第七話 女神降臨(綺麗だとは言ってない)
「あ、悪魔・・・!?」
眠っているクスを庇うようにしてクルミがレヴィと相対する。
ここでクルミがクスを置いて逃げ出すようだったら今後の関係を見直していたが、
まあその必要が無いようで安心した。
いや安心できねえわ!レヴィ止めないと!今にも拳を振りかざそうとしてるし!
「レヴィ!後ろに下がって待機!」
「はっ!」
あ、危なかった・・・。レヴィ、後もう少しのところでクルミ襲おうとしてた。
何故襲おうとしたのかは・・・きっと俺が狐の獣人を探せと言ったけど
それ以外の奴については詳しく話さなかったからだろう・・・。
あー日本語って難しい。
「ふー・・・とりあえず大丈夫かクルミ?」
「ん?・・・んー・・・もしかして影人?何か違和感があるんだけど。
主に頭の上から出ている物とか」
「ははは・・・それについては詳しく話すわ・・・」
何か乾いた笑いしか出てこなかった。さすがに頭から常時角はどうですかね?
誰がこんなことしたか知らないけどそういうモラルとか良識を持っていて欲しかった。
こんなの恥ずかしいに決まっているだろっっ!
ーーーーーーーーーーーー
「へえ!魔王になっちゃったのか影人!・・・なっちゃったのか・・・」
「ええそうですよ・・無駄な角まで生えてな!」
ステータスがバグレベルで上がったのは嬉しいんですよ。
でも角生えるって・・・こんな生き恥晒すことまでしなくても良いんじゃ無いですか!?
ああ神様ー助けてー。あ、目の前の女神様は呼んでませんよ?
お前が来るぐらいならまだハデスに頭下げる方が大分マシじゃ!
あ、クスについては喜美が滅茶苦茶効果が上がった回復で治してます。
というかもう治療が終わって意識が戻るのを待ってる最中です。
前は精々自然治癒を加速させる程だったけどここまで上がるとは・・・。
女神様怖いわー。駄女神だけど。駄女神だけど!
「影人様。制圧完了しました。兵士は全員捕縛してあります」
そう報告したレヴィの顔には隠すつもりがないというくらいの笑みが出ている。
とても爽快だったんだね、レヴィ。遠い目をしそうになったが抑えた。
俺、こっちに来てもストレスは無くなりそうにありません・・・
「ご苦労様。レヴィはそのまま周囲の警戒にあたって。援軍が来ないとは限らない」
「承知致しました!」
レヴィもサタン同様影に潜っていく。これ便利だな、後で実験しよう。
まだスキルも魔法も知らないことだらけだし。
あ、兵士の皆さんがそろそろ起きそうだ。思ったよりは速かった。
では兵士の皆さん、お話のお時間でーすーよー。
「・・・くそ・・・頭に痛みがって何だこの縄は!?」
「お目覚めかな?兵士の皆さん」
「何だ貴様は!早くこの縄を解け!魔族がこのようなことをしたとなれば国際問題に
発展するぞ!人間の国では禁止されている数多くの行為を事実上黙認している野蛮な魔族がついに直接人間に手を出してきたとな!」
あらら、思ったより数段威圧的。というか魔族ってそんな風に見られているのか。
クスに人種について教えて貰ったときにはそんな事教えてくれなかったし。
それと私は正確には魔族ではないんですけどねー・・・まあいいや。
「解くのは良いがその前に少々質問に答えては頂けないだろうか?」
「黙れ!お前のような奴に話すことなど・・・」
・・・ふっ、ムカついた☆ なので額に軽く蹴りを入れてやった。
全く、こっちは丁寧に話そうとしているのに何だよあの態度。いや、軍人なら当然かな?
何だか元の世界ではやらないような選択をしている気が・・・。今までなら
そんな乱暴な物言いされても短絡的な行動に出ないよう我慢してきたのにな。
・・・あれ?起きない?やり過ぎた?おーい生きてますかー。
・・・胸倉を掴んで顔を見ると白目を剥いていた。・・・やってしまった!
やっぱ感情的になるのは良くない事だな。元の世界でもそれで何度も失敗したし。
それに兵士の皆さんが怯えている。これじゃあ話すどころでは無い。
「・・・反抗的な態度を取らなければこれ以上はしないぞ」
笑顔を添えて言ってみた。逆に怖がらせてしまった。あれー?
(影人!めっちゃ悪人面だった!やばいって!)
(え?マジで?)
思念伝達便利。こういう口に出せないことを口に出さず言えるって
素晴らしい!これスパイ活動に便利じゃね?
(いや、こういう風に傍受とか盗聴出来るからあまり使いすぎたら駄目。)
(あ、そうなの。じゃあ無線とかとあまり変わらないな。)
(無線!?無線とはなんだ!?後で教えてくれ!)
一瞬で思念伝達によるスパイ網の構想が瓦解したが、勉強になる。
さすが、永い時を生きる神種、特神と呼ばれるだけある。ハデスの知的好奇心の
高さには若干引いたが・・・。脱線してた。閑話休題、元に戻ろう。
「それで聞きたいことだが・・・」
『我々で良ければ何なりとお聞き下さい!』
「・・・」
やり過ぎたサーセン。でも俺は悪くねえ!こいつらのリーダー的な人が真っ先に
倒れたのが悪いんだ!・・・はい、私のせいです。自業自得です・・・。
「・・・お前たちに指示を出したのは誰だ」
「・・て、帝国特殊作戦軍の指揮官、マーザレン・タイラント中将です!」
魔王鑑識を発動。・・・嘘はついてない。さらに名前から記憶を探らせて貰う。
ビンゴ。やっぱりマタザが主犯か。あいつめ中将なんて地位に就いてたのか。
・・・あれ?俺鑑識にこんな使い方あること知ってたっけ・・・
「ああああああ!!!!」
「!?」
情報を吐いた兵士の体が急激に腐蝕していく。どういうことだ!?魔王鑑識を発動!
原因はなんだ!?
・契約の禁薬
服薬した人物が契約に反する行動を取った場合に調合した際に込めた魔法を発動する。
(腐蝕魔法:誅罰が発動されました。)
ちっ!口封じって訳か!
「うわああああ!!!」
「喚くな!余計な事をしなければこうはならない!」
恐らく周りの反応からするとこうなるとは誰も知らなかったようだ。
なんてことしやがるんだ・・・!完全に兵士を駒のようにしか思ってねえのか・・・!
くそ!どうする!?腐蝕魔法なんて並大抵の回復じゃ治らない!
だが、今の俺たちにそんな魔法使えるやつなんて・・・!
「過剰回復!」
「ああああ・・・・」
その魔法を受けた兵士の腐蝕が止まり、少しずつ回復、修復されていく。
なんだ!?あの喜美が使っている魔法は!?鑑識!
・過剰回復
回復系の魔法。ステータスの一時的な低下及び後遺症を発症する代わりに、
低度の負傷だと命を落としかねない程の急激な回復を可能にする魔法。多量の魔力を消費する。
(スキル:天啓、天の加護により高速取得を行いました。)
おおぅ・・・なんか糸が切れたみたいに緊張が解けたわ。
こういうときは役に立つんだよな・・・あのイアに追っかけられてた時も
そうだったな・・・はあ、こういう面が目立てばいい人見つかるのに・・・
宝の持ち腐れだな。
「治療完了!」
胸を張ってドヤ顔をする女神・・・ねえ。
(無い胸張ってもしょうがないだろ)
(うるさい!これから育つの!)
あーはいはい。期待してますよー。
む、兵士の一人が喜美を魔法で鑑定しようとしてるぞ!?おい馬鹿やめろ!
そいつには女神の篭絡が!そんなことしちゃいけない!
「のぞき見は駄目です!」
「!?!?!?」
あちゃー遅かったか。女神の籠絡よって兵士の鑑定は抵抗され、兵士達は
喜美の方向一点を凝視している。仕方ないか。それより、あの喜美から出ている光が
神の後光と鑑識で出ているんだが何だそれ。解説を鑑識さーんお願いしまーす。
・神の後光
役職に神と名のつく役職を持つ場合に条件付きで発動する状態異常の一種。
効果としては光を浴びた人間、獣人、魔族、の大多数に自らに対する信仰心を
増幅させる。また、同時に発動者に対する認識阻害が掛かる。
あーあ、こりゃ新興宗教の誕生かな?あいつが信仰対象で良いのかよ。
短期間で潰れるぞ。さて喜美が自覚しているのか・・・
(どどど、どうしよう!?なんか兵士の人がみんな私に土下座しているんだけど!?!?)
ああ、うん。多分宗教的には五体投地なんじゃないかな?いや、そうじゃないな。
あれ、イスラムだし。関係ないし。どっちかていうとこの世界で見た教会は完全に
キリストっぽい感じだったし。
(今自分の後ろから光出ているだろ?)
(うんこれが何か?)
(それのせい)
(・・・どういうこと?)
(お前の持ってる女神の篭絡っていうスキルのせいだ)
(・・・ええぇ・・・)
さーてどうしましょうか。ここは女神様(笑)に任せようかな。俺が出ても
余計にややこしくなって悪くなりそうだし。決して責任逃れでは無い。
(わわわ、私は何をすればいいの!?)
(説教)
(ハデスと同じでやっぱ説教だな)
(無茶言わないで!?)
(誰かやれる奴がお前以外にいると思うか?)
(・・・いません。分かったよ!やるけど言葉は影人が考えてね!)
グハッ!?なんてことを言うんだ!?俺にまた死ねというのか!精神的に!
ーーーーーーーーーーーー
「顔を上げて下さい皆さん」
「私は・・・」
(なんだったっけ!?ら、ら・・)
(ラファエル!こんな最初の所で忘れんな!)
「私は女神ラファエル。今この凄惨な状況を見て心を痛め、余りにも酷いので
こうして皆さんの前に直接現れたという訳です。」
(何か変じゃない?)
(黙って従え!!ある程度は勢いで誤魔化しが効くから!!)
「ラファエル様!あ、あの!さっきまでいた男はどこにいったのでしょうか!」
(・・・なんて言えば良いかな?)
(・・・追い払ったって言っておけ。お前がさっき回復させたことは分かってないみたいだし)
(・・できれば私の手柄ですという風に言うと神々しさが出る)
経験者であるハデスはそう語る。そういやハデスの過去についてよく知らなかった。
それはそうとして、俺、実際は木の間に隠れてハデスと指示を出しているだけで、
普通ならすぐ気づくような場所にいるんだが。神の後光の中だとそんなことは
考えられないのだろう。好都合だ。
ーーーーーーーーーーーー
「では皆さん、私から一つお願いしたいことが・・・」
『なんなりお聞き下さいラファエル様!』
俺からはただ質問に答えてただけのように見えたのだがどうしてこうなった。
神の後光ってここまで効くのかよ。もはやカルト教団か?
ちなみにお願い事というのも俺の指示である。取れそうなモノはとりあえず取ろうと
するのが俺のこだわりだ。
「では、皆さんには今ここであったことは無かったことにしてほしいのです」
「し、しかし!それは!」
「これはあくまでお願いです。無理であれば聞く必要はありません。
まぁ、その後どうなるかは私の知るところではありませんが」
(なんか兵士の人たちに申し訳ないと思ってきたんだけど・・・)
(仕方ないと思うしかないだろ。この場で兵士の生殺与奪権を握ってるのは喜美なんだから。)
(割り切れ。この場はこれが最善手だ)
(ハデスさんもそう言うなら・・・)
「わ、分かりました。受け入れます」
「ありがとうございます。では皆さんに幸多からんことを。聖成!」
・聖成
状態異常を治癒したり、体にある外部からの魔力を浄化する魔法。
主に聖職者や巫女など神に仕える職種に就いている者が身につけることが多い。
一応、それ以外の職に就いていても取得できるが前者の方が効果が高い。
尚、今回もスキルを使って喜美は会話中に取得していた。
状態異常直せる魔法ないの?って聞いたのは俺だけど。まさか会話中に身につけるとは
思わなかった。
「これは・・・!」
「皆さんの体を浄化させて頂きました。これも何かの縁、またお会いできるといいですね!」
『はい!』
うわぁー・・・もう完全に熱心な信者だよ。俺が蹴ったはずの人も今では目を輝かせて
跪いているし・・・。兵士の皆さんはあいつの笑みに癒やされているのだろうが
付き合いの長い俺には分かる。・・・あれは恥ずかしさと爆笑しそうになるのを堪えている顔だ。
愉悦。
「よし!全員撤退だ!女神様の慈悲に感謝!」
『感謝!』
ーーーーーーーー
・・・やっと帰ったな。・・・ガクッ!
「おい!どうした!しっかりしろ!」
「恥ずかしい・・・こんなの私には関係無いことだと思ってたのに・・・」
「もう嫌だ・・・魔王ってだけでも嫌なのに・・・」
面倒だから喜美に押しつけたのに気付いたら自分の書いた台本を読んでいるところを
直接見ているという拷問をやらされていた・・・。恥ずかしい。死にたい。
隠れて書いたポエムを思いっ切り読まれているぐらいに恥ずかしい・・・!
「こいつら・・・本当に魔王と女神なのか・・・?心が弱すぎじゃないか・・・?」
『グハッ!』
やめて下さいハデスさん。その言葉は俺(私)に響く。
書いている側としてはまず見て貰うことがなによりも
嬉しいんですよね・・・