序章
――絶句する。
見覚えのあるようでない景色。
その光景は、あまりにも異様だった。
何百年という時をかけて腐敗していったと思える近代的な街並み。
無数に折り重なる、五臓六腑を貫抜かれた骸
何かを振るいあう無数の影。
その非現実的光景を前に、碧にそれを現実だと理解させてくれるものが瞬時に生まれた。
――炎に焼かれるような痛みが、碧の胸にあふれ出る。
「―――っ」
痛みに気づいた刹那、声にならない声が漏れる。
だが、その異常なまでの痛みは数瞬後には消し去られていた、目の前の碧を貫く者によって。
その姿は、少女だった。
纏っている学生服は原型を留めておらず所々鮮血で染まっている。
見る者全てに妬心を抱かせるほどの、整った容姿。
緋色に輝く紅玉のような双瞳。
金糸のように光り輝く金髪。
一度見たら決して忘れることのできないくらい、その少女は美しかった。
だが、
―――少女の顔は今にも泣き崩れそうなほど苦しそうだった。
「・・っ、君 は、 な、ぜ そん なに、 悲しい、 顔を、する、 のっ・・・」
今にも消えそうな声で碧は問いかけた。
自分を、今殺そうとしている相手だということをも忘れて。
だが返答の代わりに帰ってきたのは、
―――少女の紅玉のような瞳から落ちる大粒の涙だった。
少女はその場で綺麗な顔を歪め静かに、泣き出した。
「泣か、 な い 、 で・・・・」
碧がそう言うと少女は決して開こうとしなかった口を、開いた。
「っ、ごめんなさい・・・・」
少女は静かながらも凛とした声で、碧にそう伝えた。
碧は、段々と遠のく意識の中で、優しく微笑んだ。
その瞬間、碧の意識は途絶えた。