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墓王!  作者: 菊次郎
大暴走
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魔法使いギルドでの決闘

ご覧いただきありがとうございます。

 セフィリアは壁際まで退避し、俺とバニルミントは中央まで進みお互い10m程の距離で対峙する。バニルミントは懐からコインを取り出し俺にそれを示し、


「俺にくれるの?」


「違います!!コインが落ちた時に勝負開始よ!」


 バニルミントは親指でコインを弾き、くるくると回りながら地面に落ちる。

 落ちたのを確認した彼女は横に動きながら詠唱を唱え、


「愚か者に氷麗の抱きを!『氷石の蘭風』」


 バニルミントは『ショットガン』対策のために、かなりの早さでサイドステップを繰り返し照準を絞らせないように動いている。確かに『ショットガン』対策ならそれで正解だ。


 動きながらもスムーズな詠唱を繰り出していることから、彼女も鍛錬を欠かさず行っていたことの証左だろう。バニルミントが生み出した拳ほどの氷石は無数に、反対側がまったく見えないほどの濃さで漂い、その直後に全てがこちらに飛んでくる。

 それこそプロ野球選手のピッチャーが投げるほどの早さで俺に殺到し、弾道も直線だけではなく曲がり、落ち、ホップし回避や迎撃しづらい工夫がしてあった。

 しかもこの魔法、当たったら怪我どころか死んでもおかしくないレベルだ。俺がどうなっても構わないっていう彼女なりの意思表示か。


「『楔の盾』」


 防衛用の描画魔法を発動させると、俺の全周囲に球形の障壁が形作られた。薄い障壁が無数に重なりあう積層型の障壁が展開され、バニルミントの氷石を弾き反らせ自身に氷片の一つすら触れさせることは無く、その役目を全うしている。


「『なのです』」


 次いで障壁の周りに電撃を這わせ、氷石の雨の中を突進した。本職ほどではないが、身体強化も併用しているため結構な早さで氷石の雨を突破すると、まさか氷石が乱舞してる所を突っ込んでくるとは考え無かったバニルミントが、驚きの表情を浮かべている。

 驚きながらもとっさに回避行動に移るバニルミントだが…『楔の盾』は直径5mほど。おまけに不可視ときているため、ほんの少し動いただけでは到底回避できるものでは無かった。

 『なのです』の電撃をくらいながら『楔の盾』に弾き飛ばされてしまえば、ろくな防御力も無いバニルミントに為す術も無かった。

 ゴロゴロと地面を転がり綺麗な服が土まみれになったバニルミントに対して、


「『ショットガン、ゴム弾』…降参しますか?」


 トドメに『ショットガン』で狙いを付け降伏を促すが彼女からの返答は無かった。そんなに俺に負けるのが嫌なのか、などと考えたがよくよくバニルミントを見るとしびれて動けないようだった。俺を睨み殺さんばかりの眼光を向けていることから意識はあるようだが…これ、締めはどうするんだ?


「そこまで!ソーイチロー様の勝ち、バニルミントの負けです」


 そう審判してくれたのは、俺たちが入ってきた入り口とは別な入り口に立っている見知らぬ女性だった。身の丈160cmの糸目で優しげな雰囲気を醸し出している40歳程度に見える女性だった。彼女は綺麗な足運びで俺のほうに近づいてきた。

 俺の名前を知ってるのは詰め所にいった時にでも聞いたのか?


「えっと、あなたは?」


「これは失礼しました。私は魔法使いギルド評議会議長のレニィと申します。この度は私達の議員がお騒がせしました。ところで、バニルミントが動けないようですが…」


「時間が立てば問題なく動けるようになります」


「そうですか…それにしても良い腕をしていますね。どなたかに師事されていたのですか?」


「ええ、運良く良い方に師事しながら精進しています」


 セフィリアは魔法使いギルドにあまりいい印象を持っていない様子だったので、ここで俺が彼女の名前を出していいものかと少し悩んでいると、セフィリア自らがこちらに進んできてくれた。


「久しいのぅレニィ。息災か?」


「はい、元気にさせて頂いています。セフィリア様もお変りなく」


 そんな俺の心配を他所に、二人は顔見知りだったのか挨拶を交わしていた。というか、レニィはセフィリアの事を知っていながら聞いたのか…


「……え?こ、の方が…セ、フィリア、様…?」


 『なのです』の直撃を受け口が全く回らないバニルミントが、驚きの表情を浮かべていた。

 街を救い畏怖と共に敬われるセフィリアの名だが、一方その容姿まで知る者は決して多くはない。セフィリアと同じ魔法使いであっても魔法使いギルドとは随分昔に没交渉となっているため、古参と言える人達でなければ彼女とは分からないのだ。


「それにしても、ワシの弟子が世話になったようじゃな?」


 セフィリアはバニルミントを一瞥すると彼女は俯き体が震え始めた。そんな様子をみたセフィリアはフンと鼻を鳴らし、次は眼差しを強めレニィに一歩近づき、一方彼女は冷や汗を掻きながら半歩後ろに下がった。


「ソーイチローがワシのために用意した宝石箱をそこの阿呆が欲しがったのが切っ掛けと聞くが?」


「え、ええ。交渉に多少の問題はあったかもしれませんが、こちらの議員が不意打ちとはいえ倒されたとあっては我がギルドの実力が疑われてしまいます。名誉挽回するために決闘となったのは致し方がないことだと思いますが」


「名誉挽回どころか汚名挽回しておるではないか」


「こうも堂々と負けたとあってはバニルミントの実力不足が露呈してしまいました。ですので街中での騒動と今回の敗北で彼女の評議会議員としての立場が問われることになるでしょう」


「そ…そんな…」


 未だにしびれが抜けきらない舌っ足らずな声で抗議の声をあげていた。それを聞いていたレニィは冷めた目で彼女を見ながら、


「バニルミント、あなたに期待していただけに残念です。騒動を引き起こした上に普段あなたが見下している男に二度も負けてしまっているんですよ。あなたが提唱している魔法使いの立場における女性優勢論…破綻しているじゃないですか。今までの所業と合わせて次の評議会でなんらかの懲罰動議が出されることでしょう」


 レニィにそう指摘されバニルミントは、


「ぐ…あんたさえ…あんたさえいなければ………」


 と、俺の方に恨みの篭った視線を向けてきている。視線だけで人を殺せるものなら殺したい、そんな視線だった。

 そのままバニルミントはおぼつかない足取りで中庭から去って行った。


「なんか俺がすごい恨まれてません?」


「恨まれてるのう。レニィよ、お主のギルド運営に口を出すつもりも無いが、ちゃんと後始末はつけるのだろうな?」


「ええ、勿論です」


「ならばよい。お主がどれだけ暗躍しようが構わんがこちらにまで被害を及ぼすでないぞ」


「私は何もしてませんよ。ところで…セフィリア様、魔法使いギルドにお戻りになる気はございませんか?」


「こんな状況を見せて、よう物が言えるな。そのつもりは無い。ワシとの考えがあまりに違いすぎる」


「そうですか…ところでソーイチロー様、まだ魔法使いギルドに加入されていない様子ですが、どうです?良かったらこの機会にでも加入されては」


 俺はセフィリアのオマケかい。というか、俺を紐付けしてセフィリアと繋がりたいってことかもしれんな。


「お誘いは身に余る光栄です。ですが、私はまだまだセフィリア師のところで学ぶべき事がたくさんある未熟者です。二兎追うものは一兎をも得ずとも言いますから、まずはセフィリア師のところでやるべき事をやってから身の振り方を考えようかと思っています」


「…そうですか。あなたが加入してくれたら、我がギルドの風通しも少しは良くなるかと思っていたんですがね」


 レニィは周囲の窓からこちらを見ている魔法使いギルドの課員を見ながら、諦め半分でため息を付いていた。

 セフィリアが小耳に挟んだようだが、こちらを窓から見学していた魔法使いのギルド員達は俺に負けたバニルミントをこき下ろしてたらしい。「男に負けるなんて情けない」「評議会議員には相応しくない」「今の地位はお金で買ったのでは?」「赤級に負ける魔法使いは排除すべき」等などボロクソだったようだ。


「申し訳ありません。また機会がありましたら、こちらから伺いますので」


「分かりました。ではまた会えることに期待しましょう」


と言って魔法使いギルドを後にした。



 後日談として、魔法使いギルドに所属しているセフィリアの知り合いから聞いた話しによると、バニルミントは評議会議員の席を追われたそうだ。

 彼女は極端な女性優位主義且つ魔力偏重主義で、ギルドにいた男性職員すら追い出し魔力が無い者には歯牙にも掛けなかった。そのせいでギルド内の雰囲気がギスギスしたものになり、職員不足で事務作業が滞りギルド運営に支障をきたすレベルだったようだ。


 そんな状況を俺とバニルミントのいざこざを誰か(議長のレニィ?)が利用し、バニルミントを解任する事を画策したようだ。

 まず最初に色々と噂を流してバニルミントと俺を決闘をせざるを得ない状況に追い込んだ。そもそもこの決闘はバニルミントに得るものは殆ど無いのだ。なぜなら赤級の魔法使いには勝って当然負けたら大恥、なのだから。精々噂の払拭が出来るくらいだろう。

 勿論普通の赤級の魔法使いではバニルミントに太刀打ち出来るはずもないが、俺の情報を調べた結果、冒険者ギルドの活躍やセフィリアに師事していることが分かり、それでバニルミントを倒す可能性を見出していたらしい。


 まあ黒幕からすれば俺が勝てば儲けもの程度の話しだったのかもしれない。巻き込まれたこっちは大迷惑この上ないが。


 これで魔法使いギルドの騒動は終わり、のはずだった。

さあかっこ良く決闘だ!と思いましたが、

どう考えても楔の盾でぶん殴って終わりでした。

派手さがなくて申し訳ありません。

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