はじまるおわり…いち
彼女は言った、『今あるこの世界はもう駄目だ』と。
彼女は尋ねた、『だとしたらどうすると思う?』と。
彼女は笑った、『私ならこの世界を終わらせる』と。
【いち はじまるおわり】
冬。
気温は下がり雪は降れど、積もる事が珍しくなったそんな一月中旬。
僕は高校卒業後、折角入学した大学を途中で退学。就職する事もなく、フリーター生活を初めてもう直ぐ四年目を迎えます。今日も一日バイト先で一生懸命働き、あとはだいたい食べて寝るだけの生活だ。
「お先に上がりますね、お疲れ様でした」
今日は楽しみにしている深夜アニメの最終回がある。勿論録画はしているけど、オンタイムでも見たいから早く帰ってやる事全部済ませないと。
「あー、ごめん柏木くん、今日この後って大丈夫?」
「え?」
「いやさっきね、夕方シフトの嘉村さんが今日来れないっていきなり連絡入ってさ。しかも元々大井くんは休みだろ? 今から誰か呼ぶ訳にもいかないしさー」
「それってもしかして……」
「お、察しが速くて良いね。このままシフト入ってくれない?」
嫌な気はしていたけどやっぱりか。勿論断るけど。今日は早朝のシフトと夕方のシフトを嘉村さんと交代しているし、慣れない早朝シフトと普段のシフトを十数分の休憩で働いたんだ。
それに今日はアニメ以外にも、特売という予定があるしそれで断ろう。というか嘉村さんは何やってんだ?
「すいません、今日は外せない用事がありまして」
「マジで? 奇遇じゃん、俺もなんだ」
「そうなんですか、それではお先に……」
「じゃあ、先に帰るね。何か問題があれば紙にまとめて俺の机に置いててよ、明後日までには目を通しておくからさ。あと、必要であれば店長印使っていいよ」
そう言うと僕の言葉を遮ると店長はすっと椅子から立ち上がる。色々待って欲しい。
勿論店長は僕の心が読める訳でもないく、前もって荷物をまとめて準備していたのか、コートを羽織るとさっと鞄を持って早歩きで休憩室から出ていった。
「え、ちょっと待ってくださいよ!?」
僕はというと数秒遅れてようやく心情が言葉に出た所だ。
「大丈夫って、ボーナスは弾むから!」
「ちょ、店長!?」
僕の言葉に聴く耳持たないまま出て行った店長はバイクに跨ると、エンジン音を轟かせながら逃げるように走り去って行く。
いくら今は客がいないとは言え、お店を無人にするわけにはいかない。だから店長の後ろ姿をレジ付近の窓から眺めることしかできなかった。
「……たかがバイトにボーナスが出るわけないだろ」
一人きりになってしまった店内でこぼした僕の独り言は、学生の頃から働いていたこの場所への別れを決意させた。