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墓王!  作者: 菊次郎
フィールの冒険者活動
81/129

ランドレット

ご覧いただきありがとうございます。

また10話ほど連日投稿させていただきますので、お付き合い頂ければ幸いです。


本編はノクターンにもR18verを掲載させて頂いておりますので

ご興味のある方はご覧頂ければ幸いです。本筋に差はありませんので、

どちらかをお読み頂ければ問題ありません。

 俺とセフィリアはミストさん一家を連れ、およそ一週間ほどかけてセフィリアの庵まで案内した。普段フィールから出ることのないミストさん一家が森を踏破すればさすがに疲労困憊だろうと思ったが、ミストさんもティアラも多少疲れは見えるくらいでなんら問題も無く、コロネに至ってはセフィリアのログハウスを見た途端犬のごとく駆け回っていた。肩に食い込んだリュックを下ろしていると、


「すごいすごい!セフィリアおねえちゃんのお家ってこんなに綺麗なんだね!」


「そうじゃろそうじゃろ」


 コロネも相当な量の荷物を持っているのだがそんなことに構わずはしゃぎまわっていた。セフィリアは腕組みをし、自身の庵が褒められたことをウンウンと頷いている。一方ミストさんは建屋より周囲の森を気にしていた。


「まあ、綺麗なお家ですね。それでこの森の周囲はどうなっていますか?水場や近寄ってはいけない場所があったりしませんか?」


「川は近くにあるので後で案内します。すごく綺麗な川ですよ。近寄ってはいけない場所というか、今の場所が帰らずの森と言われるほど魔獣が強いですからね。この庵の周囲200mくらいは安全ですが、それ以上は実力が無いとどこでも危険ですね。ミストさんなら平気かもしれませんがティアラとコロネには無理でしょう」


「あらあら、私だってか弱い女に過ぎませんよ?」


「勿論です。ミストさんは俺に守らせてくれる嬉しい女の人ですよ。ただ、魔獣に負けるかどうかは別な話なだけです」


「上手いこと言っちゃって。森のことはティアラとコロネによく言って聞かせますから安心してください」


 ふふと小さく笑い安心させてくれた。一番危なそうなコロネを探すと、今だに庵の周囲をぐるぐる回り大喜びしていた。しかしそれも十分興味を満たせたのか、今度はターゲットを変え室内に行くようだった。


「おうちの中も楽しみだよ!とつげき~!」


「「あ」」


 止める間もなくコロネは家の中に入っていったが、入ってすぐ立ち止まっていた。


「ご本の林がある…」


 本棚に入りきらない本は床から鍾乳石のように生え、書類や用途の分からない魔法具が転がっている。セフィリアは場所を把握しているため困らないが俺は困る。遅れてやってきたミストさんとティアラも部屋の惨状を見て、


「あらら、これはやりがいがありそうですね」


「頑張ります」


 道理で自分を呼んだわけだと納得顔のミストさんと決意を新たにしているティアラだった。


 そこからはミストさん達の独壇場でセフィリアと俺が手を出す余地は無かった。最初は手伝うと言ったのだが、


「これが私達の仕事です。お二方は休んでいて下さい」

「大丈夫よ、私達に任せて。コロネ、二人にお茶を入れてあげてちょうだい」

「はーい!ってちょっと無理かも。台所が黒いよ…」

「じゃあまずそこからね。セフィリアさん、ソーイチローさん、少しお待ちくださいね」


 俺たちが口を出すこともなくどんどん事が進んでいった。


「…なあセフィリア」


「なんじゃ?」


「魔法使いって無力だな」


「魔法使いが無力ではなく、お主が無力なのじゃ」


「無力同士が何言ってやがる」


「「…」」


「ま、まあ出来る人に任せて俺たちは俺たちでやれることをやろうぜ」


「じゃ、じゃな。虚しくてかなわん」


 背後でばたばたと掃除をする音を聞きながら俺とセフィリアは各自の研究に没頭した。

 ミストさんたちの頑張りで台所の汚水は片付けられ、、ログハウスの丸太の埃は落とされ、床は磨き上げられ、本当に見違えるように綺麗になった。

 なお、セフィリアも俺も自分の研究に集中していたため部屋が綺麗になっていく途中経過を見ていなかった。そのため小汚い部屋からいきなり光り輝く部屋に様変わりしたように見えてしまい、お互い開いた口がふさがらなかった。


「すげー…これがプロの仕事か」


「この庵、こんなに広かったんじゃな…」


「自分の家だろうが」


 外見はそこそこの大きさのログハウスだったが生活空間はとても狭かったため、俺の印象はとても狭い家だと思っていたがそうではなかったようだ。物置部屋はいくつかあったためそこを圧縮すればミストさんたちの部屋はなんとか確保出来るだろうと考えていたが、いい意味で裏切られた格好だ。

 ミストさんがぼけっとしてる俺たちを苦笑いしながら見ていて、


「今日は軽く掃除をしただけですよ。明日から本格的になります」


「よろしくお願いします」

「よろしく頼む」


 なんてお願いしたら、翌日以降本当に本格的になった。ミストさん達は簡単な家具なら作れるようで、自分たちのベッドや不足していた本棚などをゴリゴリと作っていった。その技術もメイド修行で培ったのかと思ってミストさんに聞いたら「貧乏ってすごいですよね」と返され、言葉に詰まった。これからもっと贅沢させてあげようと心に誓った。



 そのようにして生活基板が安定してくると、今度は将来の事を考えるようになる。特にティアラとコロネで、魔力を手に入れた二人は今まで学ぶことが出来なかった武術を習い始めた。


ティアラは母親と同じくナイフを主体とした暗器を。

コロネは…なんと当拳術。


 ティアラは分かる、ティアラは。母親がミストさんだしメイド然としたティアラからしたら、同じような道を歩むのも道理だろう。しかしコロネはいきなり武器も持たないと言い、さすがに本気かと思ってコロネに問いかけた。


「コロネ、ほんとに無手なのか?」


「うん!」


 元気よく頷いたコロネはとてもいい笑顔をしていた。


「無手を選んだ理由を教えてくれるかい?」


「武器って持っちゃいけない場所あるでしょ?ほら、足と手ならどこでも使えるし!これならどこでもおにいちゃんを守れるでしょ?」


 コロネはニコッと笑っていた。

 コロネは、そしてティアラも「いつでもどこでも俺を守れること」に主眼を置いて決めたらしい。俺のために何かしてくれるのは、やはりうれしかった。


「そう、そうか、ありがとう。でも当拳術とかミストさんから習うの?」


 ミストさんならなんでもできそうな気がしないでもない。なんて思ってたら横合いからセフィリアが声を上げた。


「いや、ワシじゃな」


「セフィリアが?」


「うむ。なんじゃ信じておらんのか?」


「いや、言われれば納得」


 魔法使いは魔法だけ使っていればいい、という訳ではない。魔法使いであっても近接戦闘の習得は必須だ。森の中や室内などどうしても見通しの悪い場所はあり、ロングレンジでの撃ち合いができないことも多々ある。

 そこで学ぶのは杖術であったり拳術であったり様々だが、セフィリアは当拳術と杖術を修めてるそうだ。


 勿論俺もセフィリアからその二つを習ったことはある。あるが…ボロクソに貶された。とにかく才能が無いらしく、下手な抵抗するより両手を上げて降参したほうが怪我は少ないじゃろ、とまで言われた。それから躍起になって描画魔法にめり込んだのは当然の帰結だった。


「コロネよ、ワシの修行は厳しいからの、覚悟せいよ」


「うん!」


「ティアラも今までより厳しくしますから、しっかりついてきなさい」


「はい」


 セフィリアはコロネに、ミストさんはティアラにそれぞれ言いつけていた。


「…あれ?俺は?」


「「「「…」」」」


 四人から無言の視線を集めていたが、居たたまれなくなった俺にセフィリアがフォローしてくれた。


「ま、まあでんと構えるのも男の仕事じゃ」


 日曜日のお父さんの気分がなんとなく分かった。



 そんなセフィリアとミストさんの言葉だったが、ふたりとも本当に厳しく教えていた。跡に残るような傷は無かったが、打ち身打撲切り傷は当たり前、稽古中に気絶や骨折は珍しいことではなかった。さすがに厳しすぎないかと言ったのだが、肝心のティアラとコロネに止められた。己の成長に必要なことだから、と。


 そこまで言われてしまえば俺に紡げる言葉は無く、ならばやれることをやろうと決めた。描画魔法で作れるもの…女性の社会進出を早めたと言われるアレだ。


「排水場所はっと…ここでいいか。『ランドレット』」


 狭い風呂場で描画魔法を起動すると幅奥行き1m、高さ1.5mほどの四角い箱…ぶっちゃけるとドラム式洗濯乾燥機が現れた。

 ポチポチとボタンやドアの状態を確かめて問題が無さそうだったので、ミストさんを呼び実際に使ってもらって修正箇所を上げてもらうことにした。


「ミストさーん、ちょっといい?」


「はいはい、なんでしょうか?」


 エプロンで手を拭きながらスリッパをパタパタ鳴らし、俺の呼び声に応えてくれた。


「ちょっとこれ使ってもらって感想欲しいんだけど」


「あらあらまた変なものを作ったんですか?今回は随分と大きい箱ですね、人間でも入れるんですか?」


 ちなみに変なものを作った前科はある。疲れてるだろうからと電動マッサージ…じゃなくて魔動マッサージを作って肩に当て試してもらったがあまり評判は良くなかった。まあ違う用途もあるのでそれはそれでいいんだけど。


「入れません。これは洗濯乾燥機という描画魔法でその名の通り洗濯から乾燥まで一手に出来る(はずの)魔法です」


「なにやら不安になる言葉が聞こえましたが…ですがそれができたらすごいですね。私達の悩みの一つが解決されますよ」


 ミストさん達の仕事に洗濯があるが、修行中の身であるティアラとコロネの服は特に汚れが酷く、ドロや血で汚れた服を鍛錬で疲れた体に鞭打って洗濯している。さすがに忍びなかったので手伝おうとしたが断固拒否された。


「この『ランドレット』のここを押すと蓋が開きます。洗濯物を中に入れ蓋を閉じ、ここに洗剤を入れ開始ボタンを押せば洗濯と乾燥が終わります。洗濯だけなら1時間ほど、乾燥まで含めると3時間ほど掛かるかもしれません」


 使い方を説明するとミストさんはポカンと口を開け、こちらを見ていた。


「えっと…本当にそれだけ?」


「それだけです。まあまだ試作なので洗剤の相性や汚れの落ち具合、服のダメージを見て細かな調整はしますが、そこら辺をミストさんに協力してもらいたいですね」


 こちらの世界では洗剤と言えば下流住民は灰、中流家庭から上は乾燥した落汚草という薬草で洗っている。ミストさん達は灰を使っていたが、俺の服を洗濯するようになってからは落汚草を買ってきて洗ってくれている。仄かに緑の香りがするので結構気に入っている。

 現在、セフィリアの庵では落汚草で洗っているが、水に溶けるものでもないためネットに入れ洗濯物と一緒に洗うのがいいのか、落汚草の煮汁を作って入れるのがいいのかなど試行錯誤をしなくてはいけない。さらに洗い水はお湯にするため落汚草との相性確認やら何やらもあり、工程はここからが本番といってもいい。


「…ソーイチローさん、娘たちのためにありがとうございます」


 少しだけ目に涙を溜めながらミストさんはお礼を言っていた。


「俺はあくまで描画魔法の実験をしているだけですよ。その実験のためにミストさんに協力してもらおうとしてるだけで、その結果何を得られるかは知ったことじゃありません」


「もう、素直じゃないんだから」


 そう言ってミストさんはクスリと笑った。


「ほう、これは洗濯機とかいう魔法の発展型か?」


 セフィリアが俺たちの会話に興味を覚えこちらにやってきた。


 セフィリアには以前、小型のタイプを見せ実践したことがある。二人共服へのダメージに頓着していなかったため、とりあえず汚れを落とせればいいというレベルだったが、恥じらい多き女性2名(+1名)の服はそうもいかないと考え、ちゃんと設計したのだ。

 『ランドレット』を興味深げにボタンを押しながら、


「随分としっかりした描画魔法を作ったものじゃな」


「俺達だけ使う魔法なら前のでいいんだけどね」


「前の洗濯機はバケツに突っ込んでゆするだけの簡単な奴じゃったのに、今回はこんなにもしっかりとした魔法じゃ。なんじゃろ、この差は…」


「女子力の差?」


「ええい、黙れ!まったく…それにしても洗濯機を起動してる間はどうするのじゃ?洗濯機に付きっきりか?」


「ああ、これこれ」


 洗濯機と俺がコードでつながっていた。


「以前にも見たことあるの、魔力コードとか言ってたか?」


「うん。俺が庵にいるなら洗濯機の維持には問題無いと思う」


 魔力で作った物はいずれ魔素に戻っていく。ということは魔素に戻る分の魔力を供給し続ければいつまでも実体を維持出来るということだ。まあコード自体も魔力で作っているので、あまり長すぎるとコードの維持の魔力が通せる魔力を上回るため、距離に限界はあるのだが。


「しかしこれを見るとアレじゃな、お主、魔力供給機になっておるな」


「うおぉん、俺はまるで人間魔力発電所だ」


「…やっぱりお主が何を言ってるのかさっぱり判らんわ」


 なんとなく焼き肉が食べたくなってきた。


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