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墓王!  作者: 菊次郎
大暴走
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静けさ

ご覧いただきありがとうございます。

 ミストさんの家を発ってから、俺は昼飯を食べていないことに気づき、いつもの屋台街に向かった。夜より屋台は少ないとはいえ、ちらほら営業を始めている店も見受けられその中の一軒に立ち寄り肉串を購入した。


 肉串を頬張っている時になんとなく気になって串を眺めると、結構しっかりとした竹串のような物が使われていた。この肉串の値段は一本20ゼルで大量生産が出来ないこの世界にしては使われている串の値段が高すぎるのでは?と人事ながら心配してしまった。


 それから気になって串の行方を見てみると、この屋台街のあちこちに「使った串や器はこちらへ」と書かれたゴミ箱が置いてあり、皆その中に放り込んでるようだった。時々そのゴミ箱を回収にしてる老婆がいたので話を聞いてみると、串や器は洗って再利用しているそうで捨てたりはしていないらしい。またそこで出てきた汚水も水を抜いた後肥料にしているらしく無駄なものは無いそうだ。そんな事を聞いてると老婆は「あんたもちゃんとゴミ箱に捨てておくれよ」と注意し、去っていった。この世界は思ったより上手く出来ているらしい。


 腹を満たした後、門兵のコワードがいる詰め所までいくと奥にある小さな部屋に通された。その部屋は石に囲まれ窓も極めて小さな間口しかなく、家具はテーブルと椅子二脚だけとまるで取調室のような雰囲気のある場所だった。


「こんな部屋ですまんな、取調室しか空いてなかったんだ」


 まんま取調室だったらしい…


「俺なんか犯罪犯しましたっけ…?」


 身に覚えはないがこういう部屋に通されるとまるで自分が悪いことをしたように錯覚してしまうのは、小市民根性が身に沁みているせいだろうか?

そんなことを言うとコワードは慌てて否定と言い訳を始めた。


「いやいやいや、勘違いしないでくれ。そうじゃないんだ。ほら、一週間ほど前に魔法使いのバニルミントとイザコザがあったろ?」


「ああ…ありましたね」


 すっかり忘れてたが。


「その顛末をちょっと知らせたくてな。結論から言うと彼女は無罪放免、逆になぜソーイチローを捕まえないのかと詰め寄ってきたくらいだった」


「はぁ?彼女は群衆を巻き添えにしそうな範囲魔法を使おうとしてましたよね。一緒にいた官憲の人も見てたはずですが…」


 コワード自身も納得をしていないのか、苦り切った顔をし言葉を続ける。


「それがな、「魔法を使う振りして驚かそうとしただけ。私へ最初に魔法を使って攻撃してきたのはあの男が先」だそうだ。おまけに魔法使いギルドも圧力を掛けてきたしな…」


「…つまりは実際に魔法が発動されないと捕らえることはできない、と」


「そうなる」


「で、先に使った俺は逮捕されるんですか?」


 これで逮捕されるなら守り損でやる気が削がれるぞ…


「そんなことはしない。一緒にいた同僚もソーイチローが鎮圧してくれなければどうなってたか判らんという話だし、お咎めは無い。無いが…結局バニルミントのほうも罪に問えなくてそのまま釈放されたんだ」


 コワードははぁ、ひとつため息をついて更に会話を続ける。


「実はな、たまにいるんだよ。詠唱を途中で妨害して被害を抑えても、「驚かそうとしただけで使うつもりはなかった」って言い訳する魔法使いがな。特に魔法使いギルドに所属してる奴らがよく使ってくる言い訳だな」


「それはなんともまあ…あれ?じゃあ俺の時に官憲がバニルミントを引っ張って行きましたけど、処罰出来ないのは分かってたんですよね?」


「そりゃそうだ。だがな、仲間の官憲ごと巻き添えにされるとこだったんだ。舐められたまま引き下がるわけにもいかんから、拘留期間はバニルミントに対する嫌がらせみたいなもんだ。それともう一つ」


 といってコワードは俺の方を見た。


「官憲や群衆を守るためとはいえ、先に魔法を使ってしまったのはソーイチローのほうだ。その場でバニルミントを放逐したら、今度は魔法で人を傷つけたソーイチローを逮捕しなくちゃいけなくなる。そうならない為にはな、「先に魔法で脅そうとしたのがバニルミント、それを防ごうとしたのがソーイチロー」という形式を確定させる必要があった。その上で無罪放免になるのは分かってはいたが、これでソーイチローは脅されたから反撃したと言い分が出来て逮捕をしなくてすむようになる。まあ結構苦しい言い訳なんだがな…」


「なんというか…気苦労掛けてしまい申し訳ありません」


 結構裏で色々とあったんだな…


「んん…まあそれでだ、ひょっとしたらソーイチローのほうにちょっかい掛けられるかもしれんから注意してくれ、と伝えたくてな」


「そうですか…わざわざ教えて頂きありがとうございました。心構えができるので助かります」


「まあお前も気をつけてな。それで…だ、お前セフィリア様とどういう繋がりだ!ああん?!吐け、吐きやがれ!」


「そっちが本命かよ?!まさかそれを聞くために取調室に連れ込んだんじゃないだろうね!」


「で、だ。ほんとどういう関係だ?あの方は俺達の憧れであり女神でもあるんだ、いわばアンタッチャブルな方だぞ」


「俺達ってことはまだ他にもいるのか…。セフィリア師は俺の魔法の師匠ですよ。とういかなんでそんなセフィリア師が崇拝されてるんですか」


 一緒に住んでてひっくり返したりめくり返したりしてるとか絶対に言えないな。


「そういえばお前も魔法使いだったな、そういう繋がりだったのか」


 一頻り納得していたコワードが今度は崇拝されてる理由を説明してくれた。


「セフィリア様は前の大暴走で大活躍しただろ。当時少年だった俺たちはセフィリア様のその姿を目の当たりにしたんだ。あの美貌、圧倒的な魔法…その力で俺たちを守ってくれたんだ。憧れて当たり前ってもんだろ?それから俺は少しでも関わりたいと思って門兵を希望したんだ。まさに道標でもある御方なんだ…」


 コワードは今でも目に焼き付いているのか、キラキラした少年のような目で当時のことを思い出し、英雄譚に登場するが如くセフィリアの事を考えているのだろう。

 でも、セフィリアは大暴走では憂さ晴らしで魔法を撃ち放ってたって言ってた記憶があるんだが…言わぬが花だな。


「ま、まあ、その熱い思いはわかりました。俺もセフィリア師にはお世話になってますからね」


「だろ?お前なら分かってくれると思ってたぜ」


 と、ここまでセフィリアの話をして思い出した。以前、バニルミントにセフィリアの事を馬鹿にされて怒って魔法使った事があったが…捕まるのだろうか?


「話は少し戻りますけど、バニルミントとのイザコザの時に装飾品屋の前で先に魔法使ってバニルミントのこと脅しちゃいましたけど…」


「ああそれな、バニルミントが暴走する前に官憲がお前を叱責しただろ。誰かを傷つけたわけじゃないし、脅して何かを得たわけじゃないから基本は叱責で終わりだ。だがな、相手があんなのとはいえ脅すのは関心しないぞ。お前はいい魔法の腕をしてるんだから、もっと落ち着いてだな…」


「セフィリア師のことを売女呼ばわりしてきたんで、ついつい…」


「てめぇ!なんでもっと脅さなかったんだよ!!」


「さっきと言ってること違うよね?!」


「コホン…俺の本心は置いておくとして、そんな訳で問題無い。それで重ねて言うが気をつけてくれ」


 そんな波乱を予感させるコワードの会話を送り言葉に、俺は詰め所から立ち去った。

 夕暮れまでにはあと3時間ほどと中途半端な時間が余ってしまったため、せっかくだしフィールの街を散策することにした。大暴走に備えて設備や道を覚えておくに越したことはないしね。

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