27話─3
何故か大人の姿になっている父さんが、アグルと互角の戦いを繰り広げている。父さんは風の魔法を駆使してか、空を飛んでおり、アグルと空中戦をしている。
俺は父さん達の邪魔にならないよう地上に降りた。
……………父さん…………。
俺は辛うじて感覚だけがある左腕を気にする。左腕にはほのかな温かみのある光が纏わっていた。感覚だけはあるだけで指先など全くといっていいほど動かすまではいかない。
今の段階ではどうするかを気にしていられない。父さんも俺みたく何かしらの餌食になる可能性があると思うと、二人の戦いを注視しないといけない。
でもこうして二人の激しい剣戟を観ると、父さんの剣筋は繊細さがあり、アグルは荒々しい剣筋をしている。
だが父さんは力強さがなく鍔迫り合いになるとアグルに軍配があがる。
だけどその火力不足を魔法で補っている為か、アグルに引けを取ってはいない。
父さんは真剣な表情をしているのに対してアグルは嬉々とした表情を浮かべている。やはりアイツは命のやり取りを楽しんでいるんだ。
ただ父さんは何処か焦っているような感じが見受けられる。何故だかは知らないが、強引に斬り込む場面がたびたび見て取れる。
──ゾクッ──
ッ!? この感じは!?
突然、背中に途轍もない寒気が襲う。
俺は直ぐさまその場所から大きく飛び退いた。すると俺が居た場所の空間───虚空が大きく斬り裂かれ、跡が出来る。
そして次に斬り裂かれた跡から、禍々しさを孕んだ闇が噴き出し始まる。
この感じは以前に感じたことのある。それは帝国で、悪魔のサタンとの戦いで突如介入してきた人物。漆黒の鎌を持った漆黒の女性。
その次には、闇を躰から放つと言うより、纏っていると言った方が適切で、想像で浮かべる死神が持つような鎌を片手に持ち、全身黒い服装をした黒髪の女性が姿を現した。帝国で戦った時より闇が濃くなって見える。
「……………」
やはり女性は何も言ってこない。その代わりに、一切の光を差し込まない程の虚ろな眼をしてこちらを見てくる。
やはり神格化でなければ鑑定しても、女性のステータス──名前すら全く視ることが出来ない。と言うより表示されない。だが、前回視た名前はミリテリアと表示されていたはずだったな。
俺は異空間から黒刀【晦冥】を抜刀状態で取り出す。正直右腕だけで何処まで奴に対応出来るのかは不明だ。神格化に成ろうとも、先のアグルの言葉を無視する訳にもいかない。既に左腕をやってしまっているからだ。
「使徒様、どうされたのです?」
するとミリテリアの隣に父さんと戦っている筈のアグルが降り立つ。そして父さんも俺の隣に並び立つ。
アグルはミリテリアに片膝を付き平伏して見せる。それは以前に戦った時には微塵も感じられる事が無かった姿。アイツは誰かに頭を下げるような男ではない。そう感じていたのに。
「………………」
それでも彼女は何も答えない。ただただ俺を見てくるだけ。
「カイト、禍々しい力を纏っている彼女は?」
父さんは視線をミリテリア達からずらすこと無く聞いてくる。
「分かっているのはミリテリアと言う名前と、力を吸収する事が出来ること」
「……………厄介だな」
父さんはそれだけの情報でアイツの危険性を察したらしい。それにしても父さん、異常なまでに汗をかいている。アグルとの戦闘時は速い攻撃の応酬であったけど、父さん程の実力者ならそれ程にならない筈なんだけど?
「カイト、左腕はどんな感じだ?」
「残念だけど辛うじて感覚があるのが分かるだけで、少しも動かす事は出来ないよ。それにしてもこの左腕に感じられる、魔力とは違った力は父さんが?」
「ああ。魔法による強制的な回復ではなく、精霊の加護を用いて自然に回復させる事をしている。どうやら魔力を用いての回復魔法は今のお前にとって毒になるみたいだからな。だからお前が使う雷装化と言う類いの魔法は使うな。お前の左腕を治している精霊達が霧散してしまうから」
そこまでお見通しか………。それに、やはり纏装が出来ないと言うより、マズイか…………。
「……………それとカイト、あの男と直接対峙して分かったが、けりを付けるなら今の内の方が良い」
「何が分かったの?」
「あの男が纏っている闇、アレを完全に使いこなせた時、今の俺でも対応出来ない。ましてや、お前の左腕も真面に動かせないとなると、尚更奴には勝てない。違うか?」
さすがに見破られているみたいだな。確かに父さんの言うとおり。アグルが闇を纏う前なら確かに右腕だけでも対応出来る。だけど闇を纏ったアイツの力は、両手でないとあっという間に刀を弾かれ飛ばされる程に増している。
「あの男は今はまだ闇に呑み込まれている。奴本来の意識までは呑み込まれてはいないが、奴が完全に使いこなせたとき厄介になる。だからこそ今の内に倒しておかないと」
「分かった。だけどもう一人はどうする? 流石に黙って見ているとは思えないけど?」
「少しの間だけでも彼女の相手をしてくれたらいい。どうやらカイトしか見ていないみたいだからな。その間に奴を叩っ斬る」
「それは良いけど、いけるの?」
父さん、汗をかきっぱなしなんだけど?
「まぁ、心配するな。一瞬で終わる筈さ」
そう言って父さんは剣を納刀し、左手で剣を腰の位置に構える。何するつもりなんだ?
そうこうしている間に、片膝をつき平伏していたアグルは立ち上がる。
「カイト、それに名も知らぬ剣士よ、残念だが使徒様が来たからにはお前達は終わりだ! 魔神様の糧となり永遠に力の一端としてお前達は生きるのだ!」
アグルの宣言に似た言葉が合図であったらしく、ミリテリアは真っ直ぐ俺達に迫ってくる。俺は直ぐさま父さんから離れた。案の定、ミリテリアは俺に狙いを定めていた。
父さんの助言通りに俺は纏装を行わず、身体強化のみで少しでも父さんとの距離を稼いだ。
だが、ただの身体強化のみの脚力では大した距離しか稼げずに、ミリテリアは漆黒の鎌をかざして攻撃をしてくる。俺は晦冥で鎌を受け止める。
だが、身体強化のみ──しかも片腕だけでは受け止めきれずに押し出す様に弾かれる。それで俺の躰は吹き飛ぶ。
前回みたいに鍔迫り合いとまではいかないが、彼女の鎌に触れても頭痛はせず、彼女は表情が全く変わる事はなかった。
意図しない結果だったが、それで更に父さんから離れる事になった。そこで少しばかり父さんの方を観ると、父さんは納刀した剣を腰に据えて腰を低くした状態で、一気に目にも止まらぬ程の速度を出してアグルとすれ違い、そのままアグルの後方に移動した。そして背を正した。
そして次の瞬間、アグルの躰が十字に斬り裂かれ、躰が四つに別れる。
と、そこで視線を戻すとミリテリアが眼前に迫り、またしても鎌を振りかざしていた。俺はまたしても晦冥で防御する。だが、ミリテリアの重く鋭い攻撃は片腕だけでは耐えられる訳もなく、晦冥を手放さない様に握っているのが精々でまたしても弾き飛ばされる。
弾き飛ばされ、その途中で俺は空に逃げる事にした。案の定彼女もそのまま空を飛んできて追撃してくる。
俺は今度は晦冥で防がず、ギリギリで彼女の攻撃を躱したりした。防戦一方で為す術がない。そんな攻防に父さんが割り込んできた。
「すまないが、俺も交ざるぜ」
そう言って父さんは彼女に斬りかかっていく。父さんの繰り出す鋭い攻撃を彼女は軽々といなしていき、父さんが参加してきても相変わらず攻撃をしてくる。もちろん父さんだけでなく俺にも攻撃をしてくる。
彼女の一撃一撃が重く、俺と父さんは受け流したり、躱したり、父さんだけは僅かな隙でも攻撃をしていく。それでも決定打となる攻撃にはならなかった。
幾つかの攻防を繰り広げて、彼女に異変を感じた。それを父さんも感じてか、明らかに渾身の一撃といってもおかしくない蹴りを彼女に入れて、彼女は鎌で防御するが、そのまま地面に叩きつけられる。
「カイト!」
父さんが切羽詰まった声を上げる。
「お前が持つ神の力を俺に少し分けられるか!」
「分かんないけど多分出来ると思う」
魔力の譲渡はやったことあるけど、神の力を譲渡した事は無かった。多分魔力を譲渡する感じに似ているはずだが……………
「だけど今のままでは神の力は使えない。それ相応の格好にならないとあの力は使えない。だけど今の俺の左腕の状態で使ったら………」
「再起不能になる、か。それを承知でやってもらうしかないな。今のアイツに有効な攻撃手段はないからな」
「…………分かった。やるよ」
「すまない。だけどその左腕は必ず治してやる」
父さんは真剣な眼差しを向けてくる。俺は父さんが必ず治してくれると信じて躊躇わずに神格化になった。
「ッ!?グッ!?ウッ!?アァァ──────!!」
神格化に成った途端に、僅かな感覚が残る左腕に更なる焼ける痛みが伴う。それは【焔纏光羅】の比じゃないほどの痛み。悲鳴も声にならない程に変わる。
痛みと闘いながらどうにか聖なる力を父さんに渡す。
「すまんカイト」
父さんは力を受け取り謝ってくる。俺は直ぐさま神格化を解き、大粒の汗を流し激しい息づかいを繰り返す。
「と………父さん…………後は…………任せる……………」
俺は空を飛ぶのに必要な緻密な魔力制御もままらないほど衰弱してしまい、その場から脱力状態で落下し始める。
父さんは直ぐさま俺に近寄り俺の躰を支えてくれて、そのまま地面に降りる。
「カイト、ついでにその刀を借りるぞ」
俺を地面に寝かせた父さんは、辛うじて持ってられた【晦冥】を取り、代わりに父さんが持っていた剣を俺の傍に突き刺していく。正直返事も出来ない程一気に衰弱してしまった。それでも分かることがある……………俺の左腕はもう完全に動かす事は出来ないと………。
カイトより神の力を少し受け取ったフリッドは先程より魔力が向上して、躰には煌めいた魔力──神力を纏っている。その纏っている神力をフリッドは呼吸するかのように自然に内側に取り入れる。
そしてフリッドは神力を万遍なく躰の隅々にまで行き渡らせ、カイトから借りた刀【晦冥】に神力を流す。すると黒刀である刀身が淡い光りを放つ。
フリッドはその【晦冥】を手に、起き上がりフリッド達に再び襲い掛かろうとしてくる闇を纏いだしたミリテリアに一気に駆け寄る。
そして次の瞬間、ミリテリアに駆け寄っていたフリッドは姿を消す。
ミリテリアは突然居なくなったフリッドを構わずに、横たわっているカイトを標的とするためにカイトを見始める。だがそれは叶わなくなった。それもその筈、突然ミリテリアの躰から血しぶきが舞い散ったのだから。
そしてその背後には姿を消した筈のフリッドが息も絶え絶えで居た。突然姿を消したフリッドは、ミリテリアも視認出来ない程の超加速で一気に詰め寄り、尚且つ無数の攻撃を繰り出していたのだ。それも居合い斬りの容量で。
そこで始めてミリテリアは戸惑いを見せ、眼前に居るカイトより、闇を突き破って自身の躰に傷を付けてきた今はこの男が危険で、邪魔な存在であると認識し始めた。ミリテリアは傷付いた闇の衣を修復して躰の傷を治し始める。そして標的をフリッドに定める。
フリッドはほぼ満身創痍であった。自身の躰の許量を超えての攻撃に躰の殆どが断裂して血が噴き出しているのだ。それでも現状を打破するには、無理をさせてしまったカイトの代わりに自分がやるしかないと自身を奮い立たせていく。
フリッドは血だらけになりながらも、立ったままミリテリアを見据える。
「(神力を用いての攻撃でしたのに少ししか傷付けられないとはな…………)」
フリッドは予想以上に頑丈であった事に内心舌打ちしていた。だが逆を言えば神力での攻撃は通る事を意味している事にも気付いていた。
ミリテリアはそんな状態のフリッドにお構いなしで、鎌に闇を纏わせて襲い掛かろうと間合いを詰める。
そしてミリテリアの鎌が満足に動くことがままならないフリッドに襲い掛かり、フリッドは鎌をまだ神力が残って淡い光りを放つ晦冥で受け止めようと身構える。
フリッドが咄嗟にミリテリアの鎌を受け止める態勢だったが、受け止める途中で受け止めるだけの力が思っていたより残っていないと悟り、瞬時に受け流しに切り換えるもののそれでも足りないと思い、少しでも威力を殺そうとバックステップをして弾き飛ばされる。
その際に、ミリテリアの斬撃が重く、フリッドは晦冥を手放してしまう。ミリテリアは、無防備になったフリッドにトドメとなる攻撃を仕掛ける為に追撃する。
フリッドは無防備で弾き飛ばされ、瞬時にどうするかを思考するが、どれもすぐにミリテリアに追い付かれ、為す術なく斬り裂かれる事にどれもなると理解する。
フリッドは観念して最期と思いカイトの──息子の最期の姿をその目に焼き付けるために見るとそこには、満足に動けないはずのカイトが頭と両腕をダランとしてユラリと立っていた。
そして次の瞬間、銀色に染まっている髪が黒紫色に染まり、躰から同色の───黒紫色をした魔力が噴き出す。それを察したのか、フリッドに襲い掛かっていたミリテリアが鎌を身構えたまま振り向きその場に止まる。
ミリテリアはほぼ眼前に居るフリッドにも目もくれず、カイトに狙いを定め脚に力を入れる。そして地面を蹴ろうした瞬間、自身を黒紫色をした球体が襲い掛かり、自身をすっぽりと包んでしまう。その球体を創り出したのは右腕を挙げているカイトであった。
フリッドは突然の事態の把握を冷静に分析していた。カイトがこんな力を持っている事は知らないし、聞いてもいなかったからだ。そんな訳の分からない状態のカイトがどう言った理由で攻撃をしてくるか、そのカイトが見境がないのか、そう言った危機対策の可能性として、その場に立ち尽くして観察していた。
その後カイトは、手の平を見せていた状態から握り拳を作り出す。カイトの手に合わせる様に球体は収縮し始める。そしてその場には地面が少し削れて無くなり、片膝を付き衣服が所々無くなり、躰のあちこちから血を流した状態のミリテリアが居た。鎌先ほどまで握っていたはずの鎌は無くなっていた。
カイトはそこで始めて顔を挙げる。フリッドは声に出さなかったが、驚愕しつつ険しい表情を浮かべる。
そこにあったカイトの表情は、薄気味の悪い満面の笑みを浮かべていたからだ。
カイトの瞳はドス黒く染まり、目元は下がり、口元の口角はあり得ないほど吊り上がっていた。明らかに常人がする表情ではなかった。
そんなカイトは、突き出していた右腕を横に振ると共に、腕に纏わり付いている魔力で、刀の刀身をした刃を成形する。
右腕に刃を創ったカイトはゆっくりと、ミリテリアに向かって歩き出す。その間、ミリテリアは満足に動けないのか、微塵も動かずにその場に留まってカイトを見ていた。
カイトがゆっくりと歩いて、後数歩で右腕に創り出した刃の射程距離に入ると言うところで、突然ミリテリアの後方の虚空が斬り裂かれる。それはミリテリアが突然現れた時に起きた現象に似ていた。ただ違うのは斬り裂かれただけで闇が噴き出してはいない。
「──使徒殿、ここが引き際ではないかね?」
その声と共にその人物は空間の裂け目から姿を現す。現れたのは片腕が無い男性。
「(やっぱりか…………)」
フリッドはその人物を見て苦い表情を浮かべる。その人物はフリッドが斬り裂いたはずであった人物───アグルであったのだ。そのアグルは何事も無かったように現れたのだから。
「先程は見事な居合い斬りであったな剣士殿よ」
アグルはわざとらしくフリッドを褒め称える。それを受けてフリッドは内心で舌打ちをする。
「其方が何事もなく鞘から抜いてれば、私は今ここにはいなかった。と言えば、分かるはずだ」
それだけでフリッドは分かり確信した。フリッドは精霊剣で居合い斬りを確かにした。だが精霊剣は直剣──真っ直ぐの刀身となっており、その直剣で居合い斬りをするとほんのごく僅か抜くのに突っ掛かってしまう。
それは本来支障にならない程なのだが、そのごく僅かが致命的になってしまっていた。そのごく僅かをアグルは見抜き、瞬時に闇で自身そっくりの分身を作り、入れ替わっていたのだ。
そんな芸当が出来る事はつまり、アグルは闇を完全に自分のモノにしていた証でもある。
「まんまとしてやられたよ。まさか道化の心得もあるとはな」
「クックックッ。それは其方も同じであろう? それに私を愉しませてくれる存在が出て来たのだ。その愉しみを奪うモノは、例え神からもたらされた力とて私の力の糧にするまでの事」
アグルは実に愉快そうに嗤っていた。
「まぁ、私としても不本意な事をしてしまって悔やんでもいたが、それはそれで面白いモノが観れたから、こうして出て来た訳だよ」
アグルは、薄気味の悪い笑みを浮かべたままジッとしているカイトを見据える。
「まだまだ力を制御出来てもいないらしいがな」
その言葉を放ったアグルを突然、黒紫色の球体がアグルとミリテリアを包み込みこむ。
それを放ったのはいつの間にか刃を消し去っていたカイトであった。カイトは先程と同じく手の平を拡げた状態から握り拳を作り、それに合わせるように黒い球体も収縮していく。
そしてアグルとミリテリアが居た場所にはまたしても地面が抉れて、誰も居なかった。
「『───剣士殿よ。我らはこれにて退かせてもらうよ。手負いの獣の相手も面白いだろうが、それは私の本意では無いのでね』」
どこからともなくアグルの声が聞こえた。それはとても愉快に声音が弾んでいた。
「『それでは無事に生き残れるのを祈っているよ』」
それが最期と言わんばかりに、アグルの声が途切れる。そしてフリッドは窮地に追い込まれる。
薄気味悪い笑みを浮かべているままのカイトが、その場に残っているフリッドを見据えているから。カイトはフリッドを標的にしていた。
カイトは両腕をブラブラと揺らしながらフリッドに向かって歩き出す。
「カイトッ!!」
フリッドは怒声とも言える声音でカイトの名を叫ぶ。
カイトはそれでも歩みを止めず、フリッドに一歩一歩ゆっくりと躰も揺らしながら近付く。
「カイトッ、正気に戻れ!! 力に呑み込まれるな!! 自分を見失うな!!」
フリッドはその場に立ち尽くしながらカイトに言葉を投げ掛ける。その声は虚しく、カイトの歩みは止まらず、とうとうフリッドの傍まで近づき立ち止まる。
フリッドもここまでかと観念して柔和な表情を浮かべる。それとは裏腹にカイトは右腕に刃を創り出す。
「…………すまなかったな…………晴斗」
カイトは刃を創り出した右腕を振るい挙げる。だが、カイトの右腕はそこで止まった。
「二度目の人生を歩んでお前とまたこうして会え、お前が逞しく成長した姿を見れて父さんは嬉しかったよ。それに楽しかった」
それまで真面な反応を示さなかった薄気味悪い笑みをしていたカイトの眉間にしわが寄り、あり得ない程吊り上がっていた口角が下がり出す。
「色々とまだ言いたいことはあるがこれだけは言っとくよ。この世界では血の繋がりは無いがそれでも…………………俺の事をまた父さんと呼んでくれてありがとう。そしてお前は俺の自慢の息子だよ、晴斗」
「─────父………………さん………………」
それまで会話も出来なかったカイトが喋り出すと、それまで変貌していた髪色や表情が消え去り、元の状態に戻る。
「晴斗!」
倒れそうになっていた躰をフリッドが抱きしめる。
「………………ありがとう…………父さん…………」
カイトはその言葉を最期に意識を失う。フリッドはもしやと思いカイトの状態を確かめて、カイトが寝ているだけだと安心する。
フリッドはカイトをその場で横に寝かせて、傍らでフリッドは四つん這いになってしまう。
「───ッ。ハァハァ、何とか保ったか……………」
そして突然、胸元の服を掴み苦しみ出すフリッド。
「……………かなりこの姿になりすぎたな…………」
フリッドは苦痛の表情を浮かべ息を切らしていた。そして突然フリッドの躰が眩く発光する。
フリッドの躰から放たれた光が収まるとそこには、無造作にかけられた衣服の中に生まれたての赤ん坊が寝ていた。
その場には横たわっているカイトと赤ん坊しか居なかった。そのタイミングで光の渦が虚空に現れる。それは【ゲート】の魔法であった。
そこから出て来たのは所々衣服が破れている状態のリーナ。
「………………カイト………………それに………………」
リーナが辺りを見渡して発見したのがその二人。なんとなく状況把握したリーナはカイトとフリッドが使っていた得物を回収して、スヤスヤと寝ている赤ん坊を抱き上げ、カイトを魔法で浮かび上がらせて、再び【ゲート】でその場をあとにした。
お読みいただきありがとうございます。