ドームに咲いたホームラン
「ん…?何だこれ?」
朝、行く前開けたポストに入っていた茶色の長方形の封筒。
普段こんな封筒が届く事はほぼないので不思議に思い開けてみると、中に入っていたのは野球の観戦チケットが1枚。
こんなものを送ってくるのは一人しかいない。
私はチケットの入った封筒を鞄に仕舞い仕事へ向かった。
私「工藤舞」は大手化粧品会社に勤めている。
そんな私には唯一と言っていい程の大切な人がいる。
チケットを送った張本人の「上木健伸」だ。
幼い頃に母を亡くし、一昨年、唯一の身内であった父を交通事故で亡くし、一人ぼっちになって絶望と悲しみの真っ只中にいた私に手を差し伸べてくれたのが高校時代からの友人の健伸だった。
健伸は小学校の頃から野球少年で昔から“将来の夢は?”と聞かれたら必ず“プロ野球選手”と答えていた。今はその夢を叶え、とある野球チームに所属している。
それにしても、彼からチケットが届くとはどういう風の吹き回しだろうか。
普段なら「試合見に来てよ」の一言ですらないのに、チケットを送ってくるとは。
まぁ、大方先輩に「たまには彼女を試合に誘ったらどうだ」などと言われたのだろう。
チケットが一枚しか入っていなかったと言うことは恐らく彼のチームの出る試合。何かあるのか?と、考えていると不意に、「おいおい~。舞さん~なんかちょっと嬉しそうな雰囲気醸し出してんじゃん~。なになに~?彼氏になんか誘われたの~?って、言うかそれ、そのチケットに書いてある日付舞の誕生日じゃん?」と、同僚の「五十嵐命」に言われた。
「そんなにも嬉しそうな雰囲気がしてた?そして、本当だ!私の誕生日!?」と問うと、「もうね、めっっちゃくちゃしてた!しまくってた!良かったね!」と、言われてしまった。
なんにせよ彼からチケットを貰ったのはとても嬉しいし、チケットに書いてあった日にちが私の誕生日だったのが何よりも嬉しかった。
特に理由はなくたまたまかぶってしまっただけかもしれないけど、それでもとても嬉しかった。
彼からチケットが届いてから数日が経ったある日私の携帯にメールが届いた。送り主はもちろん彼。
内容は「チケット、届いた?見に来てくれたら嬉しい」彼らしい簡潔な内容。
それでも私にはわかる。彼がとても来て欲しいと思っているのが。
まぁ、もちろんチケットを貰ったからには行かない訳はない。ただ、試合が行われる球場は都心にある。私は都心部から少し離れたところに住んでいるのであまり行ったことがなく一人で行けるかがとても心配だ。まぁ、きっとどうにかなるだろう。
それにしても、彼からのチケット。なぜか胸騒ぎがする。いい意味で。
プルルルル。私の携帯に着信が入った。かけてきたのは命。
「もしもーし?どうしたの命?」
『お~ワンコールで出るとはね~。もしかして暇人?』
そんなことは…ある。確かに今現在暇を持て余した暇神となっている。
「はいはい。で、命から電話なんて珍しいじゃん。どうしたのさ?」
『ん?あぁ~。えっとね、舞さ、球場行ったことあるの~?』
「いや、ないけど…?」
『行けるの?一人で』
図星だ。さっきまで思ってたことを言い当てられた。
「い、いや…。行けないと思う…。って言うか、絶対に行けないわ」
もう、これは断言できる。
『うん。だと思った~。ちょうどその日球場の近くにまで行く用事があったから一緒に行ってあげようか~?』
「ほ、本当に!?嘘じゃない!?」
『ぁっはは~っ!嘘なわけ無いじゃん~!舞が方向音痴だって事ぐらい知ってるし、行ったことないのも知ってる~。それに…。
とっても楽しみにしてるのも知ってる。』
命の手にかかれば私の事なんてなんでもわかっちゃうんだなぁ。 と、改めて感じた。
『じゃあ、とりあえず時間とかメールするから~!おくれるなよ~!』
そしてその当日。今日まで嬉しくて時が経つのがとても早かった気がする。
「おはよ~舞~!」
「おはよぉ。命~」
試合が始まるまでまだまだ時間はたっぷりとあるが、集合は早朝。その理由は久々の命とのデートだ。
「とりあえず、適当にブラブラしますか~」
「でも、道わかんないから命ナビ役よろしくね?」
「任しとけ~!多分道には迷わないから~」
「多分とか…。怖いからやめてよ…」
命まで迷ってしまったら私にはもうどうしようもない。本当にどうしようもない。
「大丈夫だって~。迷うわけ無いじゃん~」
その後、もちろん道に迷うわけもなく命との久々のデートを大いにenjoyした。
「じゃあ、ここの道まっすぐ行けば球場だからね~?いい!?まっすぐだよ~!?」
「わかったわかった!まっすぐでしょ!?それぐらいわかるよー!」
本当に!?と何度も何度も確認されたが、まっすぐ進めば着くし、今いる場所から球場の屋根が見えているので迷う筈がない。
命と別れてから球場への道を歩いている途中に彼からメールが届いた。
『ちゃんと道に迷わずこれてる?』と。
命も彼も心配してくれているのはわかるし、ありがたいのだが、このご時世スマートフォンだってあるし道に迷っても大概どうにかなるような気がする。
まぁ、私自身道に迷う前提で話を進めてしまうのがいけない所かも知れないが。
彼に『ちゃんと球場これたよ』とメールを送ってしばらく歩くと球場に着いた。
必要最低限の応援グッズと飲み物と食べ物を購入し、自分の席を探し試合が始まるのを待った。
しばらくすると試合は始まり、私は全力で応援した。野球の大会等のシステムは良く分からないが、この試合で勝たないといけないらしい。
試合はギリギリまで同点で平行線のまま。そしてそのまま延長戦へ突入。
ドキドキしながら試合を見ていると、打者が彼に代わった。私はまるで自分が今バッターボックスに立っている様な緊張感に襲われた。
そして彼は、見事にホームランを打った。
彼のホームランのおかげで彼のチームは勝利。
試合終了後のヒーローインタビューで彼は司会の人に「今日のホームラン凄かったですね!」と言われ、「嬉しい」とも「良かった」とも言わず、ただ笑顔で、
「この試合で絶対にホームラン打ってやろうって決めてたんです」と答えた。その言葉に司会の人は興味津々でこう質問した
「それは、何か理由があるのですか?」
「もちろんありますよ」
彼がそう言った瞬間に球場にある大型の液晶モニタに私が映し出された。
「今日のホームラン見ててくれた?今日のこの試合でホームランが打てたら言おうと思っていたんだ」
彼は一度したを向いて頷き、それから顔を上げて大きな声でこう言った。
「僕と結婚してください!」
今まで騒がしかった球場が急に静まり返った気がする。否、静まり返った。
もちろん答えは、
「こんな私でよければ…。宜しくお願いします」
その瞬間、静まり返っていた球場が歓喜の声で埋まった。
彼はチームメイトに揉みくちゃにされている。
私も嬉しくて、幸せで、涙が止まらなかった。
今日は今までで一番素敵な日だった。
読んでいただきありがとうございました。
初めて書いたので読みにくい文章が多々あったと思います。
これからも頑張っていきたいと思うので生暖かい目で見守っていただけたらうれしいです。