回復
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「ミストさん…?」
「あ、あら、恥ずかしい所みせちゃったわね」
ミストさんは人差し指で涙を拭っているが、流れ出る涙は止めどもなく続いている。
「魔力…回復したんですね?」
「ええ、見て、これが私の戸籍登録証。もう二度と見ることはないって思ってたわ」
俺に左手の甲を見せてくれ、そこには確かに戸籍登録証が浮かび上がっていた。これ一つのために一体どれだけの人が涙を飲んだことだろう。
「よかったですね、ミストさん」
「本当に…本当にありがとう。私も生きていていいんだって…やっと思えたわ」
「当たり前です。例え戸籍登録証が浮かび上がってこなくても、またミストさんのところに行ってましたからね?」
「あらあら、ありがとう」
ミストさんは乾いていない涙をそのままに柔らかく笑顔を浮かべていた。
「じゃあ早速セフィリアのところに報告しにいきましょう。首を長くして待ってますよ、きっと」
「そうね。でもその前に…ソーイチローさん寝癖がついてるわ。すぐに直すから待ってて」
タオルに水差しの水を浸し、濡れタオルで俺の頭をそっと押さえつけるようにして寝癖を直してくれた。寝癖を直しただけでは足らなかったのか、どこからか櫛を取り出し髪を梳いて整えることまでやってくれた。
「よしっと、これでもっといい男になったわ」
「ありがとうございます。ミストさんにそう言ってもらえると自信が付きますね」
俺の支度を先にしてくれたミストさんは、次に自身の身支度に取り掛かった。
「あら、お世辞じゃないのよ?セフィリアさんとも話したんだけど…ソーイチローさんはもっとたくさんの女の人を囲うことになりそうだって。そんな気はしてたけど、やっと実感できたわ」
話しながらも下着を付け、いつもの簡易版メイド服のようなワンピースを着始めた。櫛で髪を梳き、涙の後がわからないように白粉のようなものをつけ用意が整ったようだった。
「じゃあいきましょうか。ソーイチローさん」
二人で居間に出るとすでにセフィリア、ティアラ、コロネは椅子に座っていて、結果を今か今かと待っていた。
ミストさんは何も語らず三人に左手の甲を掲げ、戸籍登録証を浮かび上がらせて見せた。
「おかあさん、良かった…」
「やったぁ!おかーさんやったね!」
「おめでとう、ミスト」
と三人は口々にお祝いの言葉を述べミストさんを祝福し、浮かび上がった戸籍登録証をまじまじと見たり触ったりしていた。そんな騒ぎの中、俺はセフィリアの隣に座り、
「セフィリア、良かったな」
「うむ、やっと一歩踏み出せた気分じゃ。お主もご苦労じゃったな。また後で何発くらいやったか教えてくれ」
「…え?」
「…まさか夢中で数えるの忘れたんじゃなかろうな?」
「てへ!」
「キモいわ!まったく…じゃが、ミストの表情を見る限りそれでよかったのかもしれんな」
ミストさんは二人の子供にまるで宝物を見せるように戸籍登録証を出している。その表情は今まであった憂いや微かに見えた不安は消え去り、ただ素直に己の幸運を喜び享受している姿があった。
「…だな」
「まあ回数はまた計測すればいいじゃろう。それで今日はソーイチローにやって欲しい事もヤって欲しい事も無いから自由にするといい」
「あいよ」
そんな感じで今日は自由になったため、大暴走対策の描画魔法の作成に取り掛かった。
いつものように描画魔法をウンウンと唸りながら作り、セフィリアに描画魔法で快適生活を支援し、ティアラに面倒を見てもらいながら午前を過ごした。
昼食を食べた後の一服している時にセフィリアからこんな提案がなされた。
「ミスト、今日の午後からワシとソーイチローは席を外す。家族水入らずで過ごすがいい」
セフィリアはポケットから幾らかのお金をテーブルの上に置き、これで美味いものでも用意するがよい、とも付け加えていた。
この話は事前にセフィリアから聞いたわけではないが、言わんとすることはなんとなく分かった。俺たちがいたらきっと休む暇も無く面倒を見てくれようとするだろうし、彼女たちの環境が大きく変わった事が決定づけられた日くらいは…ということだろう。
ミストさん達は固辞しようとしていたが、それ以上にセフィリアが強引に押し込み、また俺がそれを支援することでやっと受け取ってくれた。
午後になるとセフィリアと一緒にミストさんの家を出る。家を出るとすぐにセフィリアはフードを被り周囲に自分の姿を隠した。
「ソーイチローの時間を取って悪いな」
「いや、今日くらいはな。それでセフィリア、午後の予定はあるのか?」
「急に思いついて実行してしまったからな…そうじゃな、冒険者ギルドの掲示板でも見てみるか。稼げる時に稼いでおくのもいいじゃろ」
セフィリアと並んで歩いて行き、屋台街にたどり着くと多くの店は暇になっているようでちらほらと閉店してり、自身の昼食を食べている姿が見受けられた。ここで作られていた食べ物の匂いはすでに僅かで、日は高いのに少し物寂しい感じがした。
冒険者ギルドに辿り着き、扉を開けると中にはまばらでしか人はおらずのんびりと掲示板が見られるようになっていた。さすがにこの時間帯から依頼を探す者は居ないため、当たり前といえば当たり前ではあるが。
セフィリアと手分けして依頼が貼られている提示版を見ていく。セフィリアは高ランクのほうから、俺は低ランクのほうから順に見ていき、その結果はEランクで落ち合った。
「どうじゃった?こっちは無かったぞ」
「こっちも無かったよ、やっぱこの時間帯は割の良い依頼は残ってないね。定常依頼のモグラ退治でもやるかなぁ」
「ああ、以前話してくれてな。ちょっとその様子も見てみたいから、モグラ退治でもいいの」
「じゃあこれにしようか。依頼を受けなくてもいいから、そのまま行こう」
「うむ」
定常依頼は討伐証明を出すだけで良いため、一々受付を通さなくてもいいから気楽だ。そのままギルドを出て外に向かおうとすると、どこかで見たことがある女が待ち構えていた。
「居たわね…この間は良くもやってくれたわね!」
腕組みをしたバニルミントが俺を睥睨しながら待ち構えていた。どうやって俺を探しだしたんだ、こいつ…。




