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墓王!  作者: 菊次郎
大暴走
60/129

雨障の灰瀧

ご覧いただきありがとうございます。


GWになんとか間に合いました。

おそらく9~10話程度連日投稿していきますので

お暇な時間に読んで頂ければ幸いです。

 ミストさんの魔力の回復具合を確認したところ、前回と同じように無事回復していたそうだ。再現性を確認できたが、魔力欠損症の患者に副作用が出てくることも心配であるため、もうしばらく隔日でミストさんと肌を重ねる事になった。


 治験のためだけではなくミストさんを抱きたいから抱くと宣言してある。しかし、そんな偉そうに宣言したはいいが、このミストさん、俺よりもよほど上手いのだ。単に気持ちよくしてくれるというだけではなく、どうしたら女性が悦ぶかをそれとなく教えてくれる。男を育てるのがとても上手いのだ。

 それで夜の技量が向上していくのだが、ミストさんが教えてくれた事をセフィリアに実践すると今までよりセフィリアが早く達してしまい、皮肉にも彼女の中に出す回数が減ってしまうという事態になった。

 これにセフィリアも危機感を覚えたのか、今度はセフィリアがミストさんに睦事を教わり始めた。その事が切っ掛けでセフィリアとミストさん達の距離が一気に縮まり、単なる患者と治癒者という関係だけではなく仲間としての意識が芽生えていた。

 とても嬉しいことなのだが、矛先が全部俺に向いてる気がするのは何故だろうか?


 夜の出来事は置いておくとして、対大暴走用の描画魔法が一応の完成を見た。ここからは試射と調整の繰り返しになると朝食の席でセフィリアに告げたら、


「ふむ、そうか。ではワシも見に行くとするか。毎日はついて行けんがの」


「あいよ。もし気づいたことあったら教えてくれ」


「ご主人様、昼食はいかがなさいますか?」


 とはティアラの弁。


「あ~、もし間に合うなら外で食べられる物を用意してくれる?」


「畏まりました。30分ほど時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


「了解。今日はティアラとコロネは付いてくる?」


「お邪魔でなければお供させて頂きたいと思います」

「コロネも!」


「邪魔じゃないよ。ところで家の事は平気?」


「はい。おかあさんが元気になってくれたおかげで、家の事はおかあさんもできるので」


「そうか」


 二人が喜んでいるのを見ると、(性活的に)がんばった甲斐があったというものだな。

 ティアラとコロネは昼食の仕込みと用意を始め、一方俺とセフィリアは朝食後の一服をしていた。一服といってもお茶を飲んでいるだけだが。


「なんかティアラとコロネが働いているのを見るだけで、自分が動かないってのはなんか怠けてるような気がしてくるな」


「何事も上手に出来る者に任せるがよい。ワシらはワシらでしか出来ないことがあるのだからな」


「そうですよ、ソーイチローさん。ソーイチローさんに家の中の事までやってもらったら、私達の立場がありませんし、ご主人様としてドシッと座っていればいいんですよ」


 まだまだ人に仕えられるということに慣れない俺が発した言葉に対してセフィリアとミストさんが答えてくれた。二人共もっともな事なので俺は言い返す言葉も無かった。


「まあ描画魔法作成に集中させてもらえるのは何にしてもありがたいことだね」


 彼女たちに世話してもらうなら、その分は俺しか出来ないことで少しでも返していくことにしよう。


 昼食の用意が終わったようで、四人連れ立ってフィールの郊外に向かった。以前はゴブリンに襲われたりしたが、今日はセフィリアもいるし何があっても平気だろう。寧ろ襲ってきた側が可哀想なことになるんじゃ…


 街から十分に離れ探査魔法で確認して誰もいない所までやってきた。ここまでこれば周囲への影響は多分無い、はず。


「よし、ここでいいかな」


「うむ、何を見せてくれるのか楽しみじゃ」


 セフィリアはここにくるまで俺がどんな描画魔法を開発しているか一切聞いてこなかった。それというのも新しい描画魔法を見て驚きたいというためだけらしい。現にセフィリアは目を大きく開け、今か今かとワクワクした顔でこちらを見ている。

 そんな子供っぽいセフィリアもまた可愛いと思いながらも試射の準備に取り掛かった。


「『雨障の灰瀧(あまつつみのかいそう) 』」


 描画魔法を起動させると、少し離れたところに長さ1m20cm、内径80mmの砲身とそれを支える支持架、砲身を受け止める底盤が現れた。いわゆる迫撃砲である。

 反動を地面に吸収させることで砲身の形をシンプル且つ使用魔力を軽微に抑えることができ、その魔力を砲弾に回せることと構造のシンプルさで速射能力を向上させている。


「全員俺より後ろで、決して前に出ないでね。と思ったらすでに待機してたのか」


 慣れた様子で三人共俺の後ろにきっちり隠れ、顔だけ覗いているような体勢をとっている。

 その様子を見て安心した俺は前面に障壁を張り試験を再開した。


「発射」


 合図を期に思ったより軽い発射音と共に一発の砲弾が空高く舞い上がり、およそ10秒ほどの滞空時間を経て500mほど先の平地に着弾炸裂した。その後2秒弱ほどでこちらにも雷のような炸裂音が聞こえてきた。

 大雑把な着弾地点しか決めておらず、目標とする対象も無いためどれほどの威力があったかはここからは望めない。大きく地面が抉れたり大きな煙が上がったりした訳ではないため、ここから見ると極めて地味な成果しか見当たらなかった。


「随分と高く舞い上がる魔法じゃな。あそこまで飛ばせる魔法は中々お目にかかれんぞ」


「…よし、砲身に特に問題無しっと。曲射弾道…じゃなくて大きく弧を描くように飛んでいって目標地点付近で垂直落下するようにしてあるからね。高くあがるのは仕様だよ。この軌道なら相手が森の中に隠れていてもダメージ与えやすいんだよね。まあその分精密な射撃ができないけど」


「なるほどのぅ。ワシも森の中じゃと木が邪魔で直接攻撃できんで困ったことがあったわ。しょうがなく森ごと焼き払ったんじゃが」


 米帝か!と突っ込みたかったが言われても何のことか分からないだろう。ちなみにティアラとコロネはセフィリアの発言にドン引きしてた。


「射程と真上からの攻撃というのは魅力的じゃな。しかし…こう言っては何だが思ったより地味じゃな。じゃがお主のことじゃ、これだけでは終わらんのじゃろ?」


 ニヤリとセフィリアは口端をあげ、期待の篭った眼差しを向けてきている。


「玩具を買ってもらう子供かい。まあその通りなんだけどね。これは連射してナンボの描画魔法だから次からが本番」


 そう宣言して試射する方角に体を向ける。


「『雨障の灰瀧(あまつつみのかいそう)、20門』」


 雨が降っているから外に出るのは止めておきましょう、そうでなければ砲弾の瀧に障られるでしょう、というある意味とても傲慢な名称だ。

 描画魔法を起動させると俺の前面に6門、8門、6門と互い違いに並び同じ方角に向いて召喚されている。


「1番から20番、順次射撃開始」


 瞬時に砲身内に弾体と発射薬が召喚し点火される。『雨障の灰瀧』を単発で撃った時と違い、腹に響く音を繰り出し周囲にいる者を威圧しながら、毎秒2発ほどの連射速度で発射される砲弾は次々と砲身から打ち出され同じ場所に向かって飛んで行く。炸裂した砲弾は無数の破片をばら撒き、草葉を刈り取り土煙を巻き上げている。

 同じ地点を狙って発射された砲弾は狙い違わ…違いまくって、かなりの広範囲に散らばって着弾していた。着弾地点が目測で100mほど離れているものすらあった。

 およそ10秒ほど続けて『雨障の灰瀧』を起動したが、一向に着弾地点がまとまるようには見えなかった。

 そのまま俺は無言で描画魔法を停止し、ちょっと空を見上げて雲の数を数えていた。現実逃避だった。


「の、のうソーイチロー、すごい勢いで魔法が飛んでくのは迫力あるんじゃが…なんかえらく散らばってないか?」


「現実に引き戻さないで!くそ~…上空の風もそんなに無さそうだし、砲身が短すぎるとかあるのかなぁ…」


 前の『タレット』では反動が他の砲身に悪影響を及ぼしていて命中精度が悪かったが、この迫撃砲は初速が低い上に反動を地面に吸収させているし、砲身がそれぞれ独立しているため同じことが原因とも思えない。それともこんなものか…?と考えて砲身を調べているとコロネが、


「おにいちゃん?あの遠くに飛んでった玉がバラバラなのが困ってるの?」


「そうなんだよ。なんかやたらとばらついてさ~…」


 コロネの方には振り向かず、砲身がすり減っていないかを確認する。


「なんかね、ボンッて音がしたら隣の筒がちょっとだけビリビリしてたよ?」


「あ、それだ!コロネよく見てたな!」


 ナイスアシストをしたコロネの頭を撫でると「えへへ~」と笑顔になり、サラサラと音がする髪をいつまでも撫でていたくなる。


 コロネが言っていたことは発射の衝撃が隣の迫撃砲まで伝わってしまい、砲身の極僅かな揺れが着弾地点の大きなズレになってたようだ。

 迫撃砲をあまり遠くに置くと維持するための魔力が余計に必要になるから…発射する砲門の順番を変えてみるか。さっきは1番2番3番…と順番だったが、1番3番7番のように少し順番を離してやってみよう。


 やってみた結果は、比較的上手くいった、というところだろう。順番に射撃していた時よりは良くなったが、やはり衝撃自体は無くすことができず単発での射撃よりは着弾地点のばらつきは大きくなった。


 ただこのばらつきは悪いことばかりではない。元々『雨障の灰瀧』は面制圧を目的としているため精密な射撃は目指していない。逆にあまりに同じ場所ばかり射撃してしまうと敵はそこを避けて通られてしまうため、多少はばらついた方が良いのだ。ただ、どの程度ばらついたほうがいいのかまでは分からないので「こんなもんかなぁ」程度までしか精度を高めていないが。


 その後は、何度か『雨障の灰瀧』を起動して爆撃して、方角を変えて確かめたりしているうちに昼食の用意が終わったようだ。今回は前と違いセフィリアもいるので四人なので、どことなくピクニックの様相が強くなった気がする。


「ところでソーイチロー、なんで方角まで変えて実験しておったんじゃ?風の影響を見ておったのか?」


「旨いな、このナンっぽいパンに野菜挟んだやつ…。ああ、場合によっては南北で若干ずれる時があるんだ」


「そうなのか?」


「うん」


「で、どうだったんじゃ?」


「…発射の衝撃のほうが強すぎてさっぱりわからなかった」


「なんともまあ…」


 と、セフィリアは苦笑いしていた。そんなダメな子を見るような目で見ないで…


「ま、まあそっちは距離も近いからそんなに影響は大きくないとは思ってたんだ」


 強がりではない、決して。


「そっちは、ということは他に問題がありそうなのか?」


「まずは『雨障の灰瀧』の反動と振動が大きくて防壁の上からだと攻撃ができそうにないのが一点」


「そこまで反動が大きいのか?」


「うん。反動もそうだけど特に振動のほうが問題だと思ってる。石積みでできた防壁は確かに堅牢だけど振動には弱そうだしね。俺が防壁の上で振動加えて防壁が崩れちゃいました!ってなったら洒落にならんからなぁ」


「そしたらワシの仲間じゃな」


 前回の大暴走の防衛戦ではっちゃけ過ぎて防壁を傾かせたセフィリアのセリフだが…


「そっち側の人間はちょっと…」


「どういう意味じゃ!」


「まあさておき、運用としては街中から射撃することになるから周辺住民の通知と、できれば射線上に人を配置しないで欲しいかな」


「住民への通知は避難の鐘楼が鳴るから問題は無かろう。射線上の配置は…少し難しいじゃろうな。敵の動きが判らん以上どうしても防壁の各地に人を配置する必要があるじゃろう」


「そっか、そりゃそうだね。今のところ他の描画魔法含めて不発弾は無いからまあ平気かなぁ…。暴発はあったけど」


 俺の呟きを聞いたセフィリア、ティアラ、コロネが同時に一歩下がった。座りながら下がるって随分と器用な真似するな。


「あとは思ったより着弾地点のばらつきが大きくてさ、狙う場所を防壁から離さなくちゃいけないんだ。そうなると『雨障の灰瀧』を抜けた敵が防壁に張り付くと俺からは何もできなくなっちゃう」


「なんじゃそんなことか。ソーイチローが全部倒さなくてもいいんじゃぞ?ある程度削ればワシも控えておるし他の冒険者もおる。街全体として大暴走に勝利し、その中でお主が活躍するのが目標じゃ」


「あ、そうか。どうにも全部倒そうと考えちゃってたよ…」


 これはいかんと思い頭を振る。やれるだけやろうと考えていたのが、全部やろう、に変わっていた。今の俺にできる事はたくさんあるけど、やれる事は限られてるんだ。それを忘れると潰れてしまう。


「ありがとう、困った時があったらみんなに相談したり頼るかもしれないけど、その時はよろしくね?」


「任せておけ」

「喜んで」

「うん!」


 三者三様だがみんな笑顔で頷いてくれた。いい仲間を持ったもんだ。

こういうお話の時に迫撃砲ってあまり出てこない気がします。

コストパフォーマンスに優れた良い兵器だと思うのですが

何故ですかね?やはり一撃必中のほうが良いのでしょうか。

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