願い -セフィリアの独白-
ご覧頂きありがとうございます。
本文でセフィリア語りは終了です。
次から主人公に戻りますが、また書き溜め中です。
ワシはアークの街にある冒険者ギルドの共同墓地にアリスを弔ったんじゃ。アリスに家族はおらんかったようでな、亡くなった事を知らせる先も無いようじゃった。
この決闘騒動は冒険者ギルドや街の管理官にも知られる事となったがな、街の外での出来事ということと、決闘に至る様子を住人に目撃されていたこともあってワシはお咎め無しじゃった。この時ほどワシを罰して欲しいと願ったことは無かったがの。
しばらく呆然とした日々を過ごしておったが、アリスを殺めてしまったワシしか出来ないことを…アリスを追い詰めた魔力欠損症について研究しようと決めたんじゃ。
それからワシは魔法使いギルドにも加盟してな、そこにある膨大な書物なら魔力欠損症について何か書かれているのではないかと期待したんじゃ。じゃが、その期待は儚いものじゃったわ。魔法使いギルドはな、魔力至上主義とも言える考えに染まっていての、魔力を如何にして増やすかという研究に膨大な手間暇を掛けておるんじゃ。100の魔力を110に増やそうという研究は進んでおったが、0の魔力を1にする研究は皆無じゃった。
資料が皆無であることが分かるまで…およそ50年くらい掛かったかの。無いと証明するのにこれほど苦労するとは思わなんだわ。
この調査してる間にな、ワシに対する求婚がものすごく増えたんじゃ。アリスとの会話が街で噂になったようでな、ワシを倒せば迎え入れることができる…そういうことになっておった。
この手の申し込みがまたしつこくてな…何度断っても、そして決闘では全力を振るう事になるから相手はただではすまんと説明しても、無くなる事はなかったんじゃ。
その結果は…知っての通り無数の躯じゃ。断り切ることができなかったかと言われれば…どうじゃろうな?「俺は大丈夫」と思い込んでワシの説得に耳を貸さなかった愚か者ばかりじゃった。
そんな奴らは夜討ち朝駆けは当然、周囲に被害が出て文句言っても馬耳東風、碌でも無い者ばかりじゃったわ。借金で首が回らない者、異様に功名心が高い者、バトルジャンキー…様々じゃな。
資料の調査の傍ら、患者を探したんじゃが…これがまた中々見つからん。まあ見つからんのも当然じゃ、社会の弱者は何時だって強者に食われるのみじゃからな。隠れて生きておる者が殆どで、実際に患者が見つかったのはアリスの一件からおよそ40年程過ぎたころじゃった。
漸く見つかった魔力欠損症の患者は…なんと盗賊団を率いる女頭領じゃった。この盗賊団は総勢100名を超えるほどの大盗賊団で”地這の舐”と書いてチシャノシと呼ばれておったな。この女頭領は元々は小さな盗賊団の頭の情婦だったようじゃが、頭を殺して長の地位を奪い、血と金と色で荒くれ者達を纏め上げ率い大集団まで育てあげておった。
この盗賊団…チシャノシは街道を通る商隊を襲っておったんじゃがな、その名の通り地を這って舐めとったように一切合切奪い取っていくんじゃ。痕跡が少ないせいでな発覚が遅れがちで中々討伐できなかったようじゃな。
いよいよ被害が大きくなりすぎてな、ワシにチシャノシ討伐の指名依頼きたんじゃ。情報漏洩を防ぐためにギルドの少数精鋭を集めたようじゃったな。ワシを含め5人が全員Aランクの猛者共じゃった。Aランクともなれば条件さえ揃えば只一人でも盗賊団を壊滅できる…そんな奴らじゃ。
ギルドからはチシャノシの盗賊団の団員は発見次第殺害、もし人質がいても生死不問…こんな依頼じゃった。ワシはこの依頼を引き受けるに当たって一つ条件を付けたんじゃ。女頭領の殺害は不可避としても、死ぬ前に少し話をさせてほしいと。ギルドの返答は黙認じゃった。
ギルド側はチシャノシの幹部に内通者を確保していたようでな、古い坑道を改造したアジトの掃討自体は楽なもんじゃった。
依頼には人質の生死不問とはいえ見過ごすのも後味が悪いからの、一応救助する方向で動いておったんじゃ。ワシらは人質が囚えられている部屋に行ったんじゃがもぬけの殻でな、尋問したところ女頭領のところに全員連れて行かれたようじゃった。
最奥の女頭領のいる部屋に突入してみると…そこにはすでに事切れた人質と、それを嬉々として踏み付ける女頭領の姿じゃった。
「あんたらがあたいに引導を渡しにきた奴らか。結構早かったじゃないかい」
「…なぜ人質を取らん?」
「ああん?そんなの決まってんだろ、人質なんざ取ったらこいつら生き残っちまうかもしれないじゃないかい。だったらあたいがバラしておいたほうが確実に殺せるってもんだ」
そう言いながら、血のついた笑顔で女頭領は遺体を踏み続けておった。
「…貴様は魔力欠損症なのだろう?もし魔力欠損症でなければ盗賊にはならずに済んだのか?」
「さて、どうだろうね?少なくとも魔力があれば、盗賊共のおもちゃになりにこんなところまで来ようなんて思わなかっただろうね」
「自ら進んで来たのか…」
「あたいだけじゃ生きられないから当たり前だろ。あたいは生き残るためならなんでもしたさ。最初に盗賊共に取り入るとき、どうやったか知ってるかい?こうやって股開いて「あたいに入れてください」って…な!!」
スカートを捲し上げる振りをして手に隠し持っていたナイフをワシに向かって投げつけてきたんじゃが…飛翔速度も遅く避けるのに問題は無かったの。アリスとの戦闘のほうがよほど大変じゃったしな…。
女頭領は直接の戦闘は不得意なようでな、人質を取ってこちらを脅すより人質を惨殺している姿を見せてこちらの動揺と隙を伺う機会を伺っていたようじゃな。
頭ひとつで盗賊団を纏め上げていたんじゃから、道が違えばひょっとしたら一廉の人物になったかもしれん。しれんが…
「…穿ち抜き篤け『ガルアの炎槍』」
打ち出した炎槍は狙い違わず女頭領の胴体を貫通し、彼女を仕留めたんじゃ。彼女の話をもう少し聞いてみたかったが…パーティーメンバーから女頭領と話すのは二言三言のみという約束じゃったから無理じゃった。
その後、女頭領がどんな人生を歩いてきたのか調べたんじゃ。結果は…悲惨なものじゃった。元々は普通の農家の娘だったようじゃが、魔力欠損症が周りに知れ渡ると伝染るかもしれないからと村から追い出されたようじゃな。身分証明が出来ない彼女は普通の勤め先を探すことができず、非合法の娼館くらいしか行き先が無かったようでな、そこで随分な扱いを受けていたようじゃ。終いにはそこも追い出され…盗賊の情婦になった、ということらしい。
彼女を調べて初めて知ったのがな、魔力欠損症で魔法や魔道具が使えないのが問題ではなく、魔法陣による身分証明ができず生活が儘ならんようになるのが一番の問題ということじゃ。
それから20年くらいしたかのう…知り合いの魔法使いから魔力欠損症の患者がおると聞いてな、急いで駆けつけなんとか大事になる前に会うことができたんじゃ。
その女は元々教師をしていたそうでな、一年ほど前に魔力欠損症を発症し教職を辞めたらしい。生活全般はワシが面倒みる代わりに治験に付き合ってくれることを了解してくれたんじゃ。
その時は食べ物で魔力が回復しないか色々と調べていたんじゃが、中々上手くいかなかったんじゃ。そこである意味究極の食い物として、ドラゴンの心の臓を…まあ難儀しながらも採ってきたんじゃ。
結果は、駄目じゃった。ほとほと困り果てたんじゃが、その翌日な…遺書を残してどこかに消えてしまったんじゃ。遺書にはワシへの謝罪とともに、教え子に対して顔見せ出来ないこと、未来の展望が持てないこと等連々と書かれていたわ。街の外に出たことまでは分かったが、それ以降の足取りはつかめなかったんじゃ。
ワシは結局…彼女が食いっぱぐれないような生活ができればいいなどと考えていてな、彼女の心の有り様を気にしていなかったんじゃ。それが情けなくて馬鹿らしくて…
結局ワシは魔法使いとしては優れておっても、患者の只一人として救うことは出来んのじゃ。盗賊を壊滅させられようが、ドラゴンを屠れようが、困ってる女は救えんというワシ自身に怒りが湧いてな…
フィールの街が魔獣の大群に襲われた時に魔法をぶっ放して憂さ晴らししたんじゃが、それが終わっていざ冷静になるとな、少し疲れてな…それで今のこの隠居生活につながっておるんじゃ。
そこに現れたのがお主、ソーイチローじゃ。ワシがどれだけ救われたか分かるか?
お主がワシの前に現れてくれたおかげでな、アリスとの約束通り全力で戦えた上にワシを受け入れてくれ、ワシの願いである魔力欠損症の治癒の糸口にもなっておるんじゃ。
愚かな魔法使いの約束と願い、その両方がいっぺんに叶ったんじゃ。
ワシと出会ってくれてありがとう、ソーイチロー。
正直、セフィリアのカッコイイところではなく、駄目だったところを重点的に書き出しているため、読んでも爽快感どころか若干鬱が入る内容です。
また、所々変にぶった切れてる感じがあるかもしれませんが、文章を大幅にカット&短縮をしたせいです。これ以上上手く繋がる文章は無理でした…
ヒロインが主人公に戦いを挑み主人公が勝ってハーレムの一員となる、なんてよくあるシーンだと思います。ですが、よくよく考えると結構異常なことです。
戦いとなる以上例え力量差があっても絶対安全はありませんから、主人公に大怪我や死亡などのリスクを負わせることになり、ヒロインはそれを承知していることになります。
承知のうえでなお戦いを挑むというのは、ヒロインにそれ相応の歪みや過去が無ければ起きないと思います。
また本文はセフィリアの独白ということで、盗賊との戦いにおいての詳細は省いています。女頭領が一人で部屋に居た理由やセフィリア達の襲撃で逃げを打たなかった理由とか。
追記:女教師の結末への経緯を変更