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墓王!  作者: 菊次郎
大暴走
71/129

防具屋

お久しぶりです。本日より10話(か11話)連日投稿します。

暑気払いになれば幸いです。


 フィール辺境伯の館を出た後、セフィリアと一緒に街中を歩いていたが辺境伯の館を出てから何も食べていないことに今更気付き、この時間帯でもやっていそうな屋台に向かうことにした。


 大暴走が終わった街の中は俺が寝ていた間にすっかり元通り…という訳にも行かず、物流が滞っていたためか店先の商品は若干寂しいことになっていた。

 しかし売り子は種類の少ない商品を売ろうと声を張り上げ客引きを絶え間なくやっていた。大暴走の時には鳴りを潜めていた子供たちも、大人しくしていた鬱憤を吐き出すようにグーにした手を上げながら走り回っていた。

 そんな子供たちの様子を目を眇めながら俺は見ていた。


「やっぱり子供たちは元気なのが一番だねぇ…」


 独り言のつもりだったが、セフィリアはちゃんと拾ってくれて、


「うむ、そうじゃのう。このためだけに頑張っても良かったと思えるほどじゃな」


「だね」


 そんな会話をしながら子供達を目で追っていると、子供の一人が立ち止まり、


「いくよ、見てて!アマザーノ!」


 そう叫んだ子供は両手を空に突き上げ、むにゃむにゃと何か言いながら立っていた。するとそれに乗っかったもう一人の子供が突然地面に倒れながらやられ役のセリフをつなげた。


「ギャー、やられた!さすが星屑様!」


「フハハハハ、どうだ!僕のアマザーノは!」


「これでお許しを!」


 と言いながら子供は起き上がり、恐らくずっと握っていたであろう小指の爪先ほどの魔石をもう一人の子供に渡していた。


「うむ!許してやろう!」


「よーし、次は僕が星屑様の番ね!」


「えー、もう一回やらせてよ」


 子供たちはひと通りの寸劇が終わったのか、魔石を相手に返しながら街の喧騒の中に消えていった。



「…あの子供たちは何してるんだ?何故かものすごく嫌な予感がするんだが」


 セフィリアに聞いてみたが、


「さあ、なんじゃろな?ワシはずっとソーイチローの側にいたから知らんぞ。予想はつくがの」


 そうニヤニヤしながら返事を返してきた。知ってることを吐かせようとしたがのらりくらりとかわされ、結局なんのことか分からず仕舞いだった。


 そのまま屋台街に到着し辺りを見渡すと、以前ほどではないが賑わいも復活しているようだった。そんな中を歩きながら物色していると大暴走が始まる前に入った屋台が軒を連ねているのが見えた。


「おっちゃん、さっそくやってるね」


「へいラッシャイ!っておめえさんは…」


「メニューって今日は何ある?やっぱ大暴走前と同じ?」


「お、おう、やっぱまだ材料が入ってこなくてな。な、なああんちゃん」


「なに?」


「あんちゃんって………いやなんでもない。あんちゃんはあんちゃんだな。よし、今日は大暴走を止めてくれた礼だ、あんちゃんの好きなの全部タダだ!」


「おっちゃん太っ腹だね!ご馳走になるよ。じゃあ…メニューを各種類一本づつちょうだい」


 メニューを端から端まで全部って一度やってみたかったんだよね。こんな時じゃないと出来る機会って無いだろうし。


「あー、いまメニューは2種類しかないぞ?」


「……それを4本づつください」


 2種類だけはさすがに寂しかった。

 おっちゃんが焼き上げた串は若干固くはああったが十分に旨味があり、飢えた腹を満たすのには十分だった。セフィリアも隣で「うむ、中々いける」と呟きながら無心に食べていた。


 次に足を向けたのは防具屋だった。大暴走の待機中にさんざん話していたあのガルベスという名のおっさんのところだ。怪我をする前は落ち着いたら顔を出そうなんて思っていたが、命に関わりそうなことなので優先順位を上げることにしたのだ。


 ガルベスのおっさんの店は冒険者ギルドと領主館の中間くらいにあり、店の名前を”ファルカスの大針”という、セフィリアも名前は知っているような、そこそこ歴史のある店だった。看板は糸の縫い目でドラゴンと針をあしらってあり、中々小洒落た看板だった。おっさんはむさ苦しいのに。


 ガラスの代わりに虫の羽っぽい透明な羽目板が付けられているドアを押して中に入ると、扉に付けられていた呼び鈴がチリンと鳴った。

 店の中は何種類もの中古の防具が飾り台に載せられていて、古強者が一列に並んでいる情景を思い浮かばせていた。


「こんにちはー」


「へい、いらっしゃいって、あああお前!!」


 と、指を向けてきたのはガルベスのおっさん本人だった。


「どうも数日ぶりです。恥ずかしながら伺いました」


 てへっと可愛くウィンクしながらガルベスに挨拶をしたが、隣にいたセフィリアは半歩俺から離れていった。


「ったく、お前は…ここに来たってことは防具を揃えに来たんだろうな?」


「ええ、我が身に知りましたからね。怒られてすぐというのは締まらない話かもしれませんが…」


「ばっかやろ!逆だ逆、すぐに来なかったら俺から押しかけて怒鳴りつけるとこだったぜ」


「怒られるネタを減らせて幸いでしたね。ところで防具ですが…」


「おう、まずは…脱げ」


「ちょっと用事を思い出したので失礼しますね」


 お尻を手で抑えながら後ずさりした。


「ちげえよ!採寸だ、採寸!あっちの衝立の影で採寸するんだよ!まったく、俺には女房がいるっつの…」


 そういって衝立のある方に連れて行かれ服を全部抜いだ。ガルベスは採寸用のメジャーを体に当てながらそこかしこの長さや太さを計測したり、俺の体の柔らかさや筋力を測定した。

 ちなみに女性の冒険者の採寸にはガルベスの奥さんが測るそうだ。これを聞いて安心してみんなを連れてこられるなんて思ったのは、やはり独占欲だろうか?


「おめえ、会った時から思ってたが変わった体つきしてるな」


「みんなにもよく言われますよ。あまり冒険者らしくない体つきだって」


「一見細く見えるのに締まってるのは持久力を重視してんだよな?」


「ですね。だから普段の移動は走りっぱなしですよ。それで戦闘の時は回避じゃなくて防御を選んでいます」


「殆どの魔法使いは瞬発力が命って言ってたからな…過去数百人の冒険者を見てきたけどよ、お前のような魔法使いは多分見たことがないぜ」


「そんなものですか」


「あと…おめえの一物、でけえな。過去10人いるかいないかってとこだな…」


「そこの品評はどうでもいいです」


「よし、採寸終わったぞ。服着てくれ」


 服を着こみ、セフィリアが座っていたテーブルの横に着いた。ガルベスは頭をポリポリと掻きながら各種寸法を書いた用紙を見つつ、今後の方針について話を始めた。


「普通の冒険者なら皮鎧を基本にして材質や守る部位をどうするって話になるんだがよ、おめえの場合はどうすっかなぁ…」


「冒険者をやってる他の魔法使いの防具ってどんなのがあるんですか?」


「大体がローブだな。ローブの中に皮鎧を着込むかどうかは本人の戦闘形態によるが」


「俺の場合は普段の移動が常に走りっぱなしなので、皮鎧は避けたいところですね」


「なるほどな。でもそうすっとよ、戦いの時の防御力が不足しないか?」


「戦闘の時はちゃんと防御魔法を使ってるから大丈夫ですよ。ドラゴンのブレスでも壊れないと評判の防御魔法です。それより今回のように背後からの不意打ちが怖いですね」


「ははっ、ドラゴンか!そりゃ剛気でいいな!そこまで言うなら分かった。刺突と斬撃を防げるローブで良さそうだな。あ~…ところで予算はどれくらいなんだ?」


 俺の言った事は冗談として捉えられたようだ。俺も実際にドラゴンのブレスを受けたことがあるわけじゃないけど、ある意味ドラゴンより怖いセフィリアの一撃を耐え切ったから、あながち冗談でも無いんだが…まあいいや。


「100万zゼルくらいでどうにかなります?」


 100万zは四人家族が50ヶ月ほど暮らせる額だ。ローブ一着の値段としては結構良い値段らしい。


「100万か…あの材料が使えるかな…」


 そう呟いたガルベスは戸棚から一枚の切れ端を持ってきた。その布は黒に近い濃藍色で横から見ると僅かな光沢がある美しい布地だった。


「これは?」


「これはとある蜘蛛の繭を解いた糸を編んだやつだ。こいつはとにかく斬撃には強くてな、まず切ることは出来んし矢も通さん。熱にも水にも強いからある程度の魔法にも耐えられる」


 ガルベスは布地をテーブルの上に置き、どこからか取り出したナイフを当て一気に引いたが布地には一切切り込みが付かなかった。


「この通りだ。性能はピカイチだが…値段が高い。100万だとちょっと足が出るかもしれん。どうだ?」


「ガルベスさんが薦めてくれるならそれにしましょう。なるべく抑えてくれると助かりますが」


 と、苦笑いしながら了解の返答をした。


「無論だ。さーて、楽しくなるぞ…」


 クックックと悪役の笑いをしながら彼の頭の中は作業にとりかかっているようだった。


「ところで、ナイフで切れないんじゃどうやって加工するんです?」


「ああそれな、ものすごくゆっくりと刃を引くと切れるんだ。針を通すのも一苦労でな、だから時間と手間が掛かってな…料金の半分以上は加工賃だ」


 なるほど、蜘蛛の繭に使われているのだから中から蜘蛛の子供が出てこられるだけの余地はあるというわけか。


 それからローブの細かなデザインの打ち合わせをし、手付金として50万zを払い引換券を受け取り商談を終え、ガルベスの店を辞した。出来上がりは一月後だそうだ。


 この間、ずっとセフィリアは隣に居たのだが一言も言葉を発することはなかった。何故かと聞くと、


「男の買物に女が口を挟むべきではないじゃろ?女が口を挟むのは子供の買い物じゃ」


 とのことだった。男前な所があったり、妙に男を立てたりいろんな面がある彼女だった。

諸事情により過激(主にえっちなほう)な箇所がある章のみ

ノクターンに並行記載します。詳細は活動報告に記載してありますので

ご興味が有る方は確認をお願います。

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