼ばれた瞬間に背筋に寒気が走った。
「・・・初めまして、僕の名前はカイトと言います」
「えぇ、よく存じていますよハル」
えっ!なにその笑みは!目が笑ってないんですけど!なんだか姫様コワい!もしかして、優斗兄じゃないのか!?
「それで、今回こちらには?」
「はい、わたくしの父がカイト様にお話しがあるとのことでお迎えに参りました」
「公爵様が僕に」
何だろう?・・・・・・・・あっ!そうだった。
「今からよろしいでしょうか?カイト様」
「カイくん、お待たせ・・・って取り込み中?」
リーナ様に聞かれたときにノエルを先頭にジアンとルセが寮から出てきた。
ノエル達三人は何があったのか分からずにいたが、リーナ様が自己紹介をしつつ事情を話しはじめた。
「カイくんどうするの?」
「行って来るよ。ノエルは二人に付いていてくれ」
「分かった」
「話はまとまりましたね。それではカイト様行きましょうか」
「はい」
リーナ様が手を馬車の方に向けて入るように促して素直に入り、そのあとに二人が入ってきた。
俺達が入って間もなく馬車が出発した。
二人はなぜか俺を挟んで隣に座っていた。
「あの~」
「はい、何ですか、カイト様」
どちらでも良いように声を掛けたのに対して返事をしたのは姫様だった。
「もしかして姫様って優斗兄なの?」
「なにを言っていますの?カイト様は?」
あくまでしらを切るつもりか。目が笑ってないのに。
「あっ!そしたらリーナ様が優菜姉だよね。可愛いな~」
「な、な、なにを言ってい、いますの?」
あっ!動揺してる。やっぱりか~。昔から褒めると嬉しそうにするんだよな~優菜姉は。
「やっぱり優菜姉はどんな姿でもかわいいし、綺麗になるよな~」
「な、な、なにを言っているの、ハルくんは」
「あっ!」
「やっぱりだったね。優菜姉、俺から褒められると嬉しそうにしていたでしょ?」
「くっ!はめられた」
「姫様はやっぱり優斗兄でしょう!」
「うふふふふふふっ、やっぱり愛の前にはどんな障害も関係無いね、ハル」
うわぁ~。なんか可笑しなことを言っているよ、この人は。
「あっうん、そうだね~」
「それにハル、いつから焦らしプレイを覚えたんだい!私は会いに来てくれるのを今か今かと待っていたのに!」
優斗兄が俺の腕に絡み付いてきた。
だから!目が笑ってないんですけど!コワいって。アレだ、俗に言うヤンデレと言うやつか。
「いや、そんなプレイ覚えてないから!目が笑ってませんけど!?」
「ハルく~ん、私も~」
優菜姉も俺の腕に絡み付いてきた。しかもデレデレの状態で。
昔から身内しか居ないときはそうだった。
「そ、それより、情報交換をしない?」
「や~だ、まだハルを堪能したい!」
「私も~」
くっ!カワイイ声で言ってきやがる。
「情報交換──」
「「や~!」」
そんなやりとりが公爵家に着くまで続いた。