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墓王!  作者: 菊次郎
大暴走
62/129

会議

ご覧いただきありがとうございます。


若干長めで申し訳ありません。

 ギルドに到着し受付嬢に呼び出し状を見せると二階にある会議室まで案内された。会議室に入ると30ほどある座席の半分が埋まっており、ヒソヒソと僅かに聞こえる程度の声がしているだけだった。中にはつい先日因縁のあった魔法使いギルドの議長レニィも席に座っていた。


 そんな奇妙な静けさに包まれている会議室だが、外からドカドカと歩く足音が聞こえてきたと思った次の瞬間、扉が勢いよく開けられた。勢いがよすぎてギルドの建物が若干揺れていると勘違いするほどだった。


 開けられた扉からは身長2mを超す30歳くらいの大男と、その大男の腰ほどの身長しかない少女が入ってきた。大男は背中に大槌を背負い、その大槌を存分に振り回せるだけの筋肉の鎧を纏ってることから冒険者なのだろうと見当を付けた。一方少女のほうはローブを着ていることから魔法使いだと思われた。


 騒々しい大男の入室に会議室にいた全員の視線を一身に集めることとなったが、大男はまったく気にする様子もなかった。ただ少女のほうはそんな会議室の雰囲気を察しているのか、


「もう、あなたはもう少し静かに部屋に入りなさいっていつも言ってるでしょ?何度家の扉を買い替えたと思ってるのよ」


「ガハハハ!わりぃわりぃ、なんか部屋の中が暗いんじゃないかと思ってよ、いっちょ目立ってやろうかと思ってな!」


「ほんとにあなたは…うちで同じことやったらケツに杭打ち込んじゃいますからね?」


「それは勘弁してくれ」


 それまでは男臭い笑顔を浮かべていた大男が一転して真顔になり謝っていた。

 少女の言葉使いの異様さと内容に会議室に居た男たち全員が、お尻がヒュンとしたようにすくみ上がりもぞもぞしている。

 大男は少女との会話を一端止め、会議室にいる面子を見渡していたと思ったがセフィリアの方に向かって歩いてきた。


「よっ、セフィリア久しぶりだな!」


「息災じゃな、ガイル。ファフニールも変わりはないか?」


「お久しぶりです、セフィリア様。ガイルを躾けていると病気になる暇もありません」


「クックック…相変わらずの夫婦漫才じゃな」


「めお…と…?」


 筋肉を纏った大男のおっさんとコロネより小さくどう見ても女の子にしか見えないのに夫婦だと…?俺の呟きを聞いていたのか、セフィリアが二人を紹介してくれた。


「うむ、こやつらは同郷の幼なじみでな、結婚しておる。フィールの街で最強の冒険者のペアじゃな。確かランクBじゃったかな、ランクAに最も近いと言われておる。それでガイル、ファフニール、こいつはソーイチローと言ってな、ワシの弟子みたいなもんじゃ」


「紹介にあずかりましたソーイチローといいます。よろしくお願いします」


ペコリと二人に向かって頭をさげた。


「ガハハハ!俺はガイルだ!よろしくな!肉食ってるか?そんな筋肉じゃ殴り飛ばせないぞ!」


 ガイルは大声で話しながら俺の肩をバンバン叩いてくるのがとても痛い。というか俺の身長が縮みそう。


「あなた、ソーイチローさんが痛がっていますよ。ごめんなさいねソーイチローさん。夫は筋肉で物を考えているのよ。それで私はファフニールといいます。残念ながらバカガイルの妻をしています」


「残念って…」


 ショボくれた大男を無視しながら挨拶してくれたファフニールは俺をじぃっと見つめている。ローブからのぞく顔は将来が楽しみな少女なのだが、これでガイルと同年代というのが信じられない。俺の何かを見通すように見ていたファフニールだが、ツイと視線をガイルに戻し、


「あなた、ソーイチローさんは将来いい男になりますわ。乗り換えてもいい?」


「止めてくれよファフニール!ファフニール以外に俺の筋肉の面倒を見れる奴なんていないだろ!」


 ガイルは力こぶを作りながら己の筋肉をアピールしてきているが、暑苦し…


「私はあなたの筋肉のお供じゃありません。それに毎度毎度あなたに肉以外を食べさせるのがめんどくさいんだもの」


「ほんにお主らは変わらんのう」


 と苦笑いしつつ昔話を続けていると、おおよそ10時くらいになるとガイルが入ってきた入り口からギルドマスターのギザルムと副マスターのシルクさん、それと護衛を伴った貴族っぽい人が入室してきた。それを見た人達はおしゃべりを止め着席し彼らの一投足に視線を投げかけている。

 一番奥の席に貴族がその隣にギザルムとシルクさんが座り、まずはギザルムが声をあげた。


「忙しいとこ集まってもらって済まんな。時間も無いし端的に言う。ゴブリンの大暴走が起きそうだ」


 ギザルムや貴族の事は皆知っているのか特段挨拶も無しにギザルムは大暴走のことを切り出した。大暴走の事を聞いて会議室の中はざわめきに満たされることもなく、7割くらいの人達はすでに知っていたのか驚くことも無く、表面上は平時と変わらない表情を取り繕っている。主に驚いているのは取り巻きの人達のようだった。

 ギザルムは会議室が落ちつている状況を見渡した後、さらに大暴走の詳細を説明し始めた。


「街への到達予測は一週間後、ゴブリン達の規模は5000匹以上で正確な規模は不明だ」


 規模に驚いたのか時間が無いことに驚いたのか、今度はざわめきが起き参加者から驚きの声が聞こてくる。その中で一人の参加者が挙手をし発言をした。


「ギルドマスター、5000匹以上というのは規模が分かっていないとうことなのか?」


 その言葉を聞いた参加者は会話をピタリと止め、ギザルムに視線を向けている。


「ああ。ゴブリン達が目撃された範囲と密度と調査隊からの話しを総合した結果だ。上限が分からないのは森の中がゴブリンだらけで最深部まで偵察できなかったせいだな」


「それはあんたらの怠慢じゃないのか?」


 とはどこからか聞こえてきた冒険者ギルドを糾弾する声だった。それを聞いたギザルムは特に憤慨するでもなく淡々と返事をしていた。


「知っての通りフィールの街にいる冒険者の質はこの国随一だ。今回送り出した奴らはその中でも調査に特化した技術を持つ者ばかりだったんだぜ?そいつらがあれ以上の調査不可ってんだから、まあ調べられる奴はいねえだろ。もし他に調査できるやつがいるってんなら俺に紹介してくれ。頭を地面にこすりつけてでも依頼するからよ」


 そう言われてしまえばこれ以上追求する声は上がらなかった。確かにフィールの街は魔獣の森に程近いおかげで大勢の冒険者が集まるため、フィールのトップクラスにもなるとこの国で一番を名乗っても大げさではないくらいだった。


「話しを進めていいか?よし、進めるぞ。これより特別警戒体勢に移行してもらう。各ギルドは領主との契約に基づき任務に当たって欲しい。質問は?」


 一人の老人が発言を求め手を上げていた。ギザルムはそのまま発言を促し、


「事前の契約があるからのぅ、儂らもやる事はやる。それでなぁ、この老人を安心させると思ってこちらの戦力を教えて欲しいんじゃ」


「いいぜ。まず冒険者だが350名前後、これは見習いや初心者抜きのランクE以上の人数だ。それで魔法使いギルドからは53名参加だ。あってるよな?」


 ギザルムは魔法使いギルドの議長レニィに確認するよう尋ねていた。


「52名ですね」


「ちょっと報告と違っていたな、まあいい。領主軍として騎兵20名と歩兵100名、あとは義勇兵だがこれはちょっと人数が分からねぇ。前回の大暴走を参考にすると600名前後か?人口増えてるからもう少し増えるかもしれんが、戦力としてはそれほど当てにならん。後は炊き出し係や治療班、工兵などの後詰だな」


 ギザルムに戦力を尋ねた老人はどれくらいの勝ち目があるのか計算しているのか少し考え込んでいる。それを見たギザルムはさらに説明を続けた。


「後は個別としてだな、うちのギルドに所属してる最高戦力”岩石石砂がんせきせきさ”のガイルとファフニールコンビだ」


「よろしくな!」


 ガイルは大槌を取り出しながら皆に挨拶をしていた。子供ほどの重量があるであろう大槌を片手で軽々と持ち上げ、まるで小さな旗でも振るように扱っていた。近くで見るその迫力は何者からも守ってくれそうな頼もしさがあったが…暑苦しい。


「それと、Sランクの冒険者で前回の大暴走で最も活躍した”傾壁の白髪鬼”セフィリアだ」


「セフィリアじゃ。弟子のソーイチロー共々よろしく」


 そんなふうにセフィリアは挨拶をした。俺の名前まで出してきたので、俺も一礼だけして挨拶をしておいた。

 セフィリアの挨拶と同時にそこかしこでざわめきたち始めた。なんとなく参加者の視線はセフィリアと俺の半々といったところだろうか。それがセフィリアが参戦することへの驚きか、弟子を紹介したことへの驚きかは分からないが。

 そんなざわめきを断つようにギザルムが会議の進行を続ける。


「こんなふうに対個人も対集団もとんでもなく強いやつがそろってる。ちったあゴブリンどもが増えたくらいじゃびくともしねぇ。だから戦いは戦える者たちに任せて各ギルドは自分たちの仕事に専念してほしい」


 ギザルムは全体を見渡して質問や反論が無いことを確認し、


「じゃあ最後は領主からの挨拶で締めるぞ。テイル=フィール=バグナウスター辺境伯のお言葉だ、拝聴しろ」


 ギザルムの隣に座っていた貴族が立ち上がった。その姿は騎士を想像させる出で立ちで貴族の高価な服装より剣を振り回しているほうが似合いそうな人物だった。


「テイルだ。緊急事態であるから長い話は無しだ。まあ長い話しはうちの侍従長あたりの専売だがな」


 軽い笑いが起き、テイルは参加者の緊張をほぐす。しかしすぐに表情を引き締め挨拶を続けた。


「フィールの危機だ。己の職分を全うしてくれ、以上だ」


 たったそれだけの挨拶を終えたテイルはそのまま共を連れて会議室から退出しどこかに去っていった。辺境伯というお偉いさんが居なくなった会議室は始まる前と打って変わり活気に満ちていた。



 会議後知人への挨拶を終えたガイルとファフニールの”岩石石砂”コンビはギルドから退出し街中を歩いていた。街中をぷらぷらとしながら、先ほど会議室であったセフィリアの弟子であるソーイチローの事について話し合っていた。


「それでガイル、あなたの筋肉判定はどうでしたか?」


「だから筋肉判定じゃないって…まあいいや。ソーイチローの肩とか叩いた感じはな、冒険者やってる魔法使いってタイプじゃなかったな。明らかに筋肉が足りねぇ。かと言って魔法使いギルドにいるような柔っちいんでもなかった」


 ガイルとファフニールはいつも気になる人物に会うと、どれくらいの能力を持っていそうか判断していた。ガイルは本人を直接叩いて体の質を、ファフニールは魔力を見て、という風にしていた。

 ファフニールは少し特殊で相手を見つめると、なんとなくだが相手の最大放出量が分かるという特技を持っている。なお、ガイルはほぼ100%カンだが、経験に応じたカンであるためこちらも滅多に外すことはなかった。


「あら?そうなんですか?」


「ああ。冒険者としては…なんなんだろうな?手は綺麗なもんだったから武器は扱ってねぇ。足運び見ても偵察タイプじゃあ無かった。だけど体はよく鍛え上げられてる。そうだな、武器を扱わない狩人って言えばいいか?…うん、自分で言ってさっぱり分からねぇ」


「そうですか…私の魔力判定ですが彼はぱっと見、赤級よりちょっとマシという程度でした」


「へ?それなのにセフィリアの弟子やってるのか?」


「ええ。それも史上最強の魔女と言われるセフィリア様の弟子を、です。さらに不可解なのが、それっぽっちの魔力しか無いのに冒険者としては幾らかの戦果を上げているようで、情報に敏い人達には有名なんだそうです」


「へぇ、そうなのか」


「いい加減あなたも周囲に気を配って下さい。そんなようじゃ脳みそまで筋肉になってしまいますよ?」


「お、いいね!頭突きしたときに強くなりそうだ」


「…もう遅かったですね。ほら、一時期子供たちが大鷹の被害に遭った時があったでしょ?」


「ああ、俺達じゃちょっと手が出せなかった依頼か」


「あれをソーイチロー君が達成したそうですよ。街中に大鷹を引きずりながら入ってきたそうです」


「赤級の魔法使いにそんなことできるのか?」


「できるわけ無いじゃないですか。そんなことできるなら世の中魔法使いだらけですよ。ですがソーイチロー君は達成してみせた。よほど頭が切れるか、それとも私達の知らない何かがあるのか…。セフィリア様が単に男に入れ込んであの場に連れてきた訳でも無さそうですし」


「男に入れ込んでって…まさか?」


「まさかもなにも、セフィリア様とソーイチロー君はデキていますよ。お二人の距離は師弟のそれではありません。見て分かりませんでしたか?」


「分かるわきゃないだろ!あれ?ちょっと待てよ、セフィリアって言えばあの噂、セフィリアを倒した者だけが娶れるってあっただろ。まさか…」


「ええ。そのまさかの可能性があります」


 ガイルとファフニールはなんとなく立ち止まり、お互いに見つめ合っていた。その身長差もあって真下に首を傾けるガイルと真上に首を上げるファフニールで、なんとなく滑稽な姿だった。


「そういえばあなたはセフィリア様の噂を聞いた時に挑戦しませんでしたね?そういう「私を倒してみせよ!」なんていうイベントは大好きなはずですが」


「まあな。力比べなら喜んで挑戦しただろうが、セフィリアの挑戦は挑戦になってねぇ。あんなのに挑むなら、生きたドラゴンの口に頭突っ込んだ方がまだマシだ」


「そんなものですか」


「それにだ、もう俺にはファフニールが居ただろ。お前だけで十分だ」


 ガイルはファフニールの手を握り、目を見つめ言い切った。しかしファフニールの方はと言うと照れる様子も無く、それどころか目を半眼にしていた。


「…かっこいいこと言ってますけど、その割には花街通ってましたよね?」


「げっ、知ってたのかよ…ま、まあ気にするな!それよりもソーイチローだ、ソーイチロー。あれどうする?」


「そうですね…私とあなたが見た結論が、よく分からないという結果でしたね。でも奇貨に成り得る人でしょうから丁寧に対応しましょう」


「そうだな。石投げて蛇が出てきたらたまんねぇからな」


「その通りです。ところで先ほどの花街の話しですが…」


「そ、その話は勘弁してくれ…」


 再び歩き出したガイルとファフニール夫婦はお互いやいのやいのと言いながら雑踏に消えていった。

 ソーイチロー本人は自らがあずかり知らぬところで、フィール最強コンビからそのように評価されているとは思いもよらなかった。

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