第二話 いろいろ遭遇
話がうまく進まない・・・
2/12 人種についての説明を一部変更させて頂きました。
クスと名乗る狐の女の子から大体のことが分かった。
まず場所についてだがここはミラル帝国という国家の領地、その中でも国境に近い辺境の地らしい。
彼女はこの近くにある宿場街のギルドで働いているという。
まずここまで聞いたところで幾つか質問をさせてもらった。
まず「純粋な人以外の人種の有無、及びそれらに対する迫害行為の有無」だ。
答えは前者はYES、後者はNOだ。よく純粋な人間以外を差別するっていうのはお決まりのパターンだったしその辺りはっきりさせておいた方が良いと思ったからだ。
人種は、人間、獣人、魔族、幻獣人、神種があるという。
人間は………まあ、言うまでも無いだろう。獣人は彼女のように身体から動物の一部または殆どが身体的特徴として出ている人間で、平たく言えば遺伝子に動物の血統因子を持つ人間のことを言う。
魔力は他種族に比べると持っている量が少ないが、その分身体能力が高く、一部の存在は魔力も大量に持っているという。ちなみに人間でもそれ以外の種族でも無いドワーフやエルフなども形式的にこちらに属されるという。
魔族は極端に言えば獣人の持つ因子が動物から魔物などに変わったモノらしい。ただ本当の意味で人間から突然生まれる場合もあり、その確率も数%程でそこまで珍しいモノでも無いらしい。
そのパターンだと普通は突然変異でしか出ない魔物などの身体的特徴がない状態にほぼなるという。通常の人間よりも保有する魔力も最低でも倍以上に高く、神話の時代には迫害を受けたこともあったが現在はほぼ無いという。
ちなみに魔力というのはこの世界における能力や魔法の行使に用いられるエネルギーである程度の知性がある存在であれば誰でもあり、人間を基準にすれば獣人は一部の存在を除いて人より少なく、それ以外は多いのだとか。
尚、獣人と魔族を亜人、と一括りで呼ぶこともある。現在ではこちらの方が主流になっているのだとか。さっきの補足になるが迫害や差別が無いのはこのミラル帝国内においての話であり、その他の国家によってはまだ残っている所もある。
世の中うまくいかない事の方が多いよね。
残りの神種、幻獣人についてだが実は個体数が他に比べ圧倒的に少なく、研究が進んでおらず、あまり説明できないらしい。
幻獣人は獣人の幻獣や絶滅種のパターンだが、現在の獣人の特徴にあてはまらない部分が多く獣人とは別の人種として扱われるのが一般的だとか。
強いて違いを挙げるならば、なんでも因子をもつ動物や幻獣そのものに変化できるという噂があるくらいなのだとか。
神種は非常に希有な存在で寿命が人の何倍もあり、滅多に人前には出ない。そのためほとんどの人が見たことが無く文献でその存在を語られるのが大概だそうだ。
ちなみに統計的には魔力の保有量が一番多いのはこの種族だ。
一応、知られた神種は歴史上名を残しており神聖な存在として崇められるのが多い。このミラル帝国でも建国時、ハデスという神種が大いに関わったそうだ。ハデスという神種は現在行方不明になっているようだが、国民からは国の守護神として日々、崇められている。
念の為言っておくが神種のことを言うときは特神というのが現在での慣例らしい。一応覚えておこう。
「お二人とも異世界人だったのですね! うれしいなぁ…」
「え? なんでそんな風に思うの?」
異世界人が珍しいとか思われるならともかくうれしいと直球で言ったことについて疑問に思った。
ほら、誰でも今まで見たことがないものを珍しいとは思えども何の抵抗もなくそれを素直に賞賛できるのかという問題だ。
まあ、世の中にはそういう人もいるだろうがそれはそれだ…。
「ここには偶に異世界人が流れ着くのですよ。みんないい人だったのでみんなこのことを知ったら喜ぶと思いますよ!」
「へぇ~そうだったのか」
「と、言ってもここに来た人達みんな国内外に行ってしまって今は誰も宿場町にいないんですけどね………」
と、聞き流したが今までに来た人が良かったからってすぐ信用するのはいかがなものかと思う。そういうの習わなかったのかな?
「と……ところで喜美さん………? そろそろ尻尾から離れてほしいのですが……」
「………」
「………すー………」
こ、こいつ寝ているのか!? 歩きながらしかも背中には鞄を背負っているんだぞ!? 寝ている間はなかなか起きないのは知っていたがここまでだったのか!? まぁ傍から見ればただ尻尾が気持ちよすぎて寝ているだけなのだが…。
「すまん…。そいつ寝ている間はすごく鈍感なんだ………。そのままにしてやってくれ………」
「無理です!!」
涙目で訴えかけてきた表情にはちょっとときめきと嗜虐心が生まれたが抑えなくては! ここで手を出したらただの変態になってしまう! 俺は紳士なのだ! ここで手を出さず後から相手の同意を得た上で…。
「死ねぇ!!」
「うぉぁ!?」
一瞬で死を予感させる拳が喜美から放たれた。なんとかギリギリで避けたがマジで危なかった! こいつ本当に俺を殺すつもりか! 実力行使に出たのなら俺としてもこのままにしてはおけないな…!
「チッ…避けたか…」
「喜美、起きろ、今なら誠意で許してやる」
「退かぬ!媚びぬ!省みぬ!そんな提案そのまま返してやるわぁ!」
どこかの帝王みたいなこと言ってきた。お前はイチゴにでもまみれてろ。というかそのまま返すって…一体誰得なんだよ…?
「無論! 私と一部の淑女だ!」
「心の声読んでくるなぁぁ!」
「や…やめてくだしゃい!」
『ブホォ!』
クスが俺と喜美の間に入ってきて放った言葉が二人の腹筋を崩壊させた。つい吹いてしまった。仕方ないのだ。クスが喧嘩を止めようとしたのは分かるが、ここで噛むとは予想外だったのでつい…な? 反省はしている。謝罪はするつもりは無い。
「うぅ…お二人共ひどいですぅ…」
『申し訳ありませんでしたぁ!!』
さすがに泣いている女の子をほったらかしにする程俺も鬼畜では無い。土下座を喜美と最高のシンクロ具合でしてどうにか落ち着いてもらった。やはり喜美とは一度話し合う必要がありそうだ。
ケモ耳娘についての接し方についてだが。
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「そういえば宿場町ってどんなとこなの?」
「宿場町についてですか…?」
まだ聞いていなかったが向かっている宿場町について聞いてみた。情報については聞きすぎて困ることはないだろうと思っていたし。なによりも彼女の仕事姿を見てみたいのだ!
今の姿は採集用のものなのか長袖で体のラインが分かりづらい! 変態ではありませんよ? えぇ、頭で思うだけで満足しますよ? うん。口に出せばただの変質者だから。
(…私はメイド服がいい。やはりケモ耳にはメイド服だね!)
(…俺はここであえて普通の服にミニスカニーソを推す!)
クスは気づいていないが俺たちはアイコンタクトで意見交換を行った。
最早ただのオタクの会話だが気にしない。気にしたら負けだ。
「宿場町は主に冒険者の皆さんが利用されて、宿以外にも定食屋や武器屋、教会などいろんな施設があるんですよ!」
「俺が思ってたよりも規模は大きそうだな」
「はい! 帝国の中でも規模が大きい方で非常時には帝国の北部を防衛する拠点にもなります!」
クスは思っていたよりも博識で本人曰く「ギルドのマスターから教わりました!」と言っていた。この世界での教育水準が不明なので分からないがクスは一定以上の知識をもっているのだろうと思った。
まだ知りたいことはあったのだが宿場町が見えてきたので後にすることにした。
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『………………』
言葉を失った。想像以上にいい町だった。石畳だがしっかり舗装された道路に頻繁に店主と客の交渉が聞こえる市場、教会は常日頃から手入れされているのが分かる程その白さが遠くからでも見えた。
中央の噴水は勢いよく水を噴き出し周りでは子供たちが元気よく遊んでいる。人も獣人も差別なく平等に暮らしている。
「絵に描いたような理想郷だ…天国はここにあったか…」
「私ここに永住しようかな…もう責任とか何もかも忘れられそう」
正直なところ喜美の言ったことに即突っ込むことができない位には素晴らしかったのだ。こちらの世界には文化水準でこそ劣るもの、それをひっくり返す町の明るさが技術が発達しある程度のことなら
ボタン一つで出来るようになったこちらの世界には無い物だったのだ。
「私ギルドのマスターに話を通してくるのでここで待っててください!」
『え? いやちょっと待って!?』
行ってしまった・・まだ町の説明が終わってないのに…にしてもクスはさすが獣人と言うべきかかなりの速さで行ってしまった。
さて、何処で時間を潰そうか…。あまり遠くにいくと不味いからなさっき見えた噴水の近くにいるか…。
と、思ったところで喜美が消えたことに気づいたがまぁすぐ見つかった。さすがに噴水のところで子供達と鬼ごっこをしてたらすぐ分かる。
「おい、何やってんだ」
「見たら分かるでしょ! 鬼ごっこだよ!」
「そうじゃねぇよ、どうしてもう子供と打ち解けているんだと聞いてるんだ」
「そりゃ、影人が考えている間にいろいろと」
早すぎだろ。思考時間20秒も無かったぞ。どんだけコミュ力高いんだ。それで何故俺以外にまともな友達がいないんだ。恐らくこの性格にあるんだろうけど。近寄りがたい(意味深)。
「あ! 見つけた! まてぇぇ!」
「はぁ…まぁいっか…」
あまり話してもしょうが無いので素直に噴水の周りを回ることにした。視界の隅で喜美の顔が少年少女を狙う不審者や変質者のそれになっていたのは気のせいだ。
うん、俺関係ないし? 異世界まで来て振り回されるとか勘弁してほしい。やり過ぎなければいいお姉さん役になるだろうと思った。多分難しいけれど。
「かなり店舗が多いんだな、食料品に衣服、武器、防具、あれはなんだ?なんか魔法っぽい感じの店みたいだけど…」
ここでそこら辺の人に話しかけるなりすれば良いのだろうが俺のコミュ力は予想の斜め下を行く。そんなことビビリの俺に出来るはずが無いのだ…。
「お兄さん! あの店が気になるの!?」
「うおぉわ!?」
下からグイッとぱーんして女の子が出てきた。ぱっと見同じぐらいの年か。そしてここの住民は不意打ちが得意なのか? 不意打ちは俺の得意分野だぞ?
学校でしょっちゅう驚かれた俺のスニーキングスキルを見せるときが来たのか? というか…。
「またケモ耳か! しかも熊!」
「お兄さん、そんなにこの耳が珍しいのか? 私はただの羆の獣人だよ?」
「狐の次は羆か…。少し怖いがこの世界に来て良かった…」
「おや、その口ぶりから察するにお兄さん異世界から来たのかい?」
「あぁそうだ、よく分かったな」
「この世界に住んでて獣人に驚くなんてビビりか獣人を見たこと無い人位だよ。まず私の母も異世界人だしな!」
「何!? 本当か!」
ここにきてまさかの同郷出身者の情報である。
「といっても元の世界に帰る気は無いみたいだし、方法も知らないみたいだけどね!」
「そういやまだ名前を聞いていなかったな俺は多田影人、影人でいいよ君の名前は?」
「私はクルミ、北見胡桃だよ! クルミでいいよ!」
「それであの魔法店が気になったんでしょ? 影人も見る目がいい! あの店はこの町の賢者様であるメイン様が経営する店で魔法に関係したものならなんでも揃っているすごいお店だよ!」
「そんなすごい店だったのかあれ…」
そういうことを聞くとちょっと怪しい店が歴史と実績を伴った名店みたいに見えてきた。やはり中身と外見が別なのは何処に行っても同じらしい。
一度行ってみるのも良いかもしれない。覚えておこう。
「メイン様の店を知らないってまさか…。すごくバカなの?」
「違うわ! ついさっき来たばかりで全然知らないことだらけなだけだ!」
「あぁ良かった、本当にバカだったらどうしようかと…」
そこまで言われて何もしないのは腹が立つので一発デコピンしとくことにした。
礼節をしらない奴には罰が下るのだ。八つ当たりとも言う。
「ただムカついただけでしょ!?」
実際その通りだが自分だけに非があるわけでは無いので罰ってことに………。
「責任逃れは駄目です! おりゃぁ!」
「!?!?!?!?」
なんかとんでも無いレベルのパンチが飛んできた! 喋っている途中から距離取ってて正解だった! 羆のパンチとか当たったらマジで死ぬ!
パンチの風圧で着物を魔改造したようなクルミの服の隙間からなかなかの胸が見えたが見えなかったことにしよう。言ったら次は無い。そんな気がした。
何? もっと攻めないのかと? …。羆相手に出来るわけないだろ!?
ーーーーーーーーーー
その後、クルミと別れ、犯罪者の仲間入りしかけた喜美を回収して無事にクスと合流した。ちなみにクルミは近くの森に住んでいるらしく時間が空いたときにでも会いに行こうと思う。どうせ喜美が興奮して暴走するが。
ギルドに向かう途中、クスに案内が終わって無かったことを言うと
「ご……ごめんなひゃい!」
実にいじりがいのある狐だ、と思ったが横の喜美の視線が痛かったのでそれ以上考えるのはやめておいた。それがまたクスのあの顔を見るトリガーになるのにな。実に喜ばしいことである。
「おおぉ…ここがギルドか…」
「まさしくド定番! だがこれが良い…」
二人揃って似たような事を言ってしまったがまさしくド定番というべき建物だった。恐らく3階建てぐらいの高さに木造建築の暖かみとその大きさからくる威圧感、まさしく王道を往くといった感じである。
だが、俺たちの注目を惹きつけたのはそこではない! クスの服装だ! 最初の時とは違い今は動きやすそうな半袖の服に長すぎずかと言って短すぎず膝ちょい上のそよ風が吹けばその見とれるような太ももが露わになるという神懸かり的な采配…!
動きやすい分身体をあまり押さえつけないので程よく育ったその果実が…! ………話が逸れた、閑話休題。
「失礼します!」
クスのあの姿からは想像できないはっきりと周りに響く声、そしてキリッとした目。どこから見てもモテる要素しか無い。
紆余曲折あったがとりあえずそのマスターとやらとの初対面だ。ここまで来るまでに建物内にいた人物からいろんな目で見られたが気にしない。
内心、胸が締め付けられる程緊張しているが初対面程堂々としなければ………。
今後の扱いが決まってしまうかもしれない場面だ。
「よく来たね!お二人さん! 僕がここのマスター、マタザだ!」
…え?ワニが喋った?しかも尻尾で器用に座っている…。
「は?」
喜美が滅多に出さないような声まで出して驚愕している。顔はいつもの笑っているような顔ではなく真顔だ。もう一度言う、真顔だ。
「二人ともそこまで驚くことは無いじゃないの!?」
『いや…でも…ワニ…』
「マタザ様、人型に戻った方が良いかと」
「あ! そうか!」
秘書らしき人に指摘されその姿は人間のそれに変化していく。ワニから顔は笑っているもののどこか威厳を感じる姿になった。
はぁ…。緊張してた数秒前を返せという気分ではあるが、今更だ。諦めよう。
「いやぁごめんね! いつもこの状態でいるからつい忘れてた! それで影人君と喜美ちゃんだったね! ようこそ! ギルドの代表として歓迎するよ! ではまず最初に君たちのステータスチェッカーをあげるよ!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
なんかこのまま流れに乗ると危ないと思ったので話を一旦切ることにした。
「何か質問かい?」
「まず、よそ者の俺たちに何故ここまでしてくれるんですか?」
「そうだね、いきなり好待遇なのはちょっと警戒するよね。理由としてはまず異世界人であることかな?いろいろ僕たちの知らない知識を持っていそうだからね。君たち見た目からして大体15,6ぐらいだろう? それくらいならそちらの世界のことも最低限は知っていそうだからね。あと、クスちゃんが連れてきたことかな? こう見えても彼女なかなか優秀だからね? 見た目や話し方だけで判断しちゃ駄目だよ?」
「なるほど…」
思ったよりこのマタザさんは頭が切れるようだ。論理的思考で自分たちの利益を求める。肩入れしすぎなければいい相手になるだろう。
そしてクスは優秀なのか。今のうちにコネとか作っておくべきか? 今後の良い異世界ライフのために。
「話から行くと俺たちはギルドに加入する流れになってますが、仮に入った場合俺たちが得ることが出来るモノ、メリットを教えて下さい」
「まず、君たちのこの世界における詳しい情報、及び一定の社会的地位。
自分の詳細を知れば今君たちがどんな技能を持っていてどれくらいの伸びしろがあるのかを確認できるだろう? それにギルドで君たちのことを証明すればある程度他国への行き来も自由になるよ? あと君たちお金持ってないよね? そこも当分はギルドが負担する。武器、防具の支給、魔法やそれらのレクチャーも行うよ?」
「………」
ここで即決しようと思えば出来るがあえてじっくり考える。話をただ鵜呑みするのでは無くその情報をしっかり精査するそして…。
「分かりましたこれからお世話になります。あ、あと元の世界に帰るための情報も…」
「分かった。可能な限り協力する」
とりあえずこれでこの世界での当分の生活は大丈夫そうだ。やはり生活の安定は何よりも大事である。出来る限り速く帰りたいし。
―まぁその願いについてはかなりかかることになったけど、今はまだ先の事だ。
「ねぇ私の事忘れ去られている気がする」
「奇遇ですね私もです喜美さん。ちょっと悲しいです…」
…ごめん。あとで何か買ってあげるから許して…。