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プロローグ

初投稿です


9/16 改稿しました。多少は見やすくなったかと。


「――――――――――――――――あ」


 現実味の無い光も届かぬ奈落の底でどうにか絞り出した声がこれとは自分でも情けないものだと思った。


 強い衝撃によって記憶障害が出ているのか、どうして自分がここにいるのか曖昧になっている。


「あ…く…い…た…」


 起き上がろうとしても体を支える程の力が腕に入らない。足も動かずその場から移動することが出来ない。


 喉が渇ききって呻き声を出す度に乾燥した空気が通り抜けて気持ち悪い。


 ぱっと見渓谷のような場所だが、空気は不思議なことに乾燥していた。


―気味が悪い(もや)のようなものが辺りを漂っていた。




「gugaaaaaaaaaaaaaaa!!!」




…一瞬硬直し、頭が真っ白になる。


 未知の存在が眼前にいた。言うならばキメラとでも形容できるような魔物がその雄叫びを止めることなく俺に向けて突進してきた。


「っっっ!」


 本能が危険信号を出し、骨折しているであろう右腕を無理矢理使い体を右に逸らす。不格好な動きだ。誰かが見ていたら笑っているだろう。


―見苦しい抵抗がかろうじてこの場において自分の命を延ばすことになった。


「!!!!!ぁぁぁぁぁ!!!」


 間一髪で魔物の突進を避けたのは良いが、体が悲鳴を上げる。痛覚によってのたうち回る。


 耳を劈くような耳障りな声を上げた。


 自分の声だということも分からずただただ感覚によって行動している。そこに理性が介入する余地は無い。



 本能の赴くままに。


 

「guruuuuuuuuu………」



 岩の壁に食い込む程の突進をした魔物は何事も無かったようにこちらに方向を変える。


 上げた声はまるで俺を笑っているかのようだった。


 最早避ける時間すら無いほど接近する。


 確実に殺すつもりのようだ。


(―――――…)


 状況は絶望的。普通に考えればここで自分が助かる見込みは万に一つも無いだろう。当然だ。無防備であんなのと戦えるか。


 しかし、俺は自分が思っている以上に冷静だったらしい。正直不気味だとすら思えてくる。


 人間味が薄いというか無いのだ。


 そして脳内に聞こえてきた声に一抹の希望を抱いてしまった。


 この時であれば正しい選択ではあったが後になってみれば下策にも程があるくらいだと内心後悔したものだ。


 どちらにせよここでの選択は自分の運命を大きく変えたのは間違いない。


(…助かりたく無いのか?)


 誰のか分からない声が聞こえた。随分と勝手な質問だ。どこの誰かも知らないやつの問いなんて聞き流す。俺と同じ状況になってから出直してこい。


(いや結構。窮地はもうこりごりなんでね)


 そうか、じゃあ冷やかしには帰って貰いたい。誰かも知らない奴の話なんてこんな状況じゃ聞くほどの価値もない。


(そうはいかないんだな。お前はここで死んで貰うと困るんだ)


 そう言った瞬間得体も知れぬ存在の気配を感じて辺りを見渡すが魔物以外の存在は見受けられない。


―それなのに鳥肌は立つし、冷や汗は流れて止まらない。


―一体何だって言うんだ。今俺に話しかけてくる奴は何者なんだ。


(面倒な事は嫌いだろ?お前はそういう人間だ。折角なら楽して簡単な方法をとりたいとは思わないか?)


 極めて杜撰(ずさん)で魂胆が見え見えの甘言。それなのに自分はその言葉に………。


 そして乗ってしまった。自分がどうなってしまうかも知らずに。どこかでどうになると甘えた考えがあったのだろう。


(聞いたぞ。お前の選択を。精々この選択を後悔しないようにな。さぁ行ってこい。馬鹿な魔物に『王』としての力を見せろ…!)


 気が付くと魔物がさっきと同じようにこちらを睨んでいた。さっきのは何かの夢だったのか?それとも走馬燈の一種?


 だとしたらこれほど滑稽なものはないだろう。全く、腹立つな。


 だけど、『王』の力って何なんだ…?心当たりが無いぞ?というか奴の発言からすると目の前のあいつ倒してこいってことか?

 馬鹿なの死ぬの?最悪だ。でも出来なかったら死ぬ…。


 …ああ、うんそうだ。目の前の化け物を倒す。殺す。…それだけじゃないか。


「…ヒヒ…やるしかない…カ…」


(俺は生きたい、ここから出て。その為には目の前の奴が邪魔だ!)


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」


 ただ生きる為に生まれた《殺意》という意思が少年を狂人に変えた。


 彼の手元から影が延び、その形を剣に変えていく。その口角は上がり、狂気の表情が支配する。


(…知っているものだとはいえ気分が良いとは言えないな。自分が唆したのに。…ま、後は自分で頑張るんだな)


―その声は彼には届かない。哀れみの感情も。


「来いよデカブツ!俺の生け贄になってくれよォォ!!!」


 狂気にまみれた表情でそう叫ぶ。ただ生きるために。そのためだけだった筈が、今の彼は目の前の『敵』を排除することしか考えていない。


 …求めた力の代償をこの時の彼は考えていなかった。気付いてもいなかった。人知れず彼の『魔王』への変貌はこの時始まってしまったのだ。


 ―そしてその変化はいずれ致命的な衝突を生むのだが…今の彼には知る由も無い。


 そんな彼の叫び、狂気にまみれた表情を目の当たりにした魔物は恐れた。言葉に尽くしがたい恐怖にこの存在は襲って殺すという最もしてはいけない選択肢を選んでしまった。


 そしてこの魔物の命運も決まった。蹂躙という形で。


「…。つまんねえ」


 何に向けて言っているのか分からない彼の発言に対して魔物は

何を言っているのか理解出来なかった。


 ただ、もう遅かっただけなのだ。


 彼の胴体を貫いた筈の突進は不発に終わった。そしてそこに居たはずの彼は一瞬で魔物の後ろに回り、そう言った。そして一太刀、また一太刀と不必要なまでの斬撃を眼前の敵に向け行っていく。


「gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」


 どれだけ悲鳴をあげられようと抵抗されようとその手は止まらない。

 狂気の表情で猛獣を嬲り続ける。最早目的と手段が逆転しているが、今の彼にそのことを指摘してくれる存在はいない。


―そして数分経った頃には完全に沈黙していた…。


 虚しさしか残らないような一方的な攻撃には気にも止めず、今は生き残ったんだという勝利の実感を握りしめ雄叫びを上げる。




「やった、ヤッタンダ…アハハハハハハハハ!!!!!」




 魔物だったものの上で少年は嗤う。その声は暫く止むことが無かった。

 正気を失っていることにも彼は気づかず、ただ空腹を、喉の渇きを癒やそうとし、その既に生の鼓動を止めた存在をバラバラにしていく。


 そして嗤いが止まった途端その嬲り続けた肉塊を喰らう。その血を啜る、その毛をひたすら毟る、その角を蹴る。


 相手への敬意や畏怖などはその立ち振る舞いから微塵も感じられない。普通ならまずやらないであろう不必要な程までの暴力的な扱いにも何の疑問も持たず、食事を進めていく。


「…まっず。食えたもんじゃねえな」


 暫くの後、魔物だったものは見るも無惨な肉塊に、骨に、変えられた。血にまみれた彼はそれを見て満足そうに口角を吊り上げ嗤う。


 一連の残虐な行為に満足したのか彼は近くの岩場に腰掛けた。

そして思い出すのだった


 自分がここにいる理由を、ここが何処かを、そして、




―――ここにいるべきはずの半身だけになった彼女のことを。

            




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