甘くてとろっとしたもの
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前話のあらすじ:統合管理システム『TENGA』が使える子に
やっと、待ちに待った『カ○ピス生成器』が完成した。今晩はその試運転の日になった。一応実施にあたってはセフィリアが自身の実験のために魔力を使い切って疲れており、恐らく深い眠りにつくであろう時を試験日に選んだ。
深夜、隣でセフィリアが寝息を立て始めたことを確認し小声で「『カル○ス生成器』」と呟いた。その瞬間、数百にも及ぶ魔法陣が展開・構築され、手元に一つの筒状のものが出来上がった。
(カル○ス作成開始!反力も…よし!摩擦抵抗も…よし!密閉度は大丈夫かな?音漏れも無さそう、液漏れもいな。うん、問題無さそう)
この『カル○ス生成器』は確かにオイシイが問題がある。まるで搾乳機で搾り取られるような感覚なのだ。あと自身が設計したため計算通りなのだが、あくまで予想の範囲内でしかない。
(自分の設計だと予測が出来てしまう分、驚きや感動も何もあったもんじゃない。だけど自分が予測できない設計とかどうすればいいんだ?)
当たり前のことに気付か無かった俺は今後どうするべきかを悩んでいると、背後でキシッと床が鳴る音がした。振り向くと、そこには眠気眼なセフィリアが立っていた。
「セ、セフィリアさん?これはその…魔法陣と摩擦抵抗を流体力学的観点から実験をですね…」
俺は自身で何を言っているかサッパリわからない。セフィリアが近づいてきて、眠そうに言葉を吐いた。
「それ…ちょうだい」
「は?」
「手にある飲み物」
「飲み物って…え?コレのこと?」
「もう、いいから」
セフィリアは俺の手からカル○ス生成器を奪い取り、桜色の唇を魔法陣に合せた。粘度が高い液体は一気飲み出来ないようで、コクッ…コクッ…とゆっくり、ゆっくり白い喉が上下していき、逆さにしてまで全て中身を飲みきった。さらに欲しいとばかりに穴に舌を入れて舐めとっている。
当たり前だが飲むようには出来てないため、口元に少量の液体が垂れていたが、それすらも勿体無いと指を這わせ口の中に押し込んだ。
「美味しかった…」
そういってセフィリアはとろけるような笑顔を見せてくれた。満面の笑みを浮かべていたセフィリアだが、そのまま俺のベッドに横たわり寝息を立て始めた。
もちろん俺は寝られるわけもなく朝を迎えた………
「ん…おはよう、ソーイチロー…もう起きておったのか」
「おはよう、セフィリア」
「ところでなんでワシはソーイチローのベッドで寝ておるんだ?寝ぼけたか?」
「ね、寝ぼけたんじゃないか?」
昨夜のことがバレればカル○ス生成器から説明しなくてはならず、寝ぼけたことを押し通す必要があった。
「いやまてよ、昨夜はソーイチローから何かもらって飲んだはず…一体ワシは何を飲んだんじゃ?」
ところがどっこい俺が想像していたよりセフィリアは記憶に残っているようだ。それでも寝ぼけていたことを押し通そうと言葉を重ねようと考えていた。ところが、セフィリアは口元に手をかざし匂いをかぎ始めた。
始めは匂いの種類が思い浮かばず首を傾げていたが、とうとう何であるか理解したとたん、セフィリアの白い顔は青から真っ赤に変化していった。
「結が魔力を糧に顕れろ炎槍よ敵を討ち滅ぼせ『ガルアの炎槍』!」
「待て待て待て待て待て!分かった!!全部話すからいきなり魔法は止めてくれ!」
俺は後飛びジャンピング土下座をしながら釈明を始めた。
「ここしばらくセフィリアとずっと一緒だっただろ?それで結構アレでな。自分で処理しようと思ってある魔法陣を試運転したんだ。んで、試運転が終わったらセフィリアが起き出してきて、魔法陣を奪って…その飲んじゃったんだよ」
「!!!!」
昨夜の状況を思い出したのか、セフィリアは真っ赤な顔からまた青い顔に戻り始めた。
「できればその、いい加減魔法を引っ込めてもらえると、俺の髪の毛が焦げなくてすむなーなんて…」
「…分かった。とりあえずその魔法陣とやらを見せよ」
やっと落ち着いたセフィリアは炎槍をキャンセルした。正座を継続しつつ俺はカル○ス生成器を呼び出し、セフィリアに渡した。
「な、なんじゃこの魔方陣の塊は?!というかなんで感触がある?!持てるのもおかしいじゃろ?!」
物が物だけに、セフィリアが恥ずかしがるかと思って少し期待していたが、ただひたすら混乱するだけだった。
「普通の魔法陣が維持できないのは、魔法陣を構築する魔力が魔素になってるせいだろ?なら事前に魔力を供給するだけの魔法陣を組み込んでおいて、魔法陣を維持できるようにしてあるんだ」
いわば、魔力の電池みたいなものを組み込んである。何度も実験を繰り返していたので、希望する持続時間のためにどれくらい魔力電池を使ったらいいかも分かっていた。
「魔法陣の同時展開は『暖房』や『冷房』で見ていただろ?あれの応用だ。あと触れられるのは、人体に触れるように反発性を持たせたんだから当たり前のことだ。この柔らかさと弾力を作るのが一番大変だったんだぜ?」
頭痛がしているのか、セフィリアは頭を抑えている。
「お主と話していると、常識が素足で逃げていく感じがするわ…」
「元から常識なんざ無いんだから、期待しないでくれ」
「それはまあ分かっていたことなんだ…が…?」
と、何かに疑問を持ったのかセフィリアは両手を見つめた後、突然外に駆け出していった。
「急にどうしたんだ?!」
同じく俺も外にいくと、なぜかセフィリアは空に向かって魔法を撃ち放っている。
「そんなに昨夜のことが腹立ってたのか…?」
「違うわ!さっきワシの魔法が使えたことが疑問に思って、外に試し打ちに来たんじゃよ」
「何かおかしいことでもあるのか?」
「昨日、ほとんどの魔力を使い切った状態だったじゃろ?それなのに魔力が回復していた感じがあったからの」
「そういえばそうだったね」
魔力切れで疲れているところを狙ったのにすっかり忘れていた。
「結構早く回復するんだね」
「いや、こんなことはありえん。自分の回復量くらい把握しておるしの」
「魔力が回復するアイテムとかあるんじゃないの?」
「そんな都合のいい物など無いわ。場所によって回復時間に違いはあるが、同じ場所ならおおよそ一定じゃ」
「んじゃ、なんで…?」
「そんなもの、昨夜飲んだ…ゴニョゴニョ…に決まっておるじゃろ!」
「こっちの世界は変わった物で回復するんだねぇ…」
「まず間違いなくお主だけじゃぞ?こんなことが世間一般にバレたら間違いなく乳牛になるぞ。まず自由は無くなると見ていい」
「うげ、じゃあ外では秘密にしておくよ」
「それがよかろう。まあそれはそれとして、これから毎日お主には出してもらうからの」
「え゛」
「知っての通り、ワシの研究課題は魔力欠損症の改善じゃ。これが治癒の一手になるかもしれんからのう。ワシが出来る事はなんでも協力するから、この通り頼む」
そういってセフィリアは、俺に頭を下げてきた。
魔力欠損症…それは何らかが原因で魔力の放出ができず、一切魔法を使うことが出来なくなる症状で、100年ほど前から散見され始めている。アースガルドの世界は魔力を利用する前提で社会ができている。そのため魔力が無い者は戸籍登録やギルドの加入も出来ず真っ当な人生を歩めなくなってしまう。後天的に魔力を失う者もいれば、先天的に魔力が無い者もいるという。
セフィリアは俺に頭を下げてきた。いつものセフィリアは飄々としているか、好奇心に目を輝かせるかのどちらかの印象を持っていた。しかしこの時は、まるで大学入試の結果を知るときのような、なんというか祈っているようにも見えたのだ。俺はそんなセフィリアの姿を見たら…断れる訳がない。
「…分かったよ。セフィリアにそこまで言われたらね」
「そうか!ありがとう!」
そう言って、セフィリアは花のような笑顔を見せてくれた。少し見惚れてしまい、返答に時間が掛かった。
「…セフィリアだって人のために頑張ってるんだろ?なら協力するさ」
まあ部屋の隅でこそっと出すくらいなら何とかなるだろう。
「そう言ってくれるととても嬉しいの。一応ワシも人並みな知識は持っておるから手伝うぞ」
「…は?」
今度こそ、開いた口が塞がらなかった。
「せめてそれくらいは手伝わせてくれ。お主だけに恥ずかしい思いをさせるわけにはいかんし…その、見たこと無いから、見てみたいんじゃ」
普段は病的と言っていいほどの白い顔だが、今だけは熟れたトマトのように赤くなっている。それでもセフィリアは俺に向けた視線を外さない。
「自分で何言ってるか分かってるのか?」
「分かっておるわ。それに閨を共にしろと言っている訳ではないしな」
「ああもう、わかったよ。じゃあ用意できたら教えてくれ」
「あいわかった。今晩にでも用意できるからよろしくな。あ、そうそう。『カル○ス生成器』とか言ったかの?例の珍妙な名前の奇抜な魔法陣」
「うん」
「それに目盛をつけてほしいのじゃ。容量を計りたいのでよろしくな。では用意してくる」
まだ恥ずかしさが残っているのか、そう捲し立ててセフィリアは自室に戻り、俺は魔法陣の改良を始めた。が、アレを計量するという、なんとなく自分が変態になった気分だった。
ちなみにどれだけ魔力が増えたかは、水生成の魔法具を使ってどれだけ水が増えたかで確認するらしい。
問題になりそうな箇所を修正2/5