わんこに遭遇
「お前、誰だよ!」
寝ている様子のわんこを起こさないようにそろ~り近寄っていたのに気が付かれていたようだ。
全身全力で威嚇しているみたいだけど、ボーイソプラノにかわいい子犬姿じゃ威力がないな。
しかもしゃべるわんこって!
自分の中の普通が崩壊してきているんだろう、不思議さよりも嬉しさが上回る。
ささっとわんこの目の前に進み、しゃがんで目をのぞみ込む。
うん、大丈夫この子は賢い。
「ね、君ここの家の子?私、咲希。いろいろ教えて欲しいんだ。」
あ、びくっとなって後ろに下がった。
私勢い良すぎたかな?
「な、なんだよ。なんでここに入れるんだよ!ばあちゃんの結界があるはずなのに!」
「結界?なにそれ」
さすが異世界。
いろいろファンタジーだ。
もう今までの常識ポイして、ゲームや漫画の知識をいろいろ受け入れるべきなんだろうな。
「あの、もしかして錬金術師だった?おばあちゃん。」
「そうだよ。だけど…。」
こちらをにらみつけていた瞳が地面に落ち、傍らにある大きな石を見る。
きっとお墓なんだろう。
大好きなおばあちゃんの傍にずっといたのか。
「お墓参り、してもいい?」
「え、なんだよお墓参りって。」
こっちにはない習慣なのかな。
「亡くなった人に挨拶とか語りかけること、かな。」
わんこはどうしようか決めかねている様子。
「はじめまして、って言いたいの。だめかな?」
迷っていたみたいだけど、ゆっくり脇によけて場所を譲ってくれた。
これってしていい、ってことだよね。
あの日記の人はここに眠っている。
錬金術師だったというおばあちゃん、会いたかったな。
しゃがんで手を合わせて目を閉じる。
(違う世界から来た松本咲希です。お家や中の物、いろいろ使わせてもらってます。
おかげで困らず助かってます。ありがとうございます。これからも住んでいいでしょうか?
お願いします。)
祈り終わった後、静かになっちゃったわんこを探す。
すっかり落ち着いて、私をじっと見つめていた。
「結界はまだあるのに、お前はどうやってここに入ってきた?普通の人間じゃないだろ。」
思いっきり疑惑の目で。
ちょっと前まで一般ピープル歴18年だったけど、ここでは私はどう分類されるのかな。
「えと、信じてもらえないかもしれないけど、気が付いたらここの家の前にいたんだ。」
「神様らしいのが、ここに連れてきたっぽいんだ、けど…。」
最後の方、声ちっちゃくなるのはしょうがないよね。
自分でもいまだに理解してないし、納得もしていない。
なのに、
「お前、神の落とし子か。それなら納得だ。」
納得出来ちゃうの?
よくあることなの?
神様、よく落とし物しちゃってるの?
てか、神様との距離近すぎでしょ!