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墓王!  作者: 菊次郎
大暴走
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会議後

ご覧頂きありがとうございます。

「貴族って言ったら美味いものばっかり食って肥えてるか御託が上手い政治屋の印象があったんだけどな」


 そんな呟きをセフィリアは拾ってくれて、


「フィールは少し例外だな。辺境伯を継承するのに個人の戦闘力が求められるのはここだけじゃな」


「それであんな屈強だったんだ…貴族より騎士っていった方が納得できたよ」


「まあそうじゃろうな。テイル辺境伯も中々の使い手らしいぞ」


「なんかそんな雰囲気を醸し出してたね。そういえば『雨障の灰瀧(あまつつみのかいそう) 』を使う場所について相談したいんだけど誰に言えばいいのかな?」


「そうじゃな、まずは副マスターあたりに声を掛けてみるのがよかろう」


「了解、ちょっと行ってくる」


 辺りを見渡すとギザルムはどこかの老人と話し込んでいるが、副マスターのシルクさんはギザルムの側に控えているだけだった。


「シルクさん、こんにちは。少し相談があるんですがお時間よろしいでしょうか?」


「はい、なんでしょう?」


「大暴走の防衛の時の位置取りでちょっと相談があります」


 シルクさんは俺の後ろにいるセフィリアをチラリと見ただけで、続きを促していた。


「俺は遠距離の攻撃魔法が使えます。この魔法ですが防壁の上だと少し都合が悪くて足元がしっかりした所じゃないと使えません。それでできれば上空の開けた道路の真ん中辺りを、そうですね半径20mほどで防壁から100mほど離れた場所を専有できませんか?」


「それは…中々難しい相談です。大暴走時に道路は救護所や炊き出し場所として開放する予定なので。それとそんなところではゴブリンに魔法攻撃は出来ないのでは?」


「上空に打ち上げて落ちるタイプの魔法なので障害物の影響が少ないんですよ。その代わりに発射炎でちょっと周りに被害があるかもしれないのである程度広い場所が必要で…」


「うーん…」


 シルクさんは少し悩んでいる、というかどうやって断ろうか考えているようだった。これはちょっとやばいか?と考えていると、後ろで話していたギザルムが会話を聞いて興味を持ったようだった。


「お、なんだなんだ?面白そうなこと話してるじゃねえか。セフィリア、前ちょろっと話してたのはこれか?」


「うむ、そうじゃ。なかなか面白いことになるぞ?」


 セフィリアはいかにも何か企んでいますというニヤリとした笑いで、ギザルムのほうを見ていた。


「そうか…じゃあやってみろ!と言いたいところだが実際にこの目で見ねえと許可は出せん。理由は分かるな?」


「勿論分かります」


 実績少ないしな。オマケに未だに赤級の魔法使いだからセフィリアが居なければ話しすら聞いてくれないところだろう。


「そうだ。セフィリアの弟子だからってことで優遇してもいいんだが、さすがに影響がでかい。だから一度やってみせてくれ」


「勿論構いませんよ」


 口だけで分かるものでもないし、実際に誰か見てくれるならそれに越したことはない。ひょっとしたら俺たちだけじゃ気づかなかった問題点を上げてくれるかもしれない。


「よし、じゃあホールでいいか?」


 ホールとは模擬戦や訓練などを行えるような多目的ホールだ。そんな所で撃ちまくったら…


「勿論無理ですよ」


「じゃあいこうぜって無理なのかよ?!」


「ホールを破壊してもよければ?」


「なんつう魔法だ…大げさに言ってる、訳でも無さそうだな。その魔法は実際に使ったこと無いのか?」


「試験は外でやってましたよ。結構遠くまで離れて」


「むむ…今のこのタイミングで時間を食われると…でもこんな面白そうな事を…」


 そう唸ってたギザルムだが、何かを思いついたのか頭の上にピコーンとランプが灯った。


「そうだ!学園長は街に来たばかりだろ?案内が必要だよな。おまけに防衛に協力してくれるって言ってるんだからしっかりと俺自ら接待しないとな」


 一人ウンウンと頷いているギザルムと置いてけぼりの他の人達。


「冒険者ギルド副マスターのシルク。今より俺が戻ってくるまで全権限を委任する!しかと励めよ!」


「「「「は?」」」」


「シルク!返事はどうした!」


「は、はい!」


 勢いでシルクさんは返事をしたようだが今一事態を飲み込めていない。そんな彼女を置いて、ギザルムは俺たちを押して会議室から退室すると我に返ったシルクさんが何か叫んでいた。


「ギザルムさん、いいんですか?」


「いいのいいの、ここ最近は部屋にこもりっぱなしでつまらんかったからな。そろそろ息抜きしねえと本番前に倒れちまう。学園長も済まなかったな、ダシに使っちまって」


「ほっほ。こんな老いぼれでもダシが出るなら構わんわい。それに何やら面白そうな事になってるな、儂も混ぜんかい」


 このじいさまもギザルムと同じタイプらしい…


「ほっほっほ。楽しいことは分かちあったほうが良いぞ、少年。儂はオウルフォレスト学園の学園長をしておるカーエンじゃ。少年の魔法、楽しみにしておるぞ」


「はぁ…俺はソーイチローです。セフィリア師の弟子です」


「うむ、聞いておったぞ。中々セフィリア殿から期待を掛けられているようじゃな。セフィリア殿、カーエンじゃ。よろしく頼む」


「こちらこそよろしく、カーエン殿」


 すごくどうでもいいが、じじい口調が二人揃うとどっちがどうだか判らんくなるな。


 大暴走の可能性が発表されて時間が立っていないためか、街の活気に変化は見られなかった。一応ギザルムも宣言したとおりカーエンを案内しながら街を歩いている。

 街でも有名なギルドマスターのギザルムと身なりの良いカーエン、フードを被ったセフィリアと素の格好の俺で、なんとなくご隠居様の世直し道中に見えなくもない。勿論ギザルムがはっちゃん役だ。


 街の外に出て森の方向を見てもピクニック日和の良い天気で、小鳥がペアで追いかけっこをしている。草原を渡る風は変わらず優しく、森だけを見れば危機が迫っているとは思えなかった。

 一方、街に程近い方向を見ると、多くの冒険者が防壁沿いに掘られた空堀や空堀沿いの木柵を補強していたり、所々に杭を打ってロープを張り罠を敷いていたりし、確実に戦いが迫っている事を感じさせた。

 そんな作業を請け負った冒険者にギザルムは声を掛け、労をねぎらいながら歩いていた。なんのかんのでギザルムもしっかりギルドマスターをやっているのだ。

 ただ、最後に「よし、これで副マスターへ言い訳が立つ」と呟かなければ、の話だが…。


 途中からは各々無言で歩き、街に影響の無さそうな場所に着いたので足を止めた。


「じゃあここら辺でいいかな」


「ソーイチロー、詳しい話を聞いてなかったがどんな魔法なんだ?」


「簡単に言えば石礫の魔法かな?遠くに飛ばして破裂させる感じ」


「なんかどこにでもありそうな魔法だな」


「どこにでもあると思いますよ。飛距離と威力は違いますが」


 ギザルムは露骨に残念そうな顔をし、セフィリアは黙ってニヤニヤしてる。カーエンはニコニコしてて今一何を考えているのかがよく分からない。


「えーと、俺からちょっと距離を離して下さい。そう、もうちょっと後ろ…それくらいかな。近づかないでくださいね?特にギザルムさん」


 なんで俺だけ指名するんだよ、という抗議の声が聞こえてきたが聞こえなかったことにして、


「いきますよ。『雨障の灰瀧(あまつつみのかいそう) 、20門』」


 描画魔法が起動され俺の前に迫撃砲が20門それぞれ召喚された。ぱっと見は単なるゴツい筒が同じ方向に向いて並んでいるだけに見えるが、その破壊力は別物。


「準備射撃、1門発射」


 一発だけ迫撃砲弾が発射された。思ったより軽い音だったためか、ギザルムは早々に耳から手を離し俺に話しかけてきた。


「お~すげえな!よく飛んだもんだな。あんな遠くまでいく魔法は見たことがないぜ。でもよ、こう言っちゃなんだが威力ショボくね?」


 500m程先にある一本木に狙いを付けていたが20mほど東に流されていた。上空は風が強いのかもしれないと思い、狙いを補正しながら答えた。


「炎が巻き踊ったり水が飛び出るような分かりやすい魔法じゃないですからね。オマケにここから500mも離れてたら、小指の爪ほどの石礫が飛んでるのなんて見えませんよ」


「は…?小指の先ほどって小さくね?こんなもんだろ?」


「ええ、だからそれを…数で補います。順次射撃開始!」


 合図と共に全20門が順番に砲弾を吐き出し始め、周囲に爆音と熱をばら撒いている。

 なんとか肉眼で捉えられるほどの早さで発射された砲弾は上空高く舞い上がり、目標地点上空の手前で垂直落下に移り、一筋の滝のように砲弾を降らせている。ランダム要素が強いため目標とした木に直撃した砲弾はまだ無いが、周囲に着弾し破裂した砲弾は小さな破片となり、木の幹や枝葉を確実に削っていく。

 突然の連射に驚きひっくり返っていたギザルムだが、未知の迫力に驚き服についた土を落とすこともせず口をポカンと開けていた。セフィリアはいたずらが成功したような笑い顔をしていて、カーエンは笑顔から一転し目を眇め『雨障の灰瀧』を見ている。

 そして一発の砲弾が目標にしていた木に直撃し幹が大きく揺れているのが見えたため、一端そこで『雨障の灰瀧』を止めた。


「停止っと…こんな感じです。ここからだと距離がありすぎて威力が分かり難いですから、現場まで行ってみましょうか」


 みんな黙って頷き、現場に向かった。弾着の現場にたどり着くと周囲には火薬の匂いこそしないものの、巻き上げた土煙の匂いと熱気がまだ残っていた。

 目標とした木を見ると幹はかわいそうなほどボロボロで、毟り取られた葉っぱが地面に散らばっていた。そんな惨状をみたセフィリアは、


「なあソーイチロー」


「なにセフィリア」


「お主はこの木にどんな恨みがあったのじゃ?」


「なんか告白の現場っぽい気がしたんで、ちょっと折ろうかと」


「ソーイチローが何言ってるかさっぱりじゃ…」



木柵の指摘をして頂き、ありがとうございました。改めてお礼申し上げます。

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