我が家確認中
全部のノートを見た結果、出した結論は
「マジだ、この人マジでこれ書いてる。」
どうやら最初は難しいレシピを試行錯誤中の過程を書き付けていたみたいだが、年を取るうち物忘れが多くなりその日行った錬金術を書き留めるようになったと書かれている。
でもそれぞれの材料は家の周りの森にある物ばかりで、手近な物を使うところはおままごとのようにも思える。
お年寄りが天真爛漫な子供に還り、錬金術師ごっこをしていたのだろうか。
書いた人は今どこにいるのかが知りたくなり、最後の日付の物を探してみると老衰で亡くなったらしい。
書く力がなくなり、これが最後の日記だと自分で記していた。
でもそれならば、ここで亡くなっただろう遺体はどこへいったのか。
実はこの家の中で一か所入っていない部屋がある。
寝室の奥にある鍵のかかった扉だ。
少ない家具を手当たり次第に開けてみてみるとノートが積まれていたベッド脇の台の引き出しにいかにもな昔ながらの鉄製の鍵があった。
いけないことをするような気分で、どきどきしながら鍵を扉の鍵穴に
差し込みまわしてみる。
カチリと錠が外れる音がしてからゆっくり扉を開ける。
衝撃的な場面を見なくてすみませんようにと祈りながら、薄暗い部屋の中を見渡してみる。
カーテンの隙間から入る光で見えるのは理科の実験室を思い出す光景だ。
部屋の真ん中にある大きなテーブルの上にはガラス器具の器や秤、すり鉢等が置かれている。
置くには流しがあり、部屋の角には大きな鍋が置かれているのを見つけると実験室よりもっとあてはまる場所を思い出す。
(これってまるっきり錬金術師のアトリエそっくりの部屋でしょ。)
想像とはちょっと違う部屋の様子にびっくりしたが、当初の目的の日記の作者の姿はないようだ。
ホッとしながら確認のため部屋をぐるりと見回すと、さらに奥に扉がある。
この扉はこちら側から鍵を外すもので、なんなく開けて顔を出す。
家の裏側に出るドアらしい。
ちょっと離れたところに一本の大きな木が立っていて根元に何かあるのを見つける。
(大きな石の隣に犬…?犬?生き物見るのここで初めてだ!)
不思議なことにこの場所に来てから動物の姿はおろか鳴き声や気配さえ感じられない。
この自然に囲まれている場所で聞こえるのは風が木の葉を鳴らす音ぐらいだ。
いくら空を見上げても鳥一羽みかけないのはおかしすぎじゃないかと感じていた。
第一村人ならぬ第一わんこ発見に心踊りながら、おそるおそる近づいてみることにした。