統合管理システム
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半年ほど経ち、雪がちらつく季節になった。寒さに堪え常時厚着が手放せない日々になっている。
地球にいた頃の電気・ガス・水道のような便利な物に慣れてしまったら、こちらの生活はさぞかし不便だろうなんて思っていたが、それらのことを大体魔法でカバーできるため生活の質自体はそれほど変わっていない。お湯が欲しければ魔法で、洗濯の水を出したければ魔法で、乾燥させたければ魔法で、料理に火が欲しければ魔法で、暖房が欲しければ魔法で、と。但し、魔法を使う場所には本人がいないと維持できないため、洗濯機に洗濯物を放り込んで出来上がったら取りに行くなんてことはできない。
しかしセフィリアから出される葉っぱと干し肉と果物だけの食生活には未だに慣れない。干し肉と果物はちょくちょくと種類が変わるが葉っぱだけは常に同じだ。話しを聞いたら、あれでも栄養満点らしい。なんとなくだがシリアルばかり食べている気がする、味は似ても似つかないが。
俺は描画魔法について考察と実験を繰り返していった。そこで分かったことは、
・魔法陣は体に記憶させることができる。記録を維持する魔力は最大魔力量を使うことから、最大魔力量をハードディスクみたいに使うことが可能であること。
・魔法陣の形状は自由であること。普通の魔法陣は円を描いて内部に文章を書いていたが、これに拘る必要はない。例えば球形や筒状の魔法陣でも問題無く作動した。
・魔法陣が魔法陣を制御することが可能。魔法陣に様々な情報を書き込むことによって、アプリケーションのように使うことができた。
例えば、俺が『暖房』を起動すると、そよ風の魔法陣に炎の魔法陣と水の魔法陣を組み合わせて、温風暖房機(加湿機能付き)なんていうストーブのような複合魔法陣も作れた。この魔方陣を使ってるうちにセフィリアは、
「ソーイチローは一家に一台欲しい」
とか言い出し始めた。しばらく使ってると、ほっこりした顔のセフィリアが聞いてきた。
「…あんまりに気持ちよくて気付かなかったが、どうやって魔法陣を維持しておるのだ?常時展開は不可能なはずであろう?」
これも後で分かったことだが、魔力で描いた魔法陣は魔素へと発散し続けるため、魔力の供給を止めると魔法陣は徐々に崩壊しまう。そのため普通は常時展開などできない。原因が分かれば対策を幾つか立てられたけど、そのうちの一つが、
「常時展開してるように見えるけど、実は1秒間に60回ほど魔法陣を連続起動してるだけなんだ。それっぽく見えるだろ?」
「お前を見てると魔法の常識というものが分からなくなるわ…この魔方陣は便利だからワシも使いたいんじゃがのう」
寒がりなセフィリアは心底羨ましそうな顔をしている。
「これは『暖房』の魔法陣が、風と炎と水の魔法陣を風力・火力・水分量などを変数で調整しつつ起動タイミングを自動制御してるから、充填時間が速くないと使えないかも…」
更に『暖房』の魔法陣は体に記録されているから、魔法陣は勝手に起動し続けてくれている。バックグラウンドで起動してくれるため、一々魔法陣を再起動しなくてもいいというのは、いろんな作業をするうえでこの上なく便利だ。
「そうじゃろうなぁ…まあソーイチローの近くにいればいい話しじゃしな」
そうなのだ。この『暖房』を使い始めてからセフィリアは俺にベッタリになっている。最近では研究も同じ部屋でするようになったし、夜寝るときも同じ部屋になった。惜しむらくは違うベッドだが。
セフィリアは静かだし一緒にいても全然苦にならないから同室でも良いんだが、唯一問題がある。男は出すもの出さないと色々と大変なことになる。
隣のベッドでしていたら怪しまれる上、匂いも出る。どうしたものかと考えていたが、せっかく学んだ描画魔法でどうにかできないか研究の日々が始まった。
しかし、この研究はそう簡単なものではなかった。欲しい機能を満たそうとすると、魔法陣を数百ほど組み合わせる必要があるのだ。部位による圧力変化、温度、消音、摩擦抵抗や密閉等など…欲しい機能を挙げるとキリがなかった。最初は手書きで研究していたが複雑すぎて無理だった。
ならば…と、日本にいた頃はこのような設計は全て3次元CAD(※コンピュータによる設計支援ソフトのこと)でやっていた。複雑な形状や条件設定を簡単に行えるような3次元CADを作ればいいじゃないか、と気づいたときにはソフトを作り始めていた。この設計支援ソフトのことを俺は『TENGA』と呼んでいる。
更に時は過ぎた。
身体に記録させた『TENGA』はver7.0となり、改良につぐ改良を加えてきた。今では作業中の映像を立体投影でき、手の動きを直接トレースしてモデリングできるようにしてある。日本にいたころよりもよっぽど進歩した3次元CADが出来上がっていた。
今では単なる設計ソフトではなく、魔法陣を管理運用できる統合管理システムと化してきている。『TENGA』を起動しておけば、今までに作成した魔法陣を簡単に起動できるようになっている。そのため、これ以降『TENGA』は常時起動となっている
さらに研究を続けていると季節は『暖房』の魔法ではなく、『冷房』の魔法陣を稼働させる時期になっていた。この『冷房』の魔法陣も殊の外セフィリアは気に入って、ますます俺から離れない生活になっている。セフィリアは寒がりなのかと思ったが、単にワガママなだけだった。
該当箇所を修正2/5
統合管理システムの名称に他意はそんなにありません、多分。