楔の盾
ご覧頂き誠にありがとうございます。
カル○スって甘くて好きです。
誤記修正:
なんの躊躇いのもなく→なんの躊躇いもなく
そして嬉し恥ずかしの夜がやってきた。
「で、ではよろしくな?ソーイチロー」
「こちらこそ…」
事前にピッカピカになるくらい身を清めてあるから準備万端だ。気持ち程度の意味しかないが。そして『カル○ス生成器・目盛付き』を呼び出しセフィリアに渡した。
「ではさっそく………おいソーイチロー、なんか小さくないか?サイズが合ってないぞ」
なんの躊躇いもなく始めた上に、小さいとまで言ってきやがった。
「いきなりできるか!牛じゃないんだからさ、牛じゃ!」
「しょうがないのう」
そういいながら初めての搾乳のはずなのに、研究者とも言えるセフィリアの観察眼と学習能力の高さ故か、乳牛の様子をフィードバックかけつつ……長持ちはしなかった。
「よし出た!ありがとうソーイチロー!」
「俺…もう休んでいいですか…?」
「うむ、後の実験はワシだけで平気じゃ。ではゆっくり寝るんじゃぞ」
「おやすみなさい…」
気だるさと羞恥心と眠気から、そのまま眠りの世界に旅立っていった。
翌日、セフィリアに確認したところ凡そ5mlで10%ほどの魔力が回復したそうだ。そして笑顔を見せながら「毎日よろしくな!」と言われた。どんだけ続くんだろう、この生活は…。
そうしてさらに2週間ほど過ぎたある日、セフィリアからある提案が成された。
「ソーイチロー、これまでの実験に付き合ってもらって誠にありがとう。経口摂取についてはおおよそつかめた。なので次の段階に移りたいと思う」
次といったらもう…アレか!
「なので…ワシと戦ってほしいんじゃ、全力で」
「は?」
俺の口は、開いたまま閉じることが出来なかった。
「ちゃんと説明するから待っておれ。次の段階とはすなわち、口以外からの摂取であるのは明白であろう。つまり…ワシを抱いてほしいんじゃ。そこまではよかろう?」
「ああ」
期待してしまったのもそこだしね。
「じゃが…ワシはこう見えて処女じゃ」
「いきなり何告白してるんだよ」
「ワシはこうやって隠居生活を送っておるが、歴代最強とも言われた魔法使いなんじゃ。ある時から貴族や猛者共がワシを妾やら何やらにしようとしての。ワシの血が欲しいのか戦闘力を欲したのか、将又その両方か…。見目も男受けするのかよく求婚されたもんじゃが、ワシの身を引き受けるにはある条件を課したのじゃ。ワシとあるルールの決闘をして勝つこと、この一点じゃ。一々求婚を断るのも面倒だったし、そして何より…ワシはワシより弱い者と契らないと約束したのじゃ。そうして戦い続けていたら…とうとう一度も負けることが無かったのじゃ」
そう話したとき、セフィリアは俺を見ているのではなく、どこか遠くの誰かを思い出しているようだった。それが一体何なのかが気になったが、俺は違うことを聞いた。
「ちなみに何戦くらいしたんだ?」
「128戦じゃ。決闘を受けていたおよそ80年の間ではあるが」
「なんか思ったより少ない気もするな…それでどんなルールで戦ってたんだ?相手がセフィリアを欲しいなら全力で攻撃出来ないんじゃないか?」
「ワシが一発だけ魔法を撃つからそれを捌き切ったらソーイチローの勝ち、単純じゃろ?」
「なるほど。んで、相手はどれくらいの怪我だったんだ?」
「さっきお主は少ない気もするって言ったじゃろ?死者99名、これが理由じゃ。残りの者も…全員再起不能にしてしまったわ。あまりに死者が多くなって申し込みも減ったんじゃが、それでも忘れたころに戦いを挑んでくる者もおる。それがいい加減嫌になってここに隠居したんだの」
「…」
「今までは相手が求めワシが応える形で、お互いの人生を掛けた決闘じゃった。じゃからその結果については思うところはあるが後悔はしておらん。しかし…今回は初めてワシ自ら望み、ワシの研究のため、信条のためにお主に決闘を願うんじゃ。それがどれだけ業が深く、身勝手かも分かっておる。それを押しても、戦いを引き受けてはくれんか?」
「…それで、もし俺が死んだらどうするんだ?」
我が身を案じた質問ではなかった。すでに多くの者を殺し悔やんでいるセフィリアがこれ以上耐えられるとは考えにくかった。
そしてセフィリアはまるで涙の無い泣き顔のような顔をしながら答えてくれた。
「…もう二度と魔法戦は引き受けず、この地で残りの人生を弔いに掛けるであろう。後追いはせんよ」
「…そうか」
どうやら心配していたことを読まれたようだ。そして彼女の提案を受けるかどうか…
「セフィリア、正直に答えてくれ。俺が勝つ見込みはどれくらいある?」
「分からん、というのが正直なとこじゃ。普通の魔法使いなら問題外なんじゃが…お主の描画魔法の使い方は未だかつて無いことじゃ。これをどう扱えるかに掛かっているが、ソーイチローならひょっとしたら、という想いもある」
正直言って、なんでいきなり命を掛けなくちゃいけないのか?と思う。これはセフィリアからの一方的な願望でしかない。例えここで断ったとしても、セフィリアは俺を追い出したり嫌がらせをしてくるような女じゃないし、逆に「うむ、それがよかろう」なんて言って納得するような女だ。現状維持は恐らくできるだろう。
しかしここまで考えて次に思い浮かんだのは、セフィリアと一緒に過ごした日々の一幕だった。新しい描画魔法を使った時の好奇心溢れる笑顔、『暖房』を出したときの手足を丸めて温まっている姿、『扇風機』を使った時に「ワレワレハー」とか言ってる抜けた顔、自身の研究に取り組んでいる時の凛々しい横顔。そんなセフィリアとの思い出に新しい一幕を加えたい、命を賭しとしても…と考えるのは愚かだろうか?
結局、俺の返答はこれしかなかった。
「…分かった、引き受ける」
返事を聞いたときのセフィリアは嬉しさと悲しさを綯い交ぜにした、何とも言えない表情をしていた。
「そうか、ありがとう。いつやるかはお主が準備できた時で構わんぞ」
そういってセフィリアは部屋を出て行った。それまでは宗一郎と同じ部屋にいたのだが、これ以降自室に戻るようになった。
セフィリアの魔法を耐え切る描画魔法を開発するのか…避けるとかだとそんな体術無いし、そうなるとやっぱ盾状の魔法か?一枚一枚の魔法は弱いけど何枚も重ねていけばいいと考えた。
そして、どこまで重ねることが出来るかと実験をしてみたが、あまり時間が掛かり過ぎたために始めに展開した魔法陣が消えていったことから、重ねる枚数はセフィリアの最大放出量の1.1倍耐えられる程度が精一杯であった。
セフィリアは火炎系の魔法を多用していたことから、その対策も入れようと考えた。何枚か熱伝導の対応に真空壁を、熱の放射対策に反射壁を追加しておく。あとは念のため…被弾中でも盾を補強できるバイパスも追加しておく。
一週間後、そうして出来上がった描画魔法は、円弧状積層型魔法陣『楔の盾』
なぜ名前に『楔』の文字が入っているのか?
そもそもがセフィリアと契りを結ぶために命のやり取りになる事自体がおかしい。セフィリア本人も決して望んで戦いをしている訳ではないし、戦いそのものにもう疲れきっているのだ。それでも魔法戦を続けてきた理由が…きっとある。この戦いに終止符を打ちたいと願い、『楔』の文字を入れた。
そうして準備が出来た俺はセフィリアに声をかけた。
「セフィリア、出来たぞ」
「うむ、ではやろうか」
そして戦いの火蓋が落とされる。
問題箇所を修正2/5
実際に出る量もこれくらいらしいですね。
補足:セフィリアと契るための条件は、何も彼女が気取ってるわけではありません。
過去のある出来事からこの条件から変更できずにいます。また魔力欠損症を研究する切っ掛けにもなりました。