当日2
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探査魔法で捉えたゴブリンの数は…うん、数えるのもアホらしい。まあどれだけ数がいようがやることは変わらない。その場に立ち上がり、
「ティアラ、コロネ」
「「はい」」
二人は返事をしながらもすでに片付けを始めていた。俺が何を言うのか察していたようだった。
「二人は引き続き片付けをしてくれ。終わったら俺の後ろのほうで待機。ガルベスさん、防具の話はとてもためになりました。また相談に伺うかもしれませんが、その時はどうかよろしくお願いします。そして申し訳ありませんが、今から魔法を使うので周囲から離れて下さい」
「お、おう?どうしたんだいったい?」
突然様子の変わった俺に驚きを隠せていないガルベスのおっさんからの問いだったが、その問いかけには答えず、続いて副マスターのシルクさんに声を掛けた。
「シルクさん、探査魔法にゴブリンらしき影が引っ掛かりました。予想通り魔獣の森から…数はちょっと数えられませんね」
「…本当ですか?」
「本当です。間もなく知らせがくるかと思います。魔法を使いますので、当初の予定通り人払いをお願いします」
若干戸惑いながらもシルクさんは約束通りに動いてくれた。それから程なく、遠くにある魔獣の森の方角からピィィという笛の音が聞こえ始め、それを聞いた笛持ちの人達が同じように鳴らし始めた。街中が笛の音に包まれ、異様な緊張を呼び起こしているようだった。
俺の周囲の人払いが済んでいることを確認し、
「『雨障の灰瀧 、20門』」
描画魔法を起動すると、俺の目の前に魔獣の森の方角に向けて無骨な迫撃砲が20門召喚された。周囲にいた人達は突然現れた筒にギョッとし一様にこちらを遠巻きに見ていた。
探査魔法で改めて地形を確認すると防壁の高さは3mから5mで外には浅い空堀が掘られていた。防壁の外は草原がおよそ1kmほど続き、そこらあたりから魔獣の森が始まっている。
狙う場所は防壁と森の中間地点で防壁から500mほど離れた所を着弾地点としていた。あまり森側に近いと所々にある木が邪魔だし、防壁に近すぎると抜けたゴブリンの処理する時間や流れ弾の問題があるため、とりあえず中間地点を選んでいた。
「準備射撃、1門発射」
合図とともに弾道補正用の射撃が開始された。発射音と共に1門から砲弾が一発飛び出し上空高く舞い上がる。目のいい人が多いせいか、何人かは弾道を追っていた。
着弾地点を確認するとだいたい狙った場所に落ちているようだったので、以降は実射しつつ補正していけば問題無さそうだった。
ふと顔を上げて防壁の方角を見ると、門の上に設けられている監視台にセフィリアが立っていてこちらを見ている。やっちゃえやっちゃえと言うような楽しそうな顔をしている。森のほう見ろ、森のほうを。
といっても防壁の上で俺のほうを見ていたのはセフィリアだけだった。残りの冒険者達は全員は魔獣の森の様子に目が釘付けだったようだ。緑の肌のゴブリンが雲霞の如く森の中から現れ、その様子を見たある冒険者がつぶやいたそうだ。
「森が蠢いた」
と。経験の浅い冒険者は足が震え、古参の冒険者は武器を握り直し、高ランクの冒険者は笑みを深めていた。
ゴ ブリン達の動きを確認するとちょうど魔獣の森と平原の境目あたりで停止していた。そのまま突撃してくるかと思ったが何故一旦停止したのだろうか?と、思ったら一匹の巨大なゴブリンが前に出てきて何かしているようだった。
探査魔法『篠突く雨の輪』では音まで拾えないため具体的に何をしているかまでは分からないが、軍勢の前に出てきた時にやることといえば演説くらいか?そもそも会話できるのか知らないが。
どちらにしても、この巨大なゴブリンが今回の大暴走を率いてきた可能性もあるので、一応シルクさんに聞いてみよう。
「シルクさん、今ゴブリン達は森と草原の境目で停止しています。そのゴブリン達の前に一匹の巨大なゴブリンが何かやってるようなのですが、何か心当たりあります?」
「…過去、他の都市でも同じようにゴブリンの大暴走に襲われた記録があります。その時に巨大なゴブリンに率いられた集団であったと」
最初は色々と半信半疑だったシルクさんだったが、さすがに襲来を当てた後は素直に話を聞いてくれた。実績もろくに無い小僧だし、しょうがないよね。
「それっぽいですね。何か特徴があったりします?」
「巨大なゴブリンに率いられた集団は猪突猛進であったと記録されています。本来のゴブリンの性格は自分たちの数より多かったり強そうな相手は決して襲わないはずなのが、その大暴走の時は違っていたと書かれていました」
そんなことを話していたら防壁の方からギルドの職員らしき人が走り寄ってきた。
「シルクさん、マスターより伝言です。ゴブリンの巨大種が確認されたので負傷者が多くなる可能性があり準備よろしく、だそうです」
「りょ、了解しました」
また言い当てた俺の言動にシルクさんはまだ驚きを持っているようだった。
「巨大種が現れると負傷者が多くなる?」
巨大種と負傷の繋がりがよく分からなかった。
「ソーイチローさんの探査魔法すごいですね…その関係は巨大種に率いられたゴブリンは少し学習して投石をしてくるようです。それで怪我人が増えるんですよ」
「なるほど、ちょっと賢くなるんですね」
「そうです。ということで私はこの近くで指示を出していますので、用事があれば呼んで下さい」
そう言ってシルクさんは職員に指示をどんどん出し始めた。
視力が良い冒険者がゴブリン達を見たところ、実際に矢避けの盾…代わりの木の板や木の皮を装備していて少し賢くなっていたそうだ。しかし、中には葉っぱのついた枝を盾にしていたゴブリンもいたらしく、上昇した賢さはほんの少しなのだろう。
さて俺はゴブリン達が動き始めないとこちらも動けない…と思ったら、ゴブリンの巨大種が森に戻っていった。その直後、
「ゴギャアアアアアアアアアア!!」
1km以上離れたこちらまで聞こえてくるほどの雄叫びを上げ、ゴブリン達は突撃を開始した。
ゴブリン達はちょうど正面にある門辺りを目指しているらしく、漏斗のような形を取りながらこちらに向かってきていた。まさに一点突破を狙った突撃だった。
対する俺は着弾地点をかすみ網のように横一線に配置し、なるべくゴブリンを横に逃さないようにしている。さらに…
「『雨障の灰瀧 、発煙弾』順次射撃開始」
砲身内に発煙弾と推進薬が召喚され、瞬時に発煙弾が空高く打ち上げられた。ほんの少しの合間を置いて連射される発煙弾は次々と着弾し、草原に白い濃密な煙幕を形成している。
しかし発煙弾といいつつも、どちらかというと大きな発煙手榴弾をばら撒いていると言った方が正解だ。発煙弾なら爆発して広範囲に煙をまき散らすだろうが、どうにも描画魔法で煙を作ると10秒ほどで煙が消えてしまい、煙幕としての効果は極めて短かった。そこで持続的に煙を吐き出し続けるタイプの発煙弾にして、やっと効果的な煙幕を張れるようになったのが、今打ち出している発煙弾だ。
ちなみに煙の実験中、火事と間違われて2度ほど水をぶっ掛けられたのはいい思い出だ。
この煙幕は足元が見えないほどであったため、ゴブリン達は走る足を緩めざるをえなかった。そして足が遅くなってしまえば、
「『雨障の灰瀧、通常弾』順次射撃開始、以降10発に1発を発煙弾で継続」
降り注ぐ瀧のような砲弾の格好の餌食になった。
次々と炸裂する砲弾にゴブリンは体を抉られ、まともに立っていられなくなり次々と転げまわっていた。一度転んでしまえば後続の仲間たちに蹴られ踏みつけられ、苦しみながらその生涯を終えていく。たまに砲弾が頭上に直撃して即死したゴブリンも居たのだが、踏みつけられて死ぬ者とどちらが不運だったろうか。
一方、冒険者側はといえばゴブリンが突撃を開始したのを見て体に力を込めていたら、突然草原に煙幕が張られ、頭上を飛び越えていく何かの魔法が爆発し、煙幕からよろよろと出てきたゴブリンが倒れこむ様子を眺めているだけだった。
それでも少数のゴブリンが弾幕地帯を抜けてきているためそれの迎撃を行っているが、当初よりずっと少ない数であったため拍子抜けしていた。
探査魔法を起動してゴブリンの動きを確認すると、最初と変わらずひたすら突撃してくるだけであったが、これからが本当の侵攻らしく更に数が増えてくるようだった。
「くそ、横に広がるゴブリンも出てきたな…『雨障の灰瀧、4門追加』、網を広げ全力速射開始」
そのままでは横に逃すゴブリンが多すぎると判断し、網を広げ射撃速度を限界まであげた。発砲炎を防ぐ障壁を前面にだけ残し、余力無しの全力全開だ。
先ほどより一段階ギアを上げた雨障の灰瀧は周囲に爆音と熱をさらにばらまき、それと共に上空に大量の砲弾を打ち上げまくっている。
描画魔法を使う前は、なんでこんな広く場所を占領してるんだ!という視線を向けられ、臨時職員の隙あらば少しでも場所を奪おうと防衛の参加者。しかし今は逆に、少しでもこの見たことの無い魔法から離れたくて自ら遠のいていた。
全力を出している甲斐あって全ての進路上をカバーできるくらいに砲弾をばらまけているが、やはり弾幕が薄い所が出てきてしまい突破するゴブリンの数は増えてきていた。
たまに100匹ほどの集団に抜けられてしまう事もあり最初は焦ってしまった。しかし、門の上の監視台にいるセフィリアが嬉々として火球を放り投げ燃やし尽くしていた。
なんとなく「フォローは完璧じゃ」という声が聞こえてきた気がした。
またセフィリア以外の冒険者達も単独で抜けてくるゴブリンはハリネズミになるくらい射倒し、数匹のゴブリン達は様々な魔法に晒され、防壁にたどり着くゴブリンすら居ない状況を作り上げていた。
ちょいちょいとゴブリンの進路に合わせて着弾地点の補正をしながら、ひたすら雨障の灰瀧を使い続けていた。未だ大規模な突破はされず、火に飛び込む夜虫の如くゴブリン達は自ら処刑場に足を踏み入れ続けている。
いい加減逃げたりしないのかな?と思っていたが、煙幕のせいで惨状が見えていないのかもしれない。
俺は立ったまま空を見上げ、喉が渇くと少し大声で、
「ティアラ、お茶!」
「はい」
と、お茶を出してもらう。周りがものすごく暑いせいでやたらと喉が乾く。
ゴブリン達の動きは変わらず弾幕地帯にひたすら突撃を繰り返している。
どれくらいの時間雨障の灰瀧を維持していただろうか。何発の砲弾を空高く舞い上げただろうか。ようやく、ようやく終わりが見えてきた。森の中にひしめいていたゴブリンの影が尽きたのだ。トドメとばかりに最後の砲弾を打ち上げ、
「『雨障の灰瀧』停止」
と描画魔法を止めた。長い時間を爆音に晒されていたため、急に音が無くなり耳鳴りが続いている。周囲にいる人達も急に爆音が止み何事かとこちらを見ていたため、周りは静寂に包まれていた。
しかし、その静寂も長くは続かなかった。防壁の上にいる冒険者達が煙幕の切れた草原を見た瞬間、
「お…おおおお!ゴブリンが!!」
「やりやがった!!」
「全滅かよ!」
「なんもいねぇ!!」
そんなはしゃぐ声を上げていて、それが街の中にも次第に伝播していき街中でも大歓声が上がり始めたのだ。
念のため探査魔法を起動すると、殆どのゴブリンは倒されていたが大暴走を率いていたと思われる巨大種は未だ森の中で健在だった。さて、こいつをどうするべきかと顔を上げ、前を見上げるとセフィリアがこちらを指さして何かを叫んでいる。街の大歓声と未だ続く耳鳴りのせいで何を言っているかは分からなかったが、セフィリアの口を見れば何を言っているか分かるかと思い注視すると、
「…う・し・ろ?」
障壁の”内側”に氷の矢が当たって砕け、ピチャリと血が飛び散った。
納得されない方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。




