護衛依頼襲撃
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前方に向かう戦闘員とすれ違いながら、非戦闘員を連れて後方に移動した。この移動時間に襲われたら非常に面倒な事になったが、幸いなことにそれはなかった。前方を見てもまだ戦闘が始まっている様子も無かったが、これは体制が整うまで時間稼ぎをしているのだろうか。
こんな時に能動的迎撃魔法『タレット』で片方の防御を任せようかと考えたが、敵味方識別があまり上手く行かず最悪は非戦闘員への誤射が有りえるため断念した。
さて、敵の攻撃開始は…前方の動きにリンクするのだろう。攻撃の第一波は弓と魔法の遠距離攻撃、続いて接近戦とくるか。それを踏まえて…、
「『埋め火』っと。ティアラ、コロネ、使い方覚えてるか?」
手元にポンポンと指向性対人地雷を出しながらティアラとコロネに渡した。
「向きだけは間違えるな、ぜーったい間違えるなよ。『埋め火』は10m間隔で、茶色い『埋め火』は荷馬車から15m、緑の『埋め火』は20mの二段構えでよろしく」
ティアラとコロネは受け取った対人地雷を周囲の草原に田植えの如くざくざくと植えている。本来なら人感センサーあたりを搭載できればよかったのだが、それを作る時間を取っていなかったため、遠隔爆破とワイヤートラップだけになる。
さて、後は手元に『ショットガン』を呼び出し準備は終わった。俺は後尾、ティアラは左、コロネは右をそれぞれ振り分け防衛の準備は完了した。
緊張の糸は切らしていないが一息ついていると、俺やティアラ達の動きを箱馬車に押し込められている人達が不審と不安の目で見ていた。特にティアラ達が草原で田植えしていた時には不審の割合のほうが多かったが…。そんな視線を背中に感じつつ待機していると前方で戦闘が始まった。それと同時に全ての土塊が動き出し、敵が弓をつがえ矢を解き放った。
「馬車の中の人!矢が来ます!盾を掲げて!!」
箱馬車の板程度では矢が貫通するかもしれないため、盾になる荷物などを壁際に配置してある。その注意の数瞬後、風切音と共に20本の矢が襲来した。ティアラは矢切し、コロネは掴みとり、俺は『楔の盾』でそれぞれ矢を防ぐ。チラリと二人を見たが、矢はかすりもせず無傷であった。数本箱馬車に突き刺さっているが中の人も怪我は無いようだった。弓では埒が明かないと考えたのか、敵方は近接戦闘に変更するようだった。
「全員、突撃!!」
そうどこからか指示が出ると土塊は一斉に立ち上がり、槍や剣、斧を構え俺たちに突撃し始めた。20人からの敵が一斉に声を上げ突撃してくるのは、武力を持たない者からしたら恐怖以外何物でもない。箱馬車に避難している人達からも神に祈ったり、愛する人の名前を連呼している声が外にいる俺にも聞こえてきた。
「敵は少数だ!!一気に囲んで殺せ!!」
目の前にいる俺たちの血を見たいのか、それとも麗しき女性を蹂躙したいのか、いずれにしても襲撃者達の目にはこれからの惨劇に酔いしれているように見えた。
「いけ!いけ!男は殺せ!!女は犯せ!!」
「「「「おおお!」」」」と野太い声を出す者達の先頭が30m付近にまで近づいた瞬間、
「第一弾爆破よーい…どーん」
指示とともに20m地点の指向性地雷が敵側に向かって無数の鉄球を吐き出す。爆破音と共に飛び出した鉄球は運の悪い襲撃者にモロに浴びせ、後ろに吹っ飛んでいった。また少し離れていても十分に威力のある鉄球は相手に手傷を負わせていった。爆破音とほんの僅かな飛翔音が消える前、襲撃者達の悲鳴が草原に響き渡った。
「ぎゃああああ!!」
「ぎが!」
「…」
「いでえ!腹がぁ…」
「お前ら!護衛の魔法はこれだけだ!いけ!いけ!いけ!」
「「「「おう!」」」」
敵の指揮官らしい人物が仲間に声を掛け、突撃を継続させる。
「ところがどっこい、第二弾爆破よーい…ばーん」
15m地点の『埋め火』に爆破指示を出すと、同じように数百発の鉄球が爆破魔法によって飛び出していった。飛んでいった先には第一弾を生き残った襲撃者達。
「いだいいいいい!」
「ぐそ…うごけ…」
「ごぼっ…」
「ま、まだだ!足を止めるな!突撃!突撃!」
さすがに二度の爆破で敵達の足は遅く、若干怯えながらその全容を見せた。草むらから出てきたのはかなり立派な革鎧を着込んだ男たちだったが、もう罠が無いと知ると喜色の笑みを浮かべながら各々に迫ってきた。当初20名いた襲撃者だったが、二段構えの地雷地帯を突破できたのは11名で9名リタイヤさせることができたらしい。
「石礫よ、敵を穿て!」
と、ニセの詠唱を唱えながら俺はショットガンを連射する。しかし、敵も只者ではないのか正面から狙ったショットガンは次々と避けられてしまった。予想通りというか、やはりこいつらはただの盗賊ではなく傭兵か何かで、対魔法使いの戦いもかなり慣れている様子だった。
「あの男が魔法使いだ!飽和攻撃しろ!!」
セフィリアから教わった対魔法使いの戦い方の一つに飽和攻撃がある。特に近接戦闘職が魔法使い相手に戦う手段なのだが、詠唱魔法は必ず攻撃と攻撃の間隔が開くため、複数人で囲って詠唱させる隙を与えず一気に倒す方法が取られる事が多い。
そして俺はそれを逆に利用し、6名ほどの敵を俺におびき寄せることに成功した。
「『楔の盾』」
「死にさらせ!」
「ギャハハハ!女の面倒は見てやるからよ!!」
「仲間の仇だ、死ね!!」
「くへへへ!何も出来んだろ!!」
6人の敵が周りを囲い、思い思いの武器を振るって防御魔法に攻撃を加えている。残りの4人はティアラとコロネを抑える役目を果たし、もう一人が指揮者であるようだった。
ティアラとコロネは平気そうなのを確認した俺は続いての攻撃に移る。
「『ファランクス』」
そう描画魔法を起動した途端、『楔の盾』は単なる防壁から一気に攻勢へと変化した。アルマジロのように丸まりただ耐えるだけの魔法が、ヤマアラシの如く無数の棘が飛び出し、まるで百舌の速贄のように襲撃者達を串刺しにした。防御魔法を叩く音は肉を刺す鈍い音に変わり、そして俺の周囲だけ無音に変わった。
動揺している襲撃者達に追撃を掛けるべく、
「『投槍』」
『ファランクス』の余った棘を指揮者に向け発射する。いきなり味方が死滅し驚きで動きの止まっていた指揮者は回避行動が遅れ、ドスドスと鈍い音を響かせ後ろにもんどり打って倒れ穴だらけになった。
「副長!!」
「副長?!」
「てめえら、よくもやりやがったな!」
「ぶっ殺してやる!」
と、残った襲撃者達はティアラとコロネに襲いかかる。
ティアラは男の剣戟を屈んで避け、その勢いのまま男の足の甲にざくりとナイフを突き刺す。
「グッ!足」
足が、と言おうとしたのだろうが、ティアラは足の甲のナイフを抜き、立ち上がりざまに切り上げ首を掻き切り、最後まで言わせなかった。物が言えなくなった男をもう一人のほうに蹴り飛ばし、それを盾にして突撃する。残った男もそれを避けるが、避けた所にティアラはナイフを投げていた。敵はそれを剣で弾くしか無く、ティアラは予備のナイフを取り出しつつその隙を突き、剣の間合いの内側に入り込んでいた。ティアラの有利な間合いから、手首を切り膝を切り肘を切り、そして最後には首を切り、結局敵に何もさせず完封した。
ティアラの戦いを見終えた頃コロネはどうかと視線を向けると、敵の二人共両膝が変な方向に曲がった状態で地面に転がり呻いていた。
さすがというか末恐ろしというか、無事な二人を見て安堵しつつ、まだ戦闘が続いている事を思い出す。
「よしふたりとも、すぐに前方に応援に…」
応援にいくぞと声を掛けようとしたら、背後からすごい勢いで一頭の馬が駆け抜けていった。
「あれ?あの人…魔石の保管箱を持ってたよ?」
一瞬のすれ違いだったがコロネはしっかりと見つけたらしい。
「ソーイチロー様、あれは魔石です!!」
同じく箱馬車の窓から覗いていたモリスからもそんな声があがった。
「ティアラ、馬を抑えろ!コロネ、追え!」
「「はい!!」」
「『遼遠の辿着』」
遠距離攻撃魔法『遼遠の辿着』を起動させつつ、箱馬車の上に昇る。ティアラは箱馬車の馬を爆音を出しても暴れないよう抑え、コロネは先程の男の追撃に移った。
箱馬車の屋根上の荷物を二脚代わりにし、ストックを肩に当てスコープを覗く。
「『通常弾、7倍』…南西の風3m/s、高低差-3m、距離320m…」
俺が狙うは馬の尻。騎手を狙うと魔石ごとぶち抜くかもしれないため、足止め狙いだ。一度転がせばコロネが追いつくはずだ。
スコープのレティクルを馬の尻の少し上に合わせ、引き金を軽く触れる。狙撃銃の中で魔力が爆発し、強力な反動と共に一発の銃弾が飛び出していった。マズルブレーキから高温のガスが噴射し、横にあった荷物がちょっと焦げてしまい心の中で謝っておいた。肩に掛かった反動の痛みをこらえつつ、スコープをもう一度覗くと転がった馬と転げ落ちた騎手の姿が写っていた。
これでコロネが追いつけるかと思っていたが、コロネは突然横に飛んで足を止めていた。
「(おにいちゃん!前に、よっと!、弓と、ほいっと!、魔法撃ってくる人がいるよ!よいしょっ!)」
コロネが『無逢の言』で現状を伝えてきているが、微妙に力が抜ける掛け声だな。
「『篠突く雨の輪』、コロネの前方に注力……って、伏兵か」
魔石を持って逃げた襲撃者の後方に逃げる時間を稼ぐための伏兵が潜んでいた。弓兵が一人、魔法使いが一人と交互にコロネに向かって攻撃を加え、なかなか前に進めないようだった。
「『次弾装填』…風変わらず、距離410m…」
狙うは魔法使い。胴体に着弾するよう狙いを定め引き金を軽く触る。再びの爆音と共に銃弾は魔法使いの肩に着弾、粉砕し命を刈り取った。
「これ何度撃っても肩が痛いな…」
そんな愚痴を言いつつ再びスコープを覗くと、突然死んだ魔法使いに驚いた弓兵が何かを叫びながら辺りを見渡していた。コロネはその隙を逃さず一気に騎手に肉薄し、攻撃を加え始めた。が、騎手も落馬のダメージから復活しコロネの攻撃を捌いている。
「騎手も結構強いな。む、弓兵がまた攻撃を始めたか」
魔法使いの脱落のショックから弓兵も復活したらしく、騎手とコロネの戦いに横槍を入れ始めている。要所要所で矢を放ち、上手く騎手の攻撃を補助していた。
「そっちが加わるならこっちもだ。コロネ、あとは頑張れよ」
弓兵に照準を合わせ三度目の引き金を引く。400m以上飛んだ銃弾は弓兵の腹に着弾し、内臓をぶちまける。弓兵のフォローが無くなった騎手は次第にコロネに押され始め、そしてコロネは一気にラッシュをかけ騎手をなぎ倒した。
放り出されていた一抱えほどの箱をよいしょよいしょと言いながら運び、コロネは俺のところに戻ってきた。
「コロネお疲れ」
「おにいちゃん、ただいま~はい、これ」
コロネはまるでお土産のように保管箱を渡してきた。
「ありがとう、よしティアラ、コロネ前方に加勢するぞ」
前方の戦闘はまだ継続していたが、人数が互角の割に護衛側が戦いを優勢に進めていた。これは防衛に専念し負傷を避けて戦っていたのと、後方戦力の壊滅と魔石の強奪失敗により襲撃者達の士気がガタ落ちしたためだった。
俺は最後尾で非戦闘員の護衛と支援射撃をしていたが、最後尾の箱馬車の屋上からでは射線が取れないため、二発ほど撃ちティアラとコロネが到着するころには戦いの趨勢は決まった。
襲撃者達が撤退したことで、戦いは護衛側勝利にて終わった。まさか倍の人数差で勝てるとは思っていなかった冒険者たちは歓天喜地の声を上げたりへたり込んだりと思い思いの行動をしているようだった。
俺も周囲に探査魔法を掛け怪しい人影が無いことを確認し、箱馬車の屋上から飛び降りた。
「ふう…モリスさん、もう大丈夫ですよ。襲撃者達を撃退しました」
「ほ、ホントですか?!あなたがた!無事に過ごせたみたいですよ!」
「よ、よかったぁ~」
「怖かった…」
「またロドリゲスに会える!」
モリスは箱馬車に避難していた非戦闘員に声を掛け、生き残った事への自失と迎えることができる未来への希望を口にしながら馬車から出てくる。狭い箱馬車から解放され、青空を見上げなら彼らは互いに抱き合い紡いだ命を実感していた。
そんな人々の向こう側から前方にいたペタッキが喜色の笑みを浮かべやってきた。近寄ってきたペタッキは二の腕と太腿に血が滲んでいたがそれ以外は元気そうだった。
「ソーイチロー!よく生き残ったな!」
「ええ、ペタッキさんの怪我は平気ですか?」
「まあ行動に支障はない。血の匂いで魔獣が寄ってくるかもしれん、すぐに準備して出発しよう」
「まだ生きてる襲撃者がいるかもしれませんが、どうします?」
ペタッキは生きている馬と馬車の再編や破棄する馬車の選定などを部下に指示を出しつつも、丁寧に俺の言葉に返事をしてくれた。
「放置でいいぞ。大元の依頼者など知らんだろうし、例え知ってても相手は知らぬ存ぜぬで突き通すだろ。今回の襲撃者は傭兵団”赤い曲剣”だ、見たことある奴がいた。まあ一応盗賊のように偽装するつもりだったみたいだがな」
「傭兵団、ですか」
「ああ。様々な傭兵団がいるが、”赤い曲剣”は金さえ積めば何でもやる集団だ。足を半分盗賊に突っ込んでる奴らばかりだな、あそこは。それでソーイチロー」
仲間への指示を一旦中断しペタッキは振り返った。
「恐らく”赤い曲剣”は今回の襲撃妨害の立役者としてソーイチローをマークしたはずだ。最悪は何らかの報復があるやもしれん。十分注意してくれ」
「分かりました。気をつけましょう」
うむ、と頷きペタッキは護衛隊の指揮へと戻っていった。馬車は幸いというべきか、2台放棄するのみで何とかなり、怪我人や荷物の増えた18台の馬車が出発した。出発際、俺は後ろに向かって手を合わせ水を撒いた。
さすがにこれまでより早さは遅くなってしまったが、負け戦をひっくり返せたことで護衛隊のメンツの士気が高く、その足も軽いものだった。そのおかげかギリギリ予定通りの行程をこなせ、一週間で王都にまで辿り着くことができた。
そうして全員で王都の入場門の中に入り、初めての護衛依頼が完了となった。護衛隊が解散する時となったが特に解散式みたいな事をやるわけでもなく、依頼人のモリスが依頼票に完了のサインを書いて渡しているだけだ。そして俺も依頼表にサインをもらいにモリスの所に向かった。
「モリスさん、お疲れ様でした」
「おお、ソーイチロー様、この度は本当にありがとうございました。おかげで人員も荷物にも被害が無かったのはソーイチロー様のお陰です」
「各自がやることをやっただけだと思いますよ」
モリスに依頼表を渡し、箱馬車の壁に依頼表をあてながらサインをしていた。
「いやいや、ソーイチロー様が居なかったら全滅でした。それでですね、今回の契約の報酬以外にも報奨金をギルドに振り込んでおきますのでどうか受け取って下さい」
「ありがとうございます」
さすがに辞退するのも変な話だろうから、素直に受け取ることにした。モリス含め非戦闘員はこれからが仕事の本番となるため非常に忙しそうにしていた。あまり長居するもの邪魔だろうと考え早々に去ることにした。
「ではソーイチロー様、服装など何か入用になりましたら我が商会まで」
最後にはしっかりと宣伝までして一週間の行程が終了となった。そして俺、ティアラ、コロネは人生初の王都観光となる。
本話をもってしばらくの書き溜め期間を頂きたく、再度掲載した際には
またご覧頂ければ幸いです。
なお、中央に現れた盗賊のうち、一人が魔石の奪取、残りは護衛の人数が多い前方に向かいました。
ひょっとしたら小話入れるかもしれません。




