平日
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それから数日後、周辺の開拓村に住んでいる人達がフィールに続々と避難してきた。さすがに開拓村まで防衛に手が回らないため必要な処置といえる。
最初、ティアラとコロネが避難しないのかと疑問に思ったのだが、周辺住民のための避難先を確保するために、街に住んでいる人達はそのまま自宅待機になったんだそうだ。
ミストさんの家から早めに辞した後、なんとなく街の中を散歩していた。セフィリアはどこかに用事があるらしくミストさんの家を出た後は別行動を取っている。
大暴走が発表されると、さすがに屋台を開く店主も少なく、街の活気が減ってきている。普段開催されている朝市も物流がストップしている関係でこちらも殆ど店が無かった。
天気は晴れているのにどこか曇天のような街を歩きながら、数少ない開いてる屋台に入るとよく見る串焼き屋のおっさんだった。
「あれ、おっちゃんは店開いてるんだね」
「おう坊主じゃねえか。こんな時だから店開いてるんだよ。こんな湿気た雰囲気はフィールにゃ似合わねえだろ?だから少しでも賑やかにしたくてよ」
「いいねぇ、おっちゃんみたいな考えは俺は好きだな。別に誰かが死んだわけじゃないんだから、暗くならんでもいいと思うんだけどね」
「だろ?だけどよ、知らんおばさんがよ、「こんな時に店を開くなんて不謹慎だ!」とか文句つけてきやがってよ。なんだよ不謹慎って、こちとら不謹慎の意味がわかんねえってんだよ」
「いや、不謹慎の意味くらいは勉強しましょうよ!って、そんなおばさんに絡まれちゃ店の売り上げとか大丈夫です?」
売り上げまで聞くのはあまり褒められた事では無いかもしれない。昼過ぎという時間帯のせいかもしれないが俺の他に店に来ている人はいなかった。
「それがなぁ…やっぱりいつもより客は少なくてよ。早いとこ大暴走なんざ終わって欲しいもんだ。材料の入手にも一苦労だしよ」
「おっちゃんも大変なんだな…よしおっちゃん、串焼き10本くれ」
「ありがとよ!坊主!1本オマケしてやるからな」
「うれしいことしてくれるね、おっちゃん」
「おし、最初のオマケの一本だ。食ってけ食ってけ」
おっちゃんは一本の串焼きを差し出し俺にくれた。串には肉と野菜が交互に挟まり、垂れる肉汁が食欲を誘う。さっそくそのままかぶりつくと肉汁と野菜が相成りかなりうまい。
「うまいな、この肉。市場でもあんまり肉とか出てないんじゃないの?」
「だろ、とれたて新鮮なネズミの肉だぜ!」
「ぶほっ、ごほっ、お、おっちゃん?!」
「ワハハ、冗談だ冗談。形みりゃ分かるだろ、ボアの塩漬けだ。さすがにネズミの肉まで使うわけにゃいかないからな。ほら、これ口直しだ。これもサービスにしてやるから勘弁してくれ」
そういって差し出してくれたのが今度は野菜だけの串だった。葱、トマト、じゃがいもみたいな野菜が少しの焦げ目がついていて、かぶりつくと中身が飛び出てかなり熱かった。酸味あり甘みありと野菜だけでも飽きることがない串だった。
「これも旨いな…うん、こういう旨い食べ物を食べると防衛がんばろうって意欲が湧いてくるよな」
「なんだ坊主、おまえ防衛組か?」
「防衛組ってなんです?」
「ああ、冒険者や魔法使いが防壁の上で戦う人達のことを言うんだ。彼らが体張って頑張るからこの街が守られるってんで、彼らを敬う気持ちは大きいぜ?」
「あ~、俺も一応冒険者ですから攻撃に参加しますよ。防壁の上からじゃないですけどね。魔獣の森側の門から少し離れた所の道路にいる予定です」
「うん?う~ん、まあいいや。坊主がそのナリで冒険者ってのも驚きだが…じゃあ坊主、この街の防衛を頼んだぜ!」
「全力を尽くします」
「そうか!じゃあこれも持ってけ持ってけ!」
と、結局20本ほどの串焼きを俺に持たせてくれた。こんなに食べられないぞ…。
そのまま音の鎖亭に戻ると、まだ夕食には早い時間帯なので客は極わずかしかおらず、その人達も夕食というより一服しに来ているだけのようだった。
いつものように暇そうにしているシルバーがいたので捕まえて串焼きを食わせた。ちょうど腹が減っていたようで旨い旨いと言いながら全部食べきってくれた。
「ところでシルバー、おまえ大暴走の時はどこにいる予定なんだ?」
「むぐむぐ…美味しいね、これ…大暴走の時?僕はランクも低いし遠距離攻撃も出来ないから防壁の下で待機かな。破られそうなところで控えるんだってさ。そういうソーイチローは?」
「俺はちょっと特殊なことやるな。魔獣の森に近いところの道路にいる予定だ」
「あれ?ソーイチローって治癒魔法使えたっけ?」
道路で控えている冒険者は精々治癒術士くらいしかいないはずなので、シルバーの考えは的外れではない。まあ冒険者やっている治癒術士も殆ど居ないのだが…
「いや、治癒魔法は使えないぞ。攻撃魔法と便利魔法くらいだな」
「じゃあそんな所で何してるの?」
「攻撃魔法をそこから打つんだよ。さっきも言ったけどちょっと特殊でな、街中からでも外を攻撃できる魔法なんだ」
「へ~そんなのあるんだ。でもこういう時は魔法使いっていいよな、花形!って感じがして」
「だろ。おまけに活躍したら女の人にモテる(かもしれない)ぜ?」
「マジで?!どうやったら魔法使いになれるか教えてくれ!」
「簡単だ、30歳まで童貞で過ごしたら魔法使いになれる」
「おおお…そうなんだ…って、あれ?そうすると俺ってロンコと結婚できなくね?」
「それだけ険しい道なんだよ。女人からの誘惑を断ち切った者だけが魔法使いになれるんだ。ロンコか魔法使い、究極の選択…だが、選択を間違うと天罰が下るかもしれん。いいか、天罰が下るんだぞ?絶対に間違えるなよ、ぜぇーたいだぞ!」
何故ここまで念を押すのか、後ろで天罰が控えているからだ。手に持っているトレイを縦にしてシルバーの頭の上で構えている。口元は笑っているが目は笑っていない。数少ない客もシルバーの選択をハラハラしながら見守っていた。
「う~~~~~ん…う~~~ん…やっぱり僕はロンコがいいよ!」
一同その選択を聞いてホッとし、惨劇が起きなかったことに胸をおろしていた。
「で、なんでそんなに悩んでたんだ?」
「ほら、ロンコより胸が大きい人をちょっと拝んでみたいかなーって」
「「「「あ」」」」
居合わせた客が声を上げたのと同時に天罰(縦トレイ)が下った。金属で出来たトレイは甲高い音を響かせ、丸くうずくまるシルバーのレクイエムの代わりになっていた。
「皆様、お騒がせしました。ではまた御用がありましたらお呼びください」
ロンコはにこやかな笑顔で、丸くうずくまるシルバーをサッカーボールのように蹴りながら厨房に戻っていった。
「…俺、余計なこと言った?」
「「「うん」」」
誰ともなく言った言葉だったが、他の客から見事に肯定された。しょうがない、シルバーには後でまた串焼きでも届けてやろう。
いつもとは違う日常のはずなのに、いつもと同じような日を過ごすことができた。
そして翌日の朝、セフィリアとミストさんの家で朝食を食べていると、普段は時間を知らせてくれる鐘がカンカンカンと忙しなく鳴らされていた。
大暴走を知らせる鐘だった。




