第四話 レッツ!魔王様!
主人公の魔王化から先に。
「ああしつこい!」
「ストーカー!ストーカーですよ!あれ!」
「そういうこと言えるならまだ余裕だな!」
現在フードを被った性別不詳の人物に追われている。救援を要請する!
うん、大丈夫だ。まだ俺も余裕があるようだ。
でも今できるのことは俺の意識を逸らすスキルの『隠密』と喜美の魔法、『回復』
ぐらいでしかもまだ効果が弱い。故に今はただ逃げているだけなのだが・・・
「やばい、息が上がってきた・・・」
「ねえ、もうゴールしてもいいよね・・・?」
「ダメに決まってんだろ!?」
お前がこの状況で言っても感動できんわ!謝れ!あのヒロインに!
せめて死に直面するくらいの背水の陣にぐらいなってから言え!
・・・これフラグか?
「でもこのまま逃げてても追いつかれるよ!」
・・・ダメだ。どうやっても無事に帰る方法が無い。
仮に帰れる方法を選んだとしても犠牲は多かれ少なかれ出る上、
100%じゃない。・・・どうすれば・・・。
「!、危ない!」
次の瞬間、さっきまで走っていた喜美の体が上下で真っ二つにされた。
一瞬、現実味のない光景に思考が停止する。
「!?・・喜美!!おい!しっかりしろ!」
「・・だ・・め止まっ・・・た・・ら」
「・・・逃がさない」
「!?」
逃亡を図ろうとした俺たちはフードの人物によって魔法をかけられた。
やばい・・・。逃げられない・・・!
ここで魔法を発動する意味、相手は確実に俺たちを殺したい。
だけど使用する魔法によっては痕跡が残ってしまう。だとすると
自然に影響が出るような魔法は使えずまた、即効的なものがこの場合だと
相手は好んで使うだろう。そして俺たちの周囲にある魔法陣。
魔法陣が使われるのは詠唱関係のスキルを持たない状態で無詠唱の
魔法行使か、まず魔法を使う際に魔法陣が効果の発動に不可欠で途中に
自動的に出てくる場合・・・!これらを全て満たせるような魔法・・・!
俺の知ってる範囲でそれらに合致する魔法はあれしかない・・・!
「・・・―空間転移・・・!」
次の瞬間、俺たちは渓谷の真上に転移されていた。
皮肉なことに異世界に来てから魔法関係の本ばっか読んでたのがここで
役に立った。いや、役に立ったというか何が起こるか分かっただけだけど。
とにかく空中に浮いた感触が今はすごく気持ち悪い。鳥肌が立つ!
「くそっ!」
俺はなんとか渓谷の淵に手をかけた。喜美は魔力が保つ限り回復をかけているが、
確実に長くは保たないだろう。俺は片手で喜美の手を掴みもう片方で淵を
掴んでいる。こっちもあまり保たない。・・・近くから足音が聞こえてくる。
「・・・驚きました。まだ生きているとは」
「はは・・・お褒めに頂き光栄ですよ・・・!」
聞き覚えのある声。儚げな美しさで人を魅了する彼女。
俺を見下すように見ているのはあのマタザさんの秘書だった。
「えーと誰でしたっけ?」
少し挑発するように言ってみた。ここは刺激しないように言うのが常識だろ!
と思っても言わずにはいられなかった。少しムカついたし。
「・・イアです。物覚えが悪いのですか?」
「いや?生憎覚えようとしないと名前を覚えられないんで」
「・・・こんな状況でそんなことが言えるとは逆に関心しますよ」
俺もそう思う。こんな状況で言えるとは思ってなかった。
「さっきあの場にいたのは・・・あんたとマタザと誰だ?」
この人がわざわざ出てくるということは十中八九あの人も関わってくる。
今考えてみれば最後に聞いたあの声はマタザさんにそっくりだった。
理由は分からないがあの襲撃計画の首謀者はあの人か、もしくはこの2人が
従うような人物。・・・どちらにしてもろくでもない。
「マタザ様のことを呼び捨てとは聞き捨てなりませんね。ですが今回は
見逃すことにしましょう。既に命令は頂いています。
『反逆者に情けは不要。好きにしろ。』と。光栄に思って下さい。
この私が直々に手を下すのですから。なので降伏は無駄ですよ」
ちっ!ちょっとは詳しい情報を聞けると思ったが駄目だった。
槍の切っ先が俺に向けられる。いやもう返す言葉がないな・・・。
気掛かりと言えばクスのことだな。主犯のとこに計画をバラしに行くとか本当に不味い。
悪手だった・・・!
「そうそう・・あの女狐は先程我々の部下が捕らえておきました。
今頃森で無残な姿にされているでしょう。当然の結果です」
「っっ!最低・・・!」
「おや・・・まだ息がありましたか。安心してください。今楽にしますよ」
まだ喜美の意識があったことに安堵したが、四面楚歌。前門の槍、後門の奈落とか
打つ手がない。ゲームなら即リセットだ。槍が振り下ろされる。
もう数センチの所に刃が来る。全力でここから生き残る手段を模索する。
(どうしたらこの刃を避けられる!?ここで僅かでも生き残る手段は!?)
瞳孔は開き、汗は止まらない。それでも最善を尽くそうとひたすら考える。
―次の瞬間、俺は淵を掴んだ手を離し、
全力で渓谷の壁を蹴った。
(ははは・・・最期がこれとは笑えるな・・・)
今日二度目の宙に浮く感覚を感じ、唖然とするイアの顔を見ながら
渓谷の底へ落ちていく。ざまあみろってんだ。もうこんなこと
二度と出来ないけどな・・・。あーあ意外と死ぬのは速かったなー。
怖くは無いけどちょっと残念だな。でも喜美に比べたらまだましかもな。
あいつ楽に死ねないからな。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
(大丈夫・・・死なせはしない・・・)
(え・・・?)
―どこかで聞いたような声を最後に俺の意識は闇に消えていった・・・。
「最期が自ら落ちることを選ぶとは・・・愚かですね」
美しくも冷たい声の持ち主はその言葉を最後にその場から立ち去った。
その目には一切の感情が無く、ただただ現実を見ていたのだった。
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「ってことだ。分かったかハデス?」
「分かったが、お前こいつの体を見て思うことは無いのか」
「あーそれか・・・。でも俺も分からないし・・・」
真っ二つにされたはずの喜美の体がここに来たとき既に治っていたのだ。
完治していたのだ。まずどう考えてもあり得ない。
そんな魔法もスキルも俺の知りうる限り存在しない。もしかしたら
あるのかもしれないがそんなの喜美が使えるとも思えない。
「本当、どうやったら治るんだろうな・・・?」
「それより聞いて良いか?影人。」
「ああ、良いよ。何が聞きたいんだ?」
「うん・・なぁ本当に人間・・・なんだよね?」
「は?何を言ってるんだ・・・?」
「・・・本当に気づいてない?」
「いや・・・だからなんのことかって・・・!」
「・・・ステータスチェッカーで見れば。そうすれば分かるだろう」
そう言って彼女は呆れた表情でこっちを見てきた。何なんだよもう・・・。
俺はハデスの勧める通りにステータスチェッカーに手をかざし起動する。
ちなみに最後に起動したときの俺のステータスはこんな感じだ。
名前:多田影人 称号:冒険者 種族:人間
体力:98
攻撃力:130
防御力:125
俊敏:120
魔力:200
保有スキル:隠密
ちなみに人の一般的な数値は標準が100で、鍛えれば4桁ぐらいまでなら
どんな人でもいけるとか。それ以上は才能次第らしい。一流の戦士なら
6桁まで過去にはいたという。おお・・・怖い・・・。
名前:多田影人 称号:魔王 種族:半魔半人
体力:12000
攻撃力:15000
防御力:13000
俊敏:12000
魔力:40000
保有スキル:影縫、詠唱放棄、物理攻撃無効、魔法攻撃耐性、思考効率向上、
魔法模倣、闇属性適正、思念伝達、身体能力向上、禁忌の契約
『・・・能力の最適化の痕跡を検知、固有能力「魔王」を獲得しました』
ステータスチェッカーの機械音声のような声がそう告げる。
は?固有能力?何それおいしいの?ってふざけている場合じゃなかった。
それ以前に全てのステータスがおかしなことになっているんですが?
・・・落ち着け俺、落ち着いて「魔王」の詳細を見るんだ。考えるのはそれからだ。
《固有能力:魔王》
・魔王召喚
自分のより能力が下の全ての魔物を召喚可能。
ただし召喚の際魔力を消費する。消費する魔力は召喚する魔物によって異なる。
・魔王覇気
周囲の指定した存在に対して威嚇を行う。射程範囲は最大50m。
・魔王連鎖
自分が新規に能力を獲得、もしくはステータス向上時その恩恵の一部を与える。
ただし対象は配下に加えた存在のみ。又、配下がその条件を満たした時、
その恩恵を自分にも適用できる。
・魔王託生
配下に加えた存在に対して自分の能力を一時的に譲渡、その逆を可能にする。
ただし譲渡するものによって適用時間は変更される。
・魔王鑑識
対象に関する詳細を知るスキル。相手が隠蔽スキルを保持する場合一部、隠蔽される場合がある。
・魔王領域
自分を中心とした空間の情報を得る。現在の範囲は100m。
・魔王裁定
戦意を喪失した相手の生死を裁定する。
・全ては我が掌中に
全ての保有、入手した能力を最適化する。
はぁ・・・一体何があったらこうなるんだ。うん、バグか?バグだな。
本当にありがとうございました。
いや、どうしてこうなった。俺死にかけただけなのに・・・
いやおかしいわ俺。頭を抱えてしゃがみ込む・・・あれ?
頭を抱えているはずの手が震える。オカシイナー俺の頭に角らしきモノがー・・・。
オレタダノニンゲンノハズダヨー。
「・・・現実を見ろ、立派な角だよ」
半分、嘲笑うかのように変な方向を向いて言う。笑ってるよな?
「嘘だろ・・・?」
「いやー本当に立派な角だね!」
『・・・・・・』
初めてハデスと意識が合った気がする。喜美が眠っていた方向を向くと
俺の隣で喜美が目を覚まして俺の頭に生えたコレをまじまじと見ていた。
「あれなんで固まっているの?はっ!そこの幼女は何者!?」
「・・・いつ起きた?」
「幼女の気配を感じ、いてもたってもいられなかったので!」
「・・・喜美、ちょっと来い」
「んーなんですか影人さんっていたたたたた!!!腕が!腕がぁ!?止めて!死ぬ!
死んじゃう!!」
思いっ切り腕を絞ってやった。これでってあ、今の状態で手加減してなかったら
本当にヤバイかも・・・。・・・まぁそのときはそのときだな!うん!
悪く思うなよ喜美!